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雑誌目次

雑誌文献

精神医学30巻1号

1988年01月発行

雑誌目次

巻頭言

精神保健法施行5年後の見直しに向けて

著者: 富井通雄

ページ範囲:P.4 - P.5

 精神衛生法の一部を改正する法律が,昭和62年9月26日法律第98号をもって公布された。附則第9条に施行5年後の見直しが規定されてある。
 公布に続いて政省令や運用基準等が作成される運びになっている。それらが公衆衛生審議会「中間メモ」の基本的な考え方に忠実に従って作成されるよう願っているところである。その趣旨から全国自治体病院協議会・精神病院特別部会では,精神保健指定医制度,入院時告知,任意入院制度,医療保護入院及び措置入院の判定基準,応急入院の基準,入院患者の処遇等の6項目についての提案をまとめ,関係方面へ要望してきた。

展望

代謝異常による精神発達障害の治療—第1回

著者: 成瀬浩

ページ範囲:P.6 - P.15

I.はじめに
 精神発達障害という場合,主なものは精神遅滞であるが,精神遅滞という場合には,知能低下が,平均の-2S. D. を越えるものという定義が広く使用されている。このような知能低下は示さないで,しかも精神発達の障害を示すものとして,注意欠陥症候群,自閉症などが考えられる。(DSM-Ⅲの発達障害の頃では,他にReactive attachment disorder of infancyが含まれる。しかしこれらは代謝異常とは関係ないと推論されるので,ここでは除外する。)
 これらの障害と関係ある代謝異常としては,先天性代謝異常が主なものであるが,他に,先天性水俣病あるいは鉛中毒などの中毒によるものがある。また,自閉症患者の一部には,先天性か否かは全く不明だが,ある種の代謝異常が存在することも発見されている。これらの問題の中で筆者の関心のある面を中心にして,最近のトピックに触れてみたい。

研究と報告

とらわれの精神病理についての一考察—強迫神経症の1治療例を通して

著者: 長山恵一

ページ範囲:P.17 - P.25

 抄録 森田学派によって提唱された"とらわれ"の説に対する今までの諸家の批判を概観し,力動的な精神療法の観点から新たに以下の諸点を明らかにした。①森田神経質者に見られるとらわれは,患者の病的・観念的な独立欲求と依存欲求の双方が関係している。それらは共にある種の対象に異様な敏感さが見られること,奇妙な悪循環が内在すること,さらには何か他のものにしがみつくことで自らの不足感を代償しようとすることなどで共通する。両者は依存の抑圧,解放というメカニズムを介して相互に移行し得る現象である。②とらわれの発現には依存の抑圧だけでなく,患者に内在する基本的な不足感・不全感が重要な役割を果たしている。そうした不全感は患者が治療の場や自然に融合し,特異な空間的・身体的な現象が現れると同時に解消される。③森田学派で言う"自然の調節作用"と,この空間的・身体的な融合現象とは密接に係っているが,それらは患者の治療抵抗を処理した後に初めて現れてくる。

「苦悩の重圧」からみた思春期やせ症の1治療例

著者: 親富祖勝己 ,   吉野啓子 ,   宮本忠雄

ページ範囲:P.27 - P.34

 抄録 行動療法的アプローチによって症状の改善をみた思春期やせ症の症例を報告した。思春期やせ症は治療への導入もさることながら,治療そのものに困難を感じることが少なくない。そのレベルはさまざまであるが,本症のごく平均的な1症例を通じて,症状そのものの"苦悩の重圧"からその治療困難性を考察し,"二重のアレキシチミア"を手がかりに本症の特異な精神・身体状況の二分節化を試みた。すなわち本症は隠蔽された"苦悩の重圧"と"二重のアレキシチミア"が複雑に絡み合うことで,混迷した状況を作り出し,治療を困難化していると思われる。そして最後に本症への行動療法の適応についてその是非を論じた。

Gilles de la Tourette症候群の精神医学的研究—(1)症状論的検討

著者: 斉藤幹郎

ページ範囲:P.35 - P.43

 抄録 DSM-Ⅲの定義を満たす17名のGilles de la Tourette症候群の患者を,初診時年齢13から23歳の年長群10名と7から10歳の年少群7名に分け,運動性チック,発声チック,汚言,強迫的症状および症状出現の経過を検討した。運動性チックでは全例が複雑運動を含む多発性チックを示したが,複雑運動は年長群では意識された,強迫性をおびた症状となりより複雑な行為強迫症状との連続性を認めた。発声チックから汚言まではやはり連続性を示し,汚言が汚言として成立するには社会的規範を破ることを認識する必要があると推定した。各症状を患者が意識した場合は「してはいけないことをやってはいけない,しかしやりたい,やれば苦しい」という共通の構造を示し,またチックに内在する同一の繰り返しが各症状に保持されていると考えた。そして年齢の発達が強迫的症状,汚言の出現にとって必要であると結論した。

カプグラ症状を示した眼皮膚白皮症の1例

著者: 横山尚洋

ページ範囲:P.45 - P.52

 抄録 19歳から精神症状がみられ,3年間経過を観察している眼皮膚白皮症の女子例を報告した。予備校在学中に追跡妄想,関係妄想が発現し,さらに誇大的意味づけなどの異常体験へと発展したが,妄想の中心となったのはカプグラ症状であった。患者は自分の持つ身体障害について様々な解釈をこころみ,障害を克服すべく奇異な努力を行った。カプグラ症状は他者および自分自身を対象にしたもので,自らの病気に対する空想的態度に加えて,高度の視覚障害のため部分的手がかりから対人認知を行っていたことと関係するものと考えられた。さらに白皮症における精神医学的問題を論じている文献について概説した。心理的側面に注目した報告は少ないが,本症が幾多の社会的な問題を持つことから,眼・皮膚症状のみならず精神医学的立場からの配慮が必要である。

糖尿病コントロール中に大食症を合併した1症例

著者: 古川壽亮

ページ範囲:P.53 - P.59

 抄録 20歳時に糖尿病を診断され,そのコントロールのため入退院を繰り返すうちに,23歳頃から典型的なbinge eatingを始めbulimiaを呈した1女性例を報告した。bulimiaの発症にはしばしば美容を目的とした減食期の先行することが知られているが,本例では糖尿病コントロールのための食事療法が同様の契機となったと考えられた。このような意図的節食の失敗がloss of self-controlとしてbinge eatingへ導く心理機制を,症例の心理検査・治療過程から得られた所見を基に指摘した。
 糖尿病とbulimiaの合併はその生命予後の重篤さ,難治性,およびbulimiaの心理機制の理解への寄与からして格別の注目に値すると思われる.

青年期女性におけるBulimiaの実態調査

著者: 切池信夫 ,   永田利彦 ,   田中美苑 ,   西脇新一 ,   竹内伸江 ,   川北幸男

ページ範囲:P.61 - P.67

 抄録 大阪市の看護専門学校学生220名と山梨県甲府市の女子短期大学学生236名に,アンケート調査を行い,bulimiaの実態を調べた。食べ出したら途中で止められず,腹痛を来す程無茶食いをしたことがあると答えた学生の比率は,大阪において40%,山梨において31.1%であった。週1回以上過食をしていると答えたのは,大阪では,6.5%,山梨では9.1%であった。過食後に体重増加を防ぐために嘔吐したり,下剤を使用している学生の比率は,それぞれ大阪で8.7%と5.5%に,山梨で8.1%と3.8%に認められた。また1週間に,1回以上過食をしては,嘔吐や下剤の使用により体重増加を防ぐなど,DSM-Ⅲのbulimiaの診断基準を満たしていると考えられる学生の比率は,大阪では3.6%,山梨では2.1%,全体では2.9%に認められた。

在院精神障害者の死亡に関する検討

著者: 秋田博孝 ,   瀧沢韶一 ,   児玉秀敏 ,   久保摂二

ページ範囲:P.69 - P.75

 抄録 国立療養所賀茂病院における昭和51年から昭和60年までの10年間の死亡患者の実態調査を行い,死因に関連する諸要因について検討した。
 同期間の全死亡者は男性105名,女性65名の計170名であり,年平均死亡率(対1,000)は54.5である。また,全死亡者の平均死亡年齢は60.1歳で,性別を見ると,男性58.0歳,女性63.5歳となっている。

殺人を犯した覚醒剤中毒・アルコール依存症の1例

著者: 大原浩一 ,   堀尾直樹 ,   野村和弘 ,   川口浩司 ,   板谷武彦 ,   星野良一

ページ範囲:P.77 - P.81

 抄録 覚醒剤中毒およびアルコール依存症と診断され,治療を受けていた患者で,殺人を犯した症例を鑑定する機会を得た。症例は10代後半から,アルコールおよび覚醒剤に手を出し,恐喝などの問題を繰り返して起こしていた。犯行当時,覚醒剤中毒によると思われる幻覚が持続していた。飲酒テストにより容易に幻視・幻聴が惹起され,易暴力的になり,また,犯行後,事件の記憶は急速に薄れてくるという健忘を呈している。これらのことより,本症例は飲酒による病的酩酊を呈したともいえるし,覚醒剤使用経験者のフラッシュバック現象ととらえることも可能であり,単一の概念で理解することは困難であると思われた。

バルプロ酸ナトリウム追加による慢性高アンモニア性脳症の1例

著者: 土井永史 ,   益子茂

ページ範囲:P.83 - P.90

 抄録 多剤併用中のてんかん患者で,バルプロ酸追加後,嘔吐・イレウスなどの消化器症状が出現し,その増量により,覚醒水準低下・筋硬直・振戦・四肢末端の冷感・顔面ミオクローヌスなどの精神神経症状が徐々に増強した症例について報告した。この時,血中ではアンモニアが異常高値,BUNとグルタミンが低値を,髄液中ではアンモニアとグルタミンが異常高値を示し,脳波上δ波が前頭部優位に多量に出現していた。バルプロ酸中止後,血中アンモニア濃度は急速に正常化し,上記症状と検査所見は比較的速やかに改善した。
 本症例は,バルプロ酸追加に起因する慢性高アンモニア性脳症が,その増量により顕在化したものと考えられた。バルプロ酸による高アンモニア血症の発現には,アンモニアの代謝障害と産生亢進の2つの機序が同時に関与する可能性が示唆された。最後に,抗てんかん薬投与中に見られる慢性高アンモニア性脳症の臨床的意義について考察した。

言語障害(Dysphasic seizure)てんかん重積状態の1症例

著者: 佐藤圭子 ,   工藤達也 ,   八木和一 ,   清野昌一

ページ範囲:P.91 - P.95

 抄録 言語障害(dysphasic)を主徴とするてんかん重積状態の1例を報告した。24歳の男性で,15歳より,幻視,幻聴の信号症状が先行する強直間代発作が出現した。これとは別に同じ頃より幻聴と特異な言語障害を主たる症状とする単純部分発作が日に数回反復するようになった。入院中に,幻聴と言語障害を主徴とする発作が繰り返され,1〜2時間反復する重積状態も観察された。奇妙な言葉が幻聴として聞こえ,発作中には意味を持つようだが,発作後にはその意味を想起できない。また,発作性言語障害として,錯語,言語新作様の造語が観察された。さらに,次のような単一発作が反復する重積状態を閉鎖回路TV-EEG監視装置で記録した。単一発作の進展に伴い,錯語から言語新作様の造語と言語の崩壊が進行し,その時,発作時脳波は,徐波律動・広汎性の低振幅化から棘波律動を経て,不規則シータ波が現れるという経過を示した。

Haloperidol非経口投与によるウサギ血漿CPK値の継時的変化

著者: 長沼英俊 ,   藤井薫

ページ範囲:P.97 - P.100

 抄録 haloperidol非経口投与によるウサギの血漿CPK値の継時的変化を調べた。
(1)haloperidolの静脈内投与ではCPK値は上昇しない。

短報

うつ病寛解期に不潔恐怖を呈した3例

著者: 飯田順三 ,   山岡一衛 ,   川端洋子 ,   中井貴 ,   織部裕明 ,   平井基陽 ,   井川玄朗 ,   小西博行

ページ範囲:P.101 - P.103

I.はじめに
 うつ病と強迫症状や強迫性格との関連について,古くは精神分析家Abraham, K. 1)がうつ病患者の強迫的性格構造を指摘している。またうつ病患者の病前性格として認められているメランコリー親和型性格や執着性格などを,笠原2)は強迫性格スペクトルとしてとらえている。
 またGittleson3)(1966)はうつ病の経過中に強迫症状が認められた多数の症例を報告し,広瀬4)らは,うつ病の残遺状態として神経症様状態が出現し,その中で強迫症状が認められることを指摘している。

不安神経症の慢性期病像について

著者: 竹内龍雄 ,   林竜介 ,   冨山學人 ,   岡田眞一 ,   山内直人 ,   高橋徹

ページ範囲:P.105 - P.107

I.はじめに
 不安神経症は慢性化するに従ってその病像が変化することがあることは,従来から指摘されているところである(例えば高橋ら,1984)2)。しかし果たしてどのような病像がいつ頃からどの程度に現れてくるのか,より具体的な議論は未だ十分に尽されてはいない。そこでわれわれは不安神経症の自験例のうち,発症後1年以上症状が持続している慢性例45例をとりあげ,その病像をDSM-Ⅲの診断基準等を援用して各種状態像別に整理し,経年的な比較を行って,不安神経症の慢性期病像の内容とその変化について調べてみた。

精神症状と脳波異常を呈したテングタケ中毒の1症例

著者: 佐藤新 ,   坂井昭夫 ,   星敬子 ,   奥田正英 ,   内藤明彦

ページ範囲:P.109 - P.111

I.はじめに
 精神症状を発現させる毒きのこがあることは古来より周知の事実でありテングタケも精神症状を発現させうる植物性自然毒としてよく知られている2,5)。この短報ではBonhoeffer1)の外因反応型(exogene Reaktionstypen)の典型ともいうべき精神症状と脳波異常を呈したテングタケ中毒の1症例を報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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