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雑誌目次

雑誌文献

精神医学27巻8号

1985年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学の呼びかけ

著者: 新福尚武

ページ範囲:P.866 - P.867

 最近の巻頭言は格調の高い学術的なものが主となっているようであるが,むかしはどうだったのだろうと調べてみると,必ずしもそうでなく,学会の情勢を反映したようなものが多かったようである。たまたま第10巻第3号の「20年後の精神医療のために」という臺弘(東大教授)論文が目についた。それは20年後,つまり,こんにちの精神医療のためにと,当時問題になっていた精神科診療費公費論や学会認定医の問題などをとりあげ,どちらもその得失を慎重に考えて対応すべきだとしたうえ,個人的見解を付け加えたものである。率直に言って,この真摯な発言がどれだけ読者にアピールしたか,知らないが,その後の状況,経過などからは,ただ波の間にまに消え去ったと見るほかない。それにしても20年の歳月は先を見ると長いようだが,過ぎてしまえば一瞬だなあという感慨をあらたにするのみである(なお,前者はともかく,後者の認定医問題は遠からず必ず重要問題として再浮上してくるに違いないと思うが,今どきこういう問題を持ち出すなど野暮の骨頂だと笑われよう)。
 さて,私は精神科医として50年を無為に過ごし,いま廃兵の列に伍してぼんやり考えたり見回わしたりしているにすぎないが,無為だっただけいっそう痛切に感じ訴えたいこともある。視力が衰え乱視が加わって物の姿が正確にとらえられなくなっているうえ,語い選択能力も障害されているので,適切な文にならない惧れがきわめて多いが,あえて思うままを述べさせてもらいたいと思う。それは精神医療についてではなく,精神医学についてである。

展望

小児自閉症における薬物療法の効用と限界—第1回

著者: 星野仁彦

ページ範囲:P.868 - P.878

 I.はじめに
 近年様々な生物学的研究により,小児自閉症の原因として何らかの脳内の機能的もしくは器質的異常が想定されてきている。これに伴い,かつての心因・環境因説に基づいた治療法である遊戯療法は,自閉症児に対してはおおむね無効であるとされ,最近は,行動療法,薬物療法などの医学的治療が,家庭での療育指導,集団保育,特殊教育治療などと並んで自閉症治療の主体をなしてきている。しかし,自閉症児の薬物療法には薬効評価や安全性の問題をはじめとして種々の問題点があり,また,実際の薬物の使い方に関する一般的指針もなく,このため薬物療法に対して否定的な見解を持つ臨床家も少なくない。しかし,中根52)も指摘するように,薬物療法は対象の選び方や実施方法が適切になされた場合,その他の治療法よりはるかに優れた効果を示すものであり,今後は自閉症児に対する系統的,組織的な薬物療法の研究が望まれる。そこで,本稿では自閉症治療における薬物療法の位置づけ,薬物療法に伴う諸問題,薬物療法の一般的指針,実際に使用されている薬物の効果などについて述べてみたい。

研究と報告

精神科初診時診断の不変性

著者: 高橋三郎 ,   花田耕一

ページ範囲:P.879 - P.887

 1980年10月より1983年9月までの3年間に精神科病棟に入院した全患者289名を一定の方式で面接しDSM-IIIによる診断を行った。診断の分布はDSM-IIIの全分類にわたり偏りの少い対象であった。外来初診時,入院時,退院時各診断間の一致率を調べた。とくに退院時診断に対する外来初診時の診断一致率を精神科診断における妥当性を代表する値と考えたが,その値は大分類(クラス)については73%,細分類(カテゴリー)については41%であった。一致率の高いものは,小児思春期の障害,物質常用障害,精神分裂性障害,感情障害であり,低いものは適応障害,妄想性障害,不安障害などである。精神科の2大疾患ではこの値は80%と高いが,逆にそれは,外来初診時診断で約20%の偽陽性を含むことになる。病型分類は30%台の一致率で問題が多い。診断信頼性係数(K)は全体で,外来初診時—退院時診断間で0.60であった。

熱性けいれんの疫学的遺伝学的研究

著者: 坪井孝幸

ページ範囲:P.889 - P.898

 抄録一定地域居住の全3歳児17,044名をしらべ,熱性けいれんの既往が1,406名(8.2%)に認められた(男児9.0%>女児7.5%,P<0.001)。遺伝負因が34%に認められ,遺伝負因をもつものは8〜16カ月で発症する,外的要因をもつ,熱発の程度が低い,熱性けいれんの反復回数が多い,3歳以後の再発が多いという特徴をもつ。近親者における罹病率は父12.2%,母11.4%,兄弟26.4%,姉妹22.2%(1親等合計16.2%),おじ・おば(2親等)4.0%,いとこ(3親等)4.1%であった。おじ・おば,いとこにこおける罹病率は両親とも罹病のばあい>片親罹病のばあい>両親とも健康のばあいの順となる。同胞の罹病率は母罹病のばあいが父罹病のばあいより高く,おじ・おばおよびいとこにおける罹病率は母方>父方であった。発端者と同胞の症状のうち,初発月齢.外的要因,熱発の程度の類似が示された。熱性けいれんの遺伝形式として,多因子遺伝の可能性が示唆され,遺伝率は75%と推定された。

Anorexia nervosaの死亡例の検討

著者: 高木洲一郎 ,   村田佳應 ,   光宗勝繁 ,   片山義郎 ,   浅井昌弘 ,   保崎秀夫

ページ範囲:P.899 - P.906

 Anorexia nervosaの死亡例5例を報告し,文献的考察を加えた。5例中4例は思春期以外の女性例ないし男性例で,非定型例が多い。発症年齢は平均22.6歳と一般よりやや遅く,受診までの期間も著しく長い。これは病態に対する認識の極端な欠如と治療抵抗性を示唆する。死因は飢餓死2例,低血糖,自殺,不明が各1例である。死亡時体重は20〜27kgでやせは高度である。2例が剖検され,全身諸臓器の萎縮をみとめた。2例が死亡寸前の入院で,早期発見および治療者の適切な対応が必要である。重症例では入院治療によりまず積極的に栄養状態の改善をはかる必要がある。やせの希求自体高じれば一種の自殺行為であり,自殺にも留意すべきである。また本症の一人暮しは危険である。死因について記載のある文献例69例を加えて検討した。飢餓死,代謝障害,循環障害など栄養障害が死因の51%を占める。低血糖や感染症の合併にも留意すべきである。

赤ん坊のいる母親の入院—“面会接触”の試み

著者: 西田博文

ページ範囲:P.907 - P.913

 抄録 産褥性精神障害による入院のさいに必然的に伴う母子分離の問題について,過去関心をもたれることはほとんどなかった。しかし近年,エソロジーの知見などを背景に,母子分離によって生じる母親の側の愛着(アタッチメント)形成障害の重大性が認識されつつある。
 そこで筆者は,入院中の母親に対して,面会を中心にできるだけ乳児との接触を奨励し,母子関係の助成という面でよい結果を得ているので,これを“面会接触”と名づけて報告した。このささやかな試みは,精神科治療のひとつの技法というより,より好ましい母子関係へと向けられた,わたくしたちの関心と援助の総体ともいうべきものである。
 その他に,母子分離や精神病の母親が幼児に与える影響の問題など,“面会接触”の背景をなす,二,三の問題について検討した。さらに近年欧米で試みられるようになった“子連れ入院(conjoint hospitalisation)”を,文献の上で概観した。

分裂病様状態を呈した欠神発作の1例

著者: 宮内利郎 ,   川又潤一郎 ,   大野史郎 ,   藤田春洋 ,   喜多村雄至 ,   松石竹志 ,   横井晋

ページ範囲:P.915 - P.922

 抄録 てんかん患者が呈する分裂病様状態については,従来数多くの報告をみるが,側頭葉てんかんとの関連で論じられていることが多く,欠神発作では,分裂病様状態が長期間続いたという詳細な報告はない。著者らは,外来通院中のてんかん患者479例のうち16例(3.3%)に意識清明な分裂病様状態をみているが,純粋欠神発作は3例にすぎない。ここでは,このうちの比較的長期に経過観察した1例を症例呈示し考察した。
 1)症例は,7歳時発症の欠神発作で,19歳より意識状態に障害のない幻覚・妄想状態が出現。慢性に移行し人格的な崩れがみられる。
 2)本例の臨床経過を詳細に報告すると共にてんかん精神病の病因をParnasの説から考察した。
 3)欠神発作に関して,皮質起源性を主張する報告もみるが,本例は中心脳起源である可能性をポジトロンCTから示した。
 4)本例の治療経過中にみられた小型発作・脳波上の変化につき,薬剤との関連を考察した。

心因性尿閉の3例

著者: 小俣和一郎 ,   福井準之助

ページ範囲:P.923 - P.926

 抄録 泌尿器科学的には器質的病変をみないにもかかわらず持続的な尿閉を来し,それに基づく二次的身体症状を呈するいわゆる心因性尿閉の3症例を記載し,各症例毎に泌尿器科学的諸検査の結果を記述し,次いで精神病理学的考察を加えた。第1例は内因性うつ病に伴う部分的身体症状として尿閉を呈したものと考えられ,4環抗うつ剤を主剤とした薬物療法が有効であった。第2例に認められた尿閉はヒステリー性の転換症状と考えられ,被暗示性の高い性格を利用し自律訓練法を習得させることによって著効をみた。第3例の尿閉は無力型分裂気質者の慢性心身症症状と思われ,治療への動機づけが乏しいことから精神科的治療には長期間を要すると予想された。尿閉という同一の心身症症状を呈する症例にも精神病理学的には種々の病態の関与が考えられることから,いわゆる心因性尿閉を単一の疾患とみることはできず,各々の症例に即した有効な治療方法が選択されるべきものと思われた。

表面筋電図による口部遅発性ジスキネジアの類型化の試み(第2報)—髄液中HVA,5HIAA濃度について

著者: 松永哲夫 ,   大山繁 ,   三笘宏 ,   藤本佳澄 ,   石津棟暎 ,   横田伸治

ページ範囲:P.927 - P.932

 抄録 口部遅発性ジスキネジア(OD)における脳内monoamine代謝の異常の有無を検討する目的で,ODが認められた慢性分裂病患者13例(男3例,女10例,年齢34〜70歳,平均51.9±12.0歳)の髄液中homovanillic acid(HVA),5-hydroxyindolaceticacid(5HIAA)濃度を測定した。OD群の髄液中HVA,5HIAA濃度は,年齢と抗精神病薬量(chlorpromazine換算量)を合致させた対照群と比較した結果,ともに差は認められなかった。
 つぎに表面筋電図でI型(持続性放電)を示した群(N=7)とII型(律動性放電)を示した群(N=6)の2群に分けて比較した結果I型群のHVA濃度はII型群と比べて有意に低かった。しかし同時に,I型群では年齢が有意に高く,抗精神病薬量は有意ではないが少なかった。両群間のHVA濃度の差は,筋電図の型との直接的な関連性よりも,筋電図の型に基づく2つの類型に従属する要因(年齢,抗精神病薬量)の影響によるものと推測した。

分裂病の外来治療におけるデポ(持効性抗精神病薬)の効果

著者: 功刀弘 ,   井出さき子 ,   小泉隆徳 ,   小尾契子 ,   藤井康男 ,   高瀬守一朗 ,   松田源一 ,   遠藤淳 ,   佐々木重雄

ページ範囲:P.933 - P.941

 抄録 本院で1983年内に外来で治療を受けた分裂病患者の総数は908名(1年間入院していた157名を除く)であった。同年末の外来例の社会生活レベルは自立274名,援助による自立は360名,家庭内保護173名,入院となっている者54名,不明41名,死亡3名であった。外来例の約半数はある時期に社会生活の維持のため外来でデポ剤(持効性抗精神病薬)を用いてきたが,同年内に限ってみると183名にデポ剤が用いられた。この内継続使用した122名中117名に効果があり,随時使用した60名中45名に有効であった。
 デポ剤は再発や再入院しやすい患者に対して服薬の自覚をつけ,病状の自己管理を助け,治療者や家族の援助の効果を高めてきたことが本院の外来実績から明らかとなった。また,不十分な用いかたを改めること,様々な副作用の頻度とその対策についての経験も報告した。分裂病の再発防止に本邦においても各種のデポ剤の導入の必要性を強調した。

新しい睡眠薬450191-Sの多施設薬効評価—適応と最適用量の検討

著者: 大熊輝雄 ,   福田一彦 ,   衛藤俊邦 ,   神保真也 ,   本多裕 ,   苗村育郎 ,   菱川泰夫 ,   飯島寿佐美 ,   杉田義郎 ,   森温理 ,   佐々木三男 ,   伊藤洋 ,   中沢洋一 ,   小鳥居湛 ,   坂本哲郎 ,   佐野譲 ,   古田寿一 ,   金英道 ,   後藤平 ,   藤本彰 ,   山本雅康

ページ範囲:P.943 - P.959

 抄録 新しい睡眠薬450191-Sについて,多施設において,適応と臨床用量の検索を行った。それぞれの患者について最適の治療用量と判定された用量を「最適用量」として明確に規定し,最適用量投与時における本薬の特性を検討した。
 その結果,①本薬4mgまで投与した場合,92%の症例に最適用量の設定が可能であり,そのうち77%の症例は最適用量が2mg以下であった。②最適用量投与時の全般改善度は,著明改善20%,中等度改善35%,軽度改善31%であった。③不眠の原因別に全般改善度をみると,心因群,うつ病群に優れた効果が認められた。④睡眠指標では入眠障害,中途覚醒後の再入眠,熟眠感,覚醒時気分に著しい改善が認められた。⑤副作用としてhang-overが2〜3%に認められた。
 以上の成績から本剤は,用量-作用効果の対応が比較的広い範囲で成立し,副作用の少い,使用しやすい薬剤と評価した。

短報

分裂病性精神病の親子の相互作用

著者: 本間博彰 ,   浅田護 ,   川上保之 ,   鈴木喜八郎

ページ範囲:P.961 - P.965

 I.はじめに
 精神障害,特に精神分裂病の家族研究はこの半世紀近くの間に画期的な進歩を遂げることとなり,多くの成果が得られたが,家族療法においても様々な技法が開発され,薬物療法,個人精神療法と並んで重要な治療方法と考えられるようになってきた2,8)
 ところで著者らは同一家族内に発病した精神病の母親と子どもの症例を各々7年間と6年間あまりにわたって治療的にかかわる機会に恵まれたが,その間の両者には発病や症状,さらにはその経過を巡ってはっきりとした相互作用がみとめられていた。そこで両者の相互作用を検討し,精神分裂病の母親がその子どもにどのような影響を及ぼし,かつその子どもが母親にどのような影響を及ぼすのか,そして子どもの人格形成に母親はどのようなかかわりを示すのか考察した。

DantroleneとBromocriptineが奏効したと思われる悪性症候群の2例

著者: 有田忠司 ,   伊藤陽 ,   恩田晃 ,   武内広盛 ,   不破野誠一 ,   佐野孝

ページ範囲:P.966 - P.969

 I.はじめに 悪性症候群syndrome malinは,荻田ら(1983年)4)によると,本邦では数十例の症候報告があり,そのうち30%以上が死亡していると言われる。そして,このような高死亡率の原因として,悪性症候群の病初期を見逃し重症化させてしまうこと,悪性症候群の原因が十分解明されておらず治療方法が確立していないこと,であると述べている。
 この度,われわれは神経遮断薬の投与と関連した持続性高体温,錐体外路症状および自律神経症状などの身体症状と昏迷,緘黙などの精神症状を伴った悪性症候群に骨格筋弛緩剤であるdantroleneと持続性ドパミン作動薬であるbromocriptineを投与し,その臨床症状を比較的早期に改善せしめた2症例を経験したので報告する。

古典紹介

—Karl Wilmanns—精神分裂病前駆期における殺人について—第2回

著者: 影山任佐

ページ範囲:P.971 - P.979

 以上簡単に記述したように研究の基礎となる3名の犯人達は教養もあり,知的には平均以上の素質をもつ若者であるのにもかかわらず,彼らの犯行に対してはなんら後悔することがないどころか,これに没頭し,彼らが犯行に至った心理を説明しようと一生懸命であった。全てこれら3名の犯人には特有の心的不機嫌,不穏,緊張があり,この状態で殺人の強迫衝動が突然に出現しているが,この衝動に対して彼らは空しく抵抗しようとした末に,これに従っている。
 この衝動をなにか彼らには異質なもの,彼ら固有の自我から派生したものではなく,ある程度外から強制され,抗拒不能なものであるように,彼らは感じている。言葉にはいい表し難いこの状態の描写はよく似ているだけに,その信頼性にはなんら疑問の余地はない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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