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雑誌目次

雑誌文献

精神医学27巻2号

1985年02月発行

雑誌目次

巻頭言

感情精神障害と半球間バランス

著者: 遠藤俊吉

ページ範囲:P.126 - P.127

 最近“右脳ブーム”なる言葉をしばしば見聞きする。右脳の機能と創造力とが関係づけられて巷間でもてはやされており,一般向けの啓蒙書の類が書店の店頭を賑わせ,また,週刊誌がこぞってこのテーマを取り上げていたのも記憶に新しい。
 精神科医としてこのような現象は誠に興味をそそられる事柄と思われるが,これがいつ頃から何によって惹き起こされたものであるか筆者は寡聞にして知らない。しかし推定するに,Sperryらカリフォルニア学派やGeschwindらボストン学派の研究をはじめとする最近の神経心理学的研究の急速な発展により,従来“沈黙脳”あるいは“暗黒脳”と称されそのほとんどが知られていなかった右脳の機能の輪郭が,ある程度明らかになりつつあることが大きく関与しているのであろう。また,わが国では,創造の世界22巻(1976年)に掲載された湯川秀樹,園原太郎,市川亀彌,竹下敬次,品川嘉也,角田忠信の諸氏によるシンポジウムの影響や数年前に発刊された角田忠信氏の論文集“日本人の脳”が各方面に少なからず与えたインパクトなどが関係しているように思われる。

特集 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)―その病態と臨床

序論—睡眠時無呼吸症候群と精神医学

著者: 山口成良

ページ範囲:P.128 - P.129

 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)とは,Guilleminaultら5)が定義するように,10秒以上続く無呼吸(鼻孔および口腔での気流の停止)が一晩(7時間)にREM期,NREM期を通じて30回以上あり,かつ反復する無呼吸のエピソードがNREM期に認められる場合をさすわけであるが,これにも中枢型(central apnea),閉塞型または上部気道型(obstructive orupper airway apnea)と混合型(mixed apnea)の3種が区別されている。
 ところで,Association of Sleep Disorders Centers(ASDC)とAssociation for the Psychophysiological Study of Sleep(APSS)とが共同して提案した「睡眠・覚醒障害の診断分類」1)では,睡眠時無呼吸不眠症候群(Sleep Apnea DIMS Syndrome)と睡眠時無呼吸過眠症候群(Sleep Apnea DOES Syndrome)に2大別している。前者は,Guilleminaultら4)によって新しい症候群"睡眠時無呼吸を伴う不眠症"として始めて報告されたもので,それは57歳と54歳の男性で,慢性の不眠を主訴とし,夜間の睡眠時に頻回の中枢型無呼吸が出現し,呼吸の再開に伴う覚醒反応のため,睡眠経過が頻回に(200回も)中断されて不眠を訴えるものである。後者は上部気道閉塞型の無呼吸を主とするもので,従来Pickwickian syndrome2)といわれたものが含まれる。

睡眠と呼吸機能

著者: 鳥居鎮夫

ページ範囲:P.130 - P.136

I.はじめに
 正常人では覚醒している場合,吸息と呼息が規則正しく繰り返している。その速さと深さは,血液のO2,CO2を一定のレベルに維持するためのフィードバック機構によって調節されている。肺や胸壁の疾患があると低酸素血症hypoxemiaが起こり,血中のCO2が増しO2が減少するが,呼吸の律動性が障害されることは殆どない。他方,中枢神経系の機能が侵される疾患では,呼吸のリズムが著しく損われる。たとえば,橋,延髄の疾患では不規則に数秒間止まるあえぎ呼吸を伴うし,前脳と延髄の疾患ではChcyne-Stokes呼吸となり,無呼吸が規則正しく現われる。一般に,呼吸のリズム障害は脳に異常があるときにのみ起こるとされていた。心不全のときにみられるCheyne-Stokcs呼吸も脳循環障害のためとされている。
 しかし,現在は,Cheyne-Stokcs呼吸の如く規則正しく起こる無呼吸は睡眠時に普通にみられることが知られている。この種の無呼吸は健康人にみられ,生命を脅かす疾患の症候とは考えられていない。眠っている成人の無呼吸は一般に短かく(10秒前後),一晩に10回以下である。老人,いびきをかく人,肥満の人ではもっと頻繁に起こるが,それでも動脈血の酸素飽和度の低下は小さい。しかし,なかには無呼吸の期間が延長し,血液の酸素飽和度が劇的に下がり,不整脈を起こすことがある。こういう場合は,睡眠時無呼吸症候群といい,生命を脅かすに至る。その合併症の最も重篤なのは慢性の肺胞低換気と肺性心である。
 このような睡眠時無呼吸症候群の病態生理を理解するためには,睡眠時に中枢性および閉塞性の無呼吸が起こりやすくなるメカニズムを把握しておく必要がある。この綜説では眠っている人に普通にみられる周期性呼吸を中心にして,呼吸の化学的および神経性調節に対する睡眠の影響を述べる。

中枢性睡眠時無呼吸

著者: 片山宗一 ,   横山誠之 ,   平野良郎 ,   鹿嶋嗣一

ページ範囲:P.137 - P.145

I.はじめに
 近年,国の内外を問わず睡眠時無呼吸に対する関心がとみに高まっているが,各研究者の対象とする疾患に片寄りがみられ,本症の実体が正しく把握されているとは考え難い。米国睡眠学会(APSS)で制定した睡眠・覚醒障害の新しい分類,診断基準1)をみると,睡眠時無呼吸および肺胞低換気症候群はそれぞれ不眠を伴う群と過眠を伴う群とに分けられ,前者を中枢性無呼吸,後者を閉塞性無呼吸の特徴であると分類している。米国の睡眠障害センターでは睡眠・覚醒障害を訴えて来院した症例を主な対象として研究しており,上記の分類はこれから得られた臨床成績をもととして作られたものであるため,中枢性睡眠時無呼吸のデータに乏しい。したがって,このような分類は実際の臨床に適合しないという批判も多い2)。著者3)は睡眠障害とは無関係に種々の脳障害,心障害あるいはこれらの障害を示さない一般内科疾患の多数症例について,その呼吸パタンをpolysomnographyにより検討したので,その成績を中心に紹介する。また脳障害例を対象として考察した中枢性睡眠時無呼吸の発現機序にも言及する。

閉塞型睡眠時無呼吸症候群の病態生理

著者: 岡田保 ,   太田龍朗 ,   寺島正義

ページ範囲:P.147 - P.160

I.はじめに
 近年,睡眠時の呼吸障害に関連していくつかの臨床的問題が提起され,精神神経科,神経内科,呼吸器科,小児科のみならず,臨床神経・呼吸生理の領域においても次第にこの問題に対して関心が払われるようになってきた。これらの臨床的問題とは,ピックウィック症候群4,51),あるタイプの不眠症11,31),昼間の睡眠過剰症9,27)や乳児突然死症候群(sudden infant death syndrome)47,56)などであり,これらの病態発生の機序として睡眠時無呼吸(sleep apnea)や肺胞低換気(alveolarhypoventilation)が問題とされてきている1,34)
 また,これらの疾患や病態の研究を契機として,睡眠時の呼吸調節の機序について,新たな角度からの基礎的研究も進展しつつある38,39)

睡眠時無呼吸過眠(睡眠過剰)症候群の臨床

著者: 菱川泰夫 ,   杉田義郎 ,   飯島壽佐美 ,   手島愛雄 ,   清水徹男 ,   西村信哉 ,   堤俊仁 ,   八十嶋晶 ,   松尾龍之介

ページ範囲:P.161 - P.171

I.はじめに
 睡眠時無呼吸過眠(睡眠過剰)症候群は,Sleepapnea DOES(disorders of excessive sleepiness)syndromeを邦訳した名称である。この症候群の名称は,これまでに変遷を繰り返してきている。本症候群に属する病態のうちで,著しい肥満に加えて,右室肥大,右心不全,二次的赤血球増多などの肺胞性低換気に基づく二次的な症状を伴うものを,Burwellら(1956)3)は,ピックウィック症候群Pickwickian syndrome(PWS)と呼ぶことを提唱した。それ以前には,PWSは,著しい肥満によって生じる特殊な心・肺機能の障害だと考えられていて,特別な名称はつけられていなかった。次いで,1960年代になると,PWSの研究に睡眠ポリグラフが導入された結果,頻回の無呼吸が睡眠中にのみ出現することと8),著しい肥満を伴わないが,PWSと同様に睡眠中の頻回の無呼吸と昼間の著しい睡眠過剰の症状を呈する患者が存在することなどが明らかにされた。それらの新しい知見に基づいて,肥満を伴っていない症例をも包含する名称として,hypersomnia with periodic breathingという名称がCoccagnaら(1971)5)によって提唱され,次いで,Lugaresiら(1976)15)によってhypersomnia with periodic apneasと,Guilleminaultら(1976)10)によってsleep apnea hypersomnia syndromeと呼ぶことが提唱された。sleep apnca DOES syndromeという名称は,1979年に発表された国際的な"睡眠・覚醒障害の診断・分類"の中で初めて用いられた2)

睡眠時無呼吸不眠症候群

著者: 浜原昭仁 ,   佐野譲 ,   炭谷信行 ,   古田寿一 ,   金英道 ,   林卓也 ,   山口成良

ページ範囲:P.173 - P.181

I.はじめに
 睡眠時無呼吸不眠症候群sleep apnea DIM Ssyndromeとは睡眠中に繰り返し無呼吸を呈する症候群のうち,とくに不眠を主訴とするものをいう。1973年,Guilleminaultら9)が慢性の不眠症の患者に頻回に起こる睡眠時の無呼吸を認め,“Insomnia with sleep apnea syndrome”という新しい症候群を提起したのがはじまりである。これは,それ以前に報告されていた睡眠時無呼吸症候群と異なり,傾眠症や肥満を伴わないものであった。その後も他の研究者によって同様の不眠症が報告された。
 1979年のAssociation of Sleep Disorders Centers(ASDC)とAssociation for the Psychophysiological Study of Sleep(APSS)による睡眠覚醒障害の診断分類の中では,睡眠時無呼吸症候群は患者の主訴にもとづき,不眠症候群disorders of initiating and maintaining sleep(DIMS)と過眠症候群disorders of excessive somnolence(DOES)の両群に分けてとり扱われることになった。このうち睡眠時無呼吸不眠症候群は,入眠は容易であるが中途覚醒が多い,日中の過眠や肥満がみられない,ポリグラフ上で中枢性の無呼吸が多いなどが特徴とされている2)。一方,高齢者に睡眠障害が多いことは以前から知られていたが,Carskadonら5)やAncoli-Israelら1)は高齢者に高頻度の睡眠時無呼吸症候群の症例を認め,これまでの安易な不眠症の診断や治療に警告を与えている。
 そこでわれわれは,高齢者における睡眠時無呼吸の頻度や病態生理,ならびに不眠症との関係について研究と考察を行うこととした。

小児の睡眠時無呼吸—突然死との関連を中心に

著者: 河野親彦 ,   伊予田邦昭 ,   真田敏 ,   大田原俊輔

ページ範囲:P.183 - P.189

I.はじめに
 小児期の睡眠時無呼吸sleep apneaは,未熟児,新生児における呼吸障害,あるいはOndine's curse等と関連して関心を持たれているが,最近,乳幼児突然死症候群sudden infant death syndrome(SIDS)との関連から大きな注目を惹いている。
 一方,重症心身障害児(以下重障児と略す)の死因においても突然死が重要な位置を占めており,しかもこれは睡眠中にみられることが多い。
 本稿では,小児の睡眠時無呼吸を特に突然死との関連において展望し,われわれの成績についても述べる。

薬物と睡眠時呼吸障害

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.191 - P.199

I.はじめに
 睡眠時呼吸障害と薬物との関係は,呼吸障害を増悪させる薬物と,軽減させる薬物に分けて考えることができる(表1)。睡眠時呼吸障害を軽減させる薬物は,睡眠時呼吸障害の薬物療法につながるものである。そのほか,精神科領域では,精神分裂病にたいする抗精神病薬療法のさいにときに生じる過度の肥満が,睡眠時呼吸障害を起こす可能性も考えておく必要がある。以下の論述では,睡眠時呼吸障害という用語のかわりに,睡眠時無呼吸(症状群)sleep apnea(syndrome)(SAあるいはSAS)を用いることにする。

閉塞型睡眠時無呼吸症候群のStrychnine療法

著者: 粥川裕平 ,   岡田保 ,   太田竜朗 ,   原健男 ,   寺島正義

ページ範囲:P.201 - P.206

I.はじめに
 10年来不安神経症として治療されてきた患者に,通常不安神経症にみられる入眠障害とは異なる睡眠障害が認められた。入眠は良好であるにもかかわらず,頻回の中途覚醒と激しいいびきを夜間睡眠中に認め,早朝覚醒,熟眠感の欠如,そして昼間の傾眠が認められた。睡眠ポリグラフ検査により閉塞型睡眠時無呼吸症候群(以下OSAと省略)と診断された。OSAの精神症状として菱川ら5)は,既に失見当,健忘,易怒性,集中困難などを指摘し,Guilleminaultら2,3)も,知的能力の減退,早朝の錯乱,睡眠中の異常行動,自動症,不安,抑うつ,性格変化などを掲げている。岡田ら10)は,抑うつ状態に於いて,無呼吸が増加した症例を報告しているが,不安や抑うつ,性格障害を主訴として精神科を訪れたOSAの詳細な症例報告は未だなされていない。その意味で臨床経過を少し詳しく報告したい。更にOSAの薬物療法としては今日までに呼吸刺激剤7),三環系抗うつ剤11,12)などが試みられているが,strychnineについては,本邦報告例がない。OSAに対するstrychnine療法の可能性について,睡眠ポリグラフ所見をもとに若干の考察を加え,報告したい。

アメリカにおける睡眠時無呼吸症候群の研究と治療の現況

著者: 藤田史朗

ページ範囲:P.207 - P.217

I.はじめに
 Sleep Apnea Syndrome(睡眠時無呼吸症候群)は過去10年間米国の医学界に華やかな話題を提供し医学関係者だけでなく一般庶民からもジャーナリズムを介して大きな注目を浴びてきた。長年常習性いびきに悩む者が日中頻回に睡気を催し身体疲労感を訴えるという症例はこれまでしばしば観察されていた。しかしこれらの症状が睡眠中に起こる低酸素症(hypoxia),不整脈や高血圧症の潜んだ原因となる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome―以下OSAと略記)を示唆しているということに医師が注意を払うようになったのは極めて最近のことである。1956年Burwellが病的肥満者にみられる肺胞換気不全,過剰睡眠,赤血球過多,周期的睡眠時無呼吸発作と右心肺を特徴とする症候群を認め,これをPickwickian Syndromeと呼んだのは周知のことである1)。1837年に発表されたCharles Dickensの小説「Pickwick Clubの遺文録」の登場人物の一人である給仕Fat Boy Joeの行動や身体症状がこの症候群を代表する患者の症状に類似していることは歴史上注目に値する。以来sleepapneaの原因となる疾患の症例報告や病態生理,内科的及び手術的治療に関する研究報告の数が年年増加する傾向にある。因みに10年前には米国に存在していたSleep Disorder Centerは僅かに5カ所を数えるに過ぎなかったが,全米各地のMedical Centcrに公認の睡眠研究所が次々に設立されmushroomingという表現さながら現在その数は30に達し未公認の施設を含めれば100を越えていると推定される。ところで,sleep apneaの理解と治療に関する急速の発展は多数専門分野の協力によるアプローチ(multidisciplinary approach)によりて推進されてきたことは明らかで,睡眠生理,異常睡眠の病態生理研究に従事する専門家(生理学,精神科,神経科)の業績によるだけでなく睡眠と関係ある呼吸機能障害に興味を持っている専門医等(胸部内科,耳鼻咽喉科,小児科)がそれぞれの専門領域において観察した情報や知識の絶えざる交換によるところが大きい。

研究と報告

計量ポリグラフ法による睡眠薬の薬効検定(第2報)—多元的指標の同時追跡による特性抽出

著者: 苗村育郎

ページ範囲:P.219 - P.235

 抄録 睡眠薬の臨床作用を多面的かつ経時的に分析するために,新たな臨床試験計画を考案し実施した。本法により多様な課題を連続的に負荷することにより覚醒水準を統制し,1)誘発睡眠のみを選択的に定量化するとともに,多元的な精神生理学的指標の分析から,2)各種副作用の経時的発現を明らかにすることが可能となった。
 試験計画を詳述し誘発睡眠量の解析を行った前報に続き,本報では睡眠薬(450191-S,以下S薬)の活性代謝物の血中濃度の推移を中心に,自律系,運動系,心理テストなど各領域の変化の全容をまとめて,相互関係を検討した。

特別寄稿

睡眠研究今昔

著者: 秋元波留夫

ページ範囲:P.237 - P.247

I.はじめに
 1966年3月,東京大学をやめてから,睡眠研究については,それこそすっかり眠りこんでいた私であるから,皆さんのお役にたつような話ができそうもない。しかし,昔,金沢の教室で一緒に睡眠の仕事をした山口教授のせっかくの依頼なので,おひきうけすることにした。
 私たちが金沢で睡眠の仕事を始めたのは戦後間もない1954年ごろである。私の記憶ではそれ以前わが国では睡眠の研究,特に実験的研究はほとんど行われていなかったから,金沢での仕事は,わが国睡眠研究のあけぼのでもあった。その後,わが国の睡眠研究は長足の進歩を遂げ,研究者も基礎・臨床医学はもとより,生物学,心理学などの広い範囲に及び,優れた研究が行われるようになった。睡眠研究の組織としては,1960年代に私もその一員であった文部省科学研究費による睡眠研究班注)が作られたが,全国組織に成長するまでには至らなかった。しかし,多年の要望であった日本睡眠学会が1977年創立され,1979年には東京で国際睡眠学会を主催することができた。実にめざましい発展である。まことに今昔の感に堪えない。このような感慨をこめて,しばらく睡眠研究の足跡を辿り,それに私の所信の若干を加えて,山口教授から与えられた責任を果したい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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