icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学30巻9号

1988年09月発行

文献概要

特集 世界の精神科医療の動向

アメリカ合衆国の精神科医療—ニューヨーク・精神分析的精神医療と精神薬理学的精神医療との関係についての動向

著者: 竹友安彦1

所属機関: 1

ページ範囲:P.948 - P.962

文献購入ページに移動
〔序文〕
 この小論が扱うのは「精神分析的精神医療の動向」そのものでもなく,また「精神薬理学的医療の動向」そのものでもなく,更に両者を相加的に列記したものでもない。むしろ両医療の「関係の動向」である。そしてこの「関係」は単に1980年代中頃に,偶然同時的に相並んで展開している二つの文化的な収穫(つまり両方の医療)の間の相関関係を医学史家が医療実践の外側から考察して記述するという類のものではないのである。むしろこの「関係」は,究極的に,およそ精神医療の実践に携る者の全てが,心の隅に感ずる問題,つまり精神医療の根本にある課題に触れるものである。それは言わば,意味の追求の次元と脳研究の次元という相異なる二つの次元にそれぞれ発展する知見をどう関係づけるべきかという関心に連なるものなのである。
 この小論で報告しようとすることは精神分析的精神医療と,精神薬理学的医療との間に言わば新しい対話が既に始まっており,その対話は上述の精神医療者全ての究極的な関心に触れているという消息を伝えることである。もちろん上述の二つの次元の知見をどのように統合できるかということについての解決が始まったというのではない。しかしこれら二つの次元の知見を含む展望が精神医療の実践の基礎に求められ,またこのような展望への関心が,従来のようにどこか心の隅に隠れているのでなくて,医療者が直面し語り合うべきこととして考えられるきざしをこそ,筆者は現下の精神医療の最も注目すべき動向と考えるのである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?