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雑誌目次

雑誌文献

精神医学29巻7号

1987年07月発行

雑誌目次

巻頭言

精神衛生法の改正

著者: 高柳功

ページ範囲:P.676 - P.677

 精神衛生法が,20年ぶりに大幅改正される。この原稿が活字になる頃には,すでに国会を通過しているかも知れないが,現時点で筆者の考えをのべてみたい。今回の改正は,前回に比べても,精神科医療の現場に与える影響は,かなり大きいと思われるからである。
 ことの発端は,昭和59年3月に明るみに出た宇都宮病院事件であるが,それ以来3年間の法改正にいたるまでの動きは,かなり慌ただしく,急ぎすぎのきらいがないでもない。

展望

精神科領域におけるデキサメサゾン抑制試験の臨床的意義—第2回

著者: 星野仁彦

ページ範囲:P.678 - P.690

Ⅲ.感情障害に於けるデキサメサゾン抑制試験(DST)
 13.ストレス要因とうつ病に於けるDST
 感情障害の発症には,様々な心理的ストレスの関与が指摘されているが,このようなストレス要因とうつ病の生物学的背景との関連性についてはまだ明らかになっていない点が多い。Zimmermanら327)は,130例のうつ病(DSM-Ⅲ)の入院患者に於て“life event”(生活歴)を詳しく聴取し,Axis Ⅳの心理社会的ストレスの強さを調べてDSTの結果との関連性を調べたところ,Axis Ⅳの得点が高いほど,即ち発症前の心理社会的ストレスが強いほどDSTの異常反応の比率が低かったと報告している。またSashidharanら273)は,DSTの抑制不全群と抑制反応群の間で,病相期間の長さと病前のlife eventの重篤度を比較検討したところ,DSTの抑制不全群の方が病相期間が有意に短く,病前のlife eventが重度の傾向を示したと報告している。一方Dolanら103)は,72例のうつ病患者に於てlife eventの重篤度とDSTの結果の関連性を調べたところ,両者の間に関連性はなかったが,尿中のfree cortisol値はlife eventの大きい患者でより高値を示したと報告している。
 さて,Coccaroら77)は,既に発症したうつ病患者のDSTに及ぼす心理的ストレスの影響を研究している。即ち彼らは,大うつ病(RDC)の患者41例とその他の精神障害の患者40例を対象として入院後2〜6日以内にDSTを施行したところ,入院後2日以内にDSTを行った大うつ病の患者は,入院後3〜6日後にDSTを行った大うつ病やその他の精神障害(DSTの時期は問わず)よりもDSTで抑制不全を示す比率が高かったと報告している。彼らによればこの結果は,大うつ病の患者が入院に伴う心理的,生理的ストレスに対して敏感であることを示唆すると同時に,DSTの有用性はその施行期間の妥当性と密接に関連することを示唆しているという。

研究と報告

旅行精神病について

著者: 福田一彦

ページ範囲:P.691 - P.695

 抄録 旅行精神病の2例を報告した。1例は49歳,男性で,欧州に8カ月滞在中,注察,被害,追跡妄想,幻聴が出現し,欧州の数カ所の空港を俳徊し,抑うつ的となり,自殺を図ったところを保護された。帰国後1カ月ほどで回復した。他の1例は41歳,女性で,東北新幹線で東京から東北本線の某駅に向う途中,追跡妄想,幻聴が出現し,意識がもうろうとなって,タクシーで徘徊中に保護された。入院して数日で落着いた。Nilsson(1966)は外国旅行中に起こる精神障害を旅行精神病と呼んだが,国内旅行でも起こると考えられる。孤立感を抱き易い性格や出発前の生活上の葛藤から急激な妄想反応を呈するに到る。病因として病前性格,孤立感,疲労,不眠,心理葛藤が考えられる。旅行精神病は精神障害者の旅行とは異なるが,移民,外国人留学生,聾者の精神疾患と多少とも共通する心理機制と症状を有する。

操作的診断(RDC,DSM-Ⅲ)と従来診断の比較検討—症例研究を通じて

著者: 町沢静夫 ,   丸山晋 ,   滝沢謙二 ,   森田昌宏 ,   飯田真

ページ範囲:P.697 - P.704

 抄録 国立精神・神経センター精神保健研究所主催の共同研究の一環として症例を通じて従来診断と操作的診断の比較を行っている。
 本論文は診断不一致例の典型的症例を取り上げRDC,DSM-Ⅲに基づき操作的診断を行い,それによって従来診断と操作的診断の方法論の違いとそれぞれの短所及び長所を検討し,現在この両者の相補的あり方が望ましいことを提起した。

精神分裂病患者の病前行動特徴—通知表における患者と同胞の行動評価の比較

著者: 原田誠一 ,   岡崎祐士 ,   増井寛治 ,   高桑光俊 ,   金生由紀子

ページ範囲:P.705 - P.715

 抄録 精神分裂病患者とその同胞の小・中学校時代の通知表を調べ,分裂病患者の病前行動特徴の抽出を試みた。通知表の記載から盲検的に行動項目の一覧を作成し,項目の存否に関する明確な評価基準を作った上で評価を行い,盲検をといた後に統計学的検討を加えた。
 その結果,「作業を厭わず進んでする」など11の肯定的に記載されている行動項目で有意差があり,いずれも同胞に多く認められた。一方,「自主的に行動出来ず,頼りがち」など5つの否定的に記載されている行動項目で有意差があり,いずれも患者に多く認められた。また,行動特徴の経年的な推移も調べたところ,患者と同胞の行動特徴の差異は小学校低学年から認められるが,小学校高学年で顕著であった。さらに,有意差の認められた病前行動特徴の組合せによって,患者と同胞の分離がかなり可能であることを示した。

西ドイツにおける精神分裂病の宗教的内容の妄想(Ⅰ)—臨床的特徴について

著者: 立山萬里 ,   浅井昌弘 ,   保崎秀夫 ,  

ページ範囲:P.717 - P.723

 抄録 西ドイツ・チュービンゲン大学神経科に1984年度に入院した精神分裂病者(ICD9:295)280例の内,56例(20%)に,病歴上,宗教に関する内容の妄想を認めた。病型分類では,妄想型(2953)30例(53.6%),分裂情動型(295.7)14例(25%)など,であった。何らかの妄想を有する分裂病者の24.4%に,病歴上,この宗教的妄想が認められ,他の病型より,分裂情動型に出現率が高かった。また,宗教的妄想のない分裂病群や,他の妄想主題を有する分裂病群との比較で,次の様な特徴があった。1)男性に多い傾向。2)急性ないし亜急性の興奮を示すものが多い。3)"波状"経過型が多く,"単純"経過型(Bleuler, M.)が少ない。4)他の妄想を有する群よりも,発症より長い期間を経て出現し,その持続傾向は弱い。以上より,宗教的妄想は,分裂病の中でも,急性の情動症状を伴う亜群(例えば不安-恍惚精神病)に親和性を有すると言えた。

被爆者37例にみられた精神障害—被爆後40年の調査

著者: 野中猛 ,   遠山照彦 ,   中沢正夫 ,   安東一郎 ,   林英樹 ,   三浦弘史

ページ範囲:P.725 - P.733

 抄録 原爆被爆後40年の時点で被爆者にみられた精神障害像を検討した。対象は現在の生存者36万人(被爆者手帳保持者数)のうち,1985年度本院被爆医療科に受診した東京都在住の814例の中で精神科に受診した37例である。内訳は,男11人,女26人,平均年齢61歳,爆心から2km以内の被爆54.5%,急性放射能障害を呈したもの65.6%である。精神障害像の分類はDSM-Ⅲによった。その結果,器質群7例・内因群14例・妄想群3例・不安身体症状群11例・人格障害群2例の5群に分類した。
 従来の研究がいわゆる‘神経衰弱状態’に注目したのに比し,40年の経過の中で精神病状態が少なからず発症していることが目立った。その特徴は,非定型的な症状が混在していること,病像が経過の中で変遷すること,全ての例で不定な身体症状を伴うことがあげられる。その病因論は今後の課題に残された。

日本各地の月自殺率と月間日照時間

著者: 江頭和道 ,   鈴木尊志 ,   阿部和彦

ページ範囲:P.735 - P.740

 抄録 日本全国から気象学的にほぼ均質な8地域を選び,1950〜1957年のその地域の月自殺率と月間日照時間(いずれも月日数30日に換算した値)との相関を調べた。各地域において,月別平均自殺率と月別平均日照時間の1年を通しての変動パターンは,冬期を中心によく似ている。冬期の月自殺率と月間日照時間との間の相互相関を8年間のデータについて調べると,北海道,東北東部,東京,中京,大阪では,11,12,1,2月の月間日照時間とその1カ月遅れ(12,1,2,3月)の月自殺率が有意かつ中等度の強さの正の相関(r=0.4〜0.5,p<0.02)を示した。北陸では,12,1,2,3月の月間日照時間と同じ月の月自殺率とが有意の相関(r=0.50,p<0.01)を示した。北部九州,中・南部九州では有意の相関は得られなかった(p>0.1)。冬期における日照時間の延長が,抑うつ状態への影響を介して,自殺を増加させる可能性が示唆される。

国立療養所におけるてんかん専門外来の試み—第1報 2年間の臨床統計

著者: 久郷敏明

ページ範囲:P.741 - P.750

 抄録 国立療養所山陽荘病院に,てんかん専門外来が開設されて以降2年間が経過した。この間に受診した502症例を対象に,主として初診前の治療状況を検討し,以下の結論を得た。
 受診患者の65%がてんかんと診断されたが,初診前にみられた問題点として,診断学的には,類型診断とそれぞれの予後に応じた指導,治療学的には,類型の相違に対応した適剤選択と血清濃度に基づく適量の決定のいずれもがなされていないことが指摘できた。

てんかんの発生率と有病率—観察と推定

著者: 坪井孝幸 ,   萩原康子

ページ範囲:P.751 - P.761

 抄録 1)一定地域に居住の3歳児17,044名(集団の95%を含む)を対象として,てんかんの3歳までの累積発生率を調べ0.43%が得られた。
 2)3歳児集団の神経生理学的状況を調べ,6〜11年間にわたり追跡調査を行い,さらに80歳に至るまでのてんかん発生率の推定を行った。(a)3歳までに無熱性けいれんの既往のあったもの(0.90%)のうちの半数(0.45%)が6歳までにてんかん発病となった。(b)3歳まで無発作のものの10%無選択抽出1,323児を対照群として調べ,9〜14歳までの追跡期間中に0.23%がてんかん発病となった。(c)熱性けいれん1,406児(8.2%)の追跡により,その1.7%(3歳全人口17,044の0.14%に相当する)がてんかん発病となった。(d)これらを合計して,9〜14歳におけるてんかん累積発生率0.82%が得られた。

棘波脳波異常を示す非てんかん患者の臨床的,追跡的研究

著者: 角南健

ページ範囲:P.763 - P.771

 抄録 本研究の目的は,棘波脳波異常のもつ臨床的意義と,てんかん発作発症に及ぼす要因の関与を解明することにある。てんかんの遺伝子型表現とみなされる棘波を示した非てんかん患者850名(病院受診の全非てんかん患者11,773名の72%)を対象として,その特徴を分析し,臨床経過の追跡調査を行った。年齢は3〜8歳,臨床症状は頭部外傷と頭痛,棘波異常型は陽性棘波と棘波を伴う徐波群発がそれぞれ過半数を占めた。1親等近親者におけるけいれん罹病率4.7%は,棘波のない非てんかん患者での2.5%より有意に高かった。564名は1〜24年間の経過が追跡でき,その62%で臨床症状は消失していた。てんかんへ移行した患者は10名(1.8%)あり,残りの554名と比較して,男,年齢0〜4歳,臨床症状初発0〜6歳,精神発達遅滞,棘徐波結合脳波異常,分娩時障害の各要因がより多かった。これらの6要因は,てんかん発作発現に大きな影響を及ぼしていると推測された。

“Hyperphrenie”,けいれん性発声障害,眼瞼・口部・横隔膜のdystonic spasmを示した1例

著者: 奥野洋子 ,   中安信夫

ページ範囲:P.773 - P.785

 抄録 エコノモ脳炎後遺症に特異的と考えられたHyperphrenieは,多動性,感情障害,精神病質様性格変化を主症状とする精神症状群である。我々は脳炎の既往のない1男性例(発症時49歳)にHyperphrenieが出現したのを観察した。精神症状は①多動を混じた寡動性,②食欲変化,③気分変調,④退行的性格変化,⑤幻覚・妄想が認められ,知的機能の障害はみられなかった。これらは全体としてHyperphrenieに酷似していたが,精神運動性および感情障害については,Bradyphrenieの要素を混じていた。神経症状は①けいれん性発声障害,②眼瞼・口部・横隔膜のdystonic spasm,③軽度のパーキンソン症候群,④発汗過多が認められた。本症例は疾患論的には不明にとどまったが,けいれん性発声障害およびdystonic spasm(Meige症候群)との関連で考察したところ,従来の文献中にも類似の精神・神経症状を呈したものが2例見出された。本症例の障害部位は,基底核以下の脳幹部であろうと推定された。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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