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短報
精神分裂病者における概念の境界について
著者: 更井正和1 松永秀典2 東司3 宮崎浄1
所属機関: 1大阪逓儒病院精神科 2大阪府立病院精神神経科 3小阪病院
ページ範囲:P.1081 - P.1084
文献購入ページに移動精神分裂病者の思考障害について,従来より背反する二つの仮説がある。一つはCameronの過包括(overinclusion)2),すなわち分裂病者の概念は境界が拡がりすぎており,そのため相互の関係が乏しい概念が結びつけられ,思考過程は筋道を失い脱線しやすいとする理論である。もう一つの理論は,Goldsteinの具体的思考(concreteness)4)で,分裂病者は抽象的思考過程に欠陥があり,その場の外的刺激によって不当に強い影響をうけるとする考え方である。しかし,過包括の理論については,Chapmanら3)のように慢性分裂病の特徴であり投薬によって改善するとする主張や,逆にPayncら9)のように過包括は慢性分裂病の特徴とは言えず投薬によっても改善しないとする主張もあり,過包括の概念自体が検査方法によって影響され,捉えどころのない概念であるという批判10)もある。また,具体的思考についてもその障害の程度は一般知能(IQ)と相関し10),脳損傷の患者にも出現するため,その特異性に疑問が持たれている。ともあれ,分裂病者の思考は,時により過度に抽象的にみえたり,また逆に過度に具象的にみえたりする矛盾した二面性を持っている。最近,Holm-Hadulla5)はKonkretismus(過度に抽象的な具象性)という概念でこの柔盾する二面性を克服しようとしている。
ところで,Roschら7,12)によれば自然な概念は典型性の勾配と不明確な境界を持つという。鳥という概念を例にとれば,ツバメのように鳥らしい鳥からダチョウやペンギンのように鳥らしくない鳥まで事例の典型性には勾配があり,その境界は不明確に終わるという訳である。概念をこのように捉えるならば,従来の概念同定課題のように,概念はいくつかの属性の組み合わせによって明確に定義され,その定義にあう事例は正事例として同等と見なし得る13)という前提に立つ方法では十分とは言えない。このような意味で,従来分裂病者の思考障害のテストとして頻用されてきた諸種のテスト(Object Classification Test8),Goldstein-Schecrer Object Sorting Test4),etc)に著者らは物足りなさを感じていた。そこで著者らはLenneberg6)の方法を用いて,分裂病者の色彩の概念の範囲と勾配を統計的に調べ,その特性について検討を加えたので簡単に報告したい。
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