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雑誌目次

雑誌文献

精神医学3巻7号

1961年07月発行

雑誌目次

展望

精神分裂病の心理療法の歴史

著者: 笠原嘉 ,   阪本健二

ページ範囲:P.547 - P.558

 「精神分裂病の心理療法」の研究に対して精神病医一般の関心が払われるようになったのはいうまでもなく戦後である。近々十余年の間に世界の各地で発表された文献は容易に通覧しがたいほどおびただしい数に上り,今日ますます増加の傾向にある。それらをみるとこの研究の主流をなしているのは勿論精神分析医ではあるが,伝統的精神医学の中からも積極的に寄与する学者が少なからず現われてきており,恰も今日精神分析とアカデミックな精神医学の出会いがこの研究領域において行なわれつつあるかのような印象をうける。最近刊行された伝統的なドイツの教科書にも事実この主題にかなりの紙数がさかれており「精神分裂病の心理療法」は今日ようやく精神医学一般の課題として市民権を獲得しようとしているかにみえる。
 精神分裂病への心理療法的な働きかけの歴史は想像されるよりはるかに古く長い。古くはPinel, P. 以来心ある医師たちはそれぞれなんらかの仕方で人道的な看護を企て実行してきたともいえるが,体系と方法と理論を兼ねそなえた現代の治療法としての心理療法が精神分裂病を対象とし始めてからでもすでに半世紀近くを経過している。精神医学の拠点が収容施設から大学や研究施設へと移されるにつれてこの方面への関心と努力はとみに衰退していつたが,それでも精神病への心理療法的接近の試みは精神分析医や精神病医の間で決して途絶えることなくつづけられていたのである。このような歴史をぬきにしては戦後におけるこの研究の急速な発展を正しく評価することはむつかしいであろう。

研究と報告

精神病棟における治療的雰囲気の形成について—主治医制男女混合病棟のこころみ

著者: 若生年久

ページ範囲:P.561 - P.567

 近時,多くの精神病院に立派な病棟,美しい庭,作業場などができ設備の面でも著しい改善がなされつつあるが,それでも医師,看護者の数が少く,十分な治療を行い難い状況の病院が多くあると考えられる。それゆえできるだけ医師と受持ちの全患者が接触するに便利な病棟管理形態を作り,同時に病棟に勤務するすべての人と患者との間に,あるいは患者と患者との間に,治療的に好ましい人間関係を形成しうるような,すなわち,治療的雰囲気のあふれた病棟をつくることがきわめて大切である。このとは単に人手不足や経済的理由,看護の能率化などからのみ要請されるのではなく,グループダイナミックスをうまく利用し,本質的に治療を促進せんとする医学的意味からもぜひ必要なことである。ここでは私どもが昭和34年9月1日より6カ月間実験的に行つた主治医制男女混合病棟という形式の病棟管理の経験を報告し,この問題に対する一つの資料を提供したいと考える。

てんかんの性格変化(その3)—てんかん機制を有する精神障害と性格特徴の診断的意義について

著者: 豊田純三 ,   後藤彰夫

ページ範囲:P.569 - P.581

まえがき
 てんかんにおいてけいれんそのほかの発作症状とともに性格特徴が重要な症状であることは昔から指摘されているところであるが,とくにてんかん機制を有する精神障害(不気嫌症,もうろう状態,分裂病様状態など)の診断にさいして,てんかん性の発作症状あるいは脳波所見がもつぱら重要視されるのに対し,性格特徴に診断の根拠を求めることは一般になされていない。
 本研究は性格特徴を重視する立場から,発作性症状以外の精神症状を訴えて訪れる患者の中からてんかん性性格特徴を診断基準として症例を選び出した場合,その臨床像に特異性があるか,またその脳波所見,さらにはてんかんとの関係について検討したものである。

精神症状を呈した扁桃核腫瘍の1例

著者: 西川喜作 ,   大内繁

ページ範囲:P.583 - P.587

まえがき
 脳腫瘍のうちあるものが初期において神経症状を示さず,もつぱら精神症状を呈するもののあることは知られている。精神機能の中枢である大脳やその付近に腫瘍ができれば大部分の患者に精神的変化の生ずることもまた当然のことである。Marty1)は数百例の脳腫瘍によつておこつた精神障害の研究を行なつているが,Riggs-Pupp2)はことにgliomaについて人格,情緒の変化を深く調査している。一方精神症状にかくれて脳腫瘍を誤診した例をPool-Correll3)は数多くあげて報告している。
 ところで扁桃核についてみると,この研究はつい最近になつて行なわれはじめたといつてよく,この研究も主として神経生理学的方面から追求されて,limbic systemとの関係において考えられている。しかもこれはlimbic systemの中心的存在であり,情緒,欲動の機能に深く関係していることは,沢,植木4)5),Masserman6)らの研究で明らかであり,psychomotor epilepsyとの関係もよくいわれているところである。いずれにしても扁桃核およびその付近は視床下部にも近く,ほかの部分との神経結合連絡も多く,核自身として,またrelay stationとして精神活動面に大きな場を占めることは確かである。

ペラグラ精神病の特殊な1症例

著者: 池沢至

ページ範囲:P.589 - P.594

 1.ペラグラ精神病の1例について報告した。
 2.精神症状は皮膚症状に先行して始まつたため早期診断はできなかつた。神経衰弱様状態より不安恐怖,関係・被害妄想が先行し,皮膚症状とともに昏蒙状ともいうべぎ軽い意識障害が断続的にあらわれるという経過を示した。
 3.治療は皮膚症状があらわれてから,1日量,ニコチン酸アミド,ビタミンB2,ビタミンB12,ビタミンB6,ビタミンCを連日皮下注射し,食餌療法を併用して1ヵ月間行なつたが,ほぼ2週間で皮膚症状も精神症状もともに軽快し著効を呈した。
 4・本例は,Anorexia nervosaが基盤となり,消化器性因子が加わつてペラグラ準備状態がつくられ,さらに心因性の因子が加わつて栄養不足が著明となりペラグラを発症するような栄養障害をおこしたものに,インスリンの影響が加わつて拍車をかけ,皮膜発症を促したものと考えられる。
 5.本例は,意識障害の程度や,その病状の経過が示すごとく,ペラグラ精神病としては軽度のもので予後も良好であつた。

神経質,とくに対人恐怖症に対する心理劇の試用

著者: 藤田千尋 ,   阿部亨 ,   近藤喬一 ,   高橋義人 ,   飯島裕 ,   中江正太郎 ,   大原健士郎 ,   奥田祐洪

ページ範囲:P.595 - P.599

緒言
 精神療法の過程にあつて言語的伝えの手段が実践を通しての体験手段に比べ,その効果の点ではるかにおよばないことは日常われわれのよく経験するところである。言語は伝えの過程において欠くことのできない有力な表現であることにまちがいはないが,そうであることがかえつて人間理解を誤らせることもありうる。それに反して,行為による伝えや自己了解は,それが言語的表現に比しより直接的,即物的であるために理解が容易である場合が多い。このように言語と行為は,それぞれ内包される意味が同じであつても,人間相互の伝えにいちじるしい相違が時としておこるのも事実である。われわれが神経質症者に精神治療的アプローチとして心理劇を採用したのもこの事柄が動機の一つにもなつている。神経質症の治療として森田療法は非常に卓越した療法であるが,臥褥から階段的作業を経て,漸次現実生活にいたる一連の行為体験をえさせる指導は,本療法の一技法であつて,その本来の理念は,実践的行為をとおしてのあるがままの自己実現にあると考える。したがつて,この主義が生かされるものであるなら,ほかの治療手技によるアプローチを併用しても,その特質に変わりはなく,効果の点からみてむしろ意味のある場合もあろう。われわれはこの意味において,従来から興味をもつていた心理劇の治療的意義に着目し,対人関係の場に問題意識をとくにもつ神経質症に心理劇をこころみた。
 以下Morenoの説く行為の科学を検討しながら心理劇を考え,また試験的段階の域を出ないが,われわれが行なつた心理劇の実際をも紹介しながら検討してみたいと思う。

Megimideによる脳波賦活の問題点—第2報 正常群を中心としての検討

著者: 柄沢昭秀 ,   遠藤四郎 ,   川尻徹

ページ範囲:P.601 - P.605

緒言
 脳波賦活剤としてのMeglmideの使用がさかんになるにともない,これに関しての研究業績も多く発表されてきたが,非てんかん者とくに正常人を対象とした本剤の脳波賦活効果についての検討はまだあまりなされていない。われわれは疾患群を中心とした既報の研究成績1)から,非てんかん群においてもMegimideによりかなり低閾値で脳波上に発作波型の賦活される場合があることを知り,てんかんの鑑別診断上その基準となる賦活閾値は従来漠然と考えられていたよりもさらに低値におくべきではないかという印象をうけた。そこで今回はこの問題を含め,Megimideの賦活剤としての性質をより明確に把握するために,対象の中心を正常対照群においたMegimide負荷の影響を,第2報としてここに報告する。

新催眠剤ハイミナールHyminal(2-methyl-3-0-tolyl-quinazolone)の臨床効果について

著者: 桜井図南男 ,   疋田平三郎 ,   西園昌久 ,   牧武

ページ範囲:P.607 - P.611

 睡眠障害は精神科領域の日常臨床上,最も多い症状の一つであつて,いろいろの疾患にいろいろの形であらわれてくる。催眠剤を使用する場合には,それら睡眠障害の特性に応じて適当な薬剤を選ばねばならない。
 一般に催眠作用を有する薬剤は
 1)バルビツール酸系催眠剤
 2)非バルビツール酸系催眠剤
 3)プロメタジンのような抗ヒスタミン剤
 4)クロールプロマジンのような神経遮断剤
 5)モルフインのような鎮痛剤
 のいずれかであろう。バルビツール酸系催眠剤の効果は多くの場合,適確であるが習慣性,副作用,覚醒時の不快感などのために必ずしも理想的な催眠剤とはいえない。また,3)4)5)の薬剤は選択的に睡眠障害に対して使われるものではない。

Flumezine(=Fluphenazine)による精神神経症の治療について

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.613 - P.617

Ⅰ.緒言
 Chlorpromazineが精神科領域で使用されて以来,これについで数多くのPhenothiazine誘導体が精神疾患の治療薬として出現するにいたつている。
 そしてPhenothiazine誘導体は一般的には精神薬理的にNeuroplegicaに属するけれども,なおそれぞれの化学構造上Phenothiazine核の都分あるいは側鎖の部分の変化にともなつて臨床的特性のうえから量的または質的な作用が変わつてくることが発見され,患者の精神症状の特徴により,数あるPhenothiazine誘導体の中より適当なものを選ぶことがこころみられるようになつてきた。

精神疾患に対するFluphenazineの使用経験

著者: 松本胖 ,   中島三之丞 ,   山上竜太郎

ページ範囲:P.619 - P.628

 われわれは精神神経症23例,うつ病12例,精神分裂病5例,計40例(男24,女16)にFluphenazineを投与して,その臨床的観察を行なつた。
 (1)投与はすべて経口法により,精神神経症およびうつ病に対しては最初1日量1mgを持続し,症状の軽減後に0.5mgとして1回法を続け,精神分裂病には1〜6mgを用い,3〜92日持続した。
 (2)精神神経症は23例中,著効8,有効7,やや有効4,無効4で,その不安,恐怖,苦悶,抑うつなどの感情障害,自発性減退,心気念慮などに対して効果が認められた。
 (3)うつ病は12例中,著効4,有効3,やや有効3,無効2で,その抑うつ気分変調,精神運動抑制,思考制止,罪業および心気念慮,自律神経症状などに対して有効であつた。
 (4)精神分裂病は5例中,著効1,有効1,やや有効2,無効1で,その疎通性減退,自発性減退,幻覚,妄想などに対して効果を示した。
 (5)本剤に関係があると思われる不快な症状としては,1日量1.5mg以上を用いた場合に,口渇,眩暈,全身倦怠,悪心・嘔吐,頭重・頭痛,パーキンソン病態,耳鳴,睡気,食思減退,言語障害,振戦などの身体症状と,運動不安,多動・多弁などの精神症状がみられたが,1mg以下の場合には,全身倦怠および睡気をわずかに認めるのみで,両群の間にいちじるしい差異を示す。

Thioproperazineの臨床経験

著者: 井上令一 ,   山口昭平 ,   鎌田祐子 ,   岡田功 ,   篠崎哲郎 ,   桑村智久

ページ範囲:P.629 - P.639

1.まえがき
 LaboritによるLargactil(Chlorpromazine)が精神病の治療に導入されてこのかた,これらChlorpromazineを含む一連のPhenothiazine系の誘導体によつて,精神病とくに精神分裂病の処遇に新しい面がひらかれたことはいまさらいうまでもない。しかも,これら一連の誘導体は,その結合基を異にするにつれて薬効のニュアンスを異にすることもまた知られており,臨床的にもこれら薬物を使いわけようという動きがあることは熟知のごとくである。われわれがここにとりあげるThioproperazineは,同じくPhenothiazine系誘導体の系列に属するものである。その構造式は下図のごとくである。
 すなわち,その構造式は,Chlorpromazineに比t,鎮静的な効果は2〜3倍弱いが,制吐作用においては,これに数倍するといわれるProchlorperazineに似ている。異るところはただClの代りにSulfonamide基がついている点である。Thioproperazineは,他種のPhenothiazine系誘導体に比して,いろいろの特色を示すことが知られている。たとえば,毒性はChlorpromazineより弱いばかりでなく,一般薬理作用もまた,Chlorpromazineとはいちじるしく異るとされている。すなわち,血圧降下作用や抗アドレナリン作用は弱く,抗ヒスタミン作用,体温降下作用もほとんどみられないといわれる。エーテル麻酔の強化作用もChlorpromazineに比しはるかに弱いが,犬における制吐作用は,ChlorpromazineはもとよりProchlorperazineに比してもはるかに強力である。さらに動物実験ではPerphenazineとともに,ChlorpromazineならびにProchlorperazineに比しはるかに少量で,運動不能およびカタレプシーを発現せしめるといわれている。われわれは,本剤が後述のようにDelay1)やDenber2)3)らによつて慢性の精神分裂病にしばしば効果を示すことがいわれているので,主としてこれらの点についての臨床的検討をこころみた。

動き

第4回世界精神医学会に出席して

著者: 三浦岱栄

ページ範囲:P.641 - P.644

 周知のごとく第3回世界精神医学会は本年6月4日から10日にわたつてカナダのモントリオルで,Cameron教授をChairmanとして開催され,空前の大盛況裡に終幕したが,世界各国(62ヵ国?)から参加するもの3,000名以上,まさにマンモス学会の名に恥じぬもので,わが国からも秋元,諏訪,金子,塩崎,黒丸,黒沢,広瀬,小生ら各教授のほかに数名参加,これにアメリカから駈け参じたものを加えると15名以上という豪勢さで,これまた空前のことではなかつただろうか。(今年7月パリで開催される国際耳鼻咽喉科学会にはわが国から40名以上が参加すると噂されていたが)。先年物故したフランスの高名な社会評論家André Siegfriedは,20世紀の特徴的な様相の一つとして,「大遊覧時代」という章を設けて説明しているが,まさに彼の先見を地でゆく思いがしたのは,あえて私1人ではなかろう。閉会式直前の事務会議で(各国代表者からなる),事務局長のEyがこのつぎの学会には6,000人から集まるのではないかと頭をかかえるようにしてふともらしたが,こうなつてくると喜んでよいのか悲しんでよいのかちよつと見当がつかなくなることはうけあいだ。
 さて学会の印象記事であるが,このようなマンモス学会になると,何しろ毎日10も20も同時刻に各部門のセッションがあるので,1人で全部を語るなどということは最初から不可能であり,またナンセンスでもある。したがつて同じくわが国から出席した人たちの間でも10人10色の印象記が書かれるのではないかと思う。私は学会終了と同時に,アメリカにも立ち寄ることなく,大急ぎで帰つてきたので,ホットニュースを伝えるという点では確かに適任であるが(ほかに誰もいないのだから),その私の印象たるやはなはだかたよつたものであることも,これまた確かで,もつともよいのは,秋ごろまでには本学会に出席されたお方々も大部分帰国されるであろうから,その暁に一同で座談会でも開いて語りあつたら,だいたい公正な記事になるのではないかと思い,今から提案しておくしだいである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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