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文献詳細

雑誌文献

精神医学27巻4号

1985年04月発行

文献概要

短報

側頭部てんかん性発作波焦点側の移動性と定常性

著者: 亀山知道1 斎藤治1 増井寛治1 安西信雄1 丹羽真一1 土井永史2

所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室 2都立松沢病院

ページ範囲:P.479 - P.482

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1.はじめに
 前側頭部に焦点性異常波を持つ精神運動発作の患者はその他の焦点性異常波を持つ患者より精神症状の出現率が高いというGibbs(1951)3)の報告以来,側頭葉てんかんと精神症状の関連についての多くの研究がなされている(Slaterら,19639);Flor-Henry,19692);Bruens,19711);Kristensenら,19785))。
 側頭葉てんかんの発作波焦点側と精神症状の関連について,Flor-Henry(1969)2)は,分裂病様症状を呈する例では左側頭部に発作波焦点を示す者が多く,うつ病様症状を呈する例では右側頭部に発作波焦点を示す者が多いと述べている。これに対して,Kristcnsenら(1978)5)は,分裂病様症状を呈する例は焦点が両側性であったり,側頭葉内側下面に及んでいるなど重症度の強い例が多く,左側に焦点を示す例が多いとはいえなかっ大と述べている。
 以上の議論に共通する考えは,側頭葉てんかんが精神症状の発現になんらかのかたちで病因的に関与しているというものであり,現在ではこうした議論から発展して,分裂病様症状を示す側頭葉てんかんを分裂病自身のモデルとしたり(Stevens,1973)10),分裂病の大脳半球機能の異常が論じられたり(Gruzelierら,1976)4)するようになっている。たしかに,側頭葉てんかんは分裂病に比べて,その病態生理に関する理解が進んでいるように思われ,分裂病様症状を示す側頭葉てんかんの研究は,分裂病の本態を解明するための一つの手がかりとして重要であると考えられる。
 ところで,発作波焦点側と精神症状の関連を検討する際の問題点として,発作波焦点側の移動性の問題があげられよう。われわれの臨床経験では,側頭葉てんかん患者の発作波焦点側は必ずしも一定ではなく,時によって左右に移動することがある。しかし,これまでには主に小児を対象として発作波焦点部位の移動を追跡した報告7,8,11)はあるが,成人を対象として,発作波焦点側が経過中にどのように移動するかを追跡した報告はほとんどない。したがって,側頭葉てんかんの発作波焦点側についての基礎的資料を整えることは,側頭葉てんかん自身の研究のうえでも,また,それを手がかりとした分裂病研究の上でも重要であると考えられる。
 そこで,本研究では,側頭部に発作波焦点をもつてんかん患者の発作波焦点側がどのような分布を示すか,発作波焦点が経過中にどのように移動するかあるいはどの程度定常であるかを,主に成人患者について検討した。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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