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雑誌目次

雑誌文献

精神医学3巻2号

1961年02月発行

雑誌目次

展望

てんかん—治療と予後

著者: 田椽修治 ,   後藤蓉子 ,   徳田良仁

ページ範囲:P.89 - P.96

治療
 てんかんは慢性難治の疾患であるため,その治療にも古来考えられるありとあらゆる方法がこころみられてきた。すでにHippokratesやGalenの時代から,てんかんの本態に関する臆測とともに種々な治療法が記載されており,その中には脱水療法のように多少合理的なものもあつたにせよ,こんにちわれわれが実際に応用できるものは何もない。中世紀には,半ば迷信的な草根木皮のたくいがもつぱら用いられたのも,洋の東西に共通したことであつた。たとえば1世紀前後から賞用された寄生木は,檞の木に固着して顛落しないので,Fallsucht(falling sickness)とよばれたてんかんに奏効するであろうという理由から,その後2000年近くの間慢然と慣用されてきたのである。
 てんかんの近代的な薬物療法としてまず最初に登場したのは,1857年Locockによつて見出された臭素剤であるが,これは抗けいれん作用もそれほど強力でなく,副作用もあるので,最近ではほとんど顧みられなくなつた。

制御円(Regel-Kreis)障害の表出としてのてんかん性けいれん発作

著者: ,   赤井淳一郎

ページ範囲:P.99 - P.106

本論
 無呼吸にひき続いて典型的な強直性けいれんがおこつてくるとき,pH測定の結果,生体においてはかなりの酸性化が行なわれる。明らかに,反応様式はいくつかの相期によつて経過する。第1期は迷走神経の最大興奮期であり,このときには無呼吸が著明となる。われわれはこの反応指向をトロフォトロピー2)と名づけている。第2期は強直性けいれんの最大期である。それをエルゴトロピー2)とよぶ。ひき続く第3期では,反応系はふたたび正常状態に戻る。このクリーゼの極点は無呼吸と強直性けいれんであり,その目的とするところは十分な酸性化の成就にあるように思える。自律神経性統御に関する長年の臨床観察とその知識により3つの相関をもつこのクリーゼは自律神経中枢たる間脳と延髄の障害の表出にほかならぬと考えられるにいたつている。すなわち,トロフォトロープ期に始まり急激な変化をもつて強直性けいれんを示すエルゴトロープ期へと展開し,ついで発作後睡眠の軽度のトロフォトロープ傾向をもつ後期に移つてゆく。この特殊な体制は緩和運動(Kippschwingung)の原理によつて十分に分析される。ゆえに,まずこの新しい力動的原理について臨床医学的にかつ病態生理学的にふれてみたいと思う。
 この緩和運動(Kippschwingung)の原理とは何であるか?通常,生体はその平静時には生命必須の自律神経機能を中等位,すなわち,ホメオスターゼ(Homoostase)の状態にたもとうとすることはよく知られている。しかし生体がその機能を急激に強力に逸脱されるような危機にさらされたときにはかかる静位状態を捨てねばならない。そのさい,ある種のクリーゼが瞬間的に成立してくるが,これは逸脱した一極位から始まり正常状態をこえてほかの極位へまで,激しく振動し,ついでふたたび正常位に戻つてゆく反応体制であるが,それは初め陰性相振動をもつて始まり,その能力限界,いうなれば極位にいたつたのちには緩和運動および過振動をひきおこす。ついで第3期はこの反応系は陽性相振動の形をもつて正常位に戻つてゆく。

真性てんかんの性格特徴(その1)

著者: 後藤彰夫

ページ範囲:P.107 - P.117

 1.てんかんの症候学としては精神症状,なかんずく持続的な性格変化がいつそう重要視されねばならぬという観点から,真性てんかんの性格変化についてあらためて検討した。
 2.多彩な性格特徴の中から,現在症として直接に把握できること,きわめて多数に共通してみられること,たがいに関連しあつて一連の性格特徴を形成することなどの理由から,きちようめん・融通性に乏し,執拗・くどい,粘着性,爆発性の四つをとりあげて論じた。
 3.これらの特徴はいろいろな組合わせで存在するが,きちようめん一融通性に乏し,執拗,粘着性はきちようめん一融通性に乏しを核とする環状構造をなし,爆発性は執拗一粘着性と表裏の関係をなす。
 これらの特徴は多くは発作初発前より存在し,病期とともに発作や服薬とは無関係に,P→P+U→P十U十Vの方向に推移する。
 したがって,四つの特徴は一連の関連ある特徴群であつて,これらを総括すると「精神機能の融通性の喪失,紋切型,いわば規格化と転導性の欠如。さらに特有な粘着性・緩慢(爆発性への傾向を含む)への変化」といえる。
 4.これらの特徴は発作頻度のきわめて少ない例でも著明なことがあり,また発作初発前にあるいは初発後早期にすでに形成されることもあり,反対に長年月を経てもまつたく認められぬこともある。

真性てんかんの性格特徴—その2 ロールシャッハ・テストについて

著者: 大熊文男

ページ範囲:P.119 - P.127

 1.てんかんの性格特徴として,後藤7)のあげた「きちようめん・融通性に乏し」,「執拗・くどい」,「粘着性」のうち臨床的に主として「きちようめん・融通性に乏し」のみ著明に認められた15名と,上記3特徴を認めることのできた15名,計30名の真性てんかん患者についてロールシャッハ・テストを施行し,その成績を正常成人30名の対照資料の成績とあわせて比較検討を行なつた。
 2.正常成人30名の成績との比較において,てんかん30名の成績に認められたロールシャッハ特徴は,T/R1の延長,Add. Sの存在傾向,Add. Fcの存在傾向を含めた副決定因数の増加,色彩反応におけるFC<CF+Cの傾向,Pの減少,D. R. の減少などであり,さらにT/R1 diff. の増大,dの減少傾向,低い修正BRS値を示す傾向であつた。
 3.性格特徴にもとづいて分類したてんかん両群の成績の比較によると,性格特徴顕著な群では,性格特徴軽微な群に比べWとMが減少し,相対的にDとFMの増加する傾向が認められ,Rの減少傾向と両向型体験型は逆に性格特徴軽徴な群に多く認められた。
 4.解答のさいの言語的表現に関する項目においては,てんかん両群に共通して認められたのは「微細な説明」と「過度の規定」であり,性格特徴の顕著な群に比較的広く認められたのは「まわりくどい説明・表現」,「言語的表現の不足」および「保続傾向」などであつた。

研究と報告

反抗反応—「親に対して攻撃,依存性を有する精神病質人格者について」 補遺

著者: 辰沼利彦 ,   亀井啓輔

ページ範囲:P.129 - P.136

 辰沼1)はさきに精神病質者の相当多くのものに親への依存攻撃関係があつて,それが彼らの非行の合理化に役だつていることを示した。彼らの特徴とするところは心理的な親結合が,成人後までも持続しており向自我性が強く(Kahl2)),ために他人の利益を考慮する余裕がなく,したがつてその行動は自己中心的であつて,親から絶対的愛情を要求し,矯正不能の自己偽瞞によつて親を攻撃するというような小児的心性が持続しているということである。そのために周囲のものから恐れられ,いみきらわれているということが,彼らをいつそうひがませ,反抗の理由をつくるという悪循環が生ずる。彼らは親から理解されたい,愛されたいと思うのであるが,親を理解し,親を助けようという積極的な意欲はなく,建設的生産的な目標に対してまつたく受動的,恣意的である。親と子の間に意志,感情の断層があつてたがいに相手を理解しえていない。親は子供をまつたくわがままな乱暴者としか思つていないし,子供は親のことを理解のない頑固者というふうにしか思つていない。そのくせ子供は親に反抗攻撃するということ以外の意志表示をしていない。親は子供の心を当然わかつているという先入観があつて自分の気持を知つていながら自分を悪く扱うというふうに考えているのである。
 前掲の論文において著者はその親への攻撃機制をつぎの3型に分けた。すなわちⅠ.自己の知能,性格,とくにその社会的適応性の乏しいことを自覚し,ふかい劣等感をもち,それを親の教育,躾の故として親を攻撃するもの。Ⅱ.社会的非行がすでにあつて,それに対する親の意見,叱責が彼らの劣等感と,実際には空虚な自負心を刺激して攻撃機制がおきるもの。Ⅲ.幼少時の親の冷遇,無理解な——本人がそう思つているかぎりの——躾,叱責に対して意識的な復讐を誓うものである。彼らの両親の中には相当に性格偏倚があつたり,家庭内での行動や子供に対する態度がいちじるしく適切でないものもあつたが,多くは子供の側に極端な性格偏倚があつて,親の態度は単に彼らの非行の合理化や自己偽瞞への手がかりを与えるにすぎないものが多かつたのである。しかしその後症例を増し,調査,考察を進めた結果,子供の人格よりむしろ親のほうに多くの問題を含むと考えられるものもあり,本稿はその点についてふれてみたい。

日本脳炎予防接種後の精神神経障害

著者: 市川康夫 ,   井上勝義 ,   本郷勇 ,   沢泉真一郎

ページ範囲:P.139 - P.144

Ⅰ.まえおき
 1948年から1950年にかけては日本脳炎の全国的な大流行があり,そのときの悲惨な状況については種々の報告があるし,また私たちの記憶に新しい。その後の患者発生の模様は,かつての大流行のときほどではないが,しかしいまなお7〜9月の流行期にはいると,かなりの患者が発生している17)。その治療としては,最近では種々の化学療法剤やホルモン剤が用いられてその効果が論議され,またγ-グロブリンによる受働免疫の方法などがあつて,治療成績が改善されているが,しかしまだ致命率は高く,また生命をたもちえてもかなり高度の後遺症を残すものが多い13)。そこで本病の予防が重視され,ウイルスを伝播するところの蚊の撲滅が行なわれてきたが,近年にいたりワクチン接種による個人的予防法も用いられるにいたつた。しかし現在行なわれている予防接種には,神経組織乳剤を含むワクチンが使用されている18)。そこでこのようなワクチンを人体に接種した場合,副作用の問題がおこつてくるのは当然である。
 周知のように,このような問題は狂犬病ワクチンに関しても古くからあつた。すなわち,1885年Pasteurによつて狂犬病予防接種が発見されるとまもなく,その副作用として精神神経障害がみられるようになつた(Gonzales 1888)。これはいわゆる「後麻痺」とよばれるもので,それに関しては従来幾多の記載をみており,現在もなおこの後麻痺をいかにして克服するかということが大きな課題とされている。しかし後麻痺は予防接種をうけた全例にあらわれるのではなく,その一部にしかみられないことから,その原因についていろいろ議論がなされている。これには,古くは変性狂犬病説,中毒説,固定毒感染説などがあつた。一方,狂犬病予防接種後麻痺でみられる病変は,主として白質をおかし,髄液腔ことに脳室壁に密接した局在をもち,左右ほぼ対称性の,きわめて広範囲にわたる脱髄性脳脊髄炎であることが明らかにされ15),それが多発硬化症の病変に類似していることが注目された。また多発硬化症の一つの研究方法10)として,実験的脱髄脳脊髄炎——アレルギー性脳脊髄炎の研究が行なわれているが1)8)9),このような実験的研究においては,接種される神経組織乳剤が抗原の重要な成分であることが明らかである。そして,これら実験的脱髄脳脊髄炎は狂犬病予防接種後麻痺と類似していることはいうまでもない。かくて,こんにちでは,狂犬病予防接種後麻痺は,神経組織乳剤を接種することによつておこるアレルギー性脳脊髄炎であると考えられるにいたつた。

家族全成員に発病した精神分裂病の1家系例

著者: 融道男 ,   小林暉佳 ,   高橋良 ,   石井清

ページ範囲:P.147 - P.152

I.はじめに
 精神分裂病の遺伝生物学的研究は,さまざまなかたちで進められているが,ひとつの興味ぶかい方法は,両親がともに分裂病者の家系についてのSchulz, B. 13),Elsasser, G. 4)らの報告である。ElsasserはKahn, E.,Schulzの集めた症例のうち,非定型分裂病および診断の不確かなものをのぞいて自己の統計に加え,分裂病両親の子供の,分裂病に対する罹病危険率を39.2%とした。
 われわれの症例は,現存の家族5人が,すべて分裂病と診断されており,調査の結果,死亡した父親も分裂病であつたと推定され,この疾患が1家族全成員に発したという例であつて,このような例はSchulz,Elsasserの各症例をみても,子供が1人で両親と計3人の家族が分裂病者である2家系例以外には見出すことができない。
 わが国では,最近社会心理学的立場から1家系例が発表されている7)が,このような例はきわめてまれなものと思われるので,調査しえた範囲を報告する。

精神科領域におけるPhenylisohydantoinの使用経験

著者: 松本胖 ,   山上龍太郎 ,   石川鉄男

ページ範囲:P.155 - P.160

 1.われわれはPhenylisohydantoin(5-Phenyl-2-imino-4-oxo-oxazolidin)を,ナルコレプシー,情動性脱力発作,うつ病,メランコリー,精神分裂病,精神神経症など計24例(男15,女9)に使用したので,その成績を報告する。
 2.使用方法はすべて経口投与とし,多くは朝食前に20mgを投与する1回法とし,時に,朝20mg,昼10mgの2回法を用い,午後2時以後の服用を禁じ,不眠を訴える例には就寝前に睡眠剤を頓用した。
 3.ナルコレプシーの睡眠発作に対しては著効,うつ病,メランコリーおよび精神神経症に対しては,その精神運動抑制,抑うつ気分,不安感,劣等感,頭重感などの症状にある程度の改善が認められた。しかし,精神分裂病の諸症状に対しては効果を期待しえなかつた。
 4.随伴症状としては,まれに不眠,食思減退などを認める以外に,不快な症状をみなかつた。 5.本剤は精神安定作用を有する精神賦活剤と考えられるが,その作用は温和で,緩徐であり,持続時間は比較的長く,Nachdepressionを発呈する傾向を認めない。
 6.以上の諸点から,本剤の適応症としては,メランコリーないし軽うつ状態,およびそれらの傾向を有する精神神経症,精神身体病などが考えられ,ことに,ナルコレプシーの睡眠発作に対しては著効があつた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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