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巻頭言
精神医学と分子生物学
著者: 石井毅1
所属機関: 1東京都精神医学総合研究所
ページ範囲:P.374 - P.375
文献購入ページに移動 先日,ハーバード大学とマクリーン病院のlecture,“New Psychiatry”というテープを聴いた。New Psychiatryというので,どんな内容かと思ったが,全くの生物学的精神医学の講義である。精神障害の分類にはDSM-IIIが紹介されている。御存知のように,これはnewではあるが,かつて私たちが30年も前に読んだクルト・シュナイダーの考え方やクレッチマーの多元診断の思想が色濃く取入れられている。とくに内因精神病の分裂病と躁うつ病の診断基準では長期経過,治療に対する反応,および家族歴が重視されている。私がショックをうけたのは,分裂病と躁うつ病の区別には症状よりも経過と家族歴が重視されていることである。とくに,いわゆる予後のよい分裂病状態に対しては,家族歴を調べると躁うつ病の患者が多い,それゆえ躁うつ病に入れるべきだというのである。急性期にみられる幻覚,妄想,連想弛緩や滅裂思考,緊張病症候群などは,必ずしも分裂病症状とみるべきでないという。すなわち,躁うつ病の症状と解釈していいという。これでは躁うつ病の範囲は非常に広くなってしまう。私が言いたいのは,アメリカ精神医学が,症候論よりも遺伝的背景を重視するその態度である。このlectureだけでアメリカ精神医学を云々するのは早計かも知れないが,講義の内容は遺伝学,神経化学,神経精神薬理,生物学,解剖学などで,Nautaの解剖学はとくに素晴らしかった。要するに“New Psychiatry”は極端た生物学的精神医学だと思った。
かつて,終戦後の一時期,アメリカの精神分析的な精神医学が酒々と流れこんだことがある。カレン・ホーナイ女史の講演を聞きに行って,勝手違いの内容に眼を白黒させながら帰路についたときの,とまどいの気持を今も忘れられない。当時,松沢病院では電撃療法やインシュリン療法が盛んに行なおれ,ロボトミーも全盛の頃であった。内村先生も最終講義で,精神分析的精神医学を批判されたと記憶している。あの頃のアメリカ精神医学の考え方と,今日の極端な生物学主義の間に何があったのか,私はその振幅の激しさに驚いている。
かつて,終戦後の一時期,アメリカの精神分析的な精神医学が酒々と流れこんだことがある。カレン・ホーナイ女史の講演を聞きに行って,勝手違いの内容に眼を白黒させながら帰路についたときの,とまどいの気持を今も忘れられない。当時,松沢病院では電撃療法やインシュリン療法が盛んに行なおれ,ロボトミーも全盛の頃であった。内村先生も最終講義で,精神分析的精神医学を批判されたと記憶している。あの頃のアメリカ精神医学の考え方と,今日の極端な生物学主義の間に何があったのか,私はその振幅の激しさに驚いている。
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