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雑誌目次

雑誌文献

精神医学26巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学関係で気になるコトバ

著者: 塩崎昇吉

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 筆者がフレッシュマン(これはCODにある英語,片カナ日本語のサラリーマンとは違う)時代に,有力な精神医学者がKretschmerのヒステリー論の基本であるVerstellungstendenz(仮装傾向)をVorstellungstendenzと読み違えて観念傾向としている。当時の精神科医を志すものなら誰でも読んだはずのO . Bumkeの教科書にもヒステリーはhysterische Einstellungとあり,それが知的な観念とは別の次元の情意的な心構えであることはほんの初心者である筆者でさえ気のつくことなのに,諸先輩が何故口を閉ざすのかと不審に感じた。しかし今にして思えぼこのようなことはよくあることで,司法医学の専門家が年金神経症が穿刺で治ると訳しているのは,Punktionが,Punkt(ピリオド)を打つこと,つまり年金支払打切りであるのに,医学でこの語をもっぽら穿刺にだけ使うので同じコトバで書いてしまったのである。穿刺は英語ではパンクチャーで,旧式の車のタイヤが尖った物を拾ったりして中のチューブの空気の抜けるのをパンクというのは判るが,パンク寸前などというと大分拡大された意味になる。片カナ日本語が原語の意味より拡がったり,歪められたりして使われることは数え立てれば際限もないが,精神医学関係ではモラトリアムがその一例で,このコトバが,今学生層などに絶大の人気のある二十代の評論家や,同年代の流行作家たちの思想の支柱になっていることは,その中の一人が「あくまでも最初から最後までモラトリアムで突っ切れ,そのための下部構造まできちっともった上で最後まで走り切れ」と述べていることからも明らかである。こうなると最初にこのコトバを精神発達過程の説明に比喩的に導入したEriksonもこのユニークな発想(又は思路の展開)には舌を巻くに違いない。パーマ屋とかステンキチンとか,語原的には奇妙でも,むしろこれが日本語形成の歴史の中ではありふれた現象で,時にハプニング的変容さえあるのは,仏典にあるランナーのチャンピオンのスケンダが日本語では章駄天になった経緯に端的に現われている。モラトリアムは,語原的には法令などで債権者の取り立てを一定期間停止させることで,債務者が恣意的に支払を停止すれぼ国語では「踏み倒す」ことになる。しかし条約,協定によらずに核実験など自発的に停止することをこのコトバで表わす用例を中間項に挿入すると,あまり無理がなくも思えるので新しい国語辞典には「モラトリアム人間」が載っている。立派に片カナ日本語として市民権を得たのである。
 片カナ日本語のワンゲルは,ある独和辞典にWandervogelの訳語として載っている。もちろん渡り鳥がこの原語の第一の意味で,ドイツ語の動詞wandernは相当長距離の渡り歩きを意味している(英語のwanderも同じ)のは確かで独和レキシコンという辞典には放浪すると明記してある。Wanderschaftは旅だから精神医学用語でWandersuchtを徘徊癖としているのが気になって仕方がない。「雪は鵞毛に似て飛んで散乱し人は鶴氅を被りて立ちて徘徊す」という古詩にあるように徘徊は歩行範囲が極めて狭いはずで,精神科医が徘徊癖を使うのを皮肉るように精神病院の看護者が緊張病患者の廊下往復の常同運動を「徘徊」と記入するのは面白い。実はBleulerの教科書(第15版,526頁)にWandersuchtの患者があてどもない旅に交通機関を正しく利用し,しかも他の乗客と談笑することさえあると書いてあり,同義語としてPoriomanieがある。そしてCampbellの精神医学辞典にもporiomaniaは,旅行(journey)に対する抵抗不能の衝動とある。この際旅行に伴う行動のすべてを想起不能のこともあり,この状態で犯行を伴なうおそれもあるという。これなら精神衛生法の措置入院の対象となるのももっともだが,ただの徘徊では納得しかねる。

展望

躁うつ病の臨床精神医学的研究の動向(1974〜1982)—第1回

著者: 坂本暢典

ページ範囲:P.1026 - P.1038

I.序論
 この展望は,平沢(1959),木村(1975)のあとをうけて,1974〜1982年の間の躁うつ病の臨床精神医学的研究の動向を綜説しようとするものである。この期間における研究の動向の特色をあげるとすると,まず第1に,はっきりとした方法論的立場をとる研究の目立つことがある。同じ躁うつ病の分類についての研究の中でも,DSM-IIIでは症状の記載・分析に関する方法に重点が置かれ,AngstやPerrisによる単極型うつ病と両極型躁うつ病の区分においては遺伝学的方法が中心となり,笠原・木村の分類では精神病理学的病前性格論が最も重要な位置を占めている。このように,あるテーマを扱う場合に,どのような方法を用いたかを明確にしている研究が多くなっている。第2の特色としては,遺伝,病前性格,病像,予後など様々な分野に関する諸研究が,以前よりも互いに深い影響を与え合い,相互の関連性が強まってきていることがある。主として遺伝学的に確認された単極型・両極型の区分は他のあらゆる分野に影響を与えており,DSM-III,笠原・木村の分類,Arietiの研究など様々な立場に立つ躁うつ病論で採用されている。また精神病理学的研究と精神分析的研究のズレも少なくなってきており,両者とも対人関係に注目する傾向がみられる。
 このような方法論の明確化と各分野の研究の相互関係の深まりの結果,躁うつ病の疾患論は抽象的イメージの段階を脱し,徐々に具体的全体的姿をとり始めたといえる。そして古典的な躁うつ病観に対する批判が,各分野で現われてきた。つまり「躁うつ病は,1)分裂病の対極をなす単一の疾患であり,2)誘因なく自然に発症し,3)予後は良好である」という考えに対する批判である。第1の躁うつ病を単一の疾患とみる考えに対しては,様々の躁うつ病の系統的分類が試みられるなど,躁うつ病内部における異種性・差異に注目する研究が目立つようになった。また画期的ともいえるリチウム療法の導入に伴い,躁うつ病と分裂病の境界領域についての関心が高まっており,この分野の研究も多い。第2の誘因なく発症するという見方に対する批判としては,前展望期間中にも単極うつ病を対象としたTellenbach(1961)などの発病状況論があるが,本展望期間中においてもそれをさらに発展させ,両極型躁うつ病も対象としたKraus(1977)の研究などがある。第3の予後の問題については,長期のfbllow-upに基づく研究があり,従来の躁うつ病の予後論が楽観的すぎるのではないかという疑問を提出している。

研究と報告

精神分裂病における幻聴と他の症候との関連—Wittgensteinの言語哲学に基く考察

著者: 酒井明夫 ,   鈴木広子 ,   前田河孝夫 ,   広瀬清孝 ,   岡本康太郎 ,   三田俊夫 ,   切替辰哉 ,   石渡隆司

ページ範囲:P.1039 - P.1048

 抄録 精神分裂病における幻聴と考想化声,思考吹入,妄想知覚などとの間の関連性を検証することを目的とし,幻聴体験を有する75例について問診を行なった。その結果,体験される対象,体験と関連する身体部位,およびそれと結びつく動詞,体験の意味付けなどの項目からなる言語表現のcontextには,思考性と感覚性との間のあいまいさが認められた。このような事実を考察する方法論として,L. Wittgensteinの仮説が適用され,表現上のあいまいさは,体験自体のあいまいさと等値であること,したがって分裂性幻聴として一括される体験群は思考と感覚を両極とする連続体として捉えうることが明らかにされた。そして,考想化声,思考吹入,妄想知覚などの形式を持つ体験も,そうした連続体上に位置するという点で,分裂性幻聴と関連すると考えられた。

寄生虫妄想における「身体」

著者: 森山成彬 ,   加藤裕二 ,   末次基洋

ページ範囲:P.1049 - P.1057

 抄録 皮膚寄生虫妄想の定型例2例と,うつ病1例及び精神分裂病2例における寄生虫妄想を提示し,現象学的な身体論の観点から,成因解明を試みた。関係としての身体を「個有身体」,「対身体」,「社会身体」の3層に分別してみると,うつ病の症例では「対身体」に自責罪業念慮が,精神分裂病の症例では「社会身体」に関係被害妄想が付随していた。定型例ではこれらの「身体」各層の調和を主張し,ムシ・寄生虫の存在のみを訴え得るが,上記の「身体」諸層における特異な病理性を抽出できた。文献上の他の症例を検討しても同様の傾向がみられた。さらに,皮膚の役割と,ムシ・寄生虫の意味についても考察し,定型例では,「他者が真に自己の中に生きていない」病前性格に,「身体」の病理性が加わり,それを隠蔽するかたちでムシ・寄生虫という「異物」がとりこまれて妄想確信に至ると考えられた。この点から,皮膚寄生虫妄想はパラノイアの成因論にも示唆を与えうる。

健常者の絶対臥褥中の精神生理学的変化

著者: 川口浩司 ,   鈴木節夫 ,   奥山哲雄 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.1059 - P.1068

 抄録 健常男子6名(20〜28歳)に森田療法の絶対臥褥を7日間施行し,睡眠・覚醒ポリグラフ,直腸温,血漿ホルモン分泌リズムを分析した。
 夜間唾眠のREM潜時,S. REM/TST,1時間当りのREM睡眠,cortisol分泌リズムは6日間を通して一定していた。夜間睡眠の睡眠潜時,1日当りの総睡眠時間,stages1+2,1時間当りの総睡眠時間,stages1+2,stages3+4,体温リズム,growth hormone,prolactin分泌リズムは,第1日目から第4日目までリズムが崩れてきて,第5日目で第1日目に類似し,第6日目で再び崩れた。生体リズムの観点から,第1日目から第4日目までは非同期,第5日目は再同期,第6日目は再非同期ととらえた。また,太田の資料8)を同様に分析し,われわれの結果と合わせて検討した結果,絶対臥褥は精神生理学的側面から5〜7日間が適切であるという結果を導き出せた。

脳卒中後遺症患者の夜間せん妄

著者: 田中恒孝 ,   種村純 ,   望月秀郎 ,   山本晴康 ,   藤田勉

ページ範囲:P.1069 - P.1075

 抄録 リハビリテーション病院入院中の脳卒中後遺症患者のうち,夜間せん妄を主訴として精神科を受診した59例(男性33例,女性26例,44〜78歳で平均65.5歳,右片麻痺27例,左片麻痺31例,両片麻痺1例)について夜間せん妄の様相を検討した。
 亜急性期,慢性期を問わず脳全体機能が著しく低下している患者は,入院による環境変化を契機にせん妄を呈するものが多く,このような患者のせん妄内容は貧困で運動不穏と意識混濁が前景に立った。一方,知的機能がある程度保たれている患者が夜間せん妄を呈するときには,身体的ないしは心理的誘因の認められる場合が多く,せん妄は錯覚,幻覚や妄想に彩られた。これらの体験内容は不安や苦悶など日頃の患者の心理を反映する場合が少なくなく,患者の抱いている不快感情が体験の中に直接的に表現されることもあるが,現実を否認した願望充足的な内容となって現われる傾向のあることを認めた。

ペルーの貧民街における「ヒステロイド」性格またはヒステリー性格(忍従型)の形成

著者: 大平健

ページ範囲:P.1077 - P.1083

 抄録 南米ペルーの首都リマの近郊に拡がる貧民街では,ヒステリー性格者(忍従型)によく出会う。著者は現地に13カ月滞在し貧民街の保健所,母の会などで数多くの同性格者の生活歴を聴取した。
 その結果,彼女達に共通して,15〜16歳頃までに家を出る心の準備が出来ており,いわゆる青春期なしに結婚し母親になることに抵抗がないという特徴のあることが分った。ここに到達するまでの過程は,その母親の性格類型の差による2種類の家族内力動に従う。しかし,いずれの過程を経ても,過剰な母性性と乏しい女性性とが家出までの娘達のアイデンティティとして形成され,家出の時点では同じ性格の表現形をとるに至る。

Alzheimer病とBinswanger病の合併—4剖検例の臨床的検討

著者: 小阪憲司 ,   池田研二

ページ範囲:P.1085 - P.1093

 抄録 病理学的にAlzheimer病とBinswanger病の合併と診断された4症例を報告し,臨床像とCT像の特徴を述べた。この4例は12〜19年の経過をとり,臨床的にAlzheimer病と脳動脈硬化症(1例ではBinswanger病)の合併と診断された。10年以上の経過をとった典型的Alzheimer病例と比較すると,以下の特徴が指摘できた。1)高血圧があり,しかも血圧の変動が目立つ時期がある,2)一過性の脳虚血発作が時にある,3)夜間の不穏・興奮・せん妄が目立つ時期がある,4)その際,同じことを大声で何十分何時間も繰り返し,いわば常同性言語不穏とでもいう症状がみられることがある,5)症状の変動(寡黙・寡動←→多動・不穏)が目立つ時期がある,6)時に焦点性けいれん発作や局所性神経症状がみられる,7)動脈硬化の所見がある,8)脳波上,全般性徐波化に加えて左右差や局所性異常がみられることがある,9)CT上,著しい脳表萎縮と脳室拡大に加えて大脳白質に境界鮮明な低吸収域が広範に広がる。

熱性けいれんから無熱性けいれんへの移行例—VI.数量化理論(林のII類)による判別分析

著者: 坪井孝幸 ,   岡田滋子 ,   山村晃太郎

ページ範囲:P.1095 - P.1100

 抄録 熱性けいれんにとどまる170名と,熱性けいれんから無熱性けいれんに移行した141名,計311名について,数量化理論(林のII類)を用いて判別分析を行なった。分析には熱性けいれん最終年齢,熱発の程度,発作の持続時間,発作の反復回数,精神発達の遅れ,てんかんの遺伝,初回脳波検査による棘波異常,非特異性異常,基礎律動異常および繰り返し脳波検査による棘波異常の10要因,32カテゴリー区分を用いた。
 各個体には各要因ごとに重み×カテゴリー区分で得点が求められ,判別区分点が求められた。判別得点が正ならば熱性けいれんにとどまる群,負ならば移行群と判別する。
 理論的判別の確率は85.6%であり,実際の正しい判別率は84.9%〔誤判別15.1%(47/311),移行群を過小に予測判別した16%(22/141),熱性けいれんにとどまる群を過大に予測判別した15%(25/170)の合計〕であった。

中止試験よりみた抗パーキンソン剤併用療法の再検討

著者: 和田有司 ,   越野好文 ,   山口成良

ページ範囲:P.1101 - P.1106

 抄録 抗精神病薬療法における抗パーキンソン剤(抗パ剤)併用の必要性を検討するため,二重盲検法に基づき抗パ剤の中止試験を行なった。
 抗パ剤の併用が3カ月以上の42例を対象とし,性別,年齢,抗精神病薬の力価をマッチさせた2人1組に対し,一方を抗パ剤中止群,他方を対照群に無作為に分けた。錐体外路症状(EPSE)の悪化は対照群4例に対して中止群10例であり,自律神経症状の悪化は対照群3例と中止群7例であったが,いずれも両群に有意差はなかった。精神症状では対照群で悪化例がなかったのに対し,中止群では7例と有意に多かった(p<0.05)。EPSEの悪化程度は軽度であったが,自律神経症状や精神症状の悪化した多くの例では抗パ剤の再投与を要した。抗パ剤の中止試験においては,EPSEを含む種々の症状変化に基づく判定が重要であることを指摘し,若干の考察を加えた。

精神分裂病にみられる水中毒症ならびに抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)について—特に水制限試験ならびに水負荷試験の結果から

著者: 浜副薫 ,   小倉佳代子 ,   原田豊 ,   挾間秀文 ,   西川真理子 ,   岡崎哲也 ,   久葉周作 ,   土江春隆 ,   杉原寛一郎

ページ範囲:P.1107 - P.1115

 抄録 精神分裂病で多飲症状が認められるもの9例を対象に水制限試験ならびに水負荷試験を施行した。水中毒発作の既往のある者7例のうちSIADHを呈する者をSIADH(+)群(n=2),SIADHを呈さない者をSIADH(-)群(n=5),水中毒発作の既往のない者を多飲群(n=2)とした。①水中毒症の特徴としてけいれん発作後の意識障害が遷延し,特にSIADH(+)群では4日間位持続した。②水制限試験において全症例9例中8例は尿濃縮能が低下し,特に多飲群に著明であった。③水負荷試験において,SIADH(+)群では水利尿ならびに尿稀釈能が著しく障害されていた。水負荷60分後の血清ADHは8例中5例が前値に比べ上昇していた。④水負荷試験でSIADH(-)群,多飲群の6例中5例に濃縮の遅延が認められた。
 さらに,水中毒発作時の血清浸透圧調節およびADHの分泌調節動態について視床下部機能の面から検討した。

短報

尿崩症を伴った精神分裂病における水中毒の1症例

著者: 野間口光男 ,   渡辺雅子 ,   長友医継 ,   松本啓 ,   国吉昌長

ページ範囲:P.1117 - P.1119

I.はじめに
 多量の飲水後に,意識障害,筋攣縮,全身けいれん発作,嘔吐などが出現し,時には死に至ることもある重篤な低ナトリウム(以下Naと略す)血症は,水中毒と呼ばれ,これまで数多くの報告がなされている2〜9,13〜20)
 最近,著者らは,尿崩症を伴った精神分裂病で,大量の飲水後に水中毒を呈した1症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

市販喘息薬ブロン液の乱用により躁うつ状態を呈した1症例

著者: 渡辺登 ,   坂井禎一郎 ,   多田幸司

ページ範囲:P.1120 - P.1122

I.はじめに
 エフェドリン(ephedrine)は気管支喘息治療薬として繁用されるphenylethylamine誘導体であり,覚醒剤(phenylaminopropaneやphenylmethylaminopropane)と化学構造や薬理作用が極めて類似している。そのため,本邦では大量のエフェドリン服用によって覚醒剤中毒と近似した精神障害を呈した症例が現在までに23例報告1〜4,6,9,10,12,13)されている。
 立津11)は慢性覚醒剤中毒の精神病状態として最もよく発現するのが,1)躁うつ病様状態であり,次いで,2)分裂病様状態,3)両者の混合状態,4)無欲・疲労・脱力状と述べている。ところが,報告されたエフェドリン精神病に生じた病像のほとんどは幻覚や妄想を主体とする分裂病様状態であり,躁うつ病様状態はなかった。今回,われわれはエフェドリンを主成分とする市販喘息薬である新エスエスブロン液を乱用し躁うつ状態を呈した1症例を経験したので報告したい。

うつ病患者の頭部CT所見

著者: 島悟 ,   増田豊 ,   九十九大造 ,   神庭重信 ,   浅井昌弘 ,   保崎秀夫

ページ範囲:P.1123 - P.1125

I.はじめに
 内因性精神病のCT研究は,これまで主として精神分裂病を対象として行われてきたが1,2)最近うつ病に関しても,報告が散見されるようになってきた。それらの報告でははいずれも,脳室拡大,脳溝開大といった精神分裂病でみられるのと同様の所見がうつ病でも存在するとしている3〜8)
 以前われわれは,慢性精神分裂病の大脳CTで,両側の前頭葉,および後頭葉に正常群に比べ有意な低densityを認め報告した9)。今回20症例のうつ病患者を対象として,前頭葉,頭頂葉,後頭葉におけるCT densityと脳室拡大,脳溝開大の程度を検討し,興味ある結果を得たので報告する。

古典紹介

—Karl Bonhoeffer—Zur Frage der exogenen Psychosen—〔Zentralblatt fur Nervenheilkunde und Psychiatrie 32;499-505, 1909〕

著者: 小俣和一郎

ページ範囲:P.1127 - P.1131

 近年,急性感染症,舞踏病をはじめとする急性の消耗性疾患,悪液質,種々の貧血,浮腫性疾患に伴う自家中毒症状,尿毒症,黄疸,糖尿病,バセドー病などに精神症状を伴う症例について詳細に観察する機会を得た。このことについては近々文献にまとめる予定ではあるが注1),この領域のまとまった研究は,ここ数十年の間に躁うつ病群や早発痴呆群に関する知識がもたらした進歩のため,それより前の観察や見解の見直しが必要となっているので,あながち無価値なものであるともいえない。上述したような身体疾患の結果現われる精神症状をはっきりと取り出しておくことによって,今後の鑑別診断学を一層精密なものにすることができるに違いない。
 さて,ごく大雑把に結論だけを取り出してみると,このような身体疾患(外因)に起因する精神症状には一定の反応形式が圧倒的多数を占めていることに気がつく。したがってここでは,例えば糖尿病や舞踏病に伴って現われる特定の精神症状などの各論的事項には立ち入らないでおく。

動き

第9回日本睡眠学会印象記

著者: 佐野譲

ページ範囲:P.1133 - P.1135

 今回の定期学術集会は,世話人の山口成良教授が所属する金沢大学医学部神経精神医学教室がお世話することになった。会期は昭和59年5月11日(金)・12日(土)とし,会場に当医学部十全講堂を選んだ。
 本学会の印象を述べる前に,この機会に金沢大会に至る経緯を簡単に振り返ってみたい。日本睡眠学会の前身は睡眠研究会(Sleep Research Groupin Japan)である。この第1回は昭和48年12月に,司会の松本淳治先生ならびにわずか数10人の会員で発足した。その後,年2回の会合がもたれ,第8回まで続いた。昭和52年には,第3回国際睡眠学会が2年後に東京で開催されることが決定し,その準備のために学会を組織化する必要が生じた。学会は日本睡眠学会(Japanese Society of sleep Research,略称JSSR)と称され,会則は昭和52年5月22日に発効し,従来の睡眠研究会は消失した。手元の名簿によると,初年度の正会員は142名であった。第1回は世話人島薗安雄先生で,東京・虎の門共済会館で開かれ,はじめて一般演題が募集された。その後,会を重ねるごとに会員数は着実に増し,発表内容も多岐にわたり充実してきている。研究当時から現在まで,長年にわたり事務局を担当してくださっている東京都神経科学総合研究所の阿住先生,その他の皆様の御苦労,熱意には真に頭が下る思いである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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