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抄録 皮膚寄生虫妄想の定型例2例と,うつ病1例及び精神分裂病2例における寄生虫妄想を提示し,現象学的な身体論の観点から,成因解明を試みた。関係としての身体を「個有身体」,「対身体」,「社会身体」の3層に分別してみると,うつ病の症例では「対身体」に自責罪業念慮が,精神分裂病の症例では「社会身体」に関係被害妄想が付随していた。定型例ではこれらの「身体」各層の調和を主張し,ムシ・寄生虫の存在のみを訴え得るが,上記の「身体」諸層における特異な病理性を抽出できた。文献上の他の症例を検討しても同様の傾向がみられた。さらに,皮膚の役割と,ムシ・寄生虫の意味についても考察し,定型例では,「他者が真に自己の中に生きていない」病前性格に,「身体」の病理性が加わり,それを隠蔽するかたちでムシ・寄生虫という「異物」がとりこまれて妄想確信に至ると考えられた。この点から,皮膚寄生虫妄想はパラノイアの成因論にも示唆を与えうる。
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