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雑誌目次

論文

精神医学3巻11号

1961年11月発行

雑誌目次

展望

精神分析学の展望(3-Ⅱ)—主として自我心理学の発達をめぐつて

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.891 - P.904

第3部(つづき)
Ⅰ.生命的世界における自我の適応
 3.環境に対する自我の自律性――自動性と柔軟性――
 8月号でのべたように,Hartmannは,生体organismとしての個体が,環境に対して自己の主体性(能動的維持active maintenance:Haldane)を維持しながら,一貫した独自の時間的発達を営み,一定の適応状態に達する適応過程を,機能的には,葛藤外の自我領域構造論的には,自我装置,発達論的には,その内的成熟に基づく,生体の内的緊張(エス)の圧力からも,外界(環境)の圧力からも独立・自律した自我の自律的発達の概念によつて,自我心理学的に理論づけた。このような自我発達理論は,一定の行動型や精神機能の発達が,後天的な環境の影響から独立した中枢神経系の内的成熟(例:皮質統合corticalization)に基づく可能態readinessの成立を前提としてのみ可能であるという,Andrés Thomas,Ajuriaguerraらの発達神経学の見解,ひいては,個体内に潜在し,顕現して行く生命力élan vitalに関するBergsonの「創造的進化」の見解を神経学の分野に導入したMonakow,Mourgueの時間的局在の概念と関連ずげられ,さらにGesell,Buhlerの発達心理学を経たSpitzらの,乳幼児の母子関係(対象関係)における対象認識能力(自我)の発達の発達神経学的基礎に関する研究によつて,経験的・実証的に追求された。(以上8月号要旨)

研究と報告

精神科領域からみたバセドウ氏病に対する手術効果の調査

著者: 福島幸雄 ,   田辺晋 ,   越後一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.907 - P.910

Ⅰ.まえがき
 甲状腺機能亢進症,とくにバセドウ氏病の治療として,従来から行なわれている摘出術のほか,最近では抗甲状腺剤,さらに,放射性沃度の利用など,いろいろこころみられてきて,治療面において新しい発展がみられる。
 これらの治療法にはそれぞれ特色があるが,その適応範囲,副作用,治療効果などについて,なお未解決な点が多い。なかでも摘出術は抗甲状腺剤の使用により,手術後のクリーゼの予防が行なわれるようになつたためその危険は,ほとんどのぞかれ,その手術成績も優秀であり,いぜんとしてその有用性は大きいとみなくてはならない。

進行麻痺の病後歴

著者: 明石淳 ,   石川俊輔 ,   吉田光雄 ,   森井章二 ,   大島重利 ,   宮佐恭平 ,   多田勲 ,   岩田高

ページ範囲:P.913 - P.919

緒言
 われわれが日常精神病患者を扱つていて,いつも心に残ることは,これらの患者たちがわれわれの手を離れたのち,どんな運命をたどつているであろうかということである。進行麻痺については,マラリヤ療法出現以前の,そのまま放置すれば,大多数が数年を経ずして死亡してしまつていた時代1)に比べると,現在のわれわれは,はるかに有効な治療法をもつてはいる。しかしわれわれの行なつた臨床統計2)でも示されるように,退院時にどうにか一人で社会に適応してゆけるもの(治癒,社会寛解を含めて)は,わずかに32.6%で,まだまだ十分な治療体制が確立されたとはいえない。
 このようなことから,資料は十分ではなかつたが,われわれの治療法の反省や,この疾患の今後の医療的あるいは社会的な対策について,なにがしかの示唆がえられたらと思い,この病後歴の調査を行なつた。

精神科領域におけるD206(Timovan)の使用経験

著者: 坂本玲子 ,   平賀旗夫

ページ範囲:P.921 - P.925

 D206は,N-(3-Dimethylaminopropyl)-Thiophenylpyridylamin塩酸塩の水化物で,中枢および末梢抑制作用を有し,さらに強力な抗ヒスタミン作用,抗アレルギー作用,および耐容性を示すものといわれ構造式は第1図のごとくである。その作用をクロールプロマジンと比較してみるとき,使用上クロールプロマジンと類似しているとはいえ,作用発現時間は速く,副作用は少ないものといわれている。われわれは,最近新自律神経安定剤D206(Timovan)**に関する臨床実験を行ない同剤を投与せる被検者のうちより確実な観察をなしえた29例を選び,若干の知見をえたので報告する。

資料

精神障害者の入院について—第4編 アメリカの制度

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.927 - P.932

資料
 (1)Mayer-Grossらの精神医学教科書(2)Hendersonらの精神医学教科書(3)Noyesらの精神医学教科書(4)Guttmacherらの著書(5)American Handbook of Psychiary(6)Louisの著書,その他。

動き

米国精神病院の印象—チーム・ワーク,精神科看護,作業療法

著者: 高橋彰彦

ページ範囲:P.935 - P.939

 米国の精神医学に関しては,いままでに多くの先輩がその見聞,体験や研究を紹介,報告されており,もはやそれらにつけ加えるべきことはほとんどないかのようであるが,私もWHOの留学生という資格で,半年間にわたり米国とカナダの各地をみて歩き,直接精神病院,児童精神病院や精薄施設をみる機会に恵まれ,自分なりの印象や感想をもつて帰つたので,あえて蛇足を加えることとする。したがつて,私がこれからのべることは,米国精神医学の全般にわたるものではなく,とくに私が強く印象づけられた2〜3のこと,主として州立精神病院や州立精薄収容施設のことについてだけのべるつもりである。

紹介

“意識内容と大脳機能との相関関係”—Karl Spencer Lashleyの機械論的心身論(1)

著者: 福田哲雄

ページ範囲:P.941 - P.946

まえがき
 1959年5月22日発行のScience誌は,L. Carmichael博士(Smithonian Institution, Washington, D. C.)の一文によつてKarl Spencer Lashleyの訃報を全世界に伝えた。1958年8月7日,この“おそらく今世紀のもつともすぐれた神経心理学者”(D. O. Hebb;Am. J. Psychol.,1959年3月号)は,欧州旅行の途中フランスのポアティエールにおいて,満68才の生涯を閉じたのである。学者としての彼の生涯は,まことに華やかなものであつた。実験心理・神経解剖・大脳生理の各分野にわたつた彼の貢献は,誰もが認める非凡さと独創性とを備えている。
 この一文は,Lashleyの訃報を知つて以来,筆者の念頭にあつたもので,2年という時間的なずれは環境的な理由にもとづいている。執筆を思いたつた理由は,筆者と故人とが生前に多少の交際をもつていたという個人的なものもあるにはあるが,それにもまして,彼の学問的な成果とそれをもとにして組み立てられた仮説や理論の卓抜したみごとさを広く日本の精神医学者に紹介したいという願いからである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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