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雑誌目次

雑誌文献

精神医学3巻10号

1961年10月発行

雑誌目次

展望

最近の健忘症候群の研究

著者: 保崎秀夫 ,   岡本正夫

ページ範囲:P.811 - P.819

 健忘症候群の研究は,臨床・症候学,原因の追及などの初期の時代から,その本質,構造に関する研究,大脳病理学的研究の時代を経てこんにちにいたつているが,最近10年間のおもな業績は,精神病理学,大脳病理学,大脳生理学の面から行なわれ綜説としては,Adams, A.,Fschr. Neur. 27. 243,1959)の秀れた論文がある。以下従来の研究を懐古しつつ,最近の研究を簡単に記してみよう。

研究と報告

心因性頻渇症の1症例についての精神身体医学的考察

著者: 金子仁郎 ,   辻悟 ,   藤井久和 ,   坂本昭三 ,   小林進 ,   清水将之

ページ範囲:P.821 - P.829

 1.1日20lにおよぶ多尿と頻渇・多飲を主訴にした一症例について,身体的諸検査を施行し,尿崩症・糖尿病・慢性腎臓疾患等の器質的疾患との鑑別を行なつてこれを否定し,心因性の頻渇症と診断し,精査した。
 2.発症をもたらした心理的要因を患者および家人に対する頻回の面接により,実族歴・生活歴を調査し,あわせてロールシャッハ・テスト・TAT等の心理テストを施行し力動的に考察した。 3.患者は情緒的に未熟・不安定で社会適応の巾の狭い,いわばヒステリー性格者であり,しかも自我統合能力の劣つた個体である。
 4.頻渇・多飲は本症例の場合,過去の性的外傷体験を通して,不潔なものを洗い流すといつたsymbolic,magicalな機制によつて,症状が形成され発展したものであると考えられた。
 5.強力な精神療法開始後,数ヵ月にして主訴症状は軽快し尿比重も正常範囲内にあるようになつたが,病識はなお不十分であり,現在家人を含めての精神療法を展開中である。
 6.本症例は,心理テストでは妄想様思考を発展し易い傾向が認められているが,現在のところ,臨床的観察から精神分裂病を否定し得る状態にある

精神病者の放弄火に関する研究

著者: 広瀬伸男 ,   飯田康雄 ,   山口弘三 ,   岩崎敏夫 ,   緑川澄子

ページ範囲:P.831 - P.835

1.まえがき
 放弄火についての精神医学的業績は少なくないがFisher, O.,1932;1933のいう「病的放火」の研究は乏しい。ここに近ごろ私どものえた病的放火ことに精神病者の放弄火について,2,3の知見を報告する。
 対象とした「放火」とは,火を使い財物などを焼く行為を単にさしてその行為者に刑法上の公共の危険の認識いかんを問わず,また消火義務あるものの消火拒否のような不作為行為を含まず,「弄火」とは非合目的な火の濫用で火そのものに有意義性があると考えられる火のもて遊びをさすこととし,あえて区別して比較検討した。しかしながら精神病者という性質から一面において刑法上の放火と失火とを区別することは至難である。

自殺を中心とした老人の精神衛生学的1考察

著者: 大原健士郎 ,   奥田裕洪 ,   廿楽昌子 ,   増野肇

ページ範囲:P.837 - P.843

Ⅰ.はしがき
 青年層の自殺の激増のため,わが国の自殺率は,絶えず世界の上位を占め,各界の注目を集めている。われわれも先に,自殺を中心とした青少年の精神衛生学的な調査成績を報告したが,従来,自殺の研究は,自殺者の実数が大半青少年層に占められているため,青少年の調査に重点がおかれているようである。しかし,ここで見逃すことのできないのは,老年層における自殺率が非常に高率を占める事実である。すなわち,第1図表に大正9年および昭和33年のわが国の男女自殺率を年令別に示したが,いずれも24才を中心としての自殺率の高率と60才前後からの激増が目立つている。特に今日注目されている20〜24才の自殺率より,老年層の自殺率が,遙かに高率を占めていることは注目すべきことである。
 一方,W. H. O. 2)の報告に基づいて,わが国の老人の自殺率を他の国々のそれと比較すると,男女共にわが国の自殺率が著るしく高率を占めることがわかつている。

結核性髄膜炎後にみられた精神運動発作の1例

著者: 石川安息 ,   尾内秀雄 ,   柴田洋子 ,   森温理

ページ範囲:P.845 - P.851

まえがき
 近時,化学療法の進歩にともなつて,従来致命的であつた結核性髄膜炎の治癒率もいちじるしく上昇したことは周知のとおりであるが,それと同時に後遺症状として聴力・運動・知能障害,性格変化およびてんかん発作などが新たに注目されるようになつた1)〜4)。とくにてんかん発作との関係については,このような例の主要な病理学的変化が大脳半球基底面および側面に強い点から,側頭葉の病変に起因する精神運動発作との関連が興味ある問題として指摘されている1),5),6)
 今回,われわれは,幼時期に結核性髄膜炎に罹患し,その後まもなく性格変化とともに精神運動発作を示すにいたつた1例を経験し,その病因に関しての2,3考察をこころみる機会をえたので報告する。

小児分裂病の急性症状と身体意識

著者: 阪本正男 ,   松岡和子

ページ範囲:P.853 - P.858

 1)小児分裂病徴候論を展望して,対人関係・自閉傾向を論じたものと,身体意識の変容を主として扱つたものがあることをのべた。
 2)急性分裂病の症例をあげ,その身体意識の変容が急激に一過性におこることをBender Gestalt Testその他の投影技術を用いて示した。
 3)異つた学問的,社会的立場にある先進者たちが,記述した種々の徴候群が同一の患者に一過性につぎつぎとあらわれることもありうることを明らかにした。

慢性分裂病に対する大量薬物療法

著者: 伊藤篤 ,   平田正和 ,   栗田三郎 ,   寺島正吾 ,   楠原保 ,   田中邦男

ページ範囲:P.861 - P.866

Ⅰ.はしがき
 レセルピン,クロールプロマジンにはじまる精神薬物は,フェノチアジン系薬物の相つぐ登場によつていつそう補強され,精神障害の治療は一大飛躍を遂げたかにみえるが,精神病院の入院患者のほぼ60%を占める慢性分裂病に対しては十分な成功をおさめていないというのが実状である。その原因の1つは数多くの精神薬物が十分な臨床的スクリーニングを経ないままに臨床医に手渡されてくるために,無方針に使用されるという点にもあるが,それはそれとして,精神薬物のいずれもが慢性分裂病に奏効しないというのは,それは薬物療法そのものの限界を物語るものなのか,あるいは,現在広く実施せられている精神科治療指針に準じた常套的な薬物投与の方法に問題があるのか,いずれにしても,そこにひとつの問題があるのは事実である。
 慢性分裂病に対する治療方針の最近の方向は,オープンドアの治療環境のもとで,積極的薬物療法を行ないながら,リハビリティション,作業療法などを通して,患者の社会性の回復をめざすという方向に向かつているが,いずれにしても,現状では薬物療法がその根幹になつているのは否めない。

Isocarboxazidの使用経験

著者: 薄井省吾 ,   平松直 ,   長尾堯司

ページ範囲:P.869 - P.871

緒言
 近時うつ状態に対する治療薬として,モノアミン酸化酵素抑制剤が注目され,すでに数多くの製剤が登場しているが,いずれも一長一短がある。Hoffmann-La Roche社製のモノアミン酸化酵素抑制剤(MAO inhibitor)Enerzerすなわち,Isocarboxazidは作用がきわめて強力で毒性が少ないものとして知られており,狭心症,関節ロイマチス,うつ状態およびうつ病に対する有効性が海外においてすでに数多く発表されている1)〜6)。今回われわれは武田薬品工業のご好意によりエナーザの提供をうけ,抑うつ状態を主症状とする患者に使用する機会をえたので,ここに報告する。

慢性精神分裂病に対するMethopromazineの使用経験

著者: 渡部竜一 ,   八島祐子 ,   太宰昭馬 ,   佐藤利夫

ページ範囲:P.873 - P.876

1.まえがき
 近年,精神科領域における薬物療法は急速な発達をとげた。その中でことにPhenothiazine誘導体に関する研究がさかんとなつて,相ついで精神疾患の有力な治療剤として,Chlorpromazineを初めとする数多くのものが登場してきている。
 われわれはこのたび,新Phenothiazine誘導体の1つMethopromazineを試用する機会を与えられ,慢性分裂病に対しての使用経験をうることができたので報告する。

資料

精神障害者の入院について—第3編 英国の制度

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.879 - P.884

はじめに
 第一,第二編では,日本の制度すなわち精神衛生法を中心に,その解説と批判とを展開したが,本編以降は欧米の制度を紹介する。ただ資料は手許にあるものに限つたのでその数は少なく,しかも教科書的なものが大部分なため,これで紹介するのはいささか気がひける感がする。それにもかかわらず敢えてこれを試みるのは,制度の単なる紹介でなく,各国の制度の比較からもつと掘り下げて考えてみたいと思つたからである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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