研究と報告
眼科手術後に複合幻視を呈した1症例
著者:
鈴木節夫1
鈴木康夫1
杉田知己1
大原健士郎1
所属機関:
1浜松医科大学精神神経科学教室
ページ範囲:P.635 - P.639
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抄録 眼科手術後に複合幻視と要素性幻視を訴える症例を経験した。症例は81歳女性で,両眼の緑内障,白内障の手術を受け,視力低下を来していた。術後10日ほどして特に誘因なく,「草むらに蛇が這っている」,「穴の中で火がボーボー燃えている」,「なにか色が見える」と訴えはじめた。このため,CT,脳血流シンチグラフィーEEG等の検査を施行したが,器質性病変は認められなかった。心理検査上,WAIS,対語記銘力テストでは知的機能の低下は認められなかった。しかし,ロールシャッハテストでは依存的,退行的であり,SCTでは相手をしてくれない家族への不満や依存欲求が表わされていた。このため家族調整を行い,毎日面会に来るよう指導し,依存欲求を満たしてやると,間もなく幻視は消失していった。これより,老人特有の心理により,視力低下による漠然とした視覚刺激を,複合幻視として家人に訴えていたのであろうと考えられた。