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雑誌目次

論文

精神医学26巻9号

1984年09月発行

雑誌目次

巻頭言

概念の変遷と視点

著者: 細川清

ページ範囲:P.904 - P.905

 多分それは,日本で,てんかんの国際会議が開かれた時のことだと思う。その準備委員会のひとつに,私も末席をけがしていた。この1981年世界てんかん学会の会長を務められた秋元波留夫先生が,話の中で,「てんかん精神病というのはどうなったんだろうね。」と言われたと思う。私はその時ハッとしたのを憶えている。これは,てんかんにおける精神障害はどうなっているんだろうね,という意味ではなく,「てんかん精神病」という呼称はどうなったんだろうね,ということで発言されたものだと今でも信じている。席上その話はそれ以上進展しなかったが,今でもそのことが脳裏にある。
 てんかん精神病epileptische Psychoseは,確かに最近ではタイトルにも余りならないし,演題,原著などにおいても,これを掲げる人は少ない。一方,「てんかん性格」については,今や廃語に近くなった。これらをめぐる背景の足跡を辿ってみたい。都合上,先ずepileptic characterに触れる。事項を簡略にするために,Epilepsy Foundationof America(EFA)のStatistics(1975)のまとめを借りることにする。その中で,てんかんに関する社会感情の歴史は4期に分けられている。その第1期は,1900年までの時代である。この頃,てんかん者はすべて,精神遅滞を有し,てんかん性荒廃に至るもので,いわば邪悪なものの如く考えられていた。ついで第2期,これは1900年から1930年頃までの間を指す。この期間こそ,epilepticcharacterに代表される時代であった。人々は,てんかん者はユニークな際立った性格の持主であり,社会にとって困る存在と見なした。第3期に至って,しかし,やや趣きは異なった。つまり,1930年より以降は,てんかん者は本質的には正常な人達であって,もしなんらかの変異があったとしても,知能,行動の面において,一般人の間における偏異度と異なるものではないとみなされた。そして1948年以降から現在までは,精神運動発作(今の側頭葉発作)を有するてんかん者を,特別に限定しようとした時代である。このてんかん者は,一般のてんかん者と異なるし,勿論一般の人における偏異とも質を異にするものだとされた。そして,攻撃性・暴力に走りやすい傾向を持ち,側頭葉性異常による学習不全をみるというものであった。以上は,EFAのまとめた資料を収録したものである。そのあとに続く,いわばもっとも先端的現今の情勢はどうであろうか。てんかん性格が廃語に近くなったという背景には,学問的実証による推進力に負うところが大であったろう。また一方,社会心理学的側面からの,差別的偏見の是正も,一役買っていることは否定しがたい。種々の神経心理学的方法論をもってしても,てんかん者に,共通の性格傾向をうち出すことはできないといわれる。一般の脳器質障害,とりわけ,近年増加した頭部外傷後遺症などの一部にも,問題行動や,特徴的な性格変化を見ることがあり,間接的な実証とされている。臨床表現に至るところの基底が,「てんかん」という生理学的基礎のみでは説明しきれないからである。あれほどまでに確立していたかに見えるてんかん性格という臨床観察が,或る視角をいったん獲得すると,次第に色腿せたものになり,古風に響くのには,いささか或る感慨を憶えざるを得ない。「事実」はそれではどうか。確かにそのような症例は存在する。これは臨床経験として事実のように思われる。しかし,視点を異にすれば,「事実」も異なって見えてくるということは,ある事象に対する心理学的把握に通じるものといえるであろう。実際には,問題となっている「事実」が,真に解明を受けぬまま進展したための変貌かもしれないし,いわば人間の英知が,無用の論争を避けようとしていると言うこともできる。

展望

芸術療法の展望—表現精神病理・パトグラフィ領域とともに—第2回

著者: 徳田良仁

ページ範囲:P.906 - P.914

VI.工芸・造形・陶芸療法
 このジャンルについては近年いくつかの業績がある。小さな試みから一方壮大なる試みにいたるまでその多次元・多様性は目をみはるものがある。しかし,それはあくまでも表面的な様相であって,これからその理論構築がなされ批判に耐えるものになるかが問われる時ではなかろうか。
 佐藤175)は精神分裂病に罹患したこけし工人を取り上げ,その作品の変遷を報告している。発病前,発病後の20数年間の作品群を検討し,こけし自身のもつ意味は観賞者との間に社会における人間関係に近いものの存在することを認め,さらにこけしは主体的で質感・質量のあるもののために「みる」と同時に「さわる」という触覚対象であること,そのために絵画をはじめとする視覚芸術よりも一層,分裂病者の手になるこけしはPraecox Gefühlともいうべきものが肉体的に反映されやすいと述べた。

研究と報告

病的酩酊の幻覚症型(幻覚症型病的酩酊)について

著者: 影山任佐 ,   中田修

ページ範囲:P.915 - P.928

 抄録著者たちは酩酊時にのみ反復して,短時間出現する幻覚症の既往を有する一鑑定事例を報告し,その疾病論的位置づけを文献学的に追求し,「病的酩酊幻覚症型」(幻覚症型酩酊)の可能性を論じた。また病的酩酊の概念と酩酊分類の変化を19世紀以降の独,仏の文献を中心に明らかにし,若干の新しい知見を報告した。われわれが本論において提唱している「病的酩酊幻覚症型」に相当する病的酩酊の存在について述べているのはHeilbronner(1901年),Hoff(1954年),Hirschmann(1964年)のごく限られた研究者のみである。われわれはまた「病的酩酊幻覚症型」の診断基準を明らかにした。過去に報告された事例ではMayら(1953年)によって報告されている一例がわれわれの報告例とともにこの診断基準を完全に充たしている。

Gilles de la Tourette症状群:10症例の臨床的研究

著者: 野本文幸 ,   八代るり子 ,   高橋滋 ,   宮真人 ,   椎原康史 ,   山岡正規 ,   荻野忠

ページ範囲:P.929 - P.935

 抄録DSM-IIIの診断基準によるGilles de la Tourette症状群の10例について臨床的検討を行った。10例の年齢は8〜27歳(平均15歳)で男女比は9:1である。家族歴では30%にチック症,別の30%に精神病の負因が認められた。汚言症は20%に認められ,欧米の報告に比して低率であった。先行症状・合併症状では強迫症状が40%,不登校が40%,夜尿症が30%と比較的多く認められた。家族歴と合併症状との関連では,チック症の負因のあるものは負因のないものよりも夜尿症を多く示す傾向が認められ(P=0.070),精神病の負因のあるものは全例が強迫症状を示した。また,脳波異常は60%に認められた。薬物療法ではハロペリドールが3mg以下の少量で有効であり,ピモジドあるいはクロナゼパムとの併用も有効であった。チック症の遺伝負因のある症例は,夜尿症の合併した症例及び脳波で棘波を示した症例と完全に一致し,全例が男性例でハロペリドールが有効であった。これらは本症状群の一亜型と考えられる。

自閉症児と微細脳機能障害児のserotonin代謝と視床下部下垂体機能

著者: 星野仁彦 ,   橘隆一 ,   渡辺実 ,   村田繁雄 ,   横山富士男 ,   金子元久 ,   八島祐子 ,   熊代永

ページ範囲:P.937 - P.945

 抄録 自閉症および微細脳機能障害(MBD)の脳内serotonin代謝,特に視床下部-下垂体系でhormone分泌調節機構に関与するserotonin代謝を検討するため,自閉症6例,MBD6例および正常対照群9例を対象にしてL-5HTP(3mg/kg)を経口的に投与し,その前後の血中serotonin,prolactin(PRL)などの変化を経時的に測定して次の結果を得た。
 1)L-5HTP負荷前の血中serotonin濃渡は,自閉症群が正常対照群より有意の高値を示した。負荷後は自閉症群では増加反応が抑制され,早く減少する傾向がみられ,MBD群ではこの増加反応の開始が遅延していた。
 2)L-5HTP負荷前の血漿PRL濃度は,自閉症およびMBDの両群とも正常対照群より有意の低値を示した。負荷後の血漿PRL濃度は,serotoninの場合と同様の分泌反応のパターンを示した。
 3)以上から,自閉症とMBDの両群とも脳内のserotonin代謝や視床下部-下垂体系のPRLの分泌が障害されているが,両群のscrotonin代謝の障害部位は異なっていることが示唆された。

進行性全身性硬化症(PSS)にみられた神経精神医学的所見についての検討

著者: 山下元基 ,   武田憲明 ,   白河裕志 ,   植木啓文 ,   森清幹也 ,   森俊二 ,   前田学 ,   森也寸志 ,   貝谷壽宣

ページ範囲:P.947 - P.953

 抄録 PSS患者20名を対象として同疾患における精神神経症状を検討した。
 著明な精神症状を示したのは2例で,その症状の基底に意識障害の存在が疑われ,症状精神病の病像を呈した。1例は尿毒症であったが,血清尿素窒素(BUN)が減少した後も錯乱状態はしだいに悪化し,数週間後に脳出血にて死亡した。他の1例は躁状態を呈したが,約半年後に精神症状は軽快した。また,その他多くの患者は神経症性の不安・抑うつ状態を呈した。脳波所見は16例中7例に異常が認められ,そのうち6例が徐波化であった。また,心理検査にても軽度知能低下傾向,特に抽象的問題解決能力低下傾向が示された。
 以上精神医学的検索から,PSSに際しみられる精神症状は,中枢神経系のびまん性の器質性障害が基盤となり,更に,患者の病前性格や難病に対する心理的反応が加わり,発症するものと考えられた。

抗てんかん薬服用中患者におけるビタミンD代謝異常—生化学的検査所見および臨床因子との相関について

著者: 高坂要一郎 ,   高松和夫 ,   星直哉 ,   山内俊雄

ページ範囲:P.955 - P.961

 抄録 抗てんかん薬服用中の患者54名について,vitamin D代謝異常をもたらす因子を明らかにする目的で,生化学的検査所見ならびに臨床諸因子との関係を検討した。
 血清25-hydroxyvitamin D3(25OHD)と血清phenobarbital濃度は負の相関を示し,この薬が25OHDを不活化することが推測された。しかし,25OHDと血清diphenylhydantoinおよびcarbamazepine濃度との間には有意の相関は認められなかった。25OHD値と服薬年数との間にも有意の相関は認められなかった。一方calcium(Ca)値は25OHD値と正の相関を,服用薬剤数とは負の相関を示した。ただしCa低下の程度はhypreparathyroidismをもたらすほどではなかった。他にγ-GTPが高値を示す症例が多くみられた。
 vitamin D代謝異常は抗てんかん薬の生体への作用を基盤とし,それに個体側の因子―例えば女性,頻発する発作,精神運動発作,性格変化など患者の活動を制限し,日光暴露時間を減少させるような因子―が加わって顕在化するものと思われる。

リチウムとカルバマゼピン併用による躁うつ病相予防効果の検討

著者: 小村文明 ,   岸本朗 ,   松林実 ,   筒井俊夫 ,   挾間秀文 ,   梅沢要一 ,   岡崎哲也 ,   福間悦夫 ,   柏木徹 ,   土江春隆 ,   久葉周作

ページ範囲:P.963 - P.970

 抄録 両極型感情病に対して炭酸リチウム(Li)とカルバマゼピン(CBZP)併用療法の病相予防効果について検討を行った。対象として両薬物の併用期間が延べ18ヵ月(1年6カ月)以上にわたり,併用以前の病相出現状況から併用時の予防効果が判定可能な26症例を選んだ。その結果,26症例中25例(96.2%)に併用療法の予防効果がみられ,うち6例(23.1%)においては躁,及びうつ病相の完全消失,19例(73.1%)では病相の出現頻度の半減,もしくは重症度の著しい軽快が認められた。また併用による効果がまったくみられなかった症例は1例(3.8%)に過ぎなかった。両薬物併用療法は強力な予防効果を発揮し,それぞれの単剤による治療が無効な症例でも,併用されて初めて著しい予防効果が現れる,いわゆる協力作用が認められた。LiとCBZPの併用療法では,Liの血中濃度が低値でも予防効果が減少しなかった。このことから,Li・CBZP併用療法はLiの有効性を保ち,Liの毒性を減じる治療法となりうる可能性を示した。

うつ病における自律神経機能の定量的分析の試み(第II報)

著者: 井上寛 ,   今岡健次 ,   挾間秀文

ページ範囲:P.971 - P.976

 抄録 うつ病者の自律神経機能障害を客観的に把握することを目的として,うつ病者19名について心電図R-R間隔変動係数CV値とともに,血漿noradrenaline(Na),adrenaline(Ad),cyclic AMP,cyclic GMPを測定した。その結果,うつ病病相期ではCV値,cyclic AMPが低値を示す傾向がある。うつ病寛解期ではCV値,cyclic AMP,cyclic GMPがいずれも病相期に比して有意に上昇を示した。つぎに,うつ病病相期にmethylcolabamin(500μg)を筋肉内投与すると,CV値の有意な上昇を示した。しかし,cyclic AMP,cyclic GMPに対して影響を与えなかった。また,うつ病寛解期にmethyl-colabaminを投与してもCV値,NA,cyclic AMPへの影響は特になく,cyclic GMPに上昇傾向を認めたのみであった。以上の結果よりうつ病者では視床下部-下垂体系を含めた中枢機能抑制があると推測された。うつ病者にCV値,血漿cyclic AMP,cyclicGMPを測定することは自律神経機能を客観的に把えることができるばかりでなく,病態生理を反映した経過を知る一つの方法であると考えられる。

急性腎不全,健忘症状群を呈したセデス依存の1例

著者: 加藤政利 ,   金子宏明 ,   宮里勝政 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.977 - P.981

 抄録22年間におよぶセデスの長期連用の末,急性腎不全およびその後の健忘症状群を呈した1例を経験した。症例はセデス錠からセデスGへと移行したと考えられるが,当初のセデス錠1日6錠から最近1年間のセデスG1日20〜40包へと服用量は増大していった。両剤の共通成分としてはフェナセチンとカフェインがあるが,フェナセチンの総服用量は8.2kgにも及び,このフェナセチンによる間質性腎炎が腎不全の原因であると考えられた。腎不全後,健忘症状群が持続して認められたが,この健忘症状群は腎不全以外の原疾患は認められず,また心因性要素も否定的であり,腎不全を介した二次的な症状と考えられた。セデス依存に関してはカフェインの依存作用も関係するものと思われた。セデスのようなかなり大衆的な鎮痛剤でも長期連用によりこのような重篤な腎障害を引き起こす可能性のあることに,われわれは充分な注意を払わなければいけないと感じさせられた。

資料

自閉症病棟の医療活動の11年間の推移—今後の児童精神科入院医療の課題の検討

著者: 安藤春彦 ,   吉村育子

ページ範囲:P.983 - P.988

 抄録 1970年7月に愛知県心身障害者コロニー中央病院のなかに自閉症病棟が開棟して以来の11年間の病棟活動の推移を要約すると以下のとおりである。1)開棟当初の数年間は病棟全入院児のなかで自閉症児が大多数を占めていた。入院目的は,事実上コロニー内養護学校の自閉症学級に通学のための寄宿舎的入院が大部分であった。当時は1年間に入院してくる子どもの数はごく少なく,その平均入院日数は長期であった。2)1974年以降,平均入院日数は短期化し,その結果年間入院児数は急増した。診断別では精神遅滞児の入院数がとくに急増し,てんかん児の入院数も増加して,自閉症児の全入院児に占める割合は相対的に小さくなった。入院目的としては,食事・排泄訓練の入院児数が飛躍的に増加したが,4年後には減少に転じた。冠婚葬祭や家族の事情によるあずかり入院や検査入院の子どもの数も急増した。治療を目的とした入院児の数もいくらか増加してきた。
 このような病棟活動の推移をもたらした医療的・社会的要因を考察し,今後の障害児入院医療の課題を検討した。

短報

妄想型単相性うつ病—臨床精神医学的研究

著者: 竹内巧治 ,   武田憲明 ,   足立総一郎 ,   植木啓文 ,   曾根啓一 ,   田村友一 ,   山下元基 ,   森清幹也 ,   貝谷壽宣

ページ範囲:P.989 - P.993

Ⅰ.はじめに
 うつ病に各種の妄想が出現することはよく知られている。この妄想をもつうつ病は,精神病性うつ病,又は妄想型うつ病とよばれる。この妄想型うつ病は,従来の三環系抗うつ剤に反応することが少なく,他の治療法が必要であることが多いので,妄想のないうつ病から区別することの重要性が最近指摘されてきている1,4,6,8,14)
 本論文では,我々の経験した妄想型うつ病と非妄想型うつ病とを症候学的に比較検討した。また,脳波,頭部computed tomography(CT)の所見について検討した。また,血漿ドパミンベータ水酸化酵素(DBH)活性,及び血漿グルタミン酸脱炭酸酵素(CAD)活性についても検討した。さらに,両群の薬物に対する治療反応にいても検討を加えた。

デキサメサゾン抑制試験およびTRH負荷試験で異常を呈した躁うつ混合状態の1例

著者: 伊藤陽 ,   柳沼晴夫 ,   不破野誠一 ,   松井望

ページ範囲:P.994 - P.997

I.はじめに
 Carrollら2)が内因性うつ病のうつ病相ではデデキサメサゾン抑制試験(DST)によるコルチゾールの抑制が不充分であることを報告して以来数多くの研究が重ねられ,内因性うつ病におけるDST非抑制の陽性率は25〜60%程度で,この所見は恐らくはstate dependentなものであろうとされている1)。すなわちうつ病相ではDSTは非抑制となるものが多いが,寛解期あるいは躁病相8)になるとDSTの反応は正常化するものが多い。では躁うつ混合状態ではDSTはどのような反応を呈するのであろうか。この点に関しては最近若干の研究報告3,5)がみられ,躁うつ混合状態ではDSTは非抑制となるようであるが,本邦では今のところ報告例は見当らない。
 一方Prangeら7),Kastinら4)はうつ病者においてTRH負荷後のTSHの反応が減弱あるいは欠如していることを報告しているが,この所見の陽性率は20〜50%程度で,内因性うつ病のtraitmarkerではな法いかと考えられている6)。この見解が妥当であるとすれば寛解期および躁うつ混合状態を含む病相期においてもTRH負荷に対するTSHの反応は減弱していると予想されるが,躁うつ混合状態でTRH負荷試験を実施した報告は未だなされていない。
 現在われわれはDSM-IIIのMajor AffectiveDisorderに該当する入院患者を対象として,内分必機能異常と臨床経過および抗うつ薬に対する反応性との関連の有無を明らかにする研究を行っているが,その対象群の中の双極感情障害頻発型(Bipolar disorde,rapid cycler)の1例において,躁うつ混合状態とその前後のうつ病相でDSTおよびTRH負荷試験を行ったので,その結果について報告したい。

心因反応的表出をみたPhenytoin中毒の1例

著者: 加藤秀明 ,   広瀬靖雄 ,   森俊憲 ,   植木啓文

ページ範囲:P.999 - P.1001

 精神症状が前景にたったPHT中毒(35.0μ9/ml)を挿間性にきたしたてんかんの1例(48歳,男性)を報告した。実際に心因が存在し,病像的(抑うつ,感情不安定,ヒステリー症状)にも心因反応の特徴をもっていた。PHT中毒を挿間性精神症状の観点から考察し,それが心因反応的表出を示した点の考え方について述べた。

遅発性ジスキネジアに対するCalcium Hopantenateの使用経験

著者: 安田素次 ,   大森哲郎 ,   藤江哲夫 ,   山下謙二 ,   須藤和昌

ページ範囲:P.1002 - P.1004

I.はじめに
 近年,遅発性ジスキネジア(以下TDと略す)に対するCalcium hopantenate(HOPA)の治験がいくつか報告されているが1,2,4,5),その有効性の指摘にもかかわらず,作用形式や改善度について必ずしも一定の見解をみていない。それにはTDの症状が変動しやすく,評価が困難なことも一因と思われる。今回は,用量や期間のほか,治験前の評価にも配慮して検討したので報告する。

古典紹介

—Philippe Pinel—精神病又はマニーに関する医学=哲学的概論

著者: 浜中淑彦

ページ範囲:P.1005 - P.1018

第3章 精神病者alienesの頭蓋形の欠陥に関する解剖学的研究
I.manieの本態は大脳の器質性損傷か?
 ごく当然な一般的見解によれば,悟性諸機能の障害alienation des fonctions de l'entendementの本態は,頭部の何らかの部分の変化又は損傷であるとされ,その結果Bonnet,Morgagni,Meckel,Greding訳注1)が次々に発表した研究成果が権威あるものとして引用された。このうちドイツの著者Gredingは最近,この疾患の本性にいくばくかの解明をもたらすための数多くの身体解剖を行った。このため,manieを最も多くの場合治療不可能とみなして精神病者を単に社会から隔離して,すべての病弱が必要とする助力を彼らに拒むという偏見が生まれた。他方イギリスやフランスでは数多くの治療がもたらされ,多数の症例において精神的療法traitement moralの成功が確認され,身体解剖の結果何らの器質性損傷も明らかにされない症例がいくつか知られるようになった。manieを純粋に神経性疾患affection purement nerveuseとみなすあるイギリスの医師の著作(原註1)は,最初に挙げたのとは逆の見解を確定しているように思われる。6年来の私の研究の主たる対象の一つは,各病院で集めた一連の数多くの事実によって,上に述べた如き不正確な点を除去することであった。本書に引き続いて,精神障害で死亡した人の大脳,脳膜,その他の身体部分の特殊な状態に関する私の研究結果を報告することになろうが,本項では頭蓋形の欠陥のみを考察するにとどめたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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