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雑誌目次

論文

精神医学3巻12号

1961年12月発行

雑誌目次

特集 非定型内因性精神病

非定型内因性精神病

著者: カールレオンハルト ,   黒沢良介

ページ範囲:P.955 - P.957

 Montrealの世界精神医学会議において著者は非定型内因性精神病についてのSymposiumで非定型精神病の問題を種々の側面から明らかにする機会をもつた。著者はそのさい,問題の歴史的発展にふれた。この論文はMontrealでの発表に関連はあるが,課題を少し狭くとつてみたい。日本の学者が多くの価値ある業績中に非定型内因性精神病の問題について一般的な見解を詳細に検討しているから,著者はそれにふたたび立ち入る必要はない。著者は著者自身の見解――それは長い間にまたある発展をした――について概観することに制限しようと思う。大部の臨床的,遺伝生物学的研究において著者はそううつ病と分裂病の傍に症候学的,遺伝学的に独立した一連の精神病が存在することを確立しようとこころみた。著者は大部分WernickeとKleistの分類にしたがつているが,著者が“Psychiatrie der Gegenwart”に詳細に発表しているように,いくぶん異つているところもある。
 著者によればそううつ病の中には両方の極の症状を示す循環型の傍に,著者が名づけるように,単極の(einpolig)ManieあるいはEuphorieと,単極のMelancholieあるいはDepressionがあることを,著者は提議した。Kleistはそううつ病は一般に,それぞれ独立し,ただ相互にある親和性をもつているうつ病とそう病に分けられるとの意見である。しかし著者の,一部Neeleとともに行なつた研究によれば,遺伝生物学的単位としてのそううつ病が確かに存在し,その傍に遺伝生物学的に独立した単極の形があることが明らかになつた。単極の形は“純粋”の形をあらわす,すなわち,あまり非定型の様相を示さないから,この場合には“非定型精神病”についてのべえない。それゆえ著者はこの疾患群から目を転ずる。一方の側のそううつ病と他方の側の分裂病との間にある形はとくにZykloide PsychosenすなわちMotilitätspsychose,Verwirrtheitspsychose,Angst-Glücks-Psychoseを包括している。

非定型精神病の概念と臨床

著者: 黒沢良介

ページ範囲:P.959 - P.965

 1.広義に分裂病を解釈するときその30%前後は非定型精神病としての対象になる。
 2.非定型精神病が示す精神症状はvielgestaltigである。われわれは発病に精神的要素が強くはたらく群,そううつ病的色彩を示す群,および自生的にまたは過労,カゼなどの身体的条件が誘因として発作的に発病する3群に分けたが,いずれも急性に人格解体を示し,episodischあるいはperiodischに経過し,本来的には欠陥像を残すことなく治癒する。
 3.非定型精神病には外向的,積極的,固陋的,攻撃的粘着的などの性格特長が認められる一方,他方にかなりの頻度に異常脳波の出現がみられ,精神,身体的な不安定性がみられる。鳩谷ののべる間脳-下垂体系の低格性と相まつて急激な人格解体をみるものと思われる。
 4.非定型精神病は30才までに75%発病し,反復発病するものが多い。
 5.非定型精神病中には発病後5〜20年の経過で何回か発作をくりかえす中に特有な欠陥像を示すものがある。その像はてんかんのWesensanderungに近い。つぎに致死性緊張病は非定型精神病の家族中にみられ,また欠陥なしに治癒する可能性を有する点より非定型精神病の範疇に入るべぎものと思われる。
 6.非定型精神病は分裂病に比べ,有負因の者が多く,家族内精神病が直系家族中にあらわれることが多い。

非定型精神病の概念—臨床遺伝学の立場から

著者: 満田久敏

ページ範囲:P.967 - P.969

 「非定型精神病」とは,考えてみれば,まことに大胆な病名である。仮りに精神病以外のものにおきかえてみると,それはたとえば非定型の神経病とか,非定型の内科疾患とでもいうべきもので,要するに非定型の疾患というのととくに変わりはないわけである。ところが,このような途方もない病名も精神病医の間では日常たいした抵抗もなく用いられ,そればかりか,学会においてはシンポジアムのテーマとしてとりあげられている。このことは精神病の疾病論,ことにその分類体系が現在どのような段階にあるかをもつとも端的に示しているものといえよう。
 周知のとおり,こんにち精神病医が一般に使つている診断の基準,つまり分類の基準は,だいたいにおいてKraepelinによつて創始され,Bleulerによつて発展させられたものである。ことに,いまてんかんを一応切り離して考えるならば,いわゆる内因性精神病を分裂病と躁うつ病の2つの疾患に類別せんとするKraepelin以来の2分主義の考えかたは,現在の精神病の分類体系のもつとも基本をなすものである。しかし同時にまた,こんにちまでの精神病の分類に関する論争も,ほとんどつねにこの2分主義をめぐつてくりかえされてきたのであつて,その代表的なものが非定型精神病に関する問題である。すなわち,非定型精神病とはごく図式的にいえば,分裂病と躁うつ病の境界域ないし両者の交錯するあたりにあつて,したがつてこれまでの2分主義よりすれば,その鑑別が当然問題となるような症例である。

非定型精神病の概念と臨床について

著者: 竹村堅次

ページ範囲:P.971 - P.976

I.はじめに
 こんにち,周期性予後良好のいわゆる非定型精神病が,主として分裂病圏内でその相当部分を占めることは,もはや異論をさしはさむ余地がなく,その存在意義は広く一般に承認されつつあるといつてよいであろう。KraepelinからBleulerへの系列で,早発性痴呆から精神分裂病へという疾患概念の変遷に,かねてから疑問を感ずる臨床家は,Kleist,Schroderの分類体系をとり,久しく変質性精神病なる病名を使つていたし,Gaupp,Mauzに始まる混合精神病の病名も同様で,これらの臨床的取り扱いが統一されないままに,しだいに拡大解釈されるようになつた精神分裂病概念の再検討をこころみる趨勢となつている。これはすなわち,われわれが非定型精神病概念の臨床的立場を確立し,あわせて内因性精神病の合理的再編成(分類)を要請するゆえんでもある。
 一口に非定型精神病といつても,その範囲をどの程度にとどめるかは,個々の症例を扱つてみるとなかなかむずかしい問題であることがわかる。たとえば単に周期性予後良好という前提だけでは,すでにその中に経過診断を含んでいるので,実際的には臨床上の応用価値がかなり減殺されるとみるべきであろう。また非定型精神病がその臨床像から,精神分裂病群中横断面的に特異的なものをもつているとしても,精神病理,身体病理いずれの面からももちろんその疾患単位性については,なお疑わしいのであり,ただその大部分が分裂病圏内にあつて単に非定型群として一応分離されうる程度にとどまり,本来の分裂病(中核群)と非定型群との境界はやはりあいまいであるといわざるをえない。ことに厳密に考えて,非定型精神病が毎常必ずしも周期性でもなく,予後良好ともいいきれぬという私自身の見解よりすれば,内因性精神病の臨床的分類にあたつてはいつそうの困難を感ずるのである。
 しかしながら,初めにかえつて特異な病像と経過をもつこれら非定型群の臨床的特徴を遺伝生物学的基礎の上に立つて検討するならば,遺伝負因の濃厚なことと家族精神病にみる同型出現率の高度なことから,分裂病中核群との差は明瞭であり,ここから内因性精神病の本質的かつ自然的分類が始まるとみられる節がある。われわれの経験上,簡単な負因調査の結果でも,定型群と非定型群では有負因率は前者が30〜40%,後者が50〜60%と相当なひらきが認められる。
 このようなわけで,私は非定型精神病の本質的概念を遺伝生物学的根拠ならびに遺伝臨床的事実に求め,遺伝的事項の概説と私見をのべたのち,ふたたび臨床上の問題にかえり,非定型精神病を日常の診療に合理的にとりいれ,他の内因性精神病と対比しつつ,新しい分類試案を提示してみたいと思う。

非定型精神病の臨床脳波学的研究

著者: 佐藤時治郎

ページ範囲:P.977 - P.992

 内因性精神病の病態生理学的研究法の1つとしてBerger以来,多くの臨床脳波学的研究が行なわれてきたが,臨床上,分裂病圏にも,躁うつ病圏にも属せしめにくい,非定型症状と経過を示す1群の内因性精神病の脳波異常性について最近注目されるようになつてきた1)2)3)4)
 これまで,内因性精神病脳波について,おびただしい報告がなされてきたが,Berger5)6)7)と同様に,これらの脳波所見に格別の異常性を見出すことができず,正常脳波と区別しえないとする意見8)9)10)や,異常性をある程度認めても,それに病的意義を見出しえないとする意見11)12)のくりかえし主張された反面,しだいにその異常性を問題にする人が多くなり,種々の病的所見が報告されるにいたつた。

非定型精神病に対する臨床脳波の寄与—その意義と限界

著者: 沢政一

ページ範囲:P.993 - P.995

 筆者は昭和25年度日本精神神経学会総会における宿題「臨床脳波」において脳波が少なくとも精神神経学における1つの方法ないし手段であるかぎりそこに自らなる限界が存在すべきことをのべた。Bergerに始まりこんにちにいたる臨床脳波は,幾多先人の努力によりその価値,ならびにその占めるべき位置をほとんど確定した。
 もちろん,基礎的,理論的にはこのような電気律動の本態,発制の機制においてきわめて多くの問題を含んでいるが,臨床的にすなわち疾患ないしは疾患群との直接の結びつきは「てんかん」に主として求められ,さらに強いていうならば脳腫瘍を含む脳内の器質的病変の局在部位決定にある程度の寄与が可能であるとするのが現在における臨床脳波の偽らざる姿であろう。

非定型精神病とてんかんとの関係について

著者: 岡本重一

ページ範囲:P.997 - P.1003

 精神分裂病や躁うつ病とてんかんとの関係については,古来種々の議論がくりかえされている。ことに,分裂病とてんかんとの関係については,周知のごとく,Müller,Medunaらのごとく両者を拮抗的であると説くもの,Giese,Mollweideらのごとく両者の合併を認めるものなどがある。このような考えの根底においては,いずれも,分裂病とてんかんを単一疾患とみなしているといえよう。しかし,少なくともてんかんの側からみると,Jackson,Wilson,Penfieldらは“the epilepsies”と複数形でよんでいるが,原因的にも現象的にも種々さまざまなものがある。また,てんかん性精神病としても,分裂病や躁うつ病にみられるあらゆる症状や状態像が出現しうる。BumkeやVollandらののべているがごとく,てんかん性不気嫌症はてんかんの既往歴がなければうつ病と区別しがたい場合が少なくなく,また,てんかんで躁状態とうつ状態の循環する場合もある。てんかん性精神病に分裂病と区別しがたい状態像の出現することも周知のところである。このような場合,一般に既往においててんかん発作ことにてんかん性けいれん発作があつたか否かということに注意し,てんかん性けいれん発作があれば,てんかん性精神病と診断するのが慣例のようである。しかし,てんかん発作の原因あるいは本態としては,脳のdischargeまたは脳の電気的活動における発作性の律動異常dysrhythmia(Gibbs & Lennox)で,それは脳波に発作性異常波として表現され把握されるものであると考えられている。しかも,subclinical seizureという語の示すがごとく,脳のdischargeは必ずしも臨床的なてんかん発作として顕現するとはかぎらない。抗てんかん剤によつて臨床的な発作が消失しても脳波的所見の改善されぬ場合が多く,また,Lennox & Gibbsがてんかん患者の両親や同胞および子供らを調査した結果によればその60%にdysrhythmiaを認めたが臨床的な発作のあるものは2.4%にとどまつたという。一卵性双生児の一方にてんかん発作があり,他者には発作はないが脳波に発作性異常波形の出現するものも認められている。
 以上のごとく考えると,分裂病あるいは躁うつ病の状態像を呈し,臨床的なてんかん発作はないが,てんかんと同様に脳のdischargeその他の身体的基盤を有するものの存在が期待されても当然であろう。一卵性双生児の一者がてんかん(大発作のほかに精神発作がある)で,他者には精神病状態だけが出現しているような症例が報告されているが(Rosanoff),かような事実も上記の期待を支持するものといえよう。

非定型精神病の臨床生化学的研究—いわゆる周期性精神病の内分泌学的研究

著者: 鳩谷龍

ページ範囲:P.1005 - P.1016

 いわゆる内因性精神病の示す病像をその心的機能の解体の様式にしたがつて,第1図のごとく,急性形式のものを左辺に,慢性形式のものを右辺に,また心的水準低下の軽度なものから高度なものへと上下に配置すると,てんかん的解体様式と分裂病的解体様式とは対極をなすといえる。
 すなわちてんかん性大発作においては,瞬間にして,全身けいれんとともに意識喪失し,ほとんど死の境まで転落するが,ふたたび急速に蘇生する。それは人間の自由性の介入を許さないまつたく画一的な現象である。これに対して,いわゆる定型分裂病においては,人格そのものの病態が問題であり,長年月の経過の中に分裂病的人格変化が進行するが,そのさい,個人の生活史的意味連関が症状内容を規定しつつ,病塑的に関与する。この2つの極の間に,周期性あるいは位相性の経過をとり,しかも一般に人格の持続的障害を示さない精神病群が布置されるが,定型的躁うつ病にあつては心的水準の低下がいちじるしくない点が特徴的である。われわれがここに非定型精神病として把握している疾患群は,病像のうえから躁うつ病的段階よりも心的水準低下の高度な病像を示し,またてんかんの精神発作や分裂病にみられる緊張病性症候群と境を接しており,症候学的にもこの3つの病圏の周辺域に位するといえよう。一般に心的機能の解体が急激かつ深刻であるほど,意識障害が高度で,病像は超個人的となり,生物学的要因によつてより直接的に規定されるといえる。したがつててんかんとともに,本疾患群のごとく急性病像を示し,周期性経過をとる疾患群の身体病理を明らかにすることは精神医学の重要な課題といわねばならない。この意味においてわれわれは本疾患群の中でもとくに周期的発病の顕著なものを対象として,臨床経過に沿つて継時的に,主として内分泌的homeostasisの動態を追求することから始めた。つぎに2,3の症例を示そう。

非定型内因性精神病の内分泌学的研究

著者: 田中善立

ページ範囲:P.1017 - P.1026

Ⅰ.緒言
 こんにちの精神病の分類は,Kraepelinのその分類体系に多かれ少なかれ基地をもつことは否めないところである。しかし,Kraepelin以来つねに分裂病と躁うつ病の関係を中心に,内因性精神病の含む内的1)2)3)4)5)矛盾を解明するため,疾病類型学的6)7)にあるいは身体的素因・病因的に遺伝生物学的8),内分泌・生化学的9)10)および病態生理学11)的立場などから追求され,論議がくりかえされてきた。そして,臨床的に分裂病とも躁うつ病とも区別しにくい症例については,従来これを両者の移行型あるいは混合型として説明しようとする立場と,非定型精神病あるいは変質性精神病などと主張する立場とが対立している。いずれにしても非定型精神病という概念は,定型精神病と対比されるべき理論上の性格をもつものであるとはいえ,臨床の実際はもとより,その他種々の点において複雑多岐にわたる多くの要因を包含するものであることは否めない。
 以上のごとく,非定型精神病がもつている事項はきわめて多く,その解明は日常の診療はもとよりとして,精神病自体の病因に重要な手がかりを与える緊急事でもある。われわれはこれらの点に着目して数年前より本研究すなわち非定型精神病の病態生理学的研究に着手したのである。

非定型内因性精神病の内分泌学的研究

著者: 山下格 ,   篠原精一 ,   中沢晶子 ,   伊藤耕三 ,   吉村洋吉 ,   高杉かほる

ページ範囲:P.1029 - P.1037

I.はじめに
 非定型精神病の病態生理を問題にするさいには,つぎの2点に注意しなくてはならないと思う。
 ひとつは,誰がみても非定型精神病という診断で納得のゆくような,はつきりとした症例を研究の対象に選ぶことである。この点があいまいでは,どんな検査成績が出ても水かけ論になつてしまう。これはきわめて当然のことであるが,非定型精神病の範囲と概念が人によつてまちまちな現在,とくに留意する必要がある。私どもは仮りに,黒沢,鳩谷らのあげる諸特徴に加えて,病状悪化の周期が必ず月経時に一致しておこるという具体的な条件をもうけ,それに合致した症例を対象にとりあげることにした。このような症例は鳩谷らの報告例1〜3)のなかでも重要な部分を占め,ある意味ではいわゆる非定型精神病の特性をもつともよくそなえたものということもできる。また比較や再検のさいにも,対象がはつきり決められるだけ紛れが少なくてすむことになろう。
 第2は,病態生理の面で異常な所見がえられたさい,その原因をひとつひとつあとづけできるような検査方法を,あらかじめくふうすることである。内分泌機能は,年令,性別はもちろん,生活環境や栄養状態などによつて大きく左右される。また精神状態の変化から大きな影響をうけることもすでに周知のとおりである。患者を診断別に分けて1回だけ検査を行ない,各群の間で成績を比較する横断面的な方法では,これらの要因にもとづく変化を正しく吟味することができない。どうしても縦断面的な研究方法を用いて,同じ患者に長期間連日検査を行ない,同時に精神および身体的状況を観察して,両者の関連を仔細に検討することが必要になる。私どもが,のちにのべる縦断面的な検査方法をとつたのはこのためである。
 これらの点については鳩谷助教授も十分に考慮をはらつておられるし,またあえて断わるまでもなく自明のことである。しかし一定の検査条件がえがたく,ともすれば過大な結論に導かれやすい研究領域の事柄であるだけに,とくに慎重な態度が望ましいと考えるのである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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