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研究と報告
神経質,とくに対人恐怖症に対する心理劇の試用
著者: 藤田千尋1 阿部亨1 近藤喬一1 高橋義人1 飯島裕1 中江正太郎1 大原健士郎1 奥田祐洪1
所属機関: 1東京慈恵会医科大学神経科教室
ページ範囲:P.595 - P.599
文献購入ページに移動精神療法の過程にあつて言語的伝えの手段が実践を通しての体験手段に比べ,その効果の点ではるかにおよばないことは日常われわれのよく経験するところである。言語は伝えの過程において欠くことのできない有力な表現であることにまちがいはないが,そうであることがかえつて人間理解を誤らせることもありうる。それに反して,行為による伝えや自己了解は,それが言語的表現に比しより直接的,即物的であるために理解が容易である場合が多い。このように言語と行為は,それぞれ内包される意味が同じであつても,人間相互の伝えにいちじるしい相違が時としておこるのも事実である。われわれが神経質症者に精神治療的アプローチとして心理劇を採用したのもこの事柄が動機の一つにもなつている。神経質症の治療として森田療法は非常に卓越した療法であるが,臥褥から階段的作業を経て,漸次現実生活にいたる一連の行為体験をえさせる指導は,本療法の一技法であつて,その本来の理念は,実践的行為をとおしてのあるがままの自己実現にあると考える。したがつて,この主義が生かされるものであるなら,ほかの治療手技によるアプローチを併用しても,その特質に変わりはなく,効果の点からみてむしろ意味のある場合もあろう。われわれはこの意味において,従来から興味をもつていた心理劇の治療的意義に着目し,対人関係の場に問題意識をとくにもつ神経質症に心理劇をこころみた。
以下Morenoの説く行為の科学を検討しながら心理劇を考え,また試験的段階の域を出ないが,われわれが行なつた心理劇の実際をも紹介しながら検討してみたいと思う。
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