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雑誌目次

雑誌文献

精神医学30巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

巻頭言

精神障害者の変遷

著者: 市川達郎

ページ範囲:P.366 - P.367

 筆者が精神科医として従事してから,40数年の歳月が経ってしまった。その間,桜ケ丘保養院の診療に従事するかたわら,東京地方検察庁で週一回,起訴前鑑定を30年以上継続してきた。
 その間の精神障害者の変遷を,極く表面的にふり返ってみる。

創刊30周年記念特集 精神医学—最近の進歩 第2部

精神疾患研究とJ. Hughlings Jackson

著者: 秋元波留夫

ページ範囲:P.368 - P.380

I.はじめに
 私がJohn Hughlings Jackson(1835-1911)の思想に接したのは随分昔のことである。札幌の北海道大学精神医学教室で失行症の研究2)に夢中になっていた頃,文献で彼の仕事に興味をもち,丸善からとりよせて読んだのがその数年前に出版されたばかりのSittig, O. の独訳「神経系の進化と解体」“Aufbau und Abbau des Nervensystems”(1927)25)である。原文との対訳になっているので,難解といわれるJacksonの文章をさほど困難がなく理解できた。この理論が私の失行についての思索を進めるのにどれほど役に立ったかはかりしれないものがある。
 Jacksonの研究は神経学の広い範囲に及んでいるが3,5),その中心はてんかんであり,失語研究もそれから発展したものである。しかし,神経学者である彼の最大の関心は神経系進化の最高峯である精神の問題であり,狂気とは何かを解明することにあった。

現象学的精神病理学と“主体の死”—内因の概念をめぐって

著者: 木村敏

ページ範囲:P.381 - P.388

Ⅰ.内因の概念と精神病理学
 内因性精神病の精神病理学について“最近の進歩”を語ることは不可能に近い。そもそも「内因性精神病」という概念自体がひどく大時代なものだし,精神病理学という分野に果たして“進歩”と言えるようなものがありうるかどうかも疑わしい。そこで本論においては,筆者自身が特に関心を向けているいくつかの概念について,その最近の動向を取り上げることで一応の責を果たすことにしたい。
 精神病理学はいわゆる内因性精神病のみを研究対象にしているわけではない。神経症や性格障害も身体因性の精神障害も,言うまでもなくその対象になりうるし,内因性精神病の精神病理学は事実その方法の多くを“非内因性”疾患の精神病理学的知見に負うている。しかし精神病理学,ことに人間学的・現象学的と呼ばれる精神病理学が,その誕生以来つねに中心的なテーマとして求め続けてきたのは,ほかならぬ精神分裂病と躁うつ病,それにその周辺疾患という内因性精神病の理解であったし,またそれが精神医学の他の諸分野とは際立って違った(例えば哲学的概念の頻用といった)特徴を備えているのは,それが「内因性」の病態を扱おうとしていることと無縁ではないのではないかと思われる。さらに言うならば,現代の精神医学において「内因性」というような概念が―合理的・客観主義的な精神医学からみれば許しがたく曖昧なこの概念が―まだ残されているということ自体のうちに,精神病理学の“隠れ家”があるのかもしれない。「内因」の語にまつわるネガティヴな性格をそのまま反転してポジティヴなものにしてやれば,それがそのまま精神病理学のレゾン・デートルになるのではないか,ということなのである。

精神分析

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.389 - P.397

Ⅰ.精神医学の再医学化がもたらしたもの
 1950年,60年代,アメリカでわが世の春を謳歌した精神分析は,このところ経済的理由からその地盤沈下は否めない事実のようである。Marcus, S. 23)(1984)は,アメリカにおいて精神分析は,ただ精神医学の領域ばかりでなく,積極的で,知識的そして文化的生活の中心にちかいところにあった。ところが今や様がわりしてしまったと述べている。それは,アメリカ社会の経済的地盤の低下や価値観の変容と大きく関係することであるが,同時に,精神医学が生物学的精神医学や神経科学を取り入れた再医学化の発達とも深く関連することであろう。20年ほど前に荒れ狂った反精神医学運動は精神医学者たちに,強い不安を起こした。より実証的で客観的なものを求める機運がたかまったのである。そこに,神経化学や精神薬理学など関連科学のかがやかしい発達が相ついでそれをとり入れて医学の領域で精神医学を再構築しようとする運動がたかまった。ネオ・クレペリアンなどという言葉が親しみを持って使われるようになったのである。向精神薬や行動療法は症状をいちじるしく軽減する場合のあることも明らかにされた。その結果,治療費が高価でしかも長期間を要する精神分析の需要が減少したのであろう。その上,国民総医療費の高騰を抑制するために,専門医を減少させ家庭医を増加させようとした政策が効を奏して,新卒の10数%が精神科医になっていたのが一時3%にまで低下して,長期の教育と訓練を受けてまで分析家になることを志願する人が減少したことなどがアメリカにおける地盤低下の原因として考えられるのである。
 しかし,こうしたアメリカにおけるいわば精神分析の逆境は分析家たちを謙虚にもしているようだし,何よりも精神分析の同一性をしっかりさせるのにかえって役立っていると思えるのである。すなわち,一部の経済的に裕福な人びとの召使としての学問ではなく,広く人類に奉仕する学問としていかに機能するかが大事に考えられるようになったのである。生物学的精神医学が今日,隆盛を誇っているとはいえ,かつて精神分析は精神分析専門医を志ざすと否とにかかわらず精神科医の基礎素養であったし,また,1960〜70年代にさかんになった社会精神医学も精神医学を支える柱なのである。こうして,精神医学の実践は生物-心理-社会的モデルですすめられているのである。以前よりもまして精神分析学者とその他の立場を異にする学者の協調がすすめられているのである。そうした,精神医学の再医学化が精神分析にもたらしたものをアメリカを例にとってみると次のような項目をあげることができよう。

児童精神医学

著者: 牧田清志 ,   山崎晃資

ページ範囲:P.399 - P.409

Ⅰ.まえがき
 山崎ら31)は,すでに本誌において「児童精神医学の動向」についてとくに生物学的側面における研究を概観している。また牧田15)は,わが国の児童(青年)精神医学の「将来への展望」を発表し,さまざまな問題点を指摘している。本論文では,児童(青年)精神医学の臨床領域において,最近とくに興味がもたれていることがらについてわれわれの研究を中心に概括的な展望を試みたい。

精神医学と心身医学

著者: 片山義郎

ページ範囲:P.411 - P.414

I.はじめに
 ある特定の身体疾患をもった患者に対して精神分析的アプローチを行ったことで産声をあげた近代の心身医学(psychosomatic medicine)は,すでに半世紀余の歴史を背負ったことになる。
 それは,周知のように,シャルコー(J. M. のCharcot,1825-1893)のもとで神経病学を学んだフロイト(S. Freud,1856-1939)の研究に端を発したものであり,ヒステリーの臨床研究にもとづくものであった。つまり,心理・情動的葛藤が失立-失歩(astasia-abasia)のような身体症状に置き換わる転換(conversion)機制の解明に示唆を受けたのであった。

WHO研究活動の現状—精神衛生に対する生物学的アプローチを中心に

著者: 高橋良

ページ範囲:P.415 - P.422

I.はじめに
 WHOの精神衛生研究活動は長年に亘って広範囲の分野で活発に行われていることは,すでに本誌(1981年23巻2号)で篠崎英夫氏によって適確に展望されている。特に1975年より1982年に至る第6次のWHO精神衛生中期計画では97項目の研究プロジェクトがあげられ,その中で特に精神障害の疫学的調査,公衆衛生活動の中での包括的精神衛生活動の推進,アルコール中毒及び薬物依存の予防対策の確立,精神衛生分野における代謝研究,遺伝研究,生物学的研究,社会精神医学研究の促進が留意事項としてあげられている。これらの研究プロジェクトはWHO本部の精神衛生部により調整・支援された世界的規模の研究チームと各地域毎の精神衛生課により支援された研究チームとによって今日も続行されており,すでに多くのものの成果がWHO出版物や報告,雑誌論文として発表されている。
 本論文はWHO研究活動の現状をすべて報告することは不可能なので,わが国が参加しているプロジェクトについて概観し,主として生物学的研究の現況を述べることを目的としている。しかし筆者の不勉強でもれていることがあることをあらかじめお許しねがいたい。

神経伝達物質

著者: 山下格

ページ範囲:P.423 - P.431

I.はじめに
 神経機能の特性は,刺激・情報の伝達にある。神経伝達物質は,その生化学素材となるものである。
 神経伝達物質をめぐる研究は,きわめて多彩かつ広範囲にわたり,日々に新たな発展をとげつつある。その全般的な解説は,到底筆者の能くするところではない。

覚醒剤精神病及びその精神分裂病との関連

著者: 佐藤光源

ページ範囲:P.433 - P.442

I.はじめに
 覚醒剤精神病は少なくとも2つの大切な問題をはらんでいる。その一つは覚醒剤に関連した精神障害,つまり覚醒剤の乱用,依存,それに伴う精神病状態といった物質乱用による精神障害そのものであり,臨床の実際に直結したものである。諸外国で薬物乱用問題が深刻化し,予防や治療面での国際的な対応が急がれている現状も,その社会的な影響力の大きさを物語るものである。もう一つの問題は,覚醒剤精神病を精神分裂病モデルに見立てて行う精神分裂病の成因研究である。精神分裂病はある限られた期間における特徴的な精神症状群によって診断されることが多いが,その臨床類型,経過,転帰,治療反応性のいずれをみても,成因に生物学的な異種性があるというのが最近の一般的な考えである。精神分裂病に特徴的とされる症状項目をある程度共有する覚醒剤精神病を手がかりに,分裂病症状やその再発を説明できる脳内機序が研究されつつある。こうした研究は,諸外国に先んじて日本で活発に行われた歴史がある。なかでも立津らの臨床研究や臺らの実験的な研究—とくに『履歴現象』—は際立ったものであり,現在の研究に引き継がれている。覚醒剤精神病がもつこうした2つの側面は,そのいずれを抜きにしてもその精神医学的な意義を述べることができない。紙面の関係でそれぞれの詳細を述べることは困難であるが,ここでは両者についてこの約20年の間に得られた知見を中心にとりまとめてみたい。

画像診断—PETを中心にして

著者: 岸本英爾 ,   松下正明

ページ範囲:P.443 - P.451

I.はじめに
 近年,X線-CT,MRI(nuclear magnetic resonance imaging),SPECT(single photon emission computed tomography),PET(positron emission tomography)等の画像診断技術の進歩によって,今までの方法では解明され得なかった内因性精神病の身体的背景が明らかになりつつある時代を迎えている。著者らに与えられた課題は,その中でもPETを中心にして,その最近の進歩を概説することにある。
 精神分裂病,躁うつ病といった内因性精神病は,未だその診断を精神的現症に頼る未開の状態にあり,内科的疾患に例えれば生化学的検査法等を持たずに黄疸という現症をもって肝臓病を推定するような状態であり,その遅れは四半世紀前に,Schneiderをして精神科医の恥辱であると述べさせた時代と現代はさして変化していないのかも知れない。

老年痴呆と抗痴呆薬

著者: 西村健

ページ範囲:P.453 - P.462

I.はじめに
 現在,われわれが言う老年痴呆に相当する状態は古くから知られていたが,老年痴呆の概念を明確に独立させ,その病態を具体的に記述したのはEsquirol JED(1838)である10)。19世紀末から今世紀初めになると老年痴呆についての詳しい記載がみられるようになり,Kraepelinの精神医学教科書(第8版)では症状と老人斑や神経原線維変化を含む病理所見の詳細な記載とともに1906年Alzheimerによって報告されたAlzheimer病と老年痴呆の異同も議論されている。
 当時は恐らく老年痴呆の問題が今日のように大きな医学や社会の問題となるとは予想されなかったであろう。高齢化社会の到来とともに,とくに高齢化が高度に進んだ先進諸国の間で老年期痴呆への医学的,社会的対応が最も重要な社会的課題の一つとなっている。老年期の痴呆の主な原因は老年痴呆と脳血管障害であるが,なかでも病因や特異的治療法が明らかにされていない老年痴呆に関する研究が重視されている。

司法精神医学の問題点

著者: 保崎秀夫

ページ範囲:P.463 - P.470

I.はじめに
 司法精神医学の領域でおそらく一番問題となっているのは,精神障害者の責任能力,違法行為を行った精神障害者の処遇であろう。後者については精神保健法の項でも触れられるであろう。
 われわれが直接関係している精神鑑定も一般の人からみるとかなり不透明な点があるようで,“犯人を裁いて下さい”1)という本が出ているのもその事情を物語っている。

研究と報告

新抗てんかん薬zonisamideの臨床効果と安全性—多施設共同第三相試験

著者: 小野常夫 ,   八木和一 ,   清野昌一

ページ範囲:P.471 - P.482

 抄録 新抗てんかん薬Zonisamide(ZNA)の第三相試験を,成人のてんかん患者計538名について38カ月にわたって行った。発作抑制効果をZNA付加前の発作頻度から見ると,254例(50.2%)に50%以上の減少がもたらされた。発作間けつ時症状をも加味した総合改善度では,293例(57%)に臨床上意味のある改善がもたらされ,ZNAは部分発作だけでなく,全般発作にも効果スペクトルをもつと思われた。ZNAの発作抑制効果は投与量依存性を示した。また試験中一貫してZNA単剤であった20例中19例に改善がもたらされた。有効症例の血中ZNA濃度は20μg/ml程度であり,15mg/kg/日までの投与量では血中濃度とほぼ直線性の比例関係が認められた。ZNAの副作用は,記銘・判断力低下や思考の緩慢化などがあるものとみなされ,これらに留意すれば,抗てんかん薬としてのZNAの有用性はさらに高まるものと思われた。

動き

日仏精神医学シンポジウム

著者: 濱田秀伯

ページ範囲:P.483 - P.483

 日本とフランスの医学科学領域における交流は,1976年以来3年毎に両国で交互にシンポジウムを開催する形で続けられている。精神医学部門の参加は79年にパリで行なわれた精神薬理学(P. ピショー,小林寵男会長,精神医学22;347,1980)に始まるが,このたび第2回日仏精神医学シンポジウム2 ème Colloque franco-japonais de psychiatrieが杏林大学武正建一教授,パリ第7大学T. ランペリエール教授を会長に87年11月12日東京の笹川ホールで開催された。厚生省,日本精神病院協会,日本精神衛生会,日仏医学会,日仏会館ならびにフランスの精神医学雑誌シナプスの後援を受け,「不安」を基本テーマに両国から9人の発表(同時通訳)があり,日本側95名,フランス側62名がこれに参加した。
 冒頭に厚生大臣(寺松審議官代理)と駐日フランス大使から祝辞があり,小林龍男(千葉大)名誉会長が日仏医学交流の歴史と会の経緯を述べられた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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