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研究と報告
双極型躁うつ病の躁状態における殺人未遂の1例
著者: 中谷陽二1
所属機関: 1東京都精神医学総合研究所
ページ範囲:P.931 - P.937
文献購入ページに移動 抄録 双極型躁うつ病の躁状態で殺人未遂を行った1精神鑑定例を提示し,従来報告例が少なかった躁病者の暴力犯罪について考察した。症例を性格,病像,対人関係の側面から検討し,犯罪機制との関連を明らかにした。症例は40歳の主婦。発病は19歳で,非定型病像に始まって次第に定型的な躁とうつの循環が規則的となり,中間期が不明瞭となる。躁病相の経過中,冷淡となった愛人に対して脅迫的に関係維持を強要し,拒絶する相手に故意に車を衝突させた。1)性格像は外向性,社交性とともに熱中性,落ち着きのなさ,自己中心性が著しく,マニー型の特徴を示す。2)躁病相の病像は爽快一高揚と刺激一易怒性の両面性をもつ。3)対人関係様式と犯罪機制:他者を支配,独占しようとする対人関係を「暴君的依存」ととらえた。依存性が脅かされる状況において刺激一易怒性の亢進,攻撃的一好争的行動の尖鋭化が生じ,依存関係の破綻を直接契機として犯行がなされたと考えられた。
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