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文献詳細

雑誌文献

精神医学26巻5号

1984年05月発行

文献概要

短報

記銘減弱,追想作話,地誌的失見当を前駆症状とした多発性脳梗塞の1例

著者: 中安信夫1 奥野洋子1

所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.520 - P.523

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I.序
 脳梗塞の前駆症状として,かなり高率に一過性脳虚血発作が生じることは広く知られているが,我々は記銘減弱,追想作話,地誌的失見当,実体的意識性を前駆症状とした多発性脳梗塞の1例を経験したので報告する。
 我々の観察はその前駆期から始まり,記銘減弱,作話,失見当識などコルサコフ症状群を構成する諸症状の出現とともに,アルコール長期多飲歴があり,多発性神経炎を伴っていることもあって,当初コルサコフ精神病と診断したものの,次いで上記諸症状の減弱ないし消失とともに,粗大な脳梗塞の多発をみて診断を訂正したものである。脳梗塞の結果,コルサコフ症状群が出現した例はこれまでにも報告が散見される(後大脳動脈の閉塞による両側海馬の軟化)2,4,8,9)が,それはいわば完成された,固定的な病像としてであり,本症例に見られたような,脳梗塞の前駆症状としてコルサコフ症状群を構成する諸症状が見られたという報告はない。前駆症状は来るべき脳梗塞の警告症状であり,臨床上その鑑別診断が極めて重要である。本症例に見られた諸症状およびその推移を定型的なコルサコフ症状群と比較することによって鑑別診断に役立てたつと考える。またその病態出現機序について,アルコール長期多飲と脳動脈硬化の複合という観点から考察したいと思う。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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