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雑誌目次

雑誌文献

精神医学29巻11号

1987年11月発行

雑誌目次

巻頭言

広域医療と問題患者

著者: 佐藤時治郎

ページ範囲:P.1136 - P.1137

 本年の1月,弘前大学医学部神経精神医学教室より大館市立総合病院へ院長として赴任してきて以来,半年以上が経過している。病院内の事情も一応わかるようになったが,本院は505床のベットを有し,市内には他に公的病院がない上,創立以来110年になろうとする伝統を有し,長期間,周囲50町村を併せた広域圏の公立病院として機能してきた歴史を有する。最近こそ,近隣地域に比較的規模の大きい総合病院が数カ所存在するようになったが,現在でも依然として,その診療圏は広範囲にわたっている。救急指定病院でもあり,最近の大病院指向的な患者心理もあって日曜,祭日でも多数の患者が外来に集まり,日当直の医師や看護婦は多忙をきわめる。それにつれてパラメディカルの職員も緊急検査や手術で昼夜をわかたず動員される状況にある。
 外来患者の年次統計をみても,一日平均数が秋田大学や弘前大学医学部附属病院のそれをはるかに上廻る患者数である。新任の若い医師の中には悲鳴をあげる者もいて,本当に人口7万の小都市なのであろうかと疑ったりしている。65歳以上の人口比率は国の平均を越え,13%台であり,明らかに高齢化が進んでいて,どの科の外来を見ても老人の姿が目につく。精神科に関しても同様であるという。こうして多数の患者が集まれば,自然とその中に問題を提起する患者が出てくるのも当然といえるであろう

展望

半球機能の統合における動的不均衡—その多様性と精神疾患における重要性—第2回

著者: ,   丹羽真一

ページ範囲:P.1138 - P.1146

Ⅳ.不安と,動的過程の左右差についての個人差
 試験にともなう学生の不安により,言語刺激についての右視野優位が,左視野優位に変わってしまったという研究結果を先に述べた(図3)。Tuckerら(1978)76)は,性格的に不安になりやすい素因の強い学生では,左半球への処理負荷とも言うべき現象があることを既に見いだしている。これは,2つの結果から言えることである。性格的に不安になりやすい素因の強い学生と弱い学生とを比較すると,不安素因の強い学生では,音の大きさの判断課題で,右耳優位の左右差を示したが,これは左半球の賦活が強いことを示すものである。同時に,彼らは言語的・空間的視覚刺激の処理で,左視野よりも右視野での成績が悪かった。われわれの結果は,状況依存的な不安が増大すると,右半球より左半球での処理が劣ることになるという点でTuckerらの結果と類似しているが,それは右半球での成績が改善するためであった(図3)。
 不安の際の左半球の賦活の意味は,皮膚電気反応を指標として部分的に解明されてきている。慣れの速さと反応の左右差との間に関連があることを明らかにした上述の実験では(Gruzelier et al., 1981a31)),引き続いて質問紙への回答を31人の病院職員と62人の学生について分析したが,その結果,不安の水準が最も高まると左半球による支配へと切り替えが起きることが示唆された。この研究の後に,より多人数の学生を対象として行った研究では,慣れが速い人(N=22)を慣れの遅い人と比較することが出来た。この研究では慣れの遅い人が多かったので,慣れの遅い人を反応が右手で大きい人(N=18)と,左手で大きい人(N=22)とに更に分けることができた。「速い慣れは左半球の,遅い憤れは右半球の支配を受ける」,という先に述べた半球左右差と慣れの関係についてのモデルに照らせば,左手の反応が大きい後者の群は変則的であると見なすことができるかも知れない。

研究と報告

精神分裂病患者における病棟の空間認知と親密感

著者: 横田正夫 ,   町山幸輝

ページ範囲:P.1147 - P.1155

 抄録 本論文は2つの研究からなり,研究1では精神分裂病患者の空間認知について,研究Ⅱでは分裂病患者の空間の感情的体験について検討した。研究Ⅰでは対象はDSM-Ⅲの診断基準を満たす分裂病患者6名,医師(正常者)5名であった。各被験者によく知られた病棟内5場所間の距離を推定させ,その評定値からMDSCALによって空間的布置を求めた。分裂病患者,正常者の空間的布置はいずれも現実のものに近似し,分裂病患者では一部に歪みはあるものの正常者とほぼ同様な空間認知ができていることが示された。研究Ⅱでは対象はDSM-Ⅲの診断基準を満たす分裂病患者14名,分裂病患者以外の入院患者(非分裂病患者)8名,看護婦(正常者)10名であった。各被験者に病棟内の7場所間で親しさについて一対比較させた。分裂病患者,非分裂病患者,正常者の3群別に一方の場所が他方の場所より親しめる確率を求め,ThurstoneのケースⅤの解法によって尺度値を求めた。その結果,分裂病患者では病棟内の場所に親しみの感情をもちにくく,場所を親しさによって区別しにくいことが明らかとなった。以上研究Ⅰ,Ⅱより分裂病患者では場所をよく知っていることとそこに親しみの感情をもつことが乖離していることが示された。

分裂病者の絵画の描画形式と臨床像との相関について—その2.描画形式と臨床像との相関について

著者: 須賀良一

ページ範囲:P.1157 - P.1162

 抄録 分裂病者46人と正常者64人を対象に,言語性知能,経過類型,精神症状などの臨床所見と,正常群・A群・B群・C群という4描画パターンとの相関について検討した。
 (1)言語性知能は正常群が最も高く,分裂病者のなかでは,比較的若く学歴が高く言語性知能の高い者はA群に多く,その逆はC群に多く認められた。B群は中間的であった。

重大事件を起こした精神障害者の治療と社会復帰—分裂病患者を中心に

著者: 中谷真樹 ,   功刀弘

ページ範囲:P.1163 - P.1169

 抄録 今日,精神障害者の起こした重大事件に対して,社会的な側面からは様々な意見が論じられているが,それらの患者が事件を起こすに至った原因である精神症状に対する治療やその後の治療経過についての報告は少ない。今回,我々は山梨県立北病院において1985年内に治療した患者のうち過去に殺人事件を起こした10症例と重大な傷害事件を起こした6症例の計16例のその後の治療経過について調査し検討を加えた。
 症例の大半は精神分裂病の症状から事件を起こしたものと鑑定され,本院に措置入院となったものであるが,本院外来での治療中に事件を起こしたのは,過去30年間で傷害の2例のみであった。事件に結び付いた精神症状の発現は,通院の中断や不規則な服薬の後に現れたものが多かった。事件後の経過は,社会生活回復維持,回復不全,復帰困難の3群に大別された。現在外来通院治療で維持されている患者群では,1)事件後の治療により精神症状は消退し,2)病識がつき事件に対する批判力を持ち,3)家族やケースワーカー等周囲の支援体制が整っており,4)規則的な服薬の習慣があった。維持群のうち,半数以上の例で継続的,あるいは一時的にデポ剤を併用していた。一方,入院中の症例でこれらの点について検討したところ,不十分であるものが多かった。

Eating Disorderにおけるデキサメサゾン抑制試験

著者: 切池信夫 ,   西脇新一 ,   永田利彦 ,   川北幸男

ページ範囲:P.1171 - P.1177

 抄録 anorexia nervosa 13例,bulimia 14例にDSTを施行し,正常対象群18名の結果と比較するとともに,体重減少,摂食行動パターン(過食の有無),抑うつ症状との関連について検討を加えた。anorexia nervosa 13例中85%,bulimia 14例中50%に非抑制を認め,正常対象群18名中11%に比し有意に高率であった。デキサメサゾン投与後の血漿コーチゾール濃度は,健康時からの体重減少率と有意な正の相関を示した。しかし,DST非抑制と,過食の有無,抑うつ症状との間には有意な関係を認めなかった。anorexia nervosaの一部の患者において,摂食行動の正常化,体重の回復によりDST結果も正常化した。またbulimiaの一部の患者は,抗うつ剤の投与により過食の減少,抑うつ症状の改善とともにDST結果も正常化した。これらの結果について若干の考察を加えた。

不登校・家庭内暴力を伴ったDandy-Walker症候群(亜型)の1例

著者: 菊池章 ,   荒木均 ,   稲村博 ,   阿部完市 ,   花井京子 ,   土井弘壱 ,   和田美代子 ,   新名郁子 ,   大内田昭二

ページ範囲:P.1179 - P.1185

 抄録 不登校,家庭内暴力,蒐集癖,自閉的生活などを伴った17歳の男性のDalldy-Walker症候群(亜型)と思われる1例を報告した。NMR-Brain CT上で小脳虫部の形成不全,第4脳室と交通をもつ後頭蓋窩嚢胞,小脳半球披裂を認めた。欲動低下,感情の平板化,融通性のなさ,固執性など器質性人格障害を思わせる人格像が認められた。本症例のたどった不登校,家庭内暴力,親に対する理不尽な要求,自閉的生活等は,いわゆる登校拒否症のとる経過と類似しており,それとの異同について論じた。また,本症例における登校拒否症様症状は,器質性人格障害により,二次的に生じたと考えた。

Klüver-Bucy症候群を呈した多発梗塞性痴呆の1剖検例

著者: 東保みつ枝 ,   竹下粧子 ,   藤井薫 ,   帆秋孝幸

ページ範囲:P.1187 - P.1193

 抄録 62歳時より,一過性の感覚・運動障害を示し,62歳時からは,痴呆症状が進行し,末期の5年間は,Klüver-Bucy症候群を呈した,多発梗塞性痴呆の一剖検例を報告した。痴呆症状全般の責任病巣としては,主として前頭葉深部白質の多発性軟化巣及び,不全軟化巣が考えられ,Klüver-Bucy症候群に関しては,両側側頭葉のび漫性線維性gliosisが関連するものと考えられた。側頭葉病変に関しては,脳実質内細・小動脈の硬化性病変と,後交通動脈のvariationによる慢性的循環障害が想定され,Binswanger病と共通する病態と考えられた。

Capgras症候群を呈した脳血管性痴呆の1例

著者: 一ノ渡尚道 ,   立花正一 ,   辰沼利彦

ページ範囲:P.1195 - P.1202

 抄録 幻覚とせん妄を伴った脳血管性痴呆の72歳の女性が,治療の過程でCapgras症候群およびその類縁症状を呈した1例を報告した。本症例のCapgras症状とその類縁症状は,脳器質障害に基づく認識能力の低下を背景として,それに心的・生活状況的要因が深く関与して発現したものと考えられた。特に,本症状成立の心的機序として,嫉妬妄想の存在が重要と考えられた。つまり,嫉妬妄想状態のもとで生じた夫への愛憎葛藤,嫁に対する激しい憎悪の感情が,夫を対象としたCapgras症状と,嫁の存在の妄想的否認の成立への最も重要な役割を果たしたものと推察された。

慢性精神分裂病の臨床的特徴と抗精神病薬に対する反応性—重症群と軽症群の比較

著者: 堀彰 ,   永山素男 ,   高橋信介 ,   関根義夫 ,   島田均 ,   明石俊男 ,   大久保健 ,   宮崎知博 ,   渡辺実 ,   有馬邦正 ,   原重幸 ,   西村隆夫 ,   嶋崎加代子 ,   石井澄和 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.1203 - P.1210

 抄録 昭和30年から45年の間に発病し,現在50歳以下の精神分裂病患者のうち,最近3年以上,継続入院している「重症群」(50例)と,最近3年以上入院したことがない「軽症群」(35例)について比較検討した。1)両群は九大式精神症状評価尺度得点,三大学法行動評価表得点,罹病期間に対する入院期間の比,転帰において有意の差を示した。2)九大式精神症状評価尺度項目を因子分析し,3つの因子を得た。第1因子は情意鈍麻,思路障害,病識欠如などに高い負荷を示し,その得点は重症群で有意に高く,臨床的重症度を最もよく反映していると考えられた。第2因子は幻覚と妄想に高い負荷を示した。3)重症群は軽症群より有意に多量の抗精神病薬を投与され,血中抗精神病薬濃度も高値であった。すなわち,重症群は抗精神病薬を投与されているにもかかわらず,精神症状の改善しない難治患者群と考えられた。4)重症群の血清prolactin濃度は上昇しており,軽症群より高い(男性)か差がなく(女性),両群でD-2受容体の反応性には著しい差はないと推定された。

Carbamazepineの躁病,非定型精神病,精神分裂病に対する治療効果

著者: 大熊輝雄 ,   山下格 ,   高橋良 ,   伊藤斉 ,   栗原雅直 ,   大月三郎 ,   渡辺昌祐 ,   更井啓介 ,   挾間秀文 ,   稲永和豊

ページ範囲:P.1211 - P.1226

 抄録 Carbamazepineをopen trialによって内因性躁病105例,非定型精神病44例,精神分裂病77例に使用し,その臨床効果を検討した。最終全般改善度が中等度改善以上であった症例は躁うつ病68.6%,非定型精神病63.6%,精神分裂病55.8%であった。有効例では効果の発現は速やかで1〜2週目までになんらかの改善が認められた。臨床精神薬理研究会評価尺度(CPRG)によって評価された躁症状は各疾患とも有意に改善し,基本気分,精神運動性,話し方と音声,睡眠障害で改善が著しかった。非定型精神病と精神分裂病について行ったBPRSによる評価では,感情面・欲動面に関する症状の改善,特に興奮の改善が目立った。最高投与量が300〜600mg/日の症例で効果が大きかった。炭酸リチウムや抗精神病薬の効果が不十分な例にも奏効する場合があった。有効例と無効例との間に血中濃度の差はなく,反応者と非反応者の存在が推定された。副作用は106例に,臨床検査値異常は45例にみられ,18例で投薬が中止された。

紹介

メキシコ国立自治大学における精神衛生管理

著者: 角川雅樹

ページ範囲:P.1227 - P.1231

I.はじめに
 筆者はかつてメキシコ国立自治大学(以後メキシコ大学と略す)の精神衛生センターに研究員として1年間在籍したことがあるので,ここでメキシコ大学の現状と精神衛生センターの紹介を通じて,メキシコにおける大学生の精神衛生問題に触れてみたい。

短報

幻嗅を呈したパーキンソン病症例

著者: 堀口淳 ,   稲見康司 ,   西松央一 ,   柿本泰男

ページ範囲:P.1233 - P.1235

Ⅰ.緒言
 抗パーキンソン病薬で治療中のパーキンソン病患者に,幻視を中心とする幻覚体験が高頻度に出現することはよく知られた事実である。著者らはこれまでに多数例のパーキンソン病患者におけるこれらの幻覚体験の有無や内容を詳細に検討し,その特徴や痴呆との関連あるいは治療法などについて一連の研究報告2〜9,16,17)を行ってきた。出現する幻覚の中ではヒトや小動物などの幻視を呈するものが多く,時に幻聴を呈する患者もあり,さらに特異なものとして,症状論上幻覚と妄想との間に位置付けられ得る実体的意識性(Jaspers, K.)などがしばしば観察される。
 今回著者らは抗パーキンソン病薬で治療中に幻嗅を呈した特発性パーキンソン病患者を経験した。著者らがこれまでに治療した155例のうち幻嗅を呈した患者は本症例が始めてであり,さらに著者らの調べ得た限りでの報告例は4例11〜13,15)のみであり,貴重な症例と考えられるので報告する。

Carbamazepineにより白血球減少症を呈したBipolar Disorderの1例

著者: 土山幸之助 ,   高橋尚子 ,   藤井薫

ページ範囲:P.1237 - P.1240

I.はじめに
 近年,carbamazepine(CBZ)の抗躁作用と躁うつ病予防作用が注目を集めている10,16)。一方,従来からCBZは稀に,再生不良性貧血,白血球減少症などの血液障害をひきおこすことが知られていた5,15)。今回我々はbipolar disorderの治療にCBZを使用し,白血球減少症を呈した症例を経験したので報告する。

Bromperidolによると思われる薬物性紅皮症の1例

著者: 上平忠一

ページ範囲:P.1241 - P.1243

I.はじめに
 抗精神病薬服用中に思わぬ症状が出現することが稀に認められる。薬疹もそのひとつである。今般,我々はbromperidol投薬中に薬物性紅皮症まで進展し,極めて重篤な状態に陥った症例を経験したのでここに報告する。

動き

第12回日本睡眠学会印象記

著者: 岡田保

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 昭和62年度の第12回日本睡眠学会定期学術集会は5月22日,23日に徳島大学医学部第二生理学教室,松本淳治名誉教授,森田雄介教授のもとで徳島県郷土文化会館において開催された。
 学術集会のプログラムは特別講演と一般演題とから構成されたが,特別講演予定のソヴィエト連邦Tbilisiの生理学研究所教授T. N. Oniani博士がご都合で来日できなくなったとのことで,“Is selective and total paradoxical sleep deprivation possible”と題する講演は,松本教授のせっかくのお骨折りにもかかわらず聴くことができなかった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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