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文献概要

展望

内因性精神病の生化学(1)

著者: 大月三郎1 秋山一文1

所属機関: 1岡山大学医学部神経精神医学教室

ページ範囲:P.500 - P.505

I.はじめに
 精神分裂病や躁うつ病などの内因性精神病は精神医学において最も重要な疾患である。それらの病態は依然,不明であるが脳内のなんらかの生化学的異常が推察されて今日に至っている。最新の神経科学の研究成果より,内因性精神病の病態を構成すると考えられる個々の神経伝達物質に関する生化学的知見は蓄積されつつあるが,内因性精神病がヒトの脳という非常に複雑な組織で起こっているため,解析が困難であり,研究の進歩がはばまれているというのが現状であろう。これまでの内因性精神病の生化学的研究の内容は大別して,①死後脳の分析,②脳脊髄液を中心とする体液の分析,③神経内分泌学的方法,④positron emission tomographyによるin vivoでの脳代謝,神経伝達物質受容体の解析などである。これらの研究成果を論ずる際に常に指摘される82)ことであるが,以下のようなことを慎重に配慮しておかなければならないだろう。第1は診断にかかわるものである。いうまでもなく,精神分裂病,躁うつ病はともに症候群であるといわれ,その生物学的異種性が指摘されている。多くの研究成果を比較するには,共通の診断criteriaが必要であるが,今日では,DSM-Ⅲ,RDCのような操作的診断法に基づいて臨床研究を行うことが大勢になりつつある。第2として,問題となる生物学的指標が状態依存性なのか素質依存性なのかを区別して考える必要がある。ここで生物学的指標とは,野村96)も述べているように「状態像あるいは素因に関連してしばしば認められるような生物学的変化」であり,症候論学的に規定された精神疾患の診断に直ちに対応するものでないことに留意しなければいけない。第3に,向精神薬などの医原性要因,性,年齢,さらに食物,環境要因などの諸条件を疾患群と対象群との間で比較し,差がないかどうか,各群内でこれらの要因(疾患群では罹病期間も含む)と問題となる生物学的指標との相関関係を検討する必要がある。第4として,体液(髄液・血液・尿)の生化学的指標により中枢の変化をとらえようとする方法は,自ずから限界があることを承知していなければいけない。内因性精神病の生化学的研究はいろいろな技術的問題のために困難を伴っていることは事実であるが,将来の研究面における技術開発によってその突破口が開かれることが期待される。本稿では,上記にあげた4つの研究内容を中心にこの分野での最近までの知見を概観した。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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