icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

精神医学27巻5号

1985年05月発行

雑誌目次

巻頭言

大脳半球機能差と言語習得

著者: 遠藤正臣

ページ範囲:P.496 - P.497

 人間の脳の両半球がそれぞれ独自の機能を担っていることは,すでにBrocaの時代からいわれていたことであり,新しいことではない。しかしこれらでは脳の損傷による機能脱落から,脱落した機能が本来その脳に保持されていただろうと推測されたのであるが,損傷のない脳で直接的に機能の存在を検討しようということが行われるようになり人々の注意をひきはじめたのは,ここ20年ぐらいのことである。この種の研究の推進力となったのは,左右の大脳半球を分離する手術をうけた分離脳(split-brain)患者での研究である。この種の患者を用いての一連の研究からSperryに1981年のノーベル賞が授与されたのであるが,この大脳半球機能差(ラテラリティともいう)への世の人々の関心がたかまり,専門書以外にもこのラテラリティを論じたものが多くみられるようになった。しかしこれらのものの中には,これまでの科学的実験の積み重ねの上に得られた知見から遠ざかり,過度に類推的な方向に流れているものがある。「右半球は直観的思考・東洋的思考・創造性に関係し,左半球は合理的思考・西洋的思考・論理性に関与している」などがその1例であるが,うがちすぎた想像的記述であるといわねばならない。
 Sperryらは主として認知や言語活動とラテラリティとの問題を取り上げたが,最近は精神病とラテラリティの関係も研究されるようになり,着実な成果をあげつつあり,そのための国際シンポジウムCerebral Dynamics,Laterality and Psychopathologyが明年秋,日本で開催される予定である。この分野について詳しく述べるのに適当な方が他におられると思うので触れず,ここでは言語学習とラテラリティとの関係について私どもの得た知見をまじえて述べよう。

特集 精神分裂病の成因と治療—東京都精神医学総合研究所 第12回シンポジウムから

序論

著者: 稲永和豊

ページ範囲:P.498 - P.498

 本特集は東京都精神医学総合研究所が創立10周年を記念して行なった第12回精神研シンポジウム「精神分裂病の成因と治療―その生物学的アプローチ」の講演を集めたものである。昭和58年11月5日にこのシンポジウムが行なわれてからすでに1年半近く経過しており,その間においても分裂病に関する新らしい知見が次々と報告されており,報告者としてもどの時点においての知見に限るかということに困難を覚えられたのではないかと思う。融道男氏は「分裂病脳における神経伝達の異常」と題して1980年以来手がけられた分裂病および対照の死後脳についてドーパミン,ホモバニリン酸,チロシン水酸化酵素,D2受容体,グルタミン酸ニューロンの検索を行なった結果を述べた。
 対象とした分裂病脳は10例で,前頭前野,大脳基底核,視床脳幹諸核の分析が行なわれた。ドーパミンでは尾状核,被殻,側坐核では対照群との間に有意差はなくむしろ低い位であり,黒質,赤核,視床下核でも有意差はなかった。ホモバニリン酸は被穀と黒質で有意に分裂病群の値が高く,また服薬群の方が特に高かった。チロシン水酸化酵素は尾状核,被殻,黒質,赤核,視床下核など,すべての部位で分裂病群の値が有意に高かった。D2受容体については被殻では特に差を認めず,グルタミン酸ニューロンについては内側前頭皮質,眼球運動領野の,3H-カイニン酸受容体の増加,この値とグルタミン酸値との負の相関,チロシン水酸化酵素との正の相関を認め,グルタミン酸ニューロンの活動低下が推定された。山本健一氏は「分裂病モデルとしての6-Hydroxydopamine投与動物」と題した報告を行なった。6-Hydroxydopamine(6-OHDA)はカテコールアミンニューロンの選択的神経毒であり,その神経終末を変性死滅させるためにしばしば用いられている。6-OHDAの脳室内投与によっておこる動物の異常行動また猫での皮膚電気反応の観察から,6-OHDA投与動物が,分裂病研究のための一つの動物モデルと考えられている。さらに皮膚電気反応の変化は,DA系ではなくNA系によって発生するものであり,それらの事実から分裂病の基本障害はDA系よりもむしろNA系によって説明し得るという見解が述べられた。伊藤斉氏は「分裂病の薬物療法―現状と検討」と題して先ずわが国における薬物療法の現状として外国に比して抗精神病薬の多剤併用の傾向が明らかなこと,さらに抗パーキンソン薬,抗不安薬,抗うつ薬,睡眠薬の併用が高率でpolypharmacyの傾向が欧米より顕著であることが指摘された。次いで抗精神病薬の薬物動態と臨床効果,副作用との関連,現在の抗精神病薬のより合理的な治療的応用の可能性,難治例についての検討,分裂病の薬物療法をさらに一歩前進させるための新らしい薬物の出現に対する期待,現在の抗精神病薬についての長期使用に伴う有害作用,特に遅発性ジスキネジアの問題が述べられた。諸治隆嗣氏は「神経ペプチドによる慢性分裂病の治療」と題して,コレチストキニン(CCK-8)による治療効果について述べた。Hökfeltらによると中脳-辺縁DAニューロンにDAとともにCCK様ペプチドが共存していて,DAの放出がCCK-8によって抑制されることが見出されている。そのことから分裂病の病囚の一つとしてDAとCCK様ペプチドの不均衡が考えられるようになったのである。その後世界各地で検討されているが,その有用性の評価は一致していない。しかしながら分裂病の病因論にかかわるトピックスとして今後の検討が期待されている。

分裂病脳における神経伝達の異常

著者: 融道男

ページ範囲:P.499 - P.509

I.はじめに
 精神分裂病,とくに慢性分裂病の治療法を見出すことは,現在の精神医学の最大の課題である。慢性分裂病の特徴について精神病理学的,精神生理学的にいくつかの知見が得られているが,神経生化学的にはほとんど研究されていないといってよい。
 われわれは分裂病死後脳について生化学的分析を続けているが,得られた所見のなかにいわゆるドーパミン過剰仮説を支持するデータ以外に,グルタミン酸,サブスタンスP,メチオニンエンケファリンの異常が見出された。われわれの対象とした症例はほとんどが慢性例であるので,これらの所見のなかに慢性病像に特有なものが含まれていると考えている。慢性分裂病脳における神経伝達の異常について明らかにすることは,その治療法を開発する一つのいとぐちになるものと思われる。

分裂病モデルとしての6-hydroxydopamine投与動物

著者: 山本健一

ページ範囲:P.511 - P.520

I.序
 戦後の日本を見舞った人類初の覚醒剤の大流行の中で,松沢病院の臺らは,覚醒剤中毒と分裂病の類似性に着眼し,これを分裂病の生物学的研究の足がかりとした1)。その後の研究結果,覚醒剤はcatecholamine(CA)の放出促進物質であり2),その誘発する異常行動の多くはCAの合成阻害剤であるα-methylparatyrosineの投与で抑えられることが分ってきた3)。分裂病や覚醒剤中毒に効く神経安定薬の作用機序も,promethazine(phenothiazine系薬物だが抗分裂病作用がない)の薬理作用との比較などから,やはりCA系を介することが確からしくなってきている4)
 これらの根拠から,分裂病症状の発現機序として,脳内CA系の異常が強く疑われているのは周知のとおりである5)。もしこのCA異常説が正しいとすれば,CA系にもっと特異的に作用する他の薬物によっても,分裂病症状の少なくとも一部は,再現できるはずである。ここで述べる6-hydroxydopamine(6-OHDA)は,その構造上の類似性の故に,CAニューロンに選択的に取り込まれ,その神経終末を変性脱落させるとともに6),その代償としてシナプス後膜の除神経過敏を引き起こす物質である7)。6-OHDAと分裂病研究の関係には,次のような経緯がある。

分裂病の薬物療法—現状と問題点について

著者: 伊藤斉

ページ範囲:P.521 - P.530

I.はじめに
 分裂病の薬物療法は数多くの抗精神病薬の開発と臨床応用により道が拓かれたことは周知のとおりであるが,その後は多くの期待に反し,この疾患を制圧するまでに至らず,難治例,慢性移行例がなお多数存在している現状である。
 近年分裂病の生物学的側面に関する研究が行われた結果,いくつかの,疾患の発症機序を示唆する現象が認められ,また仮説が生まれたが,治療薬である抗精神病薬の開発の経過は当初はこれらの事象に準拠して進められてきたものではなくて,試行錯誤と経験的実証を繰り返しながら治療薬としての応用が認められてきたものである。
 インドの治療薬rauwolna serpentinaからreserpineが,抗ヒスタミン薬のpromethazineからchlorpromazineが,臨床経験,化学構造から着想された抗精神病薬療法の夜明けより,動物の行動薬理プロフィール,たとえばラット抗アポモルフィン作用,抗アンフエタミン作用,カタレプシー作用その他から既存の抗精神病薬と比較して臨床効果を類推する方法が採られて多くのphenothiazines,butyrophenonesその他の化合物が治療薬として開発された。
 抗精神病薬がドーパミン受容体を遮断することが一方では抗精神病作用を生じ,また他方では錐体外路症状を起こすという考え方がなされるに至り,これがまた分裂病のドーパミン活動過剰仮説の傍証になるかというように考えられ始めて久しいが,最近また分裂病の成因に関する神経伝達異常仮説としてドーパミン以外の物質の介入が論じられており,抗精神病薬の作用機序も単一なものでないとして,後述のごとく各抗精神病薬をそれぞれ抗ドーパミン,抗ノルアドレナリン,抗セロトニン作用その他の強さの相違から区別して,分裂病の症状群をドーパミン性(幻覚,妄想,思路障害,常同症),ノルアドレナリン性(不安,焦燥,妄想気分,運動興奮)およびセロトニン性(自閉,接触性障害,感情,意欲鈍麻)に分けてそれぞれに適応する薬物の選択をするという考え方もなされている23,24)。しかし分裂病の薬物療法の現状を知るにはまず,現在の使用状況の実態にふれてみる必要があろう。

精神分裂病の成因と治療—新しい治療法について

著者: 諸治隆嗣

ページ範囲:P.531 - P.544

I.はじめに
 複雑な脳機能の基本現象であるニューロン間の情報伝達はニューロンの神経終末nerve terminalから放出される神経伝達物質neurotransmitterと呼ばれる化学物質を介して行われているという考えが,現在,一般に広く支持されている。1960年代までに同定された神経伝達物質はアセチルコリン,ノルエピネフリン(NE),ドーパミン(DA),セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン,5-HT),γ-アミノ酪酸(GABA)にすぎない。その後,グリタミン酸,アスパラギン酸,グリシンなどのアミノ酸もまた神経伝達物質と見做されるようになっている。そして,これまでに同定された比較的限られた神経伝達物質の中枢作用によって,高次の中枢神経系の機能である精神現象までもがある程度まで説明が可能ではないかと考えられるようになっていた。
 ところが,放射免疫測定法radioimmunoassayや免疫細胞化学的技法immunocytochemistryの発達によって,最近,いろいろなペプチドpeptidesが脳内に存在していることが分り,しかも,比較的短期間のうちにその多くが神経伝達物質あるいは神経修飾物質neuromodulatorとしてニューロン間の情報伝達に深く関わっていることを示唆する証拠が集積されてきていることから,これらのペプチドは神経ペプチドneuropeptidesと呼ばれている。現在,脳での存在が立証されているペプチドは優に30種類を超えており,そのうちの20数種類がすでに神経伝達物質あるいはその候補物質と考えられている(表1)29)

研究と報告

分裂病者に対する家族史的家族療法の試み

著者: 長谷川憲一 ,   伊勢田堯 ,   井上新平 ,   中下美木夫 ,   近藤智恵子

ページ範囲:P.545 - P.552

 抄録 筆者らのいう「家族史的家族療法」を試みた1例を報告する。患者は26歳男子破爪型分裂病者で老舗の長男であった。「一流」大学への進学にこだわり続けるため生活に進展がみられず,種々の薬物療法や生活臨床的働きかけも効果がなく,発症から10年を経て慢性化していた。筆者らは数世代にわたる家族史を聴取した結果,患者が「一流」大学にこだわるのは祖母の分家優先の家族運営に対抗する意味を持っているものと分析した。「一流」大学進学が困難となった段階では,本家と分家に分裂した家を再統一すれば祖母に対抗する必要もなくなるのではないかと判断し,家族とともに再統一の努力をした。その結果,患者は店の跡継ぎとして積極的になり,病状も劇的に改善した。
 従来の生活臨床的手法で難治の症例に対して「家族史的家族療法」は,新たな治療の展開の可能性を示唆しているのではないかと考えた。

精神科医師国家試験への提言

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.553 - P.560

 抄録 昭和60年版医師国家試験出題基準,精神科の内容を検討した結果,大概妥当であると考えられるが,なお,次の3点を提言したい。
 1)項目数は不足しており,中項目,小項目の合計を1,000とする。2)小項目まで具体的かつ明確に記載する。3)出題範囲を拡大し新しい分野をとり入れる。
 この3つの提言に基づいて,第74回(昭和57年秋),第77回(昭和59年春)の精神科国試問題の内容を,専門用語数(T),意味明確性(C),進歩内容(P)の3要素について分析した。その結果,問題を構成する専門用語数が少なすぎ,現在の出題様式の範囲内でもかなり改善できること,明確性と出題レベルに問題あるものは30%に上り,それには3つの型があることがわかったが,第77回のほうが内容の向上とくに新しい分野の採用で進歩があることがわかった。にもかかわらず,受験生の精神科得点が低すぎるのは,出題側よりもむしろ教育側に問題が多いのではないかと推論した。

二重盲検法によるzopicloneとnitrazepamの不眠症に対する薬効比較

著者: 森温理 ,   井上令一 ,   金子嗣郎 ,   風祭元 ,   菅野道 ,   小島卓也 ,   諏訪克行 ,   高橋三郎 ,   鳥居方策 ,   内藤明彦 ,   難波益之 ,   野口拓郎 ,   長谷川和夫 ,   村崎光邦 ,   山口成良 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.561 - P.572

 抄録 新睡眠薬zopicloneの有効性ならびに安全性をnitrazepamを対照薬とした二重盲検比較試験によって検討した。
 対象は神経症,うつ病,精神分裂病などで睡眠障害を示す280例で,使用薬剤はzopiclone 10mg錠,nitrazepam 5mgおよび10mg錠の三種類で,使用期間は1週間とした。
 最終全般改善度は中等度以上改善がzopiclone 44.0%,nitrazepam 5mg 47.9%,10mg 39.1%で三薬剤間に有意差は認められなかった。概括安全度,有用度についても同様三薬剤間に有意差はみられなかった。
 副作用の出現率はそれぞれ25.3%,21.9%,25.0%で差はみられなかったが,zopicloneではにがみが,nitrazepam 10mgでは倦怠感が他群よりやや多くみられた。
 睡眠の各parameterに対する効果についても三薬剤間に有意差のみられたものはなかった。
 以上からzopiclone 10mgはnitrazepam 5mgないし10mgとほぼ同等の有効性,安全性をもち臨床的に有用な薬物といえる。

老年期の器質性疾患における精神症状に対するTiaprideの効果—二重盲検法によるChlorpromazineとの比較

著者: 清水信 ,   長谷川和夫 ,   西村健 ,   大森健一 ,   石野博志 ,   山田通夫

ページ範囲:P.573 - P.582

 抄録 Benzamide系の向精神薬tiaprideの老年期器質性精神病に伴う問題行動感情障害などに対する臨床的有用性を明らかにするため,chlorpromazineを対照薬として二重盲検比較試験を実施した。対象はtiapride群82例およびchlorpromazine群82例であった。
 その結果,全般改善度でtiaprideはchlorpromazineより有意に優れ,またtiaprideの効果発現はchlorpromazineより有意に速かった。症状別でもtiaprideは攻撃的行為,焦燥感をはじめ,感情障害に対してchlorpromazineより有意に優れていた。概括安全度では両剤間に差は認められなかったが,副作用の種類別の比較では覚度の低下がchlorpromazine群よりtiapride群で有意に少なく,またねむけ,口渇もtiapride群で少ない傾向にあった。
 今回の成績から,tiaprideが従来本領域で用いられているchlorpromazineより優れていることが証明された。

短報

フラッシュバック現象を呈したマリファナ使用者の1症例

著者: 渡辺登

ページ範囲:P.583 - P.585

I.はじめに
 フラッシュバック現象(fiashback phenomenon)は履歴現象や逆耐性現象,燃えあがり現象などの近縁現象とともに,精神分裂病や躁うつ病,てんかん等の精神障害の発現および再発機序を解明するうえで極めて注目されている。このフラッシュバック現象はLSD(lysergic acid diethylamide)やそれと類似の幻覚剤1,5,12),マリファナ(marihuana)3,7,18)などの使用者に主として認められる精神現象である。しかし,わが国ではそれら薬剤の法的規制が厳しいこともあり,覚醒剤やシンナーなどの有機溶剤9,10)による臨床報告例のみであった。
 われわれは先に長期間大量のマリファナを喫煙し,無動機症状群(amotivational syndrome)と急性挿間性錯乱状態を呈した1症例を報告15)し,さらに治療法がないとされている無動機症状群にペプチド性神経伝達物質コレチストキニンの類似物質であるセルレイン(caerulein)を投与し症状の改善をみた16)。ところが,その後マリファナ非喫煙にもかかわらず,約8カ月間の無症状期を経て以前と著しく類似した精神症状が再現した。そこで,本症例の経過を報告し,その現象についてフラッシュバック現象との関連から検討したい。

急性Diphenylhydantoin中毒の2例

著者: 渡辺健次郎 ,   首藤謙二 ,   森山茂 ,   荒尾一正 ,   大山繁

ページ範囲:P.587 - P.589

I.はじめに
 われわれは,臨床的に急性diphenylhydantoin(以下DPH)中毒の2例について臨床症状,血中濃度,脳波所見を経時的に観察した。そこで,自験2例の臨床経過,血中濃度と脳波像の推移を報告し,若干の考察を加えたい。

精神分裂病における半球機能および半球間連絡機能障害—立体認知課題による神経心理学的検討

著者: 丹野義彦 ,   町山幸輝

ページ範囲:P.591 - P.594

I.はじめに
 精神分裂病患者の示す認知障害の原因としては,従来注意障害説が重視されていたが,最近になって左大脳半球機能障害説や左右半球間連絡機能障害説が注目されている2,9)。これらの仮説は患者にみられる種々の認知障害の成因を考えるうえできわめて魅力的である。
 われわれはこれまで,受動的触覚性のきめ弁別課題12)および自己受容感覚性の重量弁別課題13)を用い,患者の左手,右手の弁別成績を比較することにより左半球機能障害説を,さらに患者の左右の片手と両手の弁別成績を比較することにより半球間連絡機能障害説を検討してきたが,上述の仮説を支持する結果は得られなかった。しかし,これらの結果は,触覚および自己受容感覚に関しては,片手の情報が必ずしも完全に反対側の半球のみに入力されないためである可能性がある。したがって,これらの仮説に関して確実な結論をうるためには,一側の感覚情報がほぼ完全に対側半球のみに入力されると考えられている能動的触覚性などの課題を用いる必要がある。
 これまで能動的触覚についてはGreen5)やCarr3)が立体認知課題を用いて,分裂病患者における左右半球間連絡機能障害を示唆する所見を報告している。しかしこれらの研究は成績に関する資料の記載が十分ではない。そこで今回われわれは,彼らの実験条件を含むような比較的多くの実験条件を設定し,結果の再現性および一貫性の点から上述の仮説を検討することにした。

分娩を契機に発症したrestless legs syndromeのクロナゼパムによる治療

著者: 堀口淳

ページ範囲:P.595 - P.596

I.はじめに
 Restless legs syndromeは,主に下肢に出現する異常感覚で,夜間入眠期に出現し,しばしば下肢筋群のミオクローヌスを伴い,両下肢の独特のむずがゆさのために睡眠障害を来すことが多い。筆者は,第2子分娩約1カ月前からrestless legssyndromeが出現し,分娩後も約1年半の間症状が継続し,第3子出産時には悪化することなく自然軽快していたが,約26年後再燃し,クロナゼパムの少量投与が著効を示した患者を経験した。本邦における本症候群に関する文献は非常に少なく,さらに妊婦に出現したという報告も世界で1症例のみであり,貴重な症例と考え報告した。

追悼

遠藤正臣教授の急逝を悼む

著者: 山口成良

ページ範囲:P.598 - P.599

 昭和60年3月5日夜,遠藤正臣先生が急逝された。その計報に接した時,われとわが耳を疑ったものである。享年53歳,まだ春秋に富むお年であられた。残念でならない。
 遠藤先生は昭和30年3月金沢大学医学部を卒業し,インターン修了後,32年4月金沢大学大学院医学研究科に入学され,当時秋元波留夫先生が主宰しておられた神経精神医学教室に入局。根岸晃六先生(現金沢大学教授),島居方策先生(現金沢医科大学教授)とともに,微小電極法によるネコの大脳皮質体知覚領の研究1)に着手され,36年3月大学院を修了,医学博士号を授与された。その後,金沢大学助手として教育・研究・診療にたずさわれた。39年10月日伊交換留学生試験に合格され,イタリアのパルマ大学のArduini教授のもとへ留学され,ネコの視覚領の細胞放電様態を研究された。帰国後は神経科精神科医局長,講師を経て,一時石川県立高松病院副院長として公立精神病院の診療の実際にも触れられた。46年4月新設の金沢大学医学部附属神経情報研究施設の助教授となり,47年8月から1年間西ドイツのアレキサンダ・フォン・フンボルト財団奨学研究員としてウルム大学神経科Kornhuber教授のもとへ留学され,発声時の準備電位の研究をして来られた。48年10月から神経精神医学講座の助教授となり,53年4月から新設の富山医科薬科大学医学部神経精神医学教室の主任教授に就任され,新しい教室作りに着手され,学生の教育,診療はもとより,教室員の育成にも力を尽された。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?