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雑誌目次

雑誌文献

精神医学28巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

巻頭言

電撃療法が消える

著者: 井川玄朗

ページ範囲:P.856 - P.857

 数年前から奈良県の国保審査委員を抑せつかっている。毎月,精神科関係のレセプトを審査しながら不思議なことに気付いた。電撃療法の請求がまったく見当らなつのである。
 私が医者になりたての昭和30年代の初期に精神科療法の主力であったものがここには見られない。これは奈良県だけの傾向なのか?そう考え各地の審査医に電話し,お尋ねしてみた。“時に電撃療法の請求をみる”,“1病院だけある。ここはきわめて頻度が高い”と答えられた方があったが,その他の方は殆んど私と同じ印象を述べておられた。そして,つけ加え言われたことがある。“若い精神科医が電撃療法の経験がない。大学ではこの面の教育がなされていないのではないか”。この点例外はある。九州のある大学では週2〜3回は電撃療法があり,実地教育が行われているとのことであった。しかし全国的にみると,精神病院でも大学病院でもこの療法は微々たる存在になっていることがわかったのである。

展望

単一精神病論とその臨床的意義(前篇)

著者: 諏訪望

ページ範囲:P.858 - P.869

I.はじめに
 単一精神病論は,現代の精神医学においても,なおその底辺で静かな動きを続けている。そしていまでは,主として「内因性単一精神病」が論議の対象として取り上げられるのが趨勢とみなされる。ところで,いわゆる内因性精神病の分野では,Kraepelinの二分法Dichotomieによる疾患単位が依然として主導理念として支配的な地位を保ってつる反面,臨床の場においては,必ずしもそれとは相容れない実態に遭遇することが日常しばしば経験される。しかも,このような矛盾にいかに対処すべきかということが,すべての精神科医にとって最大の関心事であることも事実である。
 著者が内因性単一精神病について特別の関心を懐くようになったのは,1963年に「非定型精神病の概念」33)という小論をまとめたときのことである。それは,この二つの概念はいずれも内因性精神病の二分法を背景として発展したもので,両者は密接な関係にあるからである。もちろんこの場合,「単一」も「非定型」もともに「内因性」の枠内で取り扱うということを前提条件としておかないと,問題の混乱を来たすことになる。

研究と報告

躁うつ病者の病に対する態度とその意義—躁うつ病者の内的生活史への一視点

著者: 迎豊

ページ範囲:P.871 - P.880

 抄録 躁うつ病者の病に対する態度への視点は「病者が病める日々と健康な日々をどのように橋渡ししていくのか」との問いの下に,自らの病と関わりつつ,現実世界を生きていく病者のあり方に眼を向けるが,それはまた彼らの内的生活史への一つの視点でもある。本論文では2例の躁うつ病者の病歴と生活史に刻印された彼らの病に対する態度について上記の観点から接近を試みた。横断的にみると,その態度は 1)失論理的・失反省的態度,2)危機的態度,3)反省的態度に類型化され,病に対する距離のとり方がそれらの基本機制としてある。距離をとることの本質をなす「離れをふせぐこと」は 3)において認められた。その一方,1)→2)→3)の縦断的変化は全体として弁証法化の過程を構成しており,危機的態度—自己価値の危機とその乗り越えがその中心にあると考えられた。指摘されるべきは,躁うつ病者の病に対する態度への視点が彼らの自己への問いへと我々を導いていることである。

精神分裂病の治療効果の分析—治癒係数を使用して

著者: 浅井利勇 ,   浅井邦彦 ,   龍池忠雄 ,   林宗義

ページ範囲:P.881 - P.888

 抄録 精神分裂病の治療に関与する重要な因子の持つ個別的な役割とその相互作用の関係を概念的に明確にし,更に個々の分裂病患者の治療効果と予後の判定をする一臨床用具として林宗義は治癒係数Recovery Indexを考案した。我々はこの治癒係数を日常臨床において定量的に判定しうる可能性を認めて初回入院,再入院,長期在院の精神分裂病群に応用した。
 初回入院の分裂病者は一般に治療効果が高く,退院時の治癒係数が有意に上昇し,良い予後を示唆する得点を示した。逆に長期在院群は入院時の治癒係数が低く,調査時点との間に有意な上昇が認められなかった。また,長期在院群の疾病のプロセスが他2群より有意に高かった。発症から治療開始までの時間も最も大きかった。再入院群は,初回入院群に近いプロフィールを示した。
 この研究を通して治癒係数が分裂病の治療方針の決定,指標として又病者の予後を多軸的に見ていく上で有用であることを確認した。

精神医学研究におけるSADSの役割—II.SADSの信頼性と他の面接基準との比較

著者: ,   北村俊則 ,   島悟

ページ範囲:P.889 - P.895

 抄録 米国におけるSADS標準版第1部の項目の信頼度は全般的に,1)再試験法,2)ビデオ面接法,3)同席面接法の順に高い値が示された。期待された高つ信頼度が得られない項目もいくつかあったが,分野別総合評価はどれも高い信頼度が得られた。最も厳密な検定法と考えられる再試験法によって調べられた標準版第2部および生涯版SADSの項目はやや低いものであったが,感情障害や自殺行動につつては満足のゆくものであった。日本においてもSADSの日本語版が研究場面で使用され,信頼性も確認されている。
 またSADSはDSM-Ⅲのつくつかの第1軸障害(精神病性障善,主だった感情障害とその亜型,不安性障害,アルコール乱用)と第4軸についての情報を与えることができる。さらに,DSM-Ⅲ診断を目的とした診断用面接基準(DIS)やDSM-Ⅲ用構成化面接基準(SCID)と異なり,SADSは各症状の重症度の段階評価が行なえる。

けいれん発作と多彩な精神症状を呈した—Chorea-acanthocytosisの1例

著者: 内藤明彦 ,   長谷川まこと ,   梶鎮夫

ページ範囲:P.897 - P.906

 抄録 Chorea-acanthocytosis(以下C-Aと略す)は末梢血液中に有棘赤血球を認め,多彩な精神神経症状を呈する疾患である。我々はけいれん発作で初発し,様々な精神神経症状を示し,次第に痴呆化傾向をたどってつる45歳女性のC-A症例を報告した。
 本症例は31歳で全般性強直間代発作をもって初発した。強直発作,失立発作,精神運動発作様現象もみられた。神経症状としては,口部ジスキネジア,頸部,躯幹の舞踏病様運動,足関節のアテトーゼ様運動などを認めた。せん妄,抑うつ,多幸,人格変化,被害・関係妄想,幻視,体感幻覚,自傷,自殺企図などの多彩な精神症状が出現した。徐々に精神機能の低下,緩慢化が目立ってきて痴呆状態に至ったが,その痴呆は皮質下痴呆の概念にあてはまるものと考えられた。

失外套症候群に対するアマンタジンの臨床効果と脳波学的研究

著者: 堀口淳 ,   溝渕睦彦 ,   稲見康司 ,   柿本泰男 ,   正田孝明 ,   内田宏

ページ範囲:P.907 - P.915

 抄録 失外套症候群の2症例にアマンタジンを投与し,著明な臨床効果と脳波変化とを認めた。2症例とも言語刺激に筋運動を介して応答できるようになり,視覚誘発電位で振幅の増大と一部頂点時間の短縮を認め,脳波では徐波成分の減少とα波成分の増加を認めた。L-DOPAの単独投与では臨床効果および脳波変化を認めなかった。
 本研究は失外套症候群は必ずしも不可逆性でないとするKretschmcr8)の指摘を確証し,さらにアマンタジンはL-DOPAとは異なり,網様体賦活系—大脳皮質にも作用し得る可能性が示唆された。

ミオクローヌスと脳波上の棘波を伴う精神病の臨床的研究

著者: 三浦まゆみ

ページ範囲:P.917 - P.927

 抄録 非進行性の自発性ミナクローヌスと棘波,棘・徐波複合などの脳波異常を,その経過中に一過性,挿間性あるいは数年持続して呈した精神病群の家系調査の結果と臨床経過について記載した。対象者は昭和49年12月から4年間に,ミオクローヌスと脳波異常を呈した精神病の10例(分裂病7例,躁うつ病2例,器質精神病1例)であり,これらを昭和58年12月まで追跡調査した。本報告の10例には精神病,神経疾患,てんかん発作の高い家系内集積傾向がみられた。ミオクローヌスと脳波異常の出現には,推計学的に有意な相関がみられ,本報告で見られたミオクローヌスは,非進行性の機能的な"てんかん性"ミオクローヌスと考えた。その発現に関与する要因として,6例は神経疾患の遺伝負因を主と考え良性家族性ミオクローヌスてんかんとの関連を示唆し,薬剤の投与あるいは中断が関与した可能性のあったのは6例であった。

持続性部分てんかんの2例について

著者: 横山尚洋 ,   原常勝 ,   龍倫之助 ,   高木洲一郎

ページ範囲:P.929 - P.936

 抄録 持続性部分てんかん(EPC)を呈した2例を報告した。第1例は明らかな器質疾患を伴わずに右手に限局したけいれんが13年間持続している例であり,第2例は癌性髄膜炎の経過中に左顔面〜左半身のけいれんを呈した例であった。脳波では第1例では対側頭頂の局在性棘波,第2例では周期性放電が認められた。EPCについてはその概念に種種の見解の相違がみられ混乱している点が指摘されている。従来の文献例からEPCの概念の変遷を考察するとともに自験例に基づき,重篤な脳病変を伴わずに部分けいれんが持続し皮質起源が想定されるtype Ⅰと,進行性脳病変の経過中にみられ皮質,皮質下の広範な病変が想定されるtype Ⅱの2型に分類し,両者の臨床的意義や発現機構には相違があり両者を区別する必要を指摘した。臨床的な頻度はtype Ⅰは稀であり狭義のKozhevnikov症状群はtype Ⅰに相当すると考えられた。

透明中隔欠損を伴ったBinswanger型脳血管性痴呆の1例

著者: 井関栄三 ,   天野直二 ,   横井晋 ,   金子善彦 ,   斉藤惇 ,   関英雄 ,   長谷川保

ページ範囲:P.937 - P.941

 抄録 症例は,64歳の女性で,50歳代に発症し,進行性の精神神経症状を呈して,人格荒廃を伴う高度の痴呆をきたし死亡した。剖検では,大脳白質の広範な萎縮と脳室の強い拡大が認められ,また透明中隔の完全欠損を伴ってつた。組織学的には,大脳白質を中心としたびまん性の脱髄と多発性の小梗塞巣が認められ,白質小動脈は高度の硬化性変化を示していた。本例の様に,臨床的にAlzheimer型老年痴呆と脳血管性痴呆の鑑別困難な症例で,病理学的にprogressive subcortical vascular encephalopathyを呈する例は少なからずみられる。これらを臨床病理学的な診断名として,Binswanger型脳血管性痴呆と呼んで区別することは,正しい診断と治療の上で有用であることを指摘した。また本例の透明中隔欠損は恐らくは先天性のものであり,精神神経症状の進行とは無関係であると考えられた。

短報

Fluphenazine Enathateによる悪性症候群の1症例

著者: 高塩洋 ,   中沢堅次 ,   藤田博久

ページ範囲:P.942 - P.945

I.はじめに
 近年,悪性症候群については多数報告されているが,その本態は解明されておらず,治療法も確立していない。その意味では,基礎的な研究と症例の集積とが,まだ必要である。我々はfluphenazine enanthateによる悪性症候群の1例を経験したので報告する。

日本人精神遅滞男性集団における脆弱X症候群

著者: 有波忠雄 ,   近藤郁子

ページ範囲:P.946 - P.948

I.はじめに
 脆弱X症候群は,X染色体長腕末端に切断,ギャップを伴う,精神遅滞を主症状とするX-連鎖性の疾患である。欧米・オーストラリアでの集団調査の結果,男性2,000〜2,500人に1人の有病率と推定され,ダウン症候群に次いで頻度の高い染色体異常を伴う精神遅滞である6)。これまでの日本での調査では,発見された例は少なく4),日本人では同症候群の頻度は他の人種に比べて低いと推測されている。しかし,これまで報告された日本での調査は,主として精神遅滞の家族歴のある例を対象としており,また,その調査された数も少ない。そこで我々は同症候群の日本人での頻度を検討をする目的で,精神遅滞集団での調査を行ったので報告する。

Clenched fist syndrome(にぎりこぶし症候群)を呈した接枝分裂病の1例

著者: 藤井英雄 ,   水谷弘 ,   冨永秀文 ,   松本啓 ,   松下兼介

ページ範囲:P.949 - P.951

I.はじめに
 clenched fist syndrome(にぎりこぶし症候群)はSimmonsら4)によって初めて報告されたもので,片手または両手を固くにぎりしめた状態を示すものであり,心因反応やヒステリーの転換症状といわれている。しかし文献例は少なく,本邦においては3例しか報告されていない。また内因性精神病における合併はさらに稀である。著者らは接枝分裂病において,幻聴,被害妄想,拒絶症とともに,一過性に,にぎりこぶし症候群を呈した症例を経験したので,若干の検討を加えて報告する。

自我障害症状と幻聴を示したGilles de la Tourette症候群の1例

著者: 乾達哉 ,   緒方明 ,   弟子丸元紀 ,   宮川太平

ページ範囲:P.953 - P.955

I.はじめに
 Gilles de la Tourette症候群(以下Tourette症候群と記す)は,1885年Gilles de la Touretteが症例を報告したことに始まる汚言を伴った特異な不髄意運動を呈する疾患である。そして,現在ではTourette症候群の精神症状として,癇癪,攻撃性,不従順,不安および対人関係の障害2),またobsessive-compulsivcな気質,強迫症状6)などが主な症状としてあげられている。今回われわれは,これらの精神症状に加えて,経過中に自我障害症状と幻聴を示した興味あるTourette症候群の1例を経験したので報告する。

炭酸リチウム投与によると思われる洞機能不全および心筋障害の1症例

著者: 門馬康二 ,   久松正美 ,   穴沢卯三郎

ページ範囲:P.957 - P.960

I.はじめに
 炭酸リチウム(以下Liと略記する)は感情障害の治療薬として本格的に用いられるようになってから約16年たつ。本剤は有効血中濃度と中毒濃度とが近いというリスクがあるが,血中濃度に注意するかぎり,重篤な副作用を来す可能性はないものとみなされている。しかし,有効血中濃度の範囲内であるにもかかわらず洞機能不全が出現するという報告も内外にあり,Li治療中の定期的なECG検査の必要性が指摘されている。最近われわれはLi治療中に一過性の重篤な洞機能不全が出現したうえ,心筋炎と考えられる所見を呈した症例を経験した。Liによる心筋炎については本邦では今日まで報告されておらず,外国にもわずかしかない1,19,22,23)ので,ここに報告する。

古典紹介

M. Lewandowsky—閉眼失行について/J. Zutt—閉眼状態を保つことの不能,閉眼失行かあるいは強迫凝視か?—第1回—

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.961 - P.967

M. レヴァンドフスキー「閉眼失行について」
 精神麻痺(Seelenlähmung)に関する諸観察と失行Apraxie(Liepmann)の学説によって運動障害の症候論は著しく拡大された。これに関連した観察はこれまでは主として四肢に限局されていた。ただ例えばHeilbronnerによって脳神経領域における一定の類比が示唆されてはいたが。
 さてこの領域から以下の報告で一つの症状が記述されねばならぬ。これについては僅かに散在的な陳述があるだけで,何らの評価も受けてつなかった。同時に,この症状の出現が,これまで注意されもせず,期待されもしなかった損傷によって生ずることが報告されねばならない。

動き

レオポルド・ソンディ博士の訃

著者: 小俣和一郎

ページ範囲:P.968 - P.969

 わが国では投影的心理検査法の一つ「ソンディ・テスト」の名で知られた運命心理学(Schicksalspsychologic)および衝動病理学(Triebpathologie)の創始者レオポルド・ソンディ博士(Leopold Szondi,1893年生れ)は,本年1月25日,チューリヒ近効キュスナハトのベセスダ療養所(Krankcnheim Bethesda)において92歳の生涯を閉じた。昨年春以来脳動脈硬化症および両膝関節症のため,妻とともにチューリヒの自宅を出て同療養所へ入所以降,心身とも徐々に衰弱の一途を辿っていた様子ではあったが,昨年末には筆者のもとにもクリスマス・カードが届けられ,特別な合併症の知らせもうけてはいなかった。しかし今冬のヨーロッパの強い寒波が影響したためか,1月26日付のソンディ研究所(Stiftullg Szondi-Institut, Krähbühlstr. 30, CH-8044 Zurich)およひドイツ人同僚からの訃報に接した。謹んで哀悼の意を表する。
 ソンディは1893年3月11日,当時のオーストリア・ハソガリー帝国領の小都市ニトラヤでハンガリー系ユダヤ人の家庭に生まれ,ブダペストで医学を修めた後,学翌心理学,治療教育学,臨床遺伝学などの研究と臨床に従事したが,1937年以降は精神分析学の強い影響のもとに独自の運命分析理論を構想,実験的衝動診断法(ソンディ・テスト)を創始して「家族的無意識」,「強制運命と自由運命」,「職業選択」,「配偶者選択」,「疾病選択」などのユニークな概念を展開,運命心理学の基礎を築いた。1944年ナチスのハンソガリー侵攻に伴いベルゲン・ベールゼソの強制収容例へと連行されたが,同年スイスへ亡命してO. Forel(A. Forelの息子)の庇護のもとにブランギンスの精神病院へと職場を移した後,1946年チューリヒに移って精神分析家として開業,運命分析学および衝動病理学の一層の理論的展開と教育・普及に専念した。1969年には同地に財団法人・ソンディ研究所が設立され死の前年に至るまで同所長の地位にあった。チューリヒでは現存在分析の影響もうけたが,自らは最後までS. Freudの信奉者の一人と自称しフロイトの精神分析理論を原則的に擁護したところがユングとは違っていた。

国際懇話会パリ:現象学,精神医学,精神分析,Ludwig Binswanger印象記

著者: 鈴木國文

ページ範囲:P.970 - P.972

 1985年11月22日から24日の3日間,パリ第7大学,精神分析精神病理研究センターのP. Fedidaの主催で上記の名を冠する学会が開催された。この学会には日本から木村敏が司会者として参加した。Binswangerの主著の翻訳が出版されていず,Minkowski以後は精神病理学に現象学の影響が大きいとは言えないフランスにおいて,現象学とBinswangerの名を冠する学会が開催されることは珍しい現象であるし,また今後毎年回を重ねていく意向が主催者側にも参加者側にもあり,今後の動向が興味深い学会なので,その報告を行いたい。
 まず主催者であるP. Fedidaとパリ第7大学について簡単に触れたい。現在フランスにおいて,精神分析がいわゆる正統派とLacan派の二極に分かれる中,ある時期までLacanとともに活動し,その後Lacan派と袂を分けたLaplancheが率いるパリ第7大学は,Lacanの思想を吸収しつつ大学で活動している正統派としてパリⅦ派と呼ばれ,雑誌“Psychanalyse a L'Universite”を刊行し,また多くの充実した出版物を出し,今後の精神分析の動向を握る大きな影響力を持っている。この雑誌“Psychanalyse a L'Universite”の編集委員の一人であるP. Fcdiclaは哲学教授資格を持つ分析家であり,主著“L'Absence”をはじめ多くの著書がある。Binswangerの名を冠する学会が,精神分析家によって開催されることは,精神分析と現象学とを二分して考える視点から見るとやや意外であるが,この国における精神分析が実に広い基盤の上で活動しているという事実を良く反映している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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