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展望

中脳皮質ドーパミン系と精神分裂病—第2回

著者: 福田正人1 斎藤治1

所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.1224 - P.1237

1.解剖学的事実
 中枢神経系のドーパミン(DA)系が果たしている機能を考えるうえで,その解剖学的事実を考慮に入れることは将来を見通すためにも重要なことである。そこでここではドーパミン系の機能を考える上で必要と思われる若干の解剖学的所見について触れてみたい。
 まず,脳幹に存在するDA細胞は比較的少数であるにもかかわらず,その軸索は盛んに分枝して多数のシナプスを形成している。例えば,ラットにおいては脳幹のカテコールアミン神経細胞は50,000個でそのうち80%をDA神経細胞が占めると言われ(Hokfelt 1984),部位別には黒質のDA細胞は3,500〜15,000個,中脳被蓋領域(VTA)では全細胞14,000個のうちDA細胞は9,000個であると言う(Swanson 1982)。ヒトにおいては黒質の細胞数は年齢とともに直線的に減少するが,20歳では約400,000個であるとされる(McGeeret al. 1976)。さらに,さきに述べたようにVTA領域のDA細胞のインパルス伝達速度は0.5m/sec程度で,0.1秒ではわずか5cmほどしか伝達しないことが知られている。このようなシナプス形成のされかたやインパルス伝達速度を考えると,DAは脳内において情報の処理executive processそのもののような個別の機能を営むというよりは,むしろDA系が全体として何らかの調節的役割を果たしていると考えるほうが自然であるとの考え方も成立しよう。事実,一般にモノアミンが皮質細胞に対して及ぼす作用がGABAやglutamateに比して弱く,作用の方向が一貫しないこと,モノアミンがシナプス以外の場所で拡散のような方法でも皮質細胞に作用をおよぼすことから,モノアミンが伝達物質というより神経伝達の"modulator"として機能すると提唱している研究者もある(Krnjevic 1984, Reader et al. 1984)。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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