文献詳細
文献概要
特集 世界の精神科医療の動向
イギリスの精神科医療
著者: 北村俊則1 池上直己1
所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所 2慶応義塾大学医学部病院管理学教室
ページ範囲:P.985 - P.991
文献購入ページに移動諸外国の精神科医療を論ずる場合には,まず対象国の社会文化的背景を概観し,ついで医療システムの枠組を理解しなければならない。そこで,はじめに前者についてイギリスは日本と著しく異なる点が二つあることを指摘する必要があろう。その第1は階級制度,第2は人種問題で,いずれも90%以上が中流意識をもつ「単一民族国家」とは正に対照的である1)。
イギリスの階級制度は厳然と存在し,各種世論調査でも国民の所属階級意識は中産階級と労働者階級にほぼ二分されている。社会を規定するうえで,この両者の相違のほうが,少数の上流階級の存在よりはるかに重要な要素である。階級は職業によって決まるが,逆に職業によって国民に対照的な2つの生活パターンがある。中産階級には個人的な立身出世,労働者階級には集団としての生活権の保障が基本にあるといえよう。こうした生活信条の相違が,話し方を含めた衣食住のあらゆる面において国民を分断している。
掲載誌情報