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雑誌目次

論文

精神医学29巻5号

1987年05月発行

雑誌目次

巻頭言

卒前・卒後教育における精神神経科学に関する提言

著者: 斎藤正己

ページ範囲:P.450 - P.451

 学部学生が卒業して医師国家試験を受け,臨床研修を開始する一方,臨床研修医の一部が大学院に進学する時期,また4年間就学して単位を修得した大学院学生が,研究に節目を作ってスタッフに加わる時期,この医学部教員にとって最も慌しい時期に直面して,日頃感じている教育上の疑問を呈示する機会を与えられたことに先ず謝意を表する。
 折にふれて諸外国の卒前教育カリキュラムを通覧する時,何よりも感銘を受ける点は,精神医学と神経医学に関する基礎教養課目の充実していることである。日本の医科大学の履修課目には,大学によって多少の相違こそあれ,教養課程における心理学以外にこれに相当するものがない。関連課目としては倫理学,哲学,あるいは法律学もあるが,臨床精神神経医学の教養課目としては,いささか問題があるように感じる。

展望

情動回路からみた精神分裂病のドーパミン仮説—ドーパミンによる感覚情報ゲイティング仮説の提唱—第2回

著者: 前田久雄

ページ範囲:P.452 - P.464

Ⅲ.2.学習行動
 種々の学習行動の中で,何らかの形でDAの関与が示唆され,多くの実験がなされているものに条件回避学習とオペラント学習がある。ここでは,主にこれら2つの型の学習について知られていることを簡単に述べる。

研究と報告

分裂病の認知・行動と事象関連電位のP300成分(Ⅱ)—反応行動の遅さの成因

著者: 秋本優 ,   平松謙一 ,   福田正人 ,   丹羽真一 ,   亀山知道 ,   斎藤治

ページ範囲:P.465 - P.473

 抄録 認知・行動の基本的機構における分裂病の問題点を整理する目的で「三音弁別課題」遂行時の事象関連電位のP300成分の振幅・潜時と反応時間を測定し,両者の関連の特徴をまとめ2部に分けて報告した。本稿はその第II部である。第I部の報告に加え,本稿では適応型相関フィルタを用いて解析して得た次の特徴を報告した。(1)分裂病患者群では目標音に正しく反応した場合でもP300成分の振幅が低いことが多く,またP300潜時のバラツキも大きかった。このことから刺激評価機能の機能的不安定性が示唆された。(2)患者群では反応すべき目標音が増加しても目標音に対するP300潜時は変化せず,不利な課題遂行方略を採用していることが再確認された。(3)患者群ではP300潜時と反応時間の相関が低く,刺激評価過程と反応組織化過程の結合がゆるいと考えられた。(4)患者群では反応すべき目標音が増加すると反応時間の延長が明らかで反応組織化の遅さが認められた。

操作的診断基準の信頼性とその問題点—Ⅱ.症例要旨法による家族歴研究診断基準(FH-RDC)の評定者間信頼度検定

著者: 伊藤順一郎 ,   森田昌宏 ,   須賀良一 ,   北村俊則

ページ範囲:P.475 - P.480

 抄録 臨床経験2〜5年の12名の精神科医が,ニューヨーク州立精神医学研究所の症例要旨集を使用しそれぞれ独立して家族歴研究診断基準(FH-RDC)による診断を行い,その結果に基づいてFH-RDCの評定者間信頼度検定を行った。各診断概念について,評定者間の一致度はおおむね満足のいくものであったが,分裂感情病躁型,特定不能の機能性精神病,その他の精神障害,再発単極性は一致度が低かった。また評定者の多数意見の反映である最終診断はニューヨーク州立精神医学研究所の示す「正解」と概して高い一致度を示した。

遅発性ジスキネジア可逆例の10年経過と抗精神病薬の投与量および加齢との関連について

著者: 八木剛平

ページ範囲:P.481 - P.486

 抄録 1968年〜1976年に観察した遅発性ジスキネジア(TD)の可逆例16名(平均発症年齢39歳)について,1986年まで平均10年間の経過と発症後に投与された抗精神病薬(NLP)の投与量および患者の加齢との関係をみた。
 初回発症後にNLPが減量された12名中3名は無症状で経過し,7名には軽微な症状が再発してもそれ以上悪化することはなかったが,中高年に達した残り2名では,NLPの減量後および小量・短期再投与後に,TDが再発して非可逆性になった。一方NLPが増量された4名中3名が死亡し,生存者1名のTDは再発して非可逆性になった。

イミプラミンの薬物動態に関する人種差の研究

著者: 岸本朗 ,   国元憲文 ,   田村辰祥 ,   水川六郎 ,   小村文明 ,   大石正平 ,  

ページ範囲:P.487 - P.492

 抄録 健常日本人(成人男子)12名と健常米国人(コーカサス系白人,成人男子)12名の2群を対象にイミプラミン単回投与時の薬物動態を比較した。両被験者群間には年齢,体重などについて有意の差を認めなかった。イミプラミンの生体内半減期(t1/2(β))は日本入被験者が米国人被験者より有意に長く,消失速度定数(Ke)は有意に小さかった。血漿中薬物濃度下面積(AUC)は日本人被験者が米国人被験者に比べて大きい傾向にあった。イミプラミンの活性代謝物であるデシプラミンの薬物動態パラメータについては両被験者群間で差違を認めなかった。以上の結果から,日本人におけるイミプラミンの蓄積率は米国人のそれより高く,生物学的利用率も高いものと考えられた。この薬物動態の差違は,本邦と欧米諸国における抗うつ薬の1日使用量の差違と何らかの関係を有しているものと考えられた。

森田療法における絶対臥褥期の意義—主観的睡眠感と睡眠・覚醒ポリグラフの対応から

著者: 西本雅彦 ,   川口浩司 ,   星野良一 ,   大原浩一 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.493 - P.500

 抄録 男子神経症者5例(平均25.8歳)と対照群6例(平均25.0歳,健常男子)に森田療法の絶対臥褥を施行し,睡眠・覚醒ポリグラフと睡眠内省(主観的睡眠感)を7日間にわたって記録し,以下の結果を得た。1)対照群の第一夜効果に対応するのは,神経症群では基準夜と第1日目であると思われた。2)対照群では主観的睡眠感とTST/TIBの間で,基準夜から第6日目まで正の相関が認められた。3)神経症群では熟眠感,目ざめの爽快感,睡眠の時間とTST/TIBの間で,基準夜と第1日目,第5日目と第6日目に正の相関が認められた。この睡眠の主観的評価や客観的所見が,精神生理学的状態の一部を反映するものと思われた。これより森田のいう絶対臥褥期の定型的な経過を睡眠の主観的評価や客観的所見から検討すると,神経症群では,心身の安静期は基準夜と第1日目,煩悶期は第2日目から第4日目,退屈期は第5日目と第6日目に相当すると思われた。4)また神経症群の主観的睡眠感の評価が絶対臥褥期の後半に対照群に類似することより,絶対臥褥期が治療効果を有するものと考えられた。

慢性精神分裂病における下垂体副腎皮質機能

著者: 堀彰 ,   永山素男 ,   島田均 ,   池田佳子 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.501 - P.507

 抄録 慢性精神分裂病患者(男性44例)の下垂体副腎皮質機能について検討した。1)感情鈍麻,接触性減退,街奇症と奇妙な行動が目立つが,不安,抑うつ気分はほとんどみられなかった。しかし,午前10時の血清コルチゾールの基礎値(1回目15.2±4.0,2回目14.6±3.1μg/dl)は,対照24例(9.7±3.3μg/dl)に比較し有意に高値を示した。2)8時30分,16時,23時に血清コルチゾール濃度を測定した。8時30分に最高値,23時に最低値という正常リズムを示さなかったものは,44例中3例(7%)のみであった。3)23時にdexamethasone 1mgを投与し抑制試験(DST)を行った。翌日の8時30分あるいは16時の濃度が5μg/dl以上の非抑制群は44例中17例(39%)であった。薬物代謝酵素誘導薬投与例とるいそう例を除外しても,24例中6例(25%)がDST非抑制であった。DST非抑制群ではコルチゾールの基礎値が高く,概念の解体,幻覚体験,異常な思考内容などの症状がより重症のものが多かった。

眼疾患に伴う幻視について—Charles Bonnet症候群の1例

著者: 田崎博一 ,   渡辺俊三 ,   佐藤時治郎 ,   小田桐正孝 ,   一戸敏

ページ範囲:P.509 - P.513

 抄録 眼疾患による視力障害に伴って幻視を呈した症例を報告し,幻視出現の機構について考察を加えた。症例は67歳の女性で,両側の白内障,および網脈絡膜の変性による視力障害を基礎疾患とし,眼科での入院,検査を契機に幻視が出現した。幻視は意識清明時にみられ,色彩に富み,内容は多種多様で,大きさ,形,数,位置を変化させ,また,視力障害の強い左眼でより優勢で,閉眼により増強した。病的な体験であることの自覚は保たれており,約1年間にわたり持続している。これらは,これまでCharles Bonnet症候群として報告されてきた一群の病態の示す特徴によく一致していた。幻視の発現に関して眼疾患自体の作用,それに伴う感覚遮断の状況,視覚系における解放現象,視力障害に対する不安などの心理的因子,中枢性の機能障害などのいくつかの要因が関与しているものと考えられる。

Transient global amnesiaを主症状とした良性脳炎の1例

著者: 氏家寛 ,   山本光利

ページ範囲:P.515 - P.521

 抄録 52歳の男性にみられた良性脳炎によるtranisent global amnesiaの1例を報告した。TGAはrecent memoryの選択的障害と健忘性失語を中心にしていた。脳炎は髄液所見よりウイルス性が強く疑われたが血清及び髄液抗体価の検索では同定しえなかった。とくにHerpes simplex virus type 1についてはELISA法を含め検索したが否定的であった。本例では高熱,意識障害といった脳炎による症状や髄膜刺激症状を全く呈さず,TGAのみが唯一の臨床症状であったことが特徴である。これまでの報告からは脳炎によるTGAは非常に稀と考えられるが,脳炎後遺症にみられるaxial amnesiaとの関連から実際にはもっと多く潜在する可能性を指摘した。TGAにおいて脳炎を鑑別することの必要性と早期の髄液検査の重要性を強調した。

歯状核・赤核・淡蒼球・ルイ体萎縮症(Dentatorubropallidoluysian atrophy:DRPLA)の脳波

著者: 馬場肝作

ページ範囲:P.523 - P.531

 抄録 22例の歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の脳波所見について報告した。棘波性異常はてんかん発作を有する若年発病者で高率にみられ,てんかん発作を欠く遅発症例では棘波性異常の出現率は低かった。波形としては中心領域最大の4〜7Hzの非定型な棘徐波複合が多くみられた。δバーストは前頭領域で最もめだっており,δバーストと棘波性異常との間に出現相関がみられた。22例中6例に光過敏性が認められた。臨床経過と脳波変化について縦断的に調べてみたが,その結果,疾病末期に棘波性異常が消失する症例群と消失しない症例群とがあることが判明した。DRPLAとミオクローヌスてんかん症候群を呈する他疾患の脳波像の比較,検討を行い,DRPLAの脳波像は疾患特異的ではなくその臨床像の反映,すなわち症状依存的であると結論した。

他科における向精神薬の投与状況(Ⅰ)—コンピューター入力処方の調査から

著者: 武市昌士 ,   佐藤武 ,   中川龍治

ページ範囲:P.533 - P.538

 抄録 著者らは,昭和60年5月1日より1年間の佐賀医科大学附属病院のコンピューター入力処方中の他科医による向精神薬の投与状況の分析を試みたが,今回は抗精神病薬(30例),感情調整薬(37例)が処方された67症例(精神科コンサルテーションによるものは除外した)を取り上げ,これらの薬物の投与目的と効果を主治医に直接聞き込み調査した。その結果,他科においては少量のスルピリド,アミトリプチリン,イミプラミンなどが比較的多く用いられ,投与対象のうち全科に共通したものとしては不定愁訴,疼痛,術前術後の不安,抑うつ状態などがあり,各科に独自なものとしては,排尿困難,制癌剤の副作用,パーキンソン病のON-OFF現象,睡眠時無呼吸症候群などがあり,広範にわたっていた。本論文においては,以上のような投与対象の中の代表的症例を取り上げて呈示し,さらに内外の文献を加え,考察検討した。

久留米大学におけるコンサルテーション・リエゾン医療—御用聞き的発想

著者: 三重野謙二 ,   中村純 ,   高向和宜 ,   児玉英嗣 ,   原尻慎一郎 ,   堀川喜朗 ,   向笠広和 ,   稲永和豊 ,   堀川公平

ページ範囲:P.539 - P.543

 抄録 わが国におけるコンサルテーション・リエゾン精神医療はまだ歴史が浅い。本格的なコンサルテーション・リエゾンサービス(CLS)を行っているという施設は少なくないが,そのほとんどはコンサルテーションの域を離れていないのが現状であろう。その理由として,一つにはCLSの対象となる総合病院,中でも大学病院における特殊性としての各科の独立性や頻回のスタッフの異動があげられる。もう一つのより根本的な問題としては,当事者間の潜在的(前意識,無意識的)問題を表面化させることを出来る限り避けようとする日本人特有の精神構造があるのではないかと思われる。こうした面を考慮し,久留米大学ではコンサルテーションとリエゾンの機能を兼ね備えた「御用聞き」的発想(堀川)に基づき,昭和58年よりCLSを開始した。本論文では,カルテ及びアンケート調査の結果を報告するとともに,「御用聞き」的システムについても考察を行う。

資料

一民間単科精神病院における入院患者統計—10年間隔3時点での比較

著者: 小林宏 ,   安立真一 ,   菅純子 ,   河瀬久幸 ,   竹内徹 ,   岩瀬正次 ,   川島富久子 ,   川島保之助

ページ範囲:P.545 - P.552

I.はじめに
 精神医療の流れが入院治療から外来,地域内治療へと移りつつあるといわれている。しかし一方精神病院在院患者のほうは在院期間の延長や高齢化の傾向がみられる。
 それでは精神病院へ入院してくる患者についてはどのような変化があるのであろうか。この種の大学病院精神科の統計報告は多い5,7)が精神科単科病院の報告はまだ少ない。著者は以前当院の新来患者統計を調査した2)が,新来患者の入院する比率は減少していることが明らかとなった。再入院患者の実態がどのように変化しているのであろうか。最近の10年間隔の3期間に当院へ入院した全患者を対象として,調査し,その推移を検討したので報告する。

短報

Rabbit syndrome,高血圧,低カリウム血症性ミオグロビン血症を伴った悪性症候群の1例

著者: 安川昌子 ,   安川健一 ,   大河内博雄

ページ範囲:P.553 - P.555

I.はじめに
 悪性症候群の病因として,基底核や視床下部におけるドパミン受容体の遮断が広く信じられている1)。しかし,急激な血圧の上昇とともに発症した今回の症例では,カテコラミンの過活性も同時に存在した可能性がある。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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