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文献詳細

雑誌文献

精神医学27巻6号

1985年06月発行

文献概要

特集 前頭葉の神経心理学

前頭葉と精神医学

著者: 大橋博司1

所属機関: 1国立京都病院

ページ範囲:P.705 - P.707

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I.はじめに
 本シンポジウムのまとめの意味で筆者には「前頭葉と精神医学」のタイトルが与えられたが,論述が大東論文あたりと多かれ少なかれ重複し,蛇足を加える結果になったことをまずお許しいただきたい。
 まず精神医学Psychiatrieなる術語が登場したのはReil u. Hoffbauer(1808)の著書とされている。筆者は最近Wienの国立図書館において本書を親しく閲覧する機会をもったが,ReilはここでPsychiaterieという綴り方をしている。彼はPsychiaterieを医学の一分科としてその独自性を確立したのであるが,この書物を紹介するのは別の機会にゆずるとして,前頭葉に一定の精神機能をわりあてようとした最初の試みは,たまたま精神医学の語の出現と時を同じくしていわゆる骨相学Phrenologieの創始者として知られるFr. J. Gallにまで遡行できるであろう。彼は人間の精神機能を27の基本能力に分け,さらにこれを3群にまとめた。
 第1群(第1〜第10)の能力は人間と脊椎動物に共通のもので,大脳皮質後半部と下脳皮質に,第2群1(第11〜第19)は人間と高等動物にしか見られない能力で前脳葉下半部に,第3群(第20〜第27)は人間固有のもので,前脳上半部に定位された。
 Gallの大脳局在論は現代の眼から見ればかなり奇妙なもので,擬似科学との批判がある反面,「本質的には誤っていたが,科学的思想を進展せしめるには十分に正しい理論の1例」とも評されている。事実,彼の思想はBouillauxを通じてP. Brocaに継承され,初期の失語論形成に少なからぬ役割を演じた。
 さて言語障害の記載は別として,前頭葉損傷による高次精神機能障害の最初といってよい記載は,大東も挙げているように,Harlow(1845,1868)の症例ゲイジであろう。この症例は重篤な前頭葉損傷の後,運動-感覚機能には著変を来さなかったが,著しい性格変化を残し,「もとのゲイジではなくなった」という友人たちの証言が印象的である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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