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文献詳細

雑誌文献

精神医学26巻4号

1984年04月発行

文献概要

古典紹介

—Hans Kunz—精神病理学における人間学的考察方法—第1回

著者: 関忠盛1 宮本忠雄2

所属機関: 1茨城県立友部病院 2自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.429 - P.443

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 Bumkeの精神医学全書のなかで数年前に発表された分裂病に関する最後の要約的な叙述は,Gruhleの次のような文章でしめくくられている。「疾病の心理が現在おおむね入念に研究されているように思われるが,体質の側から新たな解明を得る見込みがあまりない以上,新しい身体的諸症状の発見がたぶん最も早く光を投ずることになるだろう原注1)」。当時,断念の表現でもあり同時におぼつかない期待の表現でもあったこの文章は,今日では来るべきものの鋭い予言であるような印象を与える。というのも身体学的諸研究は分裂病の「本質(Wesen)」にわれわれを一歩近づけたようにみえるからである原注2)。そして,分裂病問題のその時々の事情をみればいつも精神医学のその時点での状況全体を読み取ることが可能だった以上,精神病理学的研究方向が背景に押しやられているという推測はほとんど間違っていないだろう。私は思うのだが,こうした情勢の転換を遺憾だとするに足る理由は少しもない。精神病理学は以前から,本来の意味で「理論的(theoretisch)」な,すなわち認識のために努力する分野であって,それはほとんど「着手(anfangen)」されていなかった。精神病理学は精神医学の臨床と実践に大した本質的貢献をしてこなかったし,むしろ「自然科学的」医学への精神医学の帰属ということに関して絶えず「やましさ(schlechtes Gewissen)」を呼びさましてきた。ところで,現在,実践的な,しかも治療にとって重要な諸問題が支配権をにぎっているとき,それの正当性や必要性に対して誰も目を閉じていることはできないだろう。そのために精神病理学的関心がおとろえてしまうなどということは,ありそうもない。それは,驚き(Staunen)というあの内的態度によって担われて,ひそかに保持されるが,この態度こそ西欧の学問の最初から研究に推進力をあたえたものだった。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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