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雑誌目次

雑誌文献

精神医学27巻4号

1985年04月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学と分子生物学

著者: 石井毅

ページ範囲:P.374 - P.375

 先日,ハーバード大学とマクリーン病院のlecture,“New Psychiatry”というテープを聴いた。New Psychiatryというので,どんな内容かと思ったが,全くの生物学的精神医学の講義である。精神障害の分類にはDSM-IIIが紹介されている。御存知のように,これはnewではあるが,かつて私たちが30年も前に読んだクルト・シュナイダーの考え方やクレッチマーの多元診断の思想が色濃く取入れられている。とくに内因精神病の分裂病と躁うつ病の診断基準では長期経過,治療に対する反応,および家族歴が重視されている。私がショックをうけたのは,分裂病と躁うつ病の区別には症状よりも経過と家族歴が重視されていることである。とくに,いわゆる予後のよい分裂病状態に対しては,家族歴を調べると躁うつ病の患者が多い,それゆえ躁うつ病に入れるべきだというのである。急性期にみられる幻覚,妄想,連想弛緩や滅裂思考,緊張病症候群などは,必ずしも分裂病症状とみるべきでないという。すなわち,躁うつ病の症状と解釈していいという。これでは躁うつ病の範囲は非常に広くなってしまう。私が言いたいのは,アメリカ精神医学が,症候論よりも遺伝的背景を重視するその態度である。このlectureだけでアメリカ精神医学を云々するのは早計かも知れないが,講義の内容は遺伝学,神経化学,神経精神薬理,生物学,解剖学などで,Nautaの解剖学はとくに素晴らしかった。要するに“New Psychiatry”は極端た生物学的精神医学だと思った。
 かつて,終戦後の一時期,アメリカの精神分析的な精神医学が酒々と流れこんだことがある。カレン・ホーナイ女史の講演を聞きに行って,勝手違いの内容に眼を白黒させながら帰路についたときの,とまどいの気持を今も忘れられない。当時,松沢病院では電撃療法やインシュリン療法が盛んに行なおれ,ロボトミーも全盛の頃であった。内村先生も最終講義で,精神分析的精神医学を批判されたと記憶している。あの頃のアメリカ精神医学の考え方と,今日の極端な生物学主義の間に何があったのか,私はその振幅の激しさに驚いている。

展望

パラフレニーとフランスの慢性妄想病群—第2回

著者: 濱田秀伯

ページ範囲:P.376 - P.387

VI.ドイツにおけるその後の変遷
 1.独立性への批判
 1911年以降,ドイツではBleuler, E. の症候群としての精神分裂病Schizophrenien概念が広く,急速に浸透していったので,Kraepelinの疾患単位としての早発痴呆,パラフレニー,パラノイアの区別は,しだいに曖昧になっていった。なかでもパラフレニーは,発表直後からその独立性に疑問がもたれ,分裂病に含める見解と,パラノイアに含める見解とが現れた。
 パラノイアに含める考えにたつものには,Stransky(1913),von Hosslin(1913),Reichardt(1918)らがおり,その立場も,Kraepelin自身が悩んでいた系統パラフレニーとパラノイアの類似を強調するEisath(1915)から,4つの病型をすべてパラノイアに一括するMoravcsik(1916)まで様々である。

研究と報告

人間学的診断の有用性—非定型精神病の1例をめぐって

著者: 中嶋聡

ページ範囲:P.389 - P.398

 抄録 臨床上てんかんの症状を示さず,妄想型分裂病に類似した病際を示しながら,脳波上てんかん性異常の見られた1例につき報告した。臨床的には,気分の変わり易さ,衝動性,および年齢にそぐわない子供っぼさが特徴的であった。また,感情的な豊かさ,対人接触の良さといった特徴も認められた。他方,妄想の精神病理学的分析により,妄想内容の世俗性,妄想他者の具体性,妄想確信の単純性といった特徴が見出された。こうした諸特徴は,分裂病としても,または他の従来の診断的範疇によっても,理解が困難であった。そこでより,包括的な考え方を求めて人間学的立場に注目し,木村の人間学に基づいて検討を加えた。その結果,脳波所見を含む症例の各特微を,木村のいうintra-festum構造の様々な現われとして把握することができた。さらに,この基盤の上に立って,本症例をintra-festum構造の病理としての非定型精神病の一型として,積極的に位置づけることができた。こうした人間学的な疾患理解の仕方は,症例の多様な側面を統一的に把握し,さらに整理の不十分な領域における疾患概念の統一のために役立つように思われた。

青年前期に発症した精神分裂病の病像と予後—とくに初期薬物療法との関連について

著者: 坂口正道 ,   加藤伸勝

ページ範囲:P.399 - P.408

 16歳未満で発症が確認された48例の分裂病症例について,平均経過年数6.4年後の調査から初期薬物療法と予後との相関を考察した。あわせて前駆症状や発症様式について文献的知見を検討しながら,症候論的考察を加え,次のような結果を得た。
 (1)前駆症状は,1型:性格変化が強迫行為を主とした行動上の異常を呈してくるもの(8例),2型:無為自閉化や気分変動が中心をなし攻撃性のみられないもの(16例),3型:上記1,2型の混在するもの(12例),4型:偽神経症的・境界例的症状が前景をなすもの(12例)に区分された。
 (2)発症様式を,一般に用いられているように潜行性,亜急性,急性の発症群に分類した。潜行性群は21例(44%)で上述の各前駆症状を広く持ち,最も早発(12.0歳)であった。亜急性群は17例(35%)で前駆症状2型をとるものが多く,平均初発年齢は13.0歳であった。急性群は10例(21%)で,前駆症状4型との親和性が注目された。平均初発年齢は最も遅く13.8歳である。各群とも初診年齢は14歳前後(13.5〜14.2歳)であった。
 (3)予後を初期薬物療法との関連でみると,潜行性発症群では初期の診断学的困難性から薬物治療の導入が遅れがちであるものの,その後の増量等により改善される可能性のあることがひとつの特徴として指摘された。亜急性群では,初期投与量が中等量以上であることが予後的には重要で,初期治療に失敗するとその後の増量によっても改善は望まれない傾向にある。急性群では,その発症の特徴上全例が早期に中等量以上の投与を受け,ともかくも一過性には良好な寛解状態をみるが,中断しやすく,また維持投与量が少なすぎて結果的に再発を繰り返すことが多く,寛解後の維持治療の重要性が指摘された。

下垂体腫瘍を伴った皮膚寄生虫妄想の剖検例について

著者: 武田雅俊 ,   谷野志郎 ,   山下昇三 ,   松林武之 ,   広瀬棟彦 ,   西沼啓次

ページ範囲:P.409 - P.416

 抄録 下垂体腫瘍(prolactinoma)を伴った皮膚寄生虫妄想の1症例(69歳,女性)に,脳循環改善剤,マイナーおよび,メイジャートランキライザー投与しても妄想の改善は認められなかった。またprolactinomaに対するbromocriptine療法により血中prolactin値が正常化した後もこの妄想は残っていた。しかし,さらにhaloperidolを追加併用投与したところこの妄想の消失が認められた。剖検脳の検索では,年齢から予測される脳萎縮変化・脳血管性変化は殆ど認められず,また,腫瘍に起因すると思われる圧迫による局所的神経細胞の変性脱落も認められなかった。bromocriptine投与による向精神薬に対する反応の差異や神経病理学的所見などから,皮膚寄生虫妄想の発生機制についての考察を試み,この妄想は必ずしも神経病理学的な器質的変化により引き起こされるのではなく,むしろドーパミンを中心とした神経伝達物質レベルでの機能的変化が関係している可能性を指摘した。

長期marihuana使用後に遷延性分裂病様状態を呈した1例

著者: 宮里勝政 ,   鈴木康夫 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.417 - P.424

 抄録 症例は27歳,男性調理士で今回以前に精神病状態の既往はない。1981年10月より米国の飲食店に勤務し同年11月より1日約3本のmarihuana吸煙が1983年3月まで続いた。この頃より意欲低下,抑うつ感から就労困難となり,以後,被害関係妄想,中傷的内容の幻聴,不安が徐々に加わった。1983年6月に帰国したがこれらの症状はその後も持続した。外来での薬物療法により幻覚。妄想は早期に消失したが意欲低下を中心とする状態は改善なく同年11月に入院治療を開始した。入院後は薬物療法に加え生活療法的プログラムにより約1カ月半で病前の状態への回復が得られた。
 本症例での精神症状はその成立過程上でamotivational stateと幻覚・妄想状態に分けて考えられた。前者にはmarihuana長期使用が,後者には環境に対するschizoid personality優位の性格の反応の発展が主に関与したと考えられた。

小脳歯状核病変を呈したtardive dyskinesiaの1剖検例

著者: 新井信隆 ,   長友秀樹 ,   桑原寛 ,   天野直二 ,   横井晋 ,   斎藤惇 ,   小堀博 ,   吉原林

ページ範囲:P.425 - P.430

 抄録 今回,われわれは,長期間の向精神薬内服によりtardive dyskinesiaを呈した精神分裂病の1剖検例を経験し,特徴ある所見を得たので報告する。
 症例は72歳の女性。34歳頃発症の精神分裂病患者でchlorpromazine,levomepromazine,thioridazineを長期間投与され,約12年後より,四肢のchoreoathetoid様の運動,口周囲のモグモグが出現し,tardive dyskinesiaとして観察されていたが,72歳時,イレウスにて死亡。神経病理学的には,1)lobotomy術後の変化,2)両側被殻の小軟化巣,3)黒質の軽度グリオーゼ,並びに極めて特徴的変化として,4)小脳歯状核神経細胞の腫大性変性像,樹状突起及び周囲の神経網の嗜銀性の増強,の所見を得た。
 tardivc dyskinesjaの責任病巣についてはまだ定説はなく様々な報告がある。小脳歯状核病変を強調するものは数少なく,症例の集積の必要性を考え報告する。

術後神経精神症状の軽快した透明中隔嚢胞の1例

著者: 渡辺雅子 ,   渡辺裕貴 ,   野間口光男 ,   滝川守国 ,   日笠山一郎 ,   菅田育穂 ,   時任純孝

ページ範囲:P.431 - P.436

 抄録 透明中隔の二層の膜の閥には正常でも多少の腔が存在するが,これが異常に大きい場合,透明中隔嚢胞(Cyst of the cavum septi pellucidi,以下Cspと略す)と呼ばれる。われわれは,17歳の時に頭痛,肩凝り,昏迷状態,全身けいれん,独り笑い,失禁などの症状を呈した後にいったん寛解し,18歳の時に再び,不眠,不穏,独り言,独り笑い,被害関係妄想,頭痛,嘔吐,多飲多尿,多汗,失調歩行などの症状を呈した症例を経験し,CT上Cspを認めた。これらの症状は,Wilderの透明中隔症候群に合致しており,側脳室から?胞へ開孔するシャント術を施行した結果,症状の著明な改善をみたことから,本症例はCspと関係した器質性精神病であると考えられた。症状が出現と消退を繰り返したことは透明中隔腫瘍と異なりCspに特徴的であると考えられたこと,及び症状の発生機序として帯回への影響が考えられたことを指摘した。

一卵性双生児の一方にみられたAnorexia Nervosaの1例

著者: 青山高子 ,   岡田隆介 ,   杉山信作 ,   瀬川芳久 ,   更井啓介

ページ範囲:P.437 - P.444

 抄録 Anorexia Nervosa(An. n.)の病因に関して,双生児研究は方法論的拠り所の一つである。今回われわれは,体質因と心因が複雑に絡むが,心因を重視できる一卵性双生児の一方にのみ発症したAn. n. の1例を経験したので報告した。
 症例は12歳の女子で双生児の妹である。主訴:やせ,無月経,不登校。家族歴:母親が内因性うつ病に罹患している。生下時体重が2,280gである以外に著患なし。生育歴で本児のみ生後1.5カ月から1年3カ月まで母方祖母に養育された。小5,それまでやや優位の双生児の姉に親友ができると孤立し,強迫的に勉強し,成績,体格ともに優位に立った。56年9月三人姉妹の中で最初の初潮を契機に発症した。57年6月症状の顕在化で諸病院を転々とした後,57年11月当科を受診した。身長146cm,体重33kg(最低体重28kg),双生児双方に同様の脳波異常をみた以外著変なし。薬物療法,個人及び家族の心理療法,更に情短施設のDay Careを併用し,治療効果をみた。

Sultopride(MS-5024)の躁病に対する臨床効果

著者: 森温理 ,   三浦貞則 ,   上島国利 ,   伊藤斉 ,   野口拓郎 ,   長谷川和夫 ,   金野滋

ページ範囲:P.445 - P.453

 抄録 躁病37例にSultoprideを使用し,その臨床的効果を検討した。
 使用量は150〜1,200mg/日(多くは300〜600mg/日)で,中等度改善以上を示したものは1週目48.6%,2週目70.3%,4週目86.5%,6週目78.4%,8週目75.7%であった。症状別では爽快気分,刺激性,精神運動興奮,思考奔逸をはじめとする躁症状に速やかに効果がみられた。
 副作用としては錐体外路症状が比較的多くみられ,そのほか過剰鎮静,傾眠,うつ転などが認め認められた。臨床検査値には特別な変化はみられなかった。有用度ではかなり有用以上75.7%で本剤の使用価値は十分に認められた。
 以上の結果から,本剤は躁病に対する治療薬として炭酸リチウム,chlorpromazine,haloperidolとならんで有用なものと思われる。

抗てんかん薬服用者のカルシウム代謝異常—第2報 骨放射線学的検索と活性型ビタミンD3による治療

著者: 五十嵐良雄 ,   西村克己 ,   皆川正男 ,   倉田みどり ,   田口勝彦 ,   宮前達也 ,   野口拓郎

ページ範囲:P.455 - P.463

 抄録 抗てんかん薬によるカルシウム(Ca)代謝異常によって骨欧化症を主とする骨病変を生ずることが報告されている。われわれは第1報として抗てんかん薬服用患者226例における主として血清酵素からみたCa代謝異常について報告したが,本報では226例の中より血清Ca,P,Ca×Pが226例の平均値1×S. D. 以下の症例62例について手部骨X-Pよりマイクロデンシトメトリー(MD)法を用いた解析を行い,活性型ビタミンD3(1α-D3)投与前および投与後24カ月目までの骨の変化を追跡した。その結果,62例全例ては骨祖鬆症を表わすMD法指標には変化は認めなかったが,骨軟化症を表わす指標は1a-D3投与後には有意な改善を示した。また,抗てんかん薬の服用期間と開始年齢によってそれぞれ3群に分け,解析を行った結果,服用期間10未満の群で1α-D3の治療的効果が最も良く発揮され,また,服用開始年齢20歳未満とりわけ10年齢未満の群では骨病変がより強いことが判明した。

資料

一単科精神病院の新来患者統計—1961,1971,1981年の比較

著者: 小林宏 ,   中川実 ,   菅純子 ,   安立真一 ,   岩瀬正次 ,   川島富久子 ,   川島保之助

ページ範囲:P.465 - P.471

 抄録 わが国の精神医療において民間病院の果たす比重は大きい。その民間病院で外来がどのように変ってきているのであろうか。一民間単科精神病院の外来新来患者を1961,1971,1981年の3時点で調査し比較検討した。
 新来患者総数は50O名前後で3時点で大差ない。したがって外来患者数の増加は再来患者数の増加によるものである。
 診療圏は漸次狭小化し,地域病院化の傾向にある。その経過中,周辺域だけで増加する時期があった。年齢的には高齢化傾向があり特に40代,50代,70代,80代の増加がみられる。疾患別では分裂病の減少,躁うつ病及び老年痴呆の増加がみられる。
 初診即日入院率及び全期間を通じての入院率の低下傾向がみられる。
 その他神経症,分裂病患者の通院状況及び調査対象新来患者のうち現在の在院者数などを調査した

紹介

ピネル神話の形成—2枚の絵をめぐって

著者: 菅原道哉 ,   池田商洋 ,   奥平謙一 ,   酒井正雄

ページ範囲:P.473 - P.478

 抄録 フィリップ・ピネルが狂者を鎖から解放したことをもって,近代精神医学が始まったとされている。しかし,その場所,日時となると曖昧である。
 1880年代後半より,ドイツ,フランスでピネルの業績について疑問が提示され始めた。ピネルの息子シピオン・ピネルのフランスアカデミーでの講演およびその講演録がピネル神話のもとになっているらしい。
 グラディ・スウェインの近著『狂気の問題—精神医学の誕生』は解放の場面を画いた2枚の絵を中心にして,ピネル神話が形成されてゆく過程を考証している。
 スウェィンの著作の紹介を主柱にして,ピルネ神話形成について述べた。鎖からの解放が自由,平等,博愛の旗印のもとで成されたことは事実であろうが,その日時,その場所その主人公はいずれもが時代背景の中で創られてきたものであることを述べた。

短報

側頭部てんかん性発作波焦点側の移動性と定常性

著者: 亀山知道 ,   斎藤治 ,   増井寛治 ,   安西信雄 ,   丹羽真一 ,   土井永史

ページ範囲:P.479 - P.482

1.はじめに
 前側頭部に焦点性異常波を持つ精神運動発作の患者はその他の焦点性異常波を持つ患者より精神症状の出現率が高いというGibbs(1951)3)の報告以来,側頭葉てんかんと精神症状の関連についての多くの研究がなされている(Slaterら,19639);Flor-Henry,19692);Bruens,19711);Kristensenら,19785))。
 側頭葉てんかんの発作波焦点側と精神症状の関連について,Flor-Henry(1969)2)は,分裂病様症状を呈する例では左側頭部に発作波焦点を示す者が多く,うつ病様症状を呈する例では右側頭部に発作波焦点を示す者が多いと述べている。これに対して,Kristcnsenら(1978)5)は,分裂病様症状を呈する例は焦点が両側性であったり,側頭葉内側下面に及んでいるなど重症度の強い例が多く,左側に焦点を示す例が多いとはいえなかっ大と述べている。
 以上の議論に共通する考えは,側頭葉てんかんが精神症状の発現になんらかのかたちで病因的に関与しているというものであり,現在ではこうした議論から発展して,分裂病様症状を示す側頭葉てんかんを分裂病自身のモデルとしたり(Stevens,1973)10),分裂病の大脳半球機能の異常が論じられたり(Gruzelierら,1976)4)するようになっている。たしかに,側頭葉てんかんは分裂病に比べて,その病態生理に関する理解が進んでいるように思われ,分裂病様症状を示す側頭葉てんかんの研究は,分裂病の本態を解明するための一つの手がかりとして重要であると考えられる。
 ところで,発作波焦点側と精神症状の関連を検討する際の問題点として,発作波焦点側の移動性の問題があげられよう。われわれの臨床経験では,側頭葉てんかん患者の発作波焦点側は必ずしも一定ではなく,時によって左右に移動することがある。しかし,これまでには主に小児を対象として発作波焦点部位の移動を追跡した報告7,8,11)はあるが,成人を対象として,発作波焦点側が経過中にどのように移動するかを追跡した報告はほとんどない。したがって,側頭葉てんかんの発作波焦点側についての基礎的資料を整えることは,側頭葉てんかん自身の研究のうえでも,また,それを手がかりとした分裂病研究の上でも重要であると考えられる。
 そこで,本研究では,側頭部に発作波焦点をもつてんかん患者の発作波焦点側がどのような分布を示すか,発作波焦点が経過中にどのように移動するかあるいはどの程度定常であるかを,主に成人患者について検討した。

Maprotilineによりせん妄状態を呈したdepressive pseudodementiaの1例

著者: 数川悟 ,   細川邦仁 ,   遠藤正臣

ページ範囲:P.483 - P.486

1.はじめに
 三環系抗うつ剤によってせん妄が生ずることはよく知られ,その出現は投与患者の8%といわれる一方,40歳以上では15%に上るとの報告9)もある。その発現機序は十分明らかではないが,多くは抗コリン作用に原因が求められ,他の抗コリン性薬剤や植物アルカロイドによる急性中毒などと合せて,central anticholinergic syndrome(CAS)と包括されることもある5)。ところで,近年登場の四環系抗うつ剤は抗コリン作用やそれによる副作用も少ないとされているが,四環系抗うつ剤maprotiline(MAP)投与によりせん妄を呈した1例を経験したので報告する。

血清CPKが異常高値を示した心因性もうろう状態の1例

著者: 児玉和彦 ,   中邑義継

ページ範囲:P.487 - P.489

1.はじめに
 急性精神病において,血清CPKが上昇することがよく報告されているが,今回われわれは,血清CPKが異常高値を示した心因性もうろう状態の1例を経験したので報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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