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雑誌目次

雑誌文献

精神医学30巻7号

1988年07月発行

雑誌目次

巻頭言

記述精神医学と力動精神医学

著者: 切替辰哉

ページ範囲:P.720 - P.721

 私は1955年(昭和30年)アレキサンダー・フォン・フンボルト財団給費生として渡独し,チュービンゲン大学,エルンスト・クレッチマー教授の教室に留学中であった。翌1956年は,奇しくも精神医学界の二巨人エミール・クレペリン(1856〜1926),ジグムント・フロイト(1856〜1939)ともにその生誕百年にあたっていた。ヨーロッパでは各種の集会,記念論文の刊行などが行われた。1956年2月22日,23日の両日,ミュンヘン大学精神医学教室(主任,クルト・コレ教授)の臨床講堂でクレペリン生誕百年祭が開催された。クレッチマーが“まさにその頃,私にとって明るい光明が多くの人々の集うミュンヘン祭からさし込んで来たのである”と語っているように,クレッチマーとルードウィッヒ・ビンスワンガーに,マックス・プランク研究所のショルツ教授から,国際委員会の票決によるクレペリンの金メタルが手渡された。ドイツ語圏はもとより十数カ国の大学から知名の学者が集まった。内村教授が「アイヌのイムについて」講演された。多くの学者のなかに,マンフレッド・ブロイラー教授の姿を見たのはこの時である。その年の3月,私は当時クレッチマー教授の教室にあった畏友故相場 均君(早稲田大学心理学教授)とともに,チューリッヒ,ブルクヘルツリの教室にM. ブロイラー教授を訪問したのであった。
 帰国後,私は『オイゲン・プロイラー:精神医学教科書』の翻訳を志し,M. ブロイラー教授の御許しを得たのであったが,訳書刊行の機会を得ず,私の志は中断した。当時私はすでに『エルンスト・クレッチマー:敏感関係妄想』の翻訳を手掛けており,クレッチマーの多次元診断と治療の思想を紹介中であった。E. ブロイラー(精神分裂病)およびクレッチマー(混合精神病)はともにクレペリン精神医学の良き継承者であった。また,ブロイラーとクレッチマーともにフロイトの良き理解者であった。“ジグムント・フロイトの精神分析理論の発展をオイゲン・ブロイラーは最大の興味をもって追求した”,“フロイトの学説の一つ一つを彼は自分の教科書に持ち込もうとした”と,M. ブロイラー教授が述べているように,E. ブロイラーはフロイトの学説が発展するように尽した当時の唯一の精神科正教授であったのである。私が『オイゲン・ブロイラー:精神医学教科書』の翻訳を志したのは,E. プロイラーのクレペリン(記述精神医学)とフロイト(力動精神医学)に対する精神医学的立場を知るためであった。30年後,私は,中央医書出版,吉田和弘氏の御すすめによって私の志を復活することができ,さらに再び私はチューリッヒ,ツオリコンのM. ブロイラー教授の御許しを得て,ブロイラー教授の教科書の訳業を続けている現在である。

展望

地域精神保健活動の現状と展望(1)

著者: 蜂矢英彦

ページ範囲:P.722 - P.731

I.はじめに
 今年1987年6月の中旬,伊良部のいわゆるデイケアに参加した。
 伊良部とは沖縄県宮古島の離島,伊良部島のことである。デイケアは,宮古島にある沖縄県宮古病院精神科医師の呼び掛けで,昨年から始められたもので,伊良部島の在宅患者や伊良部島出身で現在宮古病院精神科病棟入院中の患者たちをメンバーとしている。スタッフは宮古病院の看護職員,伊良部に駐在している宮古保健所の保健婦,伊良部町役場・福祉事務所の職員や市町村の保健婦等である。

老年期痴呆の構造と臨床類型(1)

著者: 室伏君士 ,   田中良憲 ,   後藤基

ページ範囲:P.732 - P.738

I.はじめに
 近年,高齢化社会への対応として,実態調査,地域対策,薬物療法,痴呆の原因研究などが,盛んになされている。これはこれとして意義も大きい。このなかで臨床的には,とくに痴呆の診断基準が注目されている2)。しかしこの診断基準は,痴呆の本態を問題にするよりは,痴呆の外的(現象的)特徴を,他の症状と鑑別すべく選択して指標としている。そして最近は痴呆の基礎研究や常識的対応に取り組むものが多くなって,これが安易に痴呆そのものの特性と考えられたりしている。さらに実用・操作主義のもとに,簡便にテスト・スケール化されて,痴呆の本態的なものと把握されているきらいがある。
 しかしこれに比して別の臨床的問題は,痴呆の内部的構造の解明や意義4,8,10,25)が,等閑視されていることである。この構造とは,痴呆の生物学的精神神経機能の機構と,痴呆の人間的なものの力動の機制からなるもので,痴呆の本態に近づくものである。これらの痴呆の構造は,その臨床・病理的把握はもちろんであるが,治療の目標(薬で動くものと治りにくいもの)あるいはケアのヒント(心理機制や精神神経機序による拠りどころ)を得るうえでも23),重視されるものである。またそれによる痴呆の臨床類型は,その疾患の経過と予後を含むので,これも痴呆の研究や治療では,心得ておくべきものである。

研究と報告

Bulimiaの視床下部—下垂体—性腺系について

著者: 切池信夫 ,   西脇新一 ,   永田利彦 ,   前田泰久 ,   川北幸男

ページ範囲:P.739 - P.744

 抄録 無月経や稀発月経を示すbulimia 9例とanorexia nervosaの過食型6例(過食型群),摂食制限型7例(摂食制限型群)に,100μgのLH-RH負荷を行い,血漿LH,FSHの分泌反応様態について検討した。LH,FSHの平均基礎値においてanorexia nervosaの2群がbulimia群より低く,LH-RHに対するLHの反応において,摂食制限型群の57%,過食型群の50%に無〜低反応を認めたのに比し,bulimia群は全例とも正常な反応で,そのうち稀発月経の患者は無月経の患者より良好な反応を示した。FSHの反応において摂食制限型群の67%,過食型群の33%に無〜低反応を認めたが,bulimia群では11%であった。anorexia nervosaにおいて,LHの基礎値,LH-RHに対するLHの反応パターンは,体重と関係していたが,bulimiaにおいては,低体重や過食による二次的影響とは考えられない視床下部機能異常の存在が示唆された。

高齢者の夜間睡眠—睡眠構造の特徴と睡眠時無呼吸について

著者: 新ケ江正 ,   毛利義臣 ,   千葉茂 ,   松本三樹 ,   山下努 ,   武井明 ,   太田耕平

ページ範囲:P.745 - P.752

 抄録 高齢者の睡眠構造の特徴と睡眠中の呼吸状態を検討する目的で,年齢68〜88歳(平均75.8歳)の高齢者15名を対象として終夜睡眠ポリグラフィを施行し,若年対照者の結果と比較した。その結果,高齢者では若年者に比し,%SWおよび%S1の増加,%S2,%S3および%S4の減少を認めた。さらに高齢者群において,%SWおよび%S1と加齢との間に正の相関,%SREMおよび%S2と加齢との間に負の相関が認められた。また,高齢者15名中12名に睡眠中10秒以上持続するapneaが1夜当たり平均13.3回認められ,そのうち2名はGuilleminaultらの睡眠時無呼吸症候群の定義を満たしていた。さらに,Apnea Indexと加齢および%SWとの間に正の相関,Apnea Indexと%SREMとの間に負の相関が認められた。以上の結果から,高齢者の睡眠障害には加齢に伴う睡眠構造の変化とともにapneaによる睡眠の変容が関与していると考えられた。

多彩な強迫症状を呈したTurner症候群の1例

著者: 由布信夫 ,   末次基洋 ,   取違慎一

ページ範囲:P.753 - P.759

 抄録 多彩な強迫症状を呈した,27歳,女性のTurner症候群の1例を報告した。本症例は高口蓋,翼状頸,クモ状指,外反肘,第4趾の短縮などの奇形を合併し,染色体は45XO/46X,i(Xq)のモザイクを示し,神経放射線学的検査で脳下垂体のmicroadenomaが示唆された。強迫症状は種類が多彩で,自己の意志に抗して,という内面的な拮抗作用があまり著明でなく,典型的な強迫症状とやや異なった特徴を示した。その他,社会的未熟傾向,高等な道徳感情の低下,抑制欠如,易刺激性,焦燥感などの人格変化が認められた。本症例の強迫症状の成立ちについて,若干の考察を加えた。

てんかん患者にみられる挿間性うつ状態—類似の発作症状と抑うつ状態を呈した母子例を中心に

著者: 竹下久由 ,   川原隆造 ,   織田尚生 ,   田中隆彦 ,   挾間秀文

ページ範囲:P.761 - P.768

 抄録 類似の発作症状と抑うつ状態を経過した母子例を報告し,臨床症状並びに経過の特徴と類似性から,てんかん患者の呈する抑うつ状態について考察した。母親(41歳)は2歳の発熱時に全般性けいれん発作が2度生じたが自然治癒。9〜25歳の間に数分間持続する離人症状を主体とする側頭葉発作が年に1〜2回の頻度で出現。自然治癒した後30歳頃から年に1〜2回,抑うつ気分に妄想様観念を伴う抑うつ状態が生ずるようになった。40歳時治療開始し,carbamazepineにより症状軽快す。子供(16歳,男)は1歳2カ月から6歳の間に数回の発熱時全般性けいれん発作を生じたが自然治癒。12歳時から母親と同様の側頭葉発作が出現し,初期には1〜2カ月に1回の頻度であったが,次第に頻発し,二次性全般化を伴うようになった。16歳時治療開始しclonazepamにより発作は消失した。その後一過性に母親と類似の抑うつ状態が約3週間持続したが軽快し,発作症状も消失し現在に至る。

奇妙な自動症を呈し前頭葉由来のてんかんが疑われた2症例

著者: 大内清 ,   沼田陽市 ,   緒方明

ページ範囲:P.769 - P.776

 抄録 発作脳波同時記録装置による集中監視法で奇妙な自動症を呈した2症例,4発作を捕捉した。
 発作は出現頻度が高く,夜間に好発し,発作の出現と終焉が急峻で発作持続時間も20秒以内と短く,意識障害の回復も早かった。発作症状は頭部を偏位させ,躯幹を捻転させ.唸り声を出し,腰部を前後左右に動かし,下肢をpedallingさせる奇妙bizarreな自動症であった。発作間歓時脳波では前頭(極)部優位に側頭部まで及ぶ棘波を認め,発作時脳波では脱同期化を呈していた。

幻覚妄想状態を呈した原発全般てんかんの2症例

著者: 釘宮誠司 ,   緒方明

ページ範囲:P.777 - P.783

 抄録 てんかん性精神病epileptic psychosisの報告は側頭葉てんかんが主であり,原発全般てんかんでは稀とされている。今回,我々は幻覚妄想状態を呈した原発全般てんかんの2症例を経験したので報告した。てんかん発作の発症は思春期で,発作型は全般性強直間代けいれん発作で,発作は覚醒時のみに稀発し,発作間歇期にsp-wのshort burstを呈するEpilepsy with Grand mal on awakening症候群であった。精神症状はてんかん発作の発症4年後に出現し,相性に2〜4カ月間の幻覚妄想状態を呈し,ときに軽微な意識障害を伴った。そして、その消褪後の寛解期には神経衰弱状態が残遺した。なお,精神症状出現時にもsp-wが認められた。原発全般てんかんの中で精神症状を呈するものはEpilepsy with Grand mal on awakening症候群が多いことを指摘し,症状の推移や脳波所見の相似性から非定型精神病との関連を考察した。

“コロ(Koro)妄想”を伴う精神分裂症の1症例

著者: 雷聲

ページ範囲:P.785 - P.789

 抄録 コロは器質性精神病,中毒性精神病に伴って出現したという報告もあるが,大部分の症例は心因性精神病として発生するものである。著者は精神分裂症の妄想型にコロ症状を呈した1例を経験した。この症例は10年以上の精神分裂病の病歴があり,3回目の入院中に突然陰茎が縮小し,睾丸が腹腔内に引っ込んだと訴えたものであった。このコロ症状は被害・関係妄想に基づき二次的に生じたもので,通例のコロより長期間持続したので,著者はこれを“コロ妄想”と名付けた。本例について記載し,若干の文献的考察を加えた。

我が国のアルコール依存症患者の専門治療施設に関する調査—その2.アルコール専門病床およびアルコール専門外来

著者: 村松太郎 ,   樋口進 ,   荒久保昭子 ,   石井恵理 ,   山田耕一 ,   村岡英雄 ,   丸山勝也 ,   河野裕明 ,   今道裕之 ,   小杉好弘

ページ範囲:P.791 - P.795

 抄録 我が国のアルコール依存症患者の専門治療施設を対象に,質問紙法によって一連の調査を行った。本稿では「我が国のアルコール依存症患者の専門治療施設に関する調査 その1」の続編として,アルコール専門病床およびアルコール専門外来に関する結果を報告した。アルコール専門病床を有する病院35,アルコール専門外来11より回答を得た。その結果,これらの施設のスタッフ,患者の概要,治療プログラム等が把握された。この種の調査は我が国では最初のものであり,今後定期的な導入が必要であることを示唆した。

単科精神病院における身体的救急処置を要した患者の実態

著者: 澤原光彦 ,   平島正敏 ,   田中猛彦 ,   田中民子 ,   渡辺節 ,   帆秋孝幸

ページ範囲:P.797 - P.802

 抄録 単科精神病院の実地医家にとって身体的救急処置の問題は重要な問題であるが,それについての報告は少ない。我々は単科精神病院における救急処置を要した患者の実態を調査し,実際の症例・考察を合せて報告する。
 調査期間は1984年4月1日〜1986年12月31日の2年9カ月,期間中身体的救急処置を要した事例は79件,外傷が最多で22件27.8%,呼吸困難17件21.5%,意識障害15件19%,縊首企図8件10.1%,急性腹症と急性高熱は共に5件6.3%,心切迫症3件3.8%,喀血・吐血・尿閉・貧血が各1件1.3%,であった。自殺企図は計13件(縊首8,外傷4,服薬1),自殺死亡はなかった。

新しい抗不安薬Buspironeの臨床効果

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.803 - P.811

 抄録 新規抗不安薬のBuspironeを各種神経症患者180名に投与し,不適格症例44例を除く136例に対してその効果,安全性,有用性について検討した。最終全般改善度は著明改善12.5%,中等度改善以上44.1%,軽度改善以上73.5%,悪化7.4%であった。HAMILTON不安評価尺度,神経症症状評価尺度,自己診断点では,不安,抑うつ,心気症状に最も改善が認められた。また強迫,恐怖症状にも高い改善率を示したところは注目される。副作用の発現率は38.2%で,比較的頻度の高かったものは眠気,悪心,ふらつきであった。また,D-2-AおよびD-2-Bの評価表を使用し,依存性について検討した結果,依存性形成は認められなかった。本剤は不安に対して効果があり,薬物依存を認めず,かつ安全性の高い抗不安薬であると考えられた。

短報

心因性障害を疑われたCNS-SLEの1例—123I-IMP-SPECTにより局所脳血流量低下が確認されたもの

著者: 森宏明 ,   鈴木康夫 ,   大瀧和男 ,   水野明典 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.813 - P.816

I.はじめに
 精神神経症状を伴うSLEはCNS-SLE(central nervous system involvement in systemic lupus erythematosus)と総称されている。その発現機序の解明のために頭部CT scanや脳シンチの研究は行われているが,局所脳血流シンチの研究はほとんど行われていない。今回われわれは当初は脳波,頭部CT scanでは異常が認められず心因性障害が疑われたSLEの症例に対してIMP-SPECTによる局所脳血流シンチを施行し,局所脳血流量低下を確認した。IMP-SPECTは今後CNS-SLEの脳病変に関する研究に有意義であると思われたので若干の考察を加えて報告する。

アルコール症にみられた大脳縦裂部硬膜下血腫

著者: 赤井淳一郎 ,   村松太郎 ,   小池祐治 ,   上野裕壹

ページ範囲:P.817 - P.818

I.はじめに
 われわれは,先に,アルコール症にみられた硬膜下血腫について報告し,その発生の予知および予後に対して,CTスキャンの検査が重要であることを述べた1)。また同時に,50年も前から,硬膜下血腫が中高年の酒客に多いと言われながら,その疫学的検討がなされていなかったことも指摘した。そこで,アルコール症の治療専門病棟をもつ当施設での症例の積み重ねが大切と考え,検査を続けているが,今回,大脳半球縦裂間に発生した例を経験した。この部位の硬膜下血腫は,われわれの調べた限りでは,本邦ではこれまでに10例に満たず,欧米でも散発的に症例報告がみられるにすぎない。だがここに報告する目的は,症例がきわめて数少ないものであるということのほかに,本例の症状の進展の際,CTスキャンの所見が治療方針をたてる上に,重要であったことを示すためもある。

AIDS恐怖症およびAIDS妄想を示した5例について

著者: 塩崎一昌 ,   大原浩一

ページ範囲:P.819 - P.821

I.はじめに
 疾病恐怖の対象には,癌や心臓病など重篤かつ致死性の疾患が選ばれやすく,また文化的特徴や情報の与えられ方などによって流行する性質があるという1)。また躁うつ病や分裂病の臨床症状も,時代思潮・文化・宗教などによって変化することが知られている2,3)
 マスコミのAIDS報道以来,当院でAIDS恐怖症および,AIDSに罹患したという妄想を示した症例が増加する傾向にあるが,これらは興味深いことに神経症から精神病までの種々の病種にわたっていた。その特徴を現代社会との関わりにおいて考察した。

紹介

1985年メキシコ大地震の経験から—地震災害と精神衛生

著者: 角川雅樹

ページ範囲:P.823 - P.829

 1985年9月に起きたメキシコ大地震は,マグニチュード8.1と,その規模は最大級であった。その結果,死者は約3千人,被災者は約4万5千人という,メキシコ史上空前の大災害となった。地震については当時日本でもかなり大々的に報道され,地震の性質,メキシコ市の地盤の問題,建物の構造上の問題等,さまざまな視点から論じられた。
 ここでは,それらの問題に触れることなく,地震災害発生後における,被災者とメキシコ一般市民の心理的反応や精神衛生上の問題,また,それらに対してメキシコ関係当局がとった対応の仕方等に焦点をしぼって考察してみたい。

追悼

牧田清志教授を悼む

著者: 岩崎徹也

ページ範囲:P.831 - P.831

 東海大学医学部牧田清志教授が,昭和63年4月18日午前4時55分逝去された。享年73歳であった。
 先生は昭和62年1月乾性咳嗽について胸部X線検査を受けられた際,右上葉に異常陰影が発見され,東海大学病院内科に入院された。肺生検の結果肺腺癌と診断され,しかも手術不能と判定された。対症的な治療方針がとられ,間もなく退院された後は,胸膜炎などで2回ほど短期間の再入院があったものの,比較的お元気に活動しておられた。しかし,本年に入り徐々に衰弱がすすみ,3月29日食思不振,るいそうなどのために入院され,4月14日からは昏睡状態となり,18日ついに永眠された。その間主治医団が熟慮検討の結果,病名はご本人にお伝えしないままに経過した。しかし,さすがに医学者で,3月に入ってからはご自身でそれと悟っておられた御様子がうかがわれた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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