研究と報告
痴呆患者のCoprophagia—Klüver-Bucy症候群との関連について
著者:
石井惟友12
西原康雄1
所属機関:
1鞍手共立病院
2産業医学大学第1病理
ページ範囲:P.645 - P.652
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抄録 痴呆を呈した192剖検例のなかで,生前にCoprophagia(食糞)が認められた症例が12例あった。この12例は単なる不潔行為や弄便とは異なり,意識清明で積極的に自分ないし他患者の便を口に含む行為が認められた症例である。12例中10例は臨床的にも病理学的にも老年痴呆Alzheimer型であった。1例は両側側頭葉に軟化を起した多発梗塞性痴呆で,残り1例はAlzheimer病の病理所見を有するDown症候群であった。Alzhcimer病の末期には高率にKlüver-Bucy症候群の諸症状が出現するといわれ,それはこの疾患で側頭葉に病変が強いことに起因すると考えられている。これら12例中11例はAlzheimer病の所見を呈しており,多発梗塞性痴呆の1例も両側側頭葉病変を有していたこと,また,12例で食糞がみられた時期には,痴呆は高度で口唇傾向,食欲の異常亢進,hypermetamorphosisなども同時に認められたことから,このような痴呆患者の食糞はKlüver-Bucy症候群のひとつの表現と考えられる。