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雑誌目次

論文

精神医学26巻1号

1984年01月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医と臨床神経学

著者: 池田久男

ページ範囲:P.4 - P.5

 Gricsingerの思想やNeuroseの語源を持ち出さなくとも,精神疾患の臨床に神経学の知識や経験が必要であることは今更説明を要しないことである。精神神経学会とは別に,わが国に神経学会が誕生して25年が経過したが,この間に神経学会は順調に発展し,診療面でも「神経内科」,「神経科」の名称のもとに専門診療科としての地位が確立している。こうした専門化の傾向,とくに認定医制度の確立がわが国の臨床神経学の進歩に大きく貢献したのは間違いのない事実であるが,同時に精神科医が教育や日常診療において神経疾患に接し,これを勉強する機会が少なくなったのも事実である。
 最近になって,将来精神科医を目指す若い医師達の問で臨床神経学の知識と経験の必要性が再認識され,現状の臨床神経学の研修が不充分であることを卒直に認める意見をよく耳にするようになった。すでに大学によっては精神科の卒後研修プランに一定期間の神経内科での研修を義務づけたり,奨励しているところもあるが,必ずしも満足できる成果があがっているところばかりではないようである。同様の事情は米国においても持ち上っているようで,最近になってKaufman “Clinical Ncurology for Psychiatrics”に代表されるような精神科医を対象とした臨床神経学の単行書が相次いで出版されている。

特集 精神疾患に対する神経内分泌的アプローチ

序論

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.6 - P.7

 最近の神経内分泌学の急速な進歩は,視床下部,下垂体系の機構に関して多くのことを明らかにした。視床下部で生産され下垂体門脈を経て下垂体前葉に作用する視床下部ホルモンが次々に同定され,合成された。TRH,LHRH,SRIFは今日臨床的応用が可能である。CRF,GRF,PIFの構造も明らかにされた。視床下部ホルモンの各々は,夫々の対応する下垂体ホルモンのみならず他種のホルモンにも作用する。例えば,TRHはTSHの他にPRL分泌を促進し,二,三の場合,例えば末端肥大症,神経性無食欲症でGHの分泌も促進し,更にネルソン症候群ではACTHの分泌も促進する。さらに,視床下部に存在するモノアミン,アミノ酸,神経ペプチドなどによる下垂体ホルモン分泌調節機序も次第に明らかにされつつある。
 これらの新しい知見を精神医学の分野に応用してゆくことが「精神神経内分泌学」の今日的課題と言えようが,この場合注意すべき3つの点を考えてみよう。第一に,このように層構造的に入り組んだホルモン分泌のメカニズムをよく理解していなければ意味ある研究計画は立てられない。第二に,用いるRIAの感度と特異性を知った上でなければ結果の解釈を誤る。策三に,臨床研究の基本問題として対象症例に対する診断の信頼性がある。とにかく,この分野の研究では,臨床家であってもかなりの神経内分泌学の知識が要求されるが,むしろ,基礎研究者との学際的な協同研究が望ましい分野ではなかろうか。

神経内分泌学的アプローチの進歩と応用

著者: 加藤譲 ,   島津章 ,   樺山泰弘 ,   太田光 ,   井村裕夫

ページ範囲:P.8 - P.17

I.はじめに
 生体の内部環境は主として神経系と内分泌系によって調節されている。両者の間には密接な相互関係が存在する。視床下部は両者の一つの接点として神経内分泌学的にも重要な領域である。
 視床下部には直接下垂体に作用する視床下部ホルモンの他に古くから神経伝達物質として知られている種々のアミンやアミノ酸,最近新しい神経伝達ないし調節物質として注目されている種々の神経ペプチドが存在する(表1,2)。
 下垂体前葉ホルモンの分泌は,視床下部中央隆起部より下垂体門脈血中に放出される分泌促進因子releasing factorないしは分泌抑制因子inhibiting factorによって直接調節されている。このような視床下部ホルモンを放出するニューロンは上述のいわゆる神経伝達物質を有するニューロンとシナプスを形成し,種々の情報を受けていると考えられる。神経伝達物質の一部は直接下垂体門脈内に分泌され下垂体に直接作用する。脳内アミンと種々の下垂体ホルモン分泌との間には表3に示すような関係が知られている。
 視床下部は下垂体前葉ホルモン分泌調節に関与するのみでなく,後葉ホルモンの産生放出,膵消化管ホルモンなどの分泌調節,飲水摂食の調節,体温の調節,また大脳辺縁系や脳幹毛様体系などと関連して意識,睡眠覚醒のサイクル,記憶,情動,行動などに重要な役割を有している。
 したがって視床下部・下垂体機能を指標とした神経系・内分泌系の相互関係の解明は,中枢神経系の機能を神経内分泌学的に追求する意味でも重要なアプローチの一つと考えられる。本稿では最近臨床応用が可能になった視床下部ホルモンを中心に視床下部病理の診断や治療について述べてみたい。

感情障害における視床下部—下垂体—副腎皮質系活動の動態—デキサメサゾン抑制試験の精神障害診断における有用性と限界の検討

著者: 花田耕一 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.19 - P.26

I.はじめに
 現在までのところ,感情障害への神経内分泌学的アプローチとして最も注目され,また最も確実な所見があるのは,「視床下部—下垂体—副腎皮質系(HPA-axis)」に関してである。このうち視床下部からのCRF,下垂体からのACTHに関しては,測定法上の制約から所見が乏しいが,副腎皮質から分泌されるコーチゾールに関しては多数のデータが蓄積されてきている。
 うつ病,なかでも内因性うつ病における主要な所見としては,
 1)コーチゾール分泌の増加,すなわち血漿コーチゾール濃度の中等度上昇,
 2)コーチゾール分泌リズムの異常,すなわちコーチゾール分泌エピソード数の増加と夜間コーチゾール分泌の増加による日内リズムの平坦化,
 3)コーチゾール分泌反応の低下,すなわち外因性グルココルチコイドであるデキサメサゾン投与に対する抑制反応不全,が指摘されており8,27,34),これらはストレスや感情面の混乱,あるいは服薬の影響ではなく,内因性うつ病における本質的な病態生理を反映したものと考えられている。したがって,これらの指標を活用することにより,うつ病の本態を研究するとともに,うつ病の診断,分類,治療法の選択などに有益な手がかりが得られることが期待される。
 本稿でわれわれが取り上げたデキサメサゾン抑制試験(dexamethasone suppression test:DST)は,うつ病に対する神経内分泌学的アプローチの中でもとりわけ,手法の簡便さ,特異性の高さから,最近大きな注目を集めているものである。DSTは元来クッシング病診断のために開発されたものであるが,1960年代後半から精神科領域へ応用されるようになり,Carrollらによって集中的に研究がなされた。彼らは1981年までに,内因性うつ病(DSM-IIIにおけるメランコリーを伴う大うつ病)患者215名とその他の患者153名にDSTを施行し,内因性うつ病診断に感度43%,特異性96%という結果を得た9)。その後多くの研究者によってこの試験が取り上げられ,うつ病の鑑別診断,病型分類,予後予測などに関する有用性が報告されるようになった。
 しかし,一方では,うつ病以外の精神障害,例えば神経性無食欲症16),老年痴呆24,32)など,さらには慢性分裂病11)においても異常所見がみられるという報告も出現するようになり,特異性に対する疑問も生じている。また日本ではかつての遠藤12),われわれの予報的報告35),Saraiら28)以外にまとまったデータはなく,しかもそれらの手法,目的も様々であった。

Thyrotropin-Releasing Hormone(TRH)に対するProlactin(PRL)反応とうつ病亜型

著者: 吉田秀夫 ,   高橋良

ページ範囲:P.27 - P.37

I.緒言
 レセルピン,テトラベナジン(TBZ)は,ヒト,ラットに臨床的に区別のつかない抑うつを引き起こすことが知られている。一方,レセルピンは,プロラクチン(PRL)の分泌促進作用を示すことも知られている16,31)。ヒトでの研究では,PRL分泌の中枢性調節機序はドーパミソ(DA)により,優位に抑制性の調節を受けている47)一方で,最近セロトニン(5HT)が促進的に作用することが報告されている27)
 我々は従来から,TBZを用いたモデルうつ病ラットでの行動学的・生化学的所見より,TBZによる鎮静は,中枢5HT代謝回転の充進と一致する51)ものであり,逆に三環系抗うつ剤クロミプラミン(CMI)による抗うつ効果は,中枢5HTレセプター活性の減少と一致する48,49)ことを報告して来た。
 ヒトうつ病者における髄液5-ヒドロキシインドル酢酸(5HIAA)の低値所見は,うつ病における5HT代謝回転の低下を示唆したが,三環系抗うつ剤の慢性投与により治療的改善の得られているときに,更に5HIAA値が低下する所見は,従来のうつ病における5HT欠乏説とは相いれない所見である。
 我々は,うつ病者について中枢5HT活性亢進仮説を検証するために,ヒト躁うつ病者に対してサイロトロピン放出ホルモン(TRH)負荷を行ない,下垂体ホルモン反応を調べているが,その結果ホルモン反応がうつ病の亜型分類に役立つことを見出した。
 今回はこれらについて総合的に報告し,単極型うつ病の成因における5HTの役割について考察を加えた。更に炭酸リチウムの作用機序についても神経内分泌学的検討を加えたので報告したい。

精神疾患における視床下部下垂体-甲状腺系および-性腺系機能

著者: 野村純一 ,   鳩谷龍 ,   山口隆久 ,   北山功 ,   村瀬さな子 ,   小森照久 ,   西久保光弘 ,   久松憲二

ページ範囲:P.39 - P.46

I.はじめに
 躁うつ病などの情動性疾患においては,視床下部下垂体系を中心とした内分泌調節異常がしばしばみられるが,その多くは非特異的な生体反応や個体の機能的脆弱性を示しているものと思われる。しかしそのような内分泌調節異常が病像の膠着や再発に関係していると思われる症例も多く,その点で疾患の病態発生の解明や内分泌的治療への手掛かりを与えているといえよう。ここでは周期性精神病を中心として,一部ではうつ病,神経性無食欲症,産後精神病を含め,その視床下部下垂体-甲状腺系および視床下部下垂体-性腺系の機能を検討するとともに,脳と肝臓の機能連関の問題についても触れたい。なおここでいう周期性精神病とは,鳩谷10)が規定しているように,情動,意識,精神運動機能に関する多くは両極性の症状を急性,周期性に反復するものであって,主に躁うつ病と非定型精神病の一部を含んでいる。

うつ病および神経性食思不振症における神経内分泌学的アプローチ—成長ホルモン分泌異常

著者: 前田潔 ,   千原和夫

ページ範囲:P.47 - P.57

I.はじめに
 成長ホルモン(GH)は,その血中の微量測定が最も早く可能となった下垂体ホルモンで,1960年代なかばにはRadioimmunoassay(RIA)が一般的に行なわれるようになった。精神内分泌の領域でもMuellerらの報告39)が1969年にみられている。早くからRIAが可能になったため,最も知見が集積されているホルモンといえる。本特集でもみられるように神経内分泌学的な研究の対象となっている疾患はほとんど躁うつ病,神経性食思不振症(AN),非定型精神病であるが,GHの場合もうつ病における分泌動態が最もよく研究されている。ANは種々の内分泌異常を伴うが,gonadotropinsとともにGH分泌も高い頻度で異常がみられ研究の対象となっている。
 ここではうつ病およびANのGH分泌異常について述べることとする。
 近年精神内分泌と称せられる領域の研究が盛んに行なわれているが,これは精神疾患患老の脳内過程,特に神経伝達物質の異常が下垂体ホルモン分泌に反映していると考え,下垂体ホルモンの動態を脳内をのぞきみる"窓"と考えられているからである。その方向は精神疾患の病態生理を解明するとともに,更に診断や治療,予後の判定にまでおしひろげようとするものである。
 精神疾患,特にうつ病におけるGH分泌異常については,比較的最近にいくつかのすぐれた総説4,15)が著わされているし,本誌にも1980年に高橋46)が詳細なreviewを行なっているので,できるだけそれらと重複しない部分について触れることとする。

研究と報告

精神分裂病の第一級症状(Schneider, K.)について

著者: 荒木憲一 ,   太田保之 ,   中根允文 ,   高橋良

ページ範囲:P.59 - P.67

 初診分裂病老93例におけるSchneidcrの第一級症状の出現頻度を欧米の諸報告と比較・検討し,症状の定義と評価の問題及び「Hören von Stimmen in der Form von Rede und Gegenrede」について考察してきたが,その要約は次のとおりである。
 (1)第一級症状は分裂病老新鮮例の57.0%(不完全妄想+完全妄想)にみられ,欧米の報告とほぼ一致していた。分裂病診断の十分条件としての重みが現代ではSchneiderが主張したほどには高くないことがうかがわれる。
 (2)第一級症状の出現率が妄想型に比べ破、型により少ない点から,近年指摘されている破型の寡症状化傾向が推察された。
 (3)各第一級症状の陽性率に報告問でぼらきがみられたが,特に妄想知覚について考察「論理的二分節性」という明確な記述にもかからず,症状評価に際しては必ずしも実用的でなことに触れた。
 (4)「Hören von Stimmen in der Form von Rede und Gegenrede」の解釈が欧米と日本で異なっていた背景には,日本人分裂病者の幻聴体験の特微的一面があったことを明らかにした。
 今後,本邦においても標準化された構成面接による症状論的研究がなされることを期待するとともに,かつ「対話性幻聴」に関する比較文化精神医学的研究の必要性があると考える。

頭部戦傷者の長期予後―受傷後40年の予後調査

著者: 木暮龍雄 ,   西尾正人 ,   林左武郎 ,   上野陽三

ページ範囲:P.69 - P.80

 抄録 我々は第二次大戦における頭部戦傷者を対象にして予後調査を行った。昭和26年,40年にも同様な調査が下総療養所によって行われており,調査内容は経過概況,自覚症状,精神症状,各種身体症状,日常生活状況を中心としたアンケート調査形式によるものである。調査結果について,前2回のそれらと比較検討を行った。その結果頭部戦傷による自覚症状は,前2回と比較して頻度において変りなく,強固に持続されていることが示された。精神症状,各種身体症状においては,加齢とともにその頻度の上昇傾向が認められ,今後個々の具体例につき老化の脳損傷に与える影響について詳細な検討が必要と思われた。経過概況では悪くなったとする対象群の増加と,良くなったとする対象群の減少が認められ,特にけいれん群でその傾向が顕著で,日常生活でも種々の問題をかかえているけいれん群の経過の特異性が注目された。

口部ジスキネジアと分裂病性痴呆

著者: 大山繁 ,   松永哲夫 ,   野浦洋子 ,   武原重春

ページ範囲:P.81 - P.86

 抄録 神経遮断剤により惹起された口部ジスキネジアを有する分裂病患者40例(ジスキネジア群)と,性,年齢,分裂病の罹病期間,学歴の一致した対照患者40例(対照群)に,脳波検査と長谷川式簡易知的精神機能評価スケール(DRスケール)のテストを行った。また約半数の患者で血中プロラクチン値(PRL)を測定した。異常脳波の出現率とPRLは,ジスキネジア群,対照群に有意差は認められなかった。DRスケールではジスキネジア群が知的機能低下はより著明であった(p<0.005)。
 ジスキネジア群に認められた有意の知的機能低下は,異常脳波出現率やPRLに差がないことや最近の分裂病患者の知的機能に関する報告とあわせ考えると,神経遮断剤の副作用だけでは説明困難と思われた。分裂病患者のなかには知的機能低下を来す亜型の存在が推定されているが,そのような一群の患者によりジスキネジアが発症しやすいのかもしれない。

抗精神病薬による起立性低血圧症に対するdihydroergotamineの昇圧効果と効果判定上の問題点

著者: 丸山徹 ,   有田真 ,   高柴哲次郎 ,   佐々木勇之進

ページ範囲:P.87 - P.93

 抄録 抗精神病薬の副作用と考えられる起立性低血圧症患者に対し,dihydroergotamine(DHE)を1日6mg,分三で6週間投与し,その前後における血圧,心電図,指尖容積脈波の変化を観察した。血圧測定と心電図,脈波記録を循環器検査室に呼んで行った18名の患者群(年齢41.0±2.2歳)では,DHEは臥位,立位(10分)の血圧ともに変化を与えず,また心電図T波の起立時減高にも影響を及ぼさなかった。またDHEにより臥位における指尖容積脈波の縮期峰は増高したが,切痕指数には変化がなかった。一方,病棟に医師が出向き,患者の不安,緊張が少ないと考えられる状況で血圧測定のみを施行した9名の患者群(平均年齢49.5±4.4歳)では,DHE投与3週目から起立による血圧下降の程度が有意に減少した。また両群で自覚症のあるもののうち,90%以上の例でめまい,立ちくらみ等の症状が改善した。
 精神科領域においてDHEのごとき穏和な昇圧剤の効果を検討するには,血圧を測定する患者環境が極めて重要であり,不安・緊張の存在が薬効の判定に重大な支障を及ぼす可能性が示唆された。

短報

一分裂病患者にみられたT3-Thyrotoxicosis

著者: 中西俊雄 ,   池田マリ

ページ範囲:P.94 - P.96

I.はじめに
 甲状腺機能亢進症の一型としてT3-thyrotoxicosisと呼ばれる状態がある。それは,ThyroxineT4が正常値を示しながらTriiodothyronine T3が異常に高い状態をいう。T3-thyrotoxicosisに関する報告は極めて少なく,そのような状態がどのようなメカニズムによって成立するかは,今なお分っていない。
 中西3,4)は,精神科領域の疾患において,時折T3-thyrotoxicosisと呼びうる状態を観察し報告したが,今回は,経過を追跡し得た1例について報告する。

精神分裂病者の聴性脳幹反応(ABR)

著者: 有泉豊明 ,   佐藤譲二 ,   守屋爽一 ,   伊藤洋 ,   大西守

ページ範囲:P.97 - P.99

I.はじめに
 聴性脳幹反応(auditory brainstem response,ABR)は1970年Jewett2)により聴覚誘発電位の最短潜時の反応として初めて報告された。精神分裂病者の誘発電位に関する研究は今日まで多数行なわれてきたが,このABRを用いた分裂病者の研究はPfefferbaum3)らの報告のみである。
 彼らは入院後30日以内の急性増悪を伴う,亜慢性および慢性状態の分裂病者を対象として研究を行った。しかし,彼らはABRのV波の頂点潜時や振幅に関して,分裂病者と正常者との間に何らの差異をも認め得なかったと報告している。
 今回,著者らは急性増悪を伴わない慢性状態の分裂病者を対象として新たに分裂病者のABRに再検討を加えたので報告したい。

自閉症児におけるデキサメサゾン抑制試験

著者: 星野仁彦 ,   大野芳義 ,   山本俊昭 ,   橘隆一 ,   村田繁雄 ,   横山冨士男 ,   金子元久 ,   熊代永

ページ範囲:P.100 - P.102

I.はじめに
 デキサメサゾン抑制試験(Dexamethasone Suppression Test,以下DST)は,negative fecd back機構によって視床下部-下垂体-副腎皮質系(Hypothalamopituitary Adrenal axig,以下HPA-axis)の機能を調べる検査として内科領域ではCushing症候群の診断などに応用されている。精神科領域では,Carrollら2〜4)をはじめとする研究者により,内因性うつ病でcortisol分泌の抑制欠如(Non-supprcssor)がみられることが報告されている。児童精神科領域ではこれまでわずかに,Poznanskiら7)が前思春期のうつ病者を対象にしてDSTを行なっているにすぎない。
 さて,近年小児自閉症ではその原因として脳内の5-Hydroxytryptamine(以下5HT)代謝異常が想定され,血液,尿,髄液中の5HTやその関連物質についての研究が重ねられている。脳内のHPA-axisは,視床下部のcatccholamineと5HT代謝によって影響を受けることが知られているが,近年自閉症児において,血漿5HTの日内変動の異常と同時にcortisol濃度の日内変動もみだれていることが報告され,自閉症におけるHPA-axisの異常が推測される。
 今回年長の自閉症児を対象としてDSTを行ない,正常対照群や慢性精神分裂病群と比較検討して興味ある結果を得たので報告する。

薬物療法中に肺梗塞を合併した1例

著者: 兼谷俊 ,   柳沼均 ,   兼谷啓

ページ範囲:P.103 - P.105

I.はじめに
 向精神薬の長期服用患者にみられる肺梗塞については,すでにわが国でも,荻田ら1)の病理解剖学的検索を中心とした詳細な報告が出されているが,今回我々は,ショック状態で発症した本症を経験,諸検査,治療の結果,良好な経過を得ることが出来た。以下,症例の概略とともに,心電図などの臨床検査成績等について報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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