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雑誌目次

雑誌文献

精神医学28巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

巻頭言

精神神経科医療の変遷に思う

著者: 廣瀬貞雄

ページ範囲:P.596 - P.597

 本稿の依頼を受けてから数日後,Elliot S. Valenstein教授(University of Michigan)から“Great and Desperate Cures”という題名の,出版されたばかりの338頁の著書(Basic Books,1986)が送られて来た。Subtitleは“The Riseand Decline of Psychosurgery and Other Radical Treatments for Mental Illness”となっており,大変な力作であ。記述内容からすれば,本題は「偉大かつ思いもよらぬ治療法」とでも訳すべきであろう。彼がこの本を書く計画を立てたのは1982年で,Psychosurgeryに関する3冊目の本として“The Early History of Psychosurgcry”の資料を集めているから協力を頼むということで,彼の質疑に答えた私からの文献や資料の送付は数回を越えるものであった。彼の手紙によると,1冊目の“Brain control”(John Wiley,1973)と2冊目の“The Psychosurgery Debate”(Freeman & Co.,1980)では,科学的,法・倫理的側面(scientific and legal-ethical aspects)を強調したが,今回は,世界中の資料を網羅してpsychosurgeryが広く普及した科学的風潮とその実態を,出来るだけアカデミックで客観的な形で表現するように心掛けたが,出版社の意向で上記のような表題になったのだという。彼はミシガン大学のPsychology and Neuroscienceの教授としてbrain stimulationを含めたpsychosurgeryとemotional behaviorの問題を,1960年代初頭から執拗と思われるほど追究して来た。彼との付合いは,1972年にアメリカの人権擁護を目的とする委員会(The National Commission on the Protection of Human Subjects in Biomedical and Behavioral Research)のスタッフから彼がpsychosurgcryの調査を依頼された時からであるが,直接会ったのは,1975年にMadridで開催された第4回World Congress of Psychiatric Surgeryで私が講演した時であった。以来,彼の熱意に絆されて,あらゆる資料の提供に協力して来た。今回の本のPreface and Acknowledgementsの中に,協力者として欧米の学者と共に私の名前が挙げられているが,日本における精神疾患に対する脳手術の創始者である中田瑞穂教授以来の正確な記載は,私の提供した資料によるものである。私の書斎には,1946年以来収集した欧米やオーストラリアのpsychosurgeryに関する本や論文別刷が数百冊に及んでいるが,彼はそのほとんど凡てを引用しているのに驚嘆した。昨年9月,私がPhiladelphiaで開かれた“Limbic System Surgery”に関するSymposiumのpanelistとして招かれた際に,故Walter Freeman II. が自らタイプした遺稿のautobiography(517枚)のコピーを遺児の一人から貰って来たが,それも既に引用されている。
 さて,私が東大の精神科へ入局したのは1941年12月(開戦のため3カ月繰り上げ卒業)であったが,当時は精神分裂病についで進行麻痺の患者を診察することが多く,神経学的な疾患を勉強する機会にも恵まれ,眼底検査,腰椎穿刺,脳動脈写,さらに椎骨動脈撮影法までその創始者である高橋角次郎先輩から教わることが出来た。1942年6月から海軍軍医として熱帯の島で約4年間近く勤めたが,そこではメスを執る運命となり,それが後に精神外科という私のライフワークへのいとぐちともなった。このことが上記Valenstein教授との交流につながることにもなる。一方,空襲下に発生したいわゆる原始反応や反応精神病,ガンゼル症候群などの典型例を目前にして,電気痙攣療法の簡単な装置を急造してそれらの症例の治療に当たり,その劇的効果に驚いたり,高熱を発したり譫妄状態の患者に対しても効果のあることを経験した。入局して日も浅く精神医学の知識にも乏しかったが,現在の救命救急センターのような修羅場や,死期の迫った患者に対するアプローチの仕方も体験し,これらの生々しい体験から,現在までの長い研究生活に大きな影響を与えられたものと思う。1946年3月,教室に復帰して間もなく待望の松沢病院に派遣されたが,当時の松沢病院は正に精神疾患研究のメッカであった。先ず戦争末期の窮乏生活に耐えて生き残った不治の欠陥分裂病患者を収容した慢性病棟の受持ちと,次に興奮患者を収容した病棟(当時は狂躁病棟と呼ばれた)の経験である。当時の治療と言えば,専ら電気痙攣療法(ECT)であり,時にはCardiazol静脈内注射による方法も欠くことの出来ない手段の一つであり,幻覚・妄想状態にはInsulin昏睡療法が行われ,躁うつ病にはSulfona1による持続睡眠療法が適用されたが,うつ病の苦悩除去に阿片丸薬(Opiumpille)が併用されたりした。また抑制症状に対して覚醒アミン(ヒロポン等)が奏効するといわれ,殊に軽症うつ病に外来で投与されたことも忘れてはならぬ事柄と言える。進行麻痺に対してはペニシリンの入手が困難で,熱療法としてマラリア療法,ワクチン療法が使われ,後療法としてはサルバルサンの静注が行われた。夜回診にはヒオスチン(臭素水素酸スコポラミン)の注射が興奮鎮静に欠かせぬものであった。しかし,覚醒剤は戦後その乱用によって中毒者の大量発生が起こり,今更改めて言うまでもないことであるが,麻薬同様に取り締りの対象となったことは周知の事実である。松沢病院に勤めた頃,どっと流れ込んで来たアメリカの文献の中には前頭葉機能と精神外科に関する論文が多く見られたが,それに先んじて日本でも既に1938年に新潟医大外科の中田瑞穂教授によって,てんかんの精神症状や精神分裂病などに対して前頭葉切除手術prefrontal lobectomyが行われ,更に1942年にはFreeman-Watts型の前頭葉白質切截手術prefrontal lobotomy(or leucotoiny)の追試による結果が報告されていた。

展望

認知機能に関連する事象関連電位(とくにP300)と精神科領域におけるその測定の価値(第2回)

著者: 亀山知道 ,   平松謙一 ,   斎藤治

ページ範囲:P.598 - P.611

 VI.P300の精神科領域における臨床応用
 前章までは主に正常被験者を対象としたERP記録実験結果をもとに,P300成分の認知的意味についての従来の考え方を紹介した。本章では,認知機能を反映して変動するERP(特にP300成分)測定の精神科臨床における有用性について述べる。

研究と報告

非定型うつ病の臨床像と人格障害

著者: 増井晃 ,   池本桂子 ,   中村道彦 ,   高橋清久 ,   高橋三郎

ページ範囲:P.613 - P.619

 抄録 昭和57〜60年の4年間に入院した患者にDSM-M多軸診断システムを適用し,非定型うつ病の診断が与えられた12例を得た。これらの特徴を見出すために,同期入院の大うつ病,反復性,26例を対照群に選び,これら2群間でのデータを比較検討した。その結果,非型定うつ病は大うつ病,反復性に比較し,1)第II軸診断で人格障害を伴うものが多い。2)症状数が少なく,軽症である。3)症状項目のうち制止,罪責感,思考力減退は,ほとんど認めない。4)エピソードの持続期間において非常に長いものが4例あり,全平均でも有意に延長している。5)予後は,社会的寛解を含めると75%になるが,完全寛解は僅か1例である。従って,この中には,定型うつ病と対比すべき特殊な一群が含まれていることが示唆された。

慢性精神分裂病患者の描画における構成障害

著者: 横田正夫 ,   依田しなえ ,   宮永和夫 ,   高橋滋 ,   町山幸輝

ページ範囲:P.621 - P.627

 抄録 これまで様々な立場の研究者が精神分裂病患者の描画から患者の内的世界を解釈しようと試みてきた。最近の児童描画研究者は,単純な課題に対する描画的解決から児童の内的世界を捉えることを試みている。われわれはこのような児童画研究者たちの方法を参考に,分裂病患者の内的世界を調べた。対象患者は発病後5年以上経過し,精神病院に1年以上入院中の慢性分裂病患者72名で,正常対照者は看護学生69名であった。使用した描画検査は「草むらに落とした500円を捜している自分」を描かせるもので,「草むらテスト」と命名された。分裂病群においては,「自分」と「500円」の関係の表現では.「自分」を直立に描き,「自分」と「500円」を並列し,人間の動作によって両者を関係づけられなかった。「自分」と「草むら」の関係の表現では,「草むら」を「自分」の上下左右のいずれか一方に,しかも重なりを避け空白をおいて描画した。これらのことは分裂病患者の描画構成障害を示している。また分裂病群では「自分」,「500円」および「草むら」の3要素は省略されることが少なく,それら3要素以外の対象物が描画されることも少なかった。これらのことは分裂病患者の心的自由度の乏しさを示唆する。

折れ線型経過をたどる自閉症児の臨床的特徴

著者: 星野仁彦 ,   渡部康 ,   横山富士男 ,   遠藤正俊 ,   金子元久 ,   八島祐子 ,   熊代永

ページ範囲:P.629 - P.640

 抄録 5歳以上の幼児自閉症80例を対象として,独自に作製した面接調査表に基づいて,折れ線型経過(Knick)の有無と自閉症児の既往歴,臨床症状,発達水準,適応状況等との関連性を調べ,Knickの有無による亜型分類の可能性について検討し,次の結果を得た。1)Knick群・疑Knick群は併せて39例(49%)あったのに対して,非Knick群は41例(51%)であった。2)Knickを示した年齢は平均21〜22カ月であった。3)Knick群・疑Knick群は非Knick群と比べて,5歳時の精神発達水準が有意に低値を示していた。4)Knick群・疑Knick群は,非Knick群と比べて,言語障害・対人関係障害などの症状がより重篤であった。5)てんかん発作・熱性けいれんなどのけいれん性疾患の既往や周産期異常の既往は,Knick群・疑Knick群でより高頻度に認められた。
 以上から,幼児自閉症はその発症パターンの差異により,折れ線型と非折れ線型の2群に亜型分類され得ることを示した。そして,これらは何らかの脳機能障害の程度の差異によって発現することも示唆した。

うつ病のTRHテストにおけるプロラクチン反応について—TSH反応・抗うつ剤治療との関連

著者: 松井望 ,   不破野誠一 ,   伊藤陽

ページ範囲:P.641 - P.649

 抄録 入院中のMajor affective disorder(MAD)28例,Dysthymic disorder(DD)12例に対して抗うつ剤投与前にTRHテストを行い,さらにMAD 20例に対して抗うつ剤投与4週間後にもTRHテストを行い,PRL反応とTSH反応との関係及び抗うつ剤治療との関連などについて検討した。
 MAD群の平均Δmax PRL値は男性が女性よりも明らかに低値であったが,男女ともに健康対照者群およびDD群と差はみられず,MAD群に特有な所見はなかった。
 TSH低反応群では正常反応群よりもΔmax PRL値が低い傾向がみられ,TSH反応とPRL反応との密接な関連が示唆された。
 TSH反応と抗うつ剤治療との関連については,抗うつ剤投与自体の影響はみられず,ΔΔmax TSHはstate dependent markerであると言えた。一方,PRL反応については,抗うつ剤投与自体の影響を受け,うつ症状の改善を反映しないと考えられた。

頭頂—後頭葉症状群とくにGerstmann症状群について

著者: 上野陽三

ページ範囲:P.651 - P.659

 抄録 24歳右利男子。左頭頂より右側頭に貫通した機銃創による脳損傷を受け,9カ月後の検査で次の諸症状を認めた。即ち頭痛その他の自覚症状にGerstmann症状群として手指失認,左右障害,失書,失算があり,それに構成失行,失読,方向及び地誌的失見当,時計失認,軽度色彩失認,左同側性半盲症と後に左上下肢知覚障害も認められた。読字,書字障害は純粋失読の特徴を示した。PEG,EEG,CTの検査で,両側で右を主とする頭頂,後頭葉の損傷を示す所見が認められた。これら諸症状の37年9カ月にわたる経過を観察した。また参考例11例を参照し頭頂,後頭葉の損傷によって種々の症状組合せを呈し得ること,その中の一つとしてG症状群のあることを認めた。
 文献を参照しG症状群の基本症状として,手指失認の重要性を考察した。

精神症状を示した全身性エリテマトーデス—自験82例についての考察

著者: 赤沢滋

ページ範囲:P.661 - P.670

 抄録 精神症状を示した82例のSLEについて臨床的検討を行い以下の結果を得た。1)精神症状はSLE確定診断後1年以内に出現する例が39%と最も多かった。2)臨床病型として器質性脳症候群46例,精神病群23例,神経症群13例であった。3)器質性脳症候群では他の病型に比べ,脳波異常及び頭部CT異常の頻度が高く,神経学的症状を合併する例が多かった。4)器質性脳症候群ではステロイド剤の増量が精神症状に対し約半数で有効であったが,精神病群ではむしろ向精神薬が有効であった。5)SLEに伴う精神障害は症状が多彩で,経過,予後,ステロイド剤に対する反応性が異なるため,病型に対応した治療が必要と考えられた。

腎移植における精神医学的諸問題

著者: 尾崎紀夫 ,   成田善弘

ページ範囲:P.671 - P.677

 抄録 腎移植を精神医学的見地から調査し,治療的に関わった。対象は中京病院て昭和59年4月から昭和60年6月までに行われた25例の腎移植(生体腎移植:18例,死体腎移値:7例)の被移植者である。結果は25例の被移植者のうち11例が精神症状を呈した。内訳は抑うつ状態が7例,不安・心気・焦燥状態が3例,せん妄状態が1例であった。
 今回の調査から以下のことを考察した。
 (1)従来の報告と比べると抑うつ状態の重症例が少ない。その理由として以下のことが考えられる。①腎摘出を必要とした症例が死体腎移植であった。②腎摘出に際して家族の同伴を行った。③生体腎移植の腎提供者が親に限られていた。(2)透析に対する否定的感情が顕著な症例が多く,腎移値の理想化を引き起こし,同時に抑うつ症状の誘因となっている。(3)移植腎の統合過程は被移植者腎提供者関係に影響される。生体腎移植を契機にして,親子関係の様々な問題が露呈される。

精神科外来を受診した青年期患者の死亡例に関する考察—自殺例を中心に

著者: 生田孝 ,   清水將之

ページ範囲:P.679 - P.685

 抄録 名古屋市立大学精神科外来を1968年から77年までに受診した十代患者に1983年(全調査対象者が初診後平均で10年6カ月を経過)時点で経過動態調査を保護者へのアンケート用紙郵送法で行い,551名(回収率52%)の回答を得た。そのうち25名が死亡例(全回答の4.5%:男11,女14)であり,これを以下の4群に分けた。①自殺群(11),②病死群(6),③事故死群(3),④死因不明群(5)。これら各症例に遡及的に調査検討を加え以下の結果を得た。1)青年期特有の症状の非定型性,多型性のため診断が転々としている症例が多い。2)当科外来初診時平均年齢16歳死亡時20歳。3)1群の病型分類では,精神病,境界例で82%を占めた。ほぼ全例で抑うつ状態,自殺念慮を示し6例に未遂歴があった。治療期間は平均4年5カ月にも及び,そのうち7例が治療継続中だった。4)④群は,1例を除ぎ通院期間はきわめて短く(数回〜数カ月),その死因は自殺ないし事故死の可能性が少なくない。

窒素ガス曝露による“遅発性後無酸素症性脳症”の1例

著者: 小田垣雄二 ,   大森哲郎 ,   林下忠行 ,   浅野裕

ページ範囲:P.687 - P.694

 抄録 28歳の男性で,労災事故により低酸素脳症となり重篤な神経精神症状を呈した1例を報告した。事故の状況は,数%の酸素しか含まない窒素ガスに十数分間曝露されたものと推定された。事故直後の意識障害回復後,2〜3週間の“間歇期”を経て意識障害が再燃し,CO中毒における“不全間歇型”に類似の経過をとった。CTでは,当初大脳白質のびまん性低吸収域を認めたが,その後全般性脳萎縮と両側被殻の低吸収域,さらに両側尾状核に低吸収域の出現をみた。脳波は一貫してflat EEGであった。SPECTでは,局所脳血流量は意識障害再燃時には著明に低下していたが,その後の意識清明な時期には改善を示していた。本症例はhypoxic hypoxiaの純粋型と考えられ,その経過はPlumの“遅発性後無酸素症性脳症”に相当するものと考えられた。その特異な経過に焦点を当てて,CO中毒“間歇型”との関係も含め,若干の考察を行った。

電気入眠器(‘Sleepy’)による入眠促進効果—昼間睡眠を指標として

著者: 遠藤四郎 ,   末永和栄 ,   大熊輝雄 ,   佐藤謙助

ページ範囲:P.695 - P.704

 抄録 健常男子大学生30名を対象として,電気入眠器(‘Sleepy’)が昼間睡眠の入眠を促進する効果を有するか否かを,実通電器と偽通電器を使用するsingle blind cross-over design法で検討した。
 各被験者の実験回数は4回で,連続した2日間の午前と午後に各1回実験を行った。被験者を15名ずつの2群に分け,1群では1日目の午前に通電,午後に偽通電を行い,2日目は1日目と逆の順序で実験を行った。一方II群はI群と逆の順序で実験を行った。約3分20秒の通電,又は偽通電後60秒間ポリグラフ記録を行い,これを7回繰り返し,入眠した時点で実験を中止した。入眠潜時はS1とS2の出現にSOREMを考慮し4種類で判定した。
 第1日目午前の実験で実通電時に入眠促進効果が認められた。この時間帯の偽通電時の入眠潜時は他の時間帯における偽通電時の潜時のうち最も長かったので,不慣れな条件下の第1夜効果類似の精神生理学的反応としての入眠潜時の延長が電気入眠器による通電によって改善されたものと考えられた。

短報

リチウム至適投与量の予測

著者: 長沼英俊 ,   藤井薫

ページ範囲:P.705 - P.707

I.はじめに
 リチウムはCadeが精神病治療に用いて以来,躁うつ病を中心とする精神疾患の治療薬として,重要性を増してきている。しかしその向精神薬としての有用性と同時に,同一投与量でも血漿濃度の個体差が著しいことやtherapeutic indexの低さから,慎重な投与と頻回の血漿濃度の測定が必要とされている。
 Chang6)はリチウム至適投与量を予測した群と従来の予測しない群とを比較した。そして予測しない群がリチウム治療開始2週間後の血漿濃度をみるとばらつきが大きく,しかも中毒域になる危険性のあることを報告している。
 リチウム至適投与量を予測する試みが今日まで幾つかなされている。性,年齢,身長,体重,血清クレアチニンを用いるDugas5),Zetin12),年齢,体重によるSampath11),リチウム600mg経口1回検査投与24時間後の血清濃度によるCooperら3,4)の報告がある(表1)。
 今回我々は 1)リチウムのpharmacokineticな特性を基礎にしており,2)Cooper自身2年間で100例以上に及ぶfollow up data3,4)があり,3)Gengo7),Palladino10),Naiman9),がCooperの追試をしており,4)他の予測法と比べてリチウムの血清濃度が0.6〜1.2mEq/lと治療濃度と一致するなどを考慮し,Cooperの報告した方法が,臨床的に有用かどうかを検討した。

バルプロ酸療法中の血中アンモニア濃度

著者: 久郷敏明 ,   細川清

ページ範囲:P.709 - P.711

I.はじめに
 Valproic acid(VPA)の副作用の1種として,最近肝障害を伴わない高アンモニア血症の存在が指摘されている2,11)。アンモニアは有害物質であり,この現象が広範に見出されるとすれば,臨床上重大な問題であろう。このたび,外来受診中のてんかん患者を対象に,血中アンモニア濃度を測定したので,結果を簡単に報告しておきたい。

クロナゼパムの有効だったMeige症候群の2例

著者: 宮永和夫 ,   米村公江 ,   竹内一夫 ,   高橋滋 ,   鎗田宏 ,   菅野仁平

ページ範囲:P.712 - P.715

I.はじめに
 Meige症候群の原因については不明であるが,近年自己免疫異常(Sjögren症候群や重症筋無力症)や向精神薬の副作用に起因する報告が散見する1)。今回原因は別であったが,クロナゼパムにて症状の改善したMeige症候群の2例を経験したので考察を加え報告する。

古典紹介

—V. E. v. Gebsattel—嗜癖の精神病理学—第1回

著者: 下坂幸三

ページ範囲:P.717 - P.723

 臨床,体質研究,遺伝学そして性格学のさまざまな経験は,それが嗜癖の特性のあらゆる可能な前提条件の理解にかかわるものであるかぎりにおいては,豊富な資料を提供してきた。あるいはひとはいうかもしれない。この論題は汲みつくされてしまった。今後,新しい観点が示されることはないであろうと。
 われわれ精神科医にかぎらず,とかくひとつの持殊領域に没頭している者にとって起り勝ちなことば,このような,物理学,生物学ないしは心理学(これらの学問領域は,例として引用したにすぎない)といった特殊領域が,自然の全体に対する眺望をおおい隠してしまうということである。まさに争う余地のない科学的思考の利点を形づくるもの,すなわち,あたかも目に装具をつけて,勝手ではないが,意図をもってはっきり取り出した現実の一断面を,精密に,しかも精神の集中を妨げるぐるりの他の領域を遮断しながら,その内実について研究していき,さらにすすんで,その内容についての理論を成就するということ,これらすべてのことは,おのずから置かれた帰結なのであるが—まさにこのような科学的思考の基本的姿勢が,また除外と遮断とを意味する故に,現実をひじょうに巧妙に歪めてしまうというまったく予測しなかった侵害を準備しているのである。人間が成し,企てることは,もとより,彼が遭遇することの一小部分に過ぎない。研究者にとって,課題として現われることの多くは,内容的にはっきりした研究方向が,その目的を達したかにみえたとき,それ自体としてやっとあきらかになってくる先与的なるものVorgegebenesを含んでいる。冒険は,まさに避けられない。それが,科学的営為の確実な途上においてすら待ちかまえているということは,人間の精神史上の興味ぶかい契機を形づくっている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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