icon fsr

雑誌詳細

文献概要

研究と報告

精神科特殊薬剤療法におけるDoridenの併用について

著者: 長坂五朗1

所属機関: 1堺脳病院

ページ範囲:P.59 - P.65

I.はじめに
 この論文は日常われわれ専門家がふつうのこととして行なつている催眠剤あるいは睡眠剤とほかの特殊な薬剤との併用の実際を,一般臨床医家のためにまとめてほしいというCIBA製品の求めに応じて書かれたものである。
 精神疾患者の多くが不眠という症状を示すことは周知のことであるが,ここで問題としてとりあげたのは,不眠が主症状ではなくて,幻覚,妄想,興奮,異常行動などの一部の症状として不眠がみられるものであつて,このような場合,不眠という症状は上述の症状に比較すると,かなり重心の軽いものとなることは否定できない。治療の中心はどうしても幻覚,妄想などの精神病としての特殊な症状に対して行なわれることは当然であつて,各種の精神神経安定剤が主役をなすことはむろん申すまでもないことである。その場合不眠とかあるいはイライラとかおちつきがないなどの症状が必然的に随伴現象として認められるので,われわれはいろいろの睡眠剤や鎮静剤を好んで併用する。ここではDoridenをかなり長期間いろいろの程度に併用した例を集めてみたわけであるが,Doridenのみの治療効果を云々することははなはだ困難な問題である。たとえばReserpineのみでも鎮静とともに,不眠が取りのぞかれるということはよくあることであり,Doridenを加えたからとくに精神症状がいちじるしくよくなつたかどうかということの証明はほとんと大不可能である。ただ経験的にDoridenを加えると睡眠がよくなつたと患者が訴え,逆に取りのぞくと眠れないなどと訴えることがあり,また精神神経安定剤でかえつてイライラするような場合,Doridenを加えるとそのイライラがとれるというようなことはしばしば経験するところであつて,このような経験から,われわれは患者の訴えるある種のニュアンスから,この場合にはDoridenを1gくらい付加してみようとか,あるいは0.5g加えてみようということになり,それで一応患者の訴えを解消せしめることができれば,この程度でよいのであろうとして,その量を中心に,長期間精神症状の推移を全体的に綜合判断しながら継続していくのである。このことはなにも,Doridenにかぎつたことではなく,Barbitalのこともあり,Phenobarbitalのこともあり,時には,Brovalinのこともあり,いろいろである。このような副剤としての併用はそれぞれの医師によりくせというか,好みがあつて一概にどれがよいとかいうことはできないようである。また併用の方法も精神神経安定剤の中に同時に混剤して行なうこともあり,服用時間を変えて行なう方法もあり,さらに夜間就眠前にのみ頓用として用い,1日単位の療法としては併用療法と考えられるような方法もある。これの決定は患者の症状あるいは生活状況により,その訴えるところにしたがつて適当に選ばれるであろう。さらにChlorpromazineとかReserpineなどの主剤に配合した場合,昼間眠くて,仕事ができないというようなときに,1日量を5回ぐらいに分服し,夜間就眠前に2服ぐらい服用させ,昼間は薬剤全体の身体的影響を少なくする目的で,毎食後1/5服宛のませるというようなくふうで,意外にうまくいくこともある。
 また精神科の特殊療法における薬剤療法は,その多くが長期間を要するので,おおむね1週間単位,時には2週間単位で投薬が行なわれ,主剤としての精神神経安定剤はもちろんのこと副剤としての睡眠剤も同一量を大まかに長期間続けることが多く,中には1年も2年もある量を上下しながら,症状面から廃止することができないで一見漫然投薬のようなかたちで,同じかたちで,同じような量で,療法が行なわれているというようなこともある。長期投与の身体におよぼす副作用ということが考えられるが,またそういうことも主張されているが,症状抑制の効果を勘案した場合に,容易に中止できないものもある。
 また実際の治療にさいしては副剤としての睡眠剤もDoriden 1つを併用するというのでなく,BrovalinとかBarbitalなどを種々の割合で配合するということが,ふつうに行なわれている。したがつてDoriden単一の効果というようなことを問題にすることがいつそう複雑となつてくるが,すでにのべたように,これら副剤としての睡眠剤の精神病に対する効果などは,ほとんど問題にならないところであつて,ただ綜合的に「よさそうだ」といつた程度,あるいは冬眠療法がより効果的に推進できるようだという程度のところで,客観的にDoridenの効果を論ずることはできない。このような点から,文献的にも,併用療法の報告はほとんどなく,ただSerpasilとDoridenの併用療法として,田中ら1)が報告しているのみである。これは動脈硬化症に対し,血圧を低下せしめる目的でSerpasilを使用し,同時に不眠,不安を中心とする精神症状の改善を目的として,Doridenを併用し,Serpasil単独投与の場合よりは病状改善が迅速であるように思われるとのべている。
 けだしこのような結論が妥当のところであつて,これはSerpasilだけでなく,ほかの特殊な精神神経安定剤との併用においてもいえることであろう。
 以上のように併用療法における客観的判断の困難さとその限界を指摘しておいて,以下いろいろの薬剤とDoridenの併用の実際をのべてみたい。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?