研究と報告
精神分裂病患者における認知的構えの固着
著者:
横田正夫1
高橋滋1
依田しなえ2
岸芳正3
原秀之1
町山幸輝1
所属機関:
1群馬大学医学部神経精神医学教室
2慈光会病院
3岸病院
ページ範囲:P.1007 - P.1014
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抄録 本研究では,精神分裂病患者の対人接触障害の背後に自己の視点を他者の視点に変換できない認知障害が存在すると想定し,これを検討するために現入院の期間が5年以上の慢性分裂病患者85名,正常者83名を対象に,「視点変換課題」検査を実施した。「視点変換課題」では3個の積み木を挟んで被験者と実験者が対面して座り,被験者は自己の視点からの積み木の見え(「見えの描画」段階),次いで実験者の視点からの積み木の見え「想像の描画」段階)を描画するように求められる。「見えの描画」段階において自己の視点からの見えを正しく描画した構成群は,分裂病患者では82.4%,正常者では100.0%であった。これら構成群の「想像の描画」段階において,分裂病患者では「見えの描画」段階の描画と同じ自己の視点からの見えを描画した固着群が多く(55.7%),実験者の視点からの見えを描画した変換群が少なかった(34.3%)が,これに対し正常者では変換群が顕著に多かった(88.0%)。この他者の視点からの見えを自己の視点からの見えと同じとする分裂病患者の認知的構えの固着(認知障害)は,WAISによって測定された知能とは関連しなかったが,BPRSの感情的ひきこもりと感情鈍麻の2項目で評定された陰性症状得点の高値と関連した。すなわち,認知的構えの固着は分裂病の対人接触障害(欠陥症状)と関連を有することが示された。