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文献詳細

雑誌文献

精神医学30巻9号

1988年09月発行

文献概要

古典紹介

Walter von Baeyer:Über konformen Wahn—第2回 同形妄想について

著者: 大橋正和1

所属機関: 1新潟大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.1039 - P.1050

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 Riedel(1891)とKalmus(1902)は,両者別々に教師夫婦の同じ症例を発表した。Riedelは,夫が最初に発症し,妻が感応させられたと考えられる二重精神病(Doppelpsychose)として記述した。妻を夫よりも実際に長く観察したKalmusは,妻が最初に発症したと逆の結論に達した。両者の論文から,病歴の本質的データを次にまとめる。
 夫(M)の姉妹2人は精神病者。父は酒精嗜癖者,甥,姪の内の2人は精神薄弱。彼自身は,1845年に生まれ,高校教師をしていた。彼の精神構造はKalmusによると「御しやすい,感じやすい,柔軟」と特徴づけられる。精神的能力は「弱い」。1884年の結婚前すでに異常さが目立ち,後に現われる,全く混乱した状態の先駆けを思わせる「奇妙な小論文」(Riedel)を書いたりした。1886年11月,彼の同僚は「迫害妄想」の徴候によって,彼が非常におかしいのに気づいた。1892年,迫害観念のために,医師の診察を受けた。彼は,「風変りで,常軌を逸した言いまわし」で,自らの愁訴を話した。フリーメイスン団会員に迫害されており,それは自分が,古い貴族の家庭の非嫡出子であるためだと主張した。彼は,毎日の学校生活において,迫害されていると感じた。例えば,彼らは単に彼を怒らせるために,授業終了のチャイムを,非常に早く,あるいは非常に遅く鳴らしたりした,等々。フリーメイスン団会員は,路上で彼に会ったら,誰でもどこででも,彼をいじめるように頼んだ。教会を彼はもはや訪ねなかった,というのは,牧師は説教の中で彼に当てこすりを述べるからであった。彼は,数年来,別々の人から,はっきりしない,了解できない言葉を聞き,あるいは,彼の立場を圧迫するような,隠された深い意味を有する内容を聞いたと思ったことがあった。すでに16年前に教頭S. はこのような意味で,「これが事件になれば,多くの人が復活するのだが」といった。退職と禁治産。それからは,妄想思考を分かち合う妻と共に,路上で迫害者と思われる人から侮辱された。1895〜97年入院。彼は,「入院後妄想観念も妄覚も,口にしなかった。行動からは,異常さは全く見られなかった。これに対して,病的観念過程は,もちろんなお数カ月続いた。M. は,無口で,当てつけがましい質問は避け,人を信用できずに,遠慮勝ちになった。―2年後にはじめて病識が現われた。」(Kalmus)その後彼は,小さな出版社の事務職につき,いわゆる「治り」,妻が「不可能なこと」をいうので困るという洞察も見られた。この間同様に入院した妻が,1898年一時家に帰っている時,彼はもちろん,時々は再び彼女の妄想観念に同調する。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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