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中年期の発達課題と精神障害—ライフサイクル論の観点から—第2回
著者: 佐藤哲哉1 茂野良一1 滝沢謙二1 飯田眞1
所属機関: 1新潟大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.980 - P.991
文献購入ページに移動c. Levinson
彼の著作「人生の四季」87)は,心理学的研究としてはじめて,成人の精神生活が段階的に発達すること,中年の危機の存在を実証したことで知られている。この著作はすでに邦訳もなされているので,ここではこの研究の特徴的な点に力点をおいて述べてみたい。
彼の方法論は,心理学的研究としてはかなり特殊なものである。彼は,II節で触れた諸研究のように個人に関する断片的なデータからでなく,むしろ伝統的精神医学の方法論を思わせる,1人1人の個人史を捉えることから始めている。そしてその際,個人の性格の一面,例えば性格や家庭,職業など生活領域の一部だけに注目することなしに,その全体の歴史を捉えようとする。先に述べたNeugartenやVaillantという心理学者が,性格の変化だけ,しかもそのはじまりと終りだけに注目し,その性格変化の内面的過程を捉えそこなっているのに対し,Levinsonは個人の生活を構成する全ての面の「基本的パターン」の内面的な歴史的変遷を記述することから出発したのである。彼はこのある個人の生活の「基本的パターン」,つまり,職業,異性関係,結婚と家族,自分自身に個人がどのようにかかわっているかを生活構造life structureと呼んでいる。彼にとって成人の発達とは,この生活構造の歴史的変遷のことを意味している。Eriksonがegoという概念に対象関係的側面を含ませ,同時にFreudには気づきえなかった成人の発達を認識するに至っていることからすると,成人期の発達を捉える点でLevinsonが生活構造(彼は,生活構造についてEriksonのego以上に対象関係的であると述べている)を研究の柱に据えたことは,極めて適切であったと思われる。
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