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文献詳細

雑誌文献

精神医学26巻7号

1984年07月発行

文献概要

特集 側頭葉障害における言語症状

Wernicke失語—その病像と病巣

著者: 山鳥重1

所属機関: 1姫路循環器病センター神経内科

ページ範囲:P.693 - P.699

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I.はじめに
 Wemicke失語の基本特徴は字性並びに語性錯語を伴う流暢な発語と言語理解の障害および復唱障害である(Goodglassら,1972)。本失語は臨床特徴のまとまりがBroca失語に比べて遙かに良く,臨床特徴に関してはほとんど異論の生じない失語と言って良い。かつてMarieが失語を論じて,Wernicke失語のみを真の失語であると主張したのは有名である。その病巣はWernickeの最初の記載以来,左大脳半球上側頭回後方に定位されており,その位置についても学者によって範囲に多少の差が認められるものの,本領域の中核性については大きな見解の差はない。
 ただ,病像が比較的把握しやすい割にはその発症の背景たる心理過程の障害が何であるかの把握はそれほど明確ではなく,学者,学派による見解の相違が認められる。現在までのところ,Wernicke失語の基本障害が言語の聴覚的理解障害にあるという点に関して大きな意見の違いはないが,聴覚的理解のうち,どのような過程が障害されているかについては大きく二つの立場がある。一つはLuria(1966,1977)に代表されるもので,その基本障害を音素弁別の異常とする。二つは音素弁別よりもさらに上位,すなわち音と意味との連合の過程(語彙理解)に障害があるとする(Goodglassら,1976;von Stockertら,1976;Blumsteinら,1977)。
 筆者は子この困難な問題の解決に向けて何らかの寄与をなしうるほどの新しい所見を持たないが,自験7例の定型的Wernicke失語の検討を土台に,本失語の病態について若干の私見を述べることにしたい。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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