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研究と報告
精神病者の幻聴現象の分類—多変量解析による試み Ⅱ
著者: 林直樹1
所属機関: 1東京大学附属病院分院神経科
ページ範囲:P.171 - P.183
文献購入ページに移動 抄録 著者は精神病患者58名の幻聴の現象面の特徴を調査し,この調査資料を林の数量化理論第3類によって分析した。そして個々の幻聴体験の数量化結果を検討することによって精神病者の幻聴現象を分類し,次のような幻聴類型を記述した。(1)パラノイド型幻聴では体験が知覚としての属性を多く有しており,内容が患者にとって侵襲的で,幻聴の発生源が患者の外界に定位している。この型の幻聴は急性妄想性障害,分裂病妄想型の患者などに見られる。(2)自我侵襲型幻聴では体験中に自我障害的な要素を含み,内容が患者にとって侵襲的で,体験の場が患者の内界であり,分裂病妄想型の患者に多く見られる。(3)自我親近型幻聴は主に分裂病解体型の患者にみられ,自我障害的要素を多く含み,幻聴が患者にとって親近的で患者の体内で感受される体験である。また患者と幻聴が互いに影響を及ぼしあうような現象が見られる。(4)単純型幻聴は体験と患者自我との関与が稀薄で患者への侵襲性に乏しい体験である。これは慢性分裂病者の自我親和的体験である単純型Ⅰ.といわゆる非定型精神病者の自我異和的な単純型Ⅱ.に分けられる。単純型Ⅱ.幻聴は非現実感や強烈な情動を伴っており患者によって比較的容易に客観視される。他方単純型Ⅰ.幻聴では知覚としての枠組に崩れが見られ,患者の自我機能全般の形骸化が目立つ。さらに上記の分類と若干の従来の分類との比較を行ない,またこれらの幻聴の類型ごとにそれを体験する患者の自我の状態,幻聴への精神療法的アプローチについて言及した。
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