研究と報告
精神分裂症症状発生(露呈)の直接的契機—言語的契機を中心に
著者:
山田幸彦1
棚橋裕2
所属機関:
1朝霞病院
2順天堂大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.993 - P.1001
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抄録 精神分裂症症状発生に関わる直接的契機として,とくに言語的契機について現象学的考察を行った。症状発生に先立つ病者は,日常世界を以前とは異なった見慣れぬ風貌を示すものとして,いわば帰郷者(homecomer)の境位にある。この状況は,他所者としての,疎外的な病者自身の内在的危機と他者からの攻撃誘発性(vulnerability)という外在的危機の両面的な危機を内包している。こうした構制の中で病老は,自らを閉ざすことによってではなく,むしろ尖鋭化された形で世界参入を目指して過度に開かれるが故に,世界の側からの仄めかしや比喩といった修辞的言述或は言葉のあや(Figure)に対して過敏で,まさに字句通りに受けとめるのだが,他所者としての解釈的地平に留まるために意味充当は常に挫折的な妄想に終らざるを得ない。又,メタ言語はこうした疎外的状況の故に,とくにsignifieのsignifiant化という逆説的転換を病者に強制しその意味充当は分裂症症状として顕われる。