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雑誌目次

雑誌文献

精神医学32巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医療改善の一計

著者: 中井久夫

ページ範囲:P.4 - P.5

 私は,今,あまり大上段にふりかぶった議論をする気になれない。
 この20年間ぐらい折にふれて言ってきたことを書いてみよう。

展望

悪性症候群の現況と問題点

著者: 山脇成人

ページ範囲:P.6 - P.18

I.はじめに
 悪性症候群は高熱,筋強剛,意識障害,発汗や頻脈などの自律神経症状を呈する抗精神病薬治療における最も重篤な副作用として古くから知られているが,最近になって再び関心が高まってきている。本症候群は1960年にフランスのDelayら9)によって最初に報告されたが,抗精神病薬が導入されてわずか数年後の1956年にAdy3)がchlorpromazineを大量投与(2,500mg/日)したときに急激な虚脱と高熱で死亡した患者を経験し,“fatal hyperpyrexia”と呼んで報告したのが事実上は最初の記載と思われる。その後1965年にDelayとDeniker10)がhaloperidolの筋注により発汗,脱水,高熱を生じた2症例を“syndrome neurovegetatif malin”と名づけて報告した。さらに彼らは英語名として“neuroleptic malignant syndrome”と表現した11)。しかしながら当時英話圏では余り注目されず,主にフランスで関心が持たれ,Vedrinne63)やBourgeoisら5)により詳細な報告がなされた。わが国では1974年に慶応大学グループの古賀ら30)が神奈川県精神医学会で最初に症例報告し,その年に大塚ら48)が論文として悪性症候群の概念を紹介した。その後1980年代になってからアメリカでも注目され始め,特に1982年Coonsら8)およびGoekoopとCarbaat17)によってdantroleneが有効であることが報告されてからは症例報告が相次いだ。わが国では1970年代の報告以後やや関心が薄れていた感があるが,1986年に厚生省悪性症候群研究班(以下厚生省研究)71)がわが国における疫学的調査を行ったことが契機となって再び関心が高まってきた。本稿では,わが国における悪性症候群の疫学的側面と病態研究の現況についてまとめ,その問題点と今後の展望について筆者の考えを述べる。

研究と報告

長期通院分裂病者の社会適応と治療的背景

著者: 藤森英之 ,   分島徹 ,   坂口正道 ,   木崎康夫

ページ範囲:P.19 - P.27

 抄録 10年以上の「長期通院分裂病者164名(男68,女96)の社会適応状況と治療的背景」を検討した。著者らの資料の調査時点における平均年齢は50.5歳,平均発症年齢25.6歳,初診時の平均年齢30.4歳,平均罹病期間24.9年と最終退院からの平均経過年数は16.4年であった。統計的にはχ2検定で10年以上の通院患者は女性に,逆に20年以上の場合は男性に多く,同居と別居あるいは結婚歴には男女差はないが,同居群では女性に親以外のものとの同居が多く,発病前と発病後の結婚歴では女性に発病前の結婚が多かった。
 患者を支える家族には「逗留—寛恕型」,「節介—束縛型」,「役割—分担型」や「処世—教示型」が,配偶者には「共感・受容型」と「指示・助言型」のあることを述べた。就労状況は男女を含め84.3%のものが自立・半自立をしているが,長期通院患者の多くは対人接触や周囲の状況変化に「臨機応変」の対応が苦手で,対人交渉をあまり必要としなく仕事の内容に変化の少ない職場に適し,時に些細な出来事への反応が再燃・再発へと発展すること,治療者—患者関係における依存形成と薬物療法との関連を示唆した。

森田療法の不問技法と精神分析の禁欲規則の比較検討—治療における秘密の視点から

著者: 長山恵一

ページ範囲:P.29 - P.35

 抄録 森田療法では患者の病態やそれに絡む個人的秘密を治療者はいっさい取り扱わない。一方,精神分析はそれらを治療者が直接取り上げ明確化しようとする。こうした違いは,患者の病態を処理するか,しないかの差で生じたものでなく,両治療法がターゲットにする病理の表現形態とその処理方法の違いに由来している。しかし,治療上の「隠し事」—森田療法における病態不問,目的本位の治療的意味。精神分析における禁欲規則の治療的意味—に着目した場合,両者には以下のごとき共通性が認められる。①治療上の「隠し事」故に治療者・患者間に心理的距離が保たれる。②治療上の「隠し事」は患者の病理故に「隠し事」と映る。患者の病理が治療を通して処理されると,それらの「隠し事」は患者に理解あるいは体得されて内在化し,「隠し事」は「隠し事」としての意味を失う。③治療上の「隠し事」は一方で患者の病理と深く係っており,他方ではその病理をどう処理するかという具体的な治療のシステムとも密接に係っている。

同調性の精神病理

著者: 渡辺登

ページ範囲:P.37 - P.44

 抄録 回復期以降,精神科患者はしばしば物わかりの良い態度を示すことがある。精神科患者の対人的折り合いについては,うつ病を中心に検討が加えられているが,他の疾患に関する言及は乏しい。そこで,同調性テストを用いて,神経症やアルコール依存症,うつ病,精神分裂病各25名の同調性を調査した。その結果,精神科患者の80%は対立場面で同調を示し,対照健常者の52%より統計学的に有意(p<0.01)に多かった。同調を示した割合が多かった精神疾患は,うつ病,神経症,精神分裂病,アルコール依存症の順であった。うつ病者の96%は同調を示し,他の3疾患患者合計の74.7%より統計学的に有意(p<0.05)に多かった。精神科患者はそれぞれの精神病理学的特徴を主な背景として同調あるいは非同調を示したと考えられた。治療者や家族は精神科患者が対立場面では同調しやすいことを理解したうえで,社会復帰を遂行できるよう援助すべきであると指摘した。

事象関連電位波形の類型化とその臨床応用の試み

著者: 小椋力 ,   宮里好一 ,   宮谷真人 ,   竹下小夜子 ,   名城真治 ,   深尾晃三 ,   外間宏人 ,   上江洌君子

ページ範囲:P.45 - P.53

 抄録 事象関連電位波形の類型化の試案とその評価基準を示した。健常者平均型,平坦型,P300異常型,N200異常型,P300異常とN200異常の混合型,その他の異常型の6タイプに分けた。評価の再現性は全体でみると87.4%,評価者間の一致率は全体で87.6%で,I型の場合,再現性は98.5%,評価者間の一致率は96.0%と高かったが,その他の異常型などで成績は下がった。日内変動,white noise,刺激間間隔などの実験条件は,類型に大きな影響を与えなかったが,薬物の場合その種類によって影響に差があった。
 健常者(N=103),精神分裂病者(N=60),アルコール依存症者(N=43)について類型を比較した。健常者平均型は,健常者で86人(83.5%),精神分裂病者で23人(38.3%),アルコール依存症者で24人(55.8%)と病者に少なく,一方異常者は病者に多かった。アルコール依存症者は,健常者と精神分裂病者のほぼ中間であった。

頭部CTでみられる巨大な透明中隔腔およびベルガ腔のう胞の臨床的意義

著者: 竹下久由 ,   井上雄一 ,   上田かおる ,   川原隆造 ,   挾間秀文 ,   井上絹夫 ,   田中潔

ページ範囲:P.55 - P.62

 抄録 頭部CT検査で透明中隔腔(CSP)やベルガ腔(CV)が認められ,大脳の最大横径に対する腔の最大横径の比率が2%以上の精神神経疾患患者74例について,腔の大きさと脳波所見および臨床症状との関連性を検討した。全例の腔の比率の平均は7.0±3.2%で,比率9%以上の17例を巨大腔例とし,5%以下の23例と比較した。
 その結果,CSPやCV以外のCT所見上の異常には両群間で差はなかったが,脳波異常は巨大腔例では83.3%に認められ,比率5%以下の25%に比べ有意に多かった。また臨床症状についてみると,小さな腔のものでは診断名や症状に一定の傾向はなかったが,巨大腔例ではてんかんとその類縁症状,精神遅滞,器質性あるいは反応性色彩の強い精神分裂病様状態および神経症様状態の4群の症候を呈するものが多かった。

脳下垂体前葉ホルモン(ネオプロセリン®)による神経性食欲不振症の治療—内分泌学的検索に基づいて

著者: 大谷正人 ,   村瀬澄夫 ,   山口隆久 ,   村瀬さな子 ,   柴原清与 ,   野村純一

ページ範囲:P.63 - P.69

 抄録 神経性食欲不振症にて入院または外来治療を受けた31例のうち,9例に脳下垂体前葉ホルモン製剤(ネオプロセリン®)を平均週2回,筋注により投与した。9例中6例で有効であり,3例ではその効果が不明か無効であった。下垂体ホルモン有効例では,検査所見において以下のような傾向が認められた。血清総蛋白値が低く,内分泌検査では,T3,LH,FSHの低値がみられ,またLHRH負荷試験におけるLH値,およびTRH負荷試験におけるTSH値は,神経性食欲不振症全体における値よりさらに低値を示す傾向がみられた。臨床症状面では,下垂体ホルモン投与により,体重増加のみならず,摂食異常,心気症状,接触性,情動不安定などの改善も認められた。したがって,下垂体ホルモンは,神経性食欲不振症の中で視床下部-下垂体系の機能異常がより著明な例に対して試みられる価値のある治療法であると考えられる。

マリファナ喫煙により誘発された分裂病の1例

著者: 植木啓文 ,   高井昭裕 ,   児玉佳也 ,   宮地幸雄 ,   吉村剛

ページ範囲:P.71 - P.79

 抄録 マリファナ喫煙に引き続いて幻覚妄想状態,情意鈍麻,意欲低下状態等を呈し,喫煙中止後も長期にわたってそれらの症状を持続させた症例を報告した。症例の薬物依存はpolydrug型であり,対人的にはasocial型に属しており,薬物依存の予後は楽観できない状況にある。精神病理学的には,分裂病とマリファナによるいわゆる中毒性精神病との鑑別,その際,とりわけ分裂病性の情意鈍麻,意欲低下状態と無動機症状群(amotivational syndrome)との区別が問題となったが,入院時の対人接触性,軽快時の人格変化,精神医学的負因,心理検査所見,さらに妄想出現時のsettingの要因の有無などから,本例は分裂病がマリファナ喫煙によって誘発されたものと推定された。また,マリファナ使用者の年齢のピークが分裂病の好発する青少年期にあたり,特定の脆弱性を持った個体におけるその誘発の可能性が考慮される必要がある。

小脳障害を残遺した向精神薬による悪性症候群の4例—リチウム中毒の問題点に関連して

著者: 岩淵潔 ,   天野直二 ,   柳下三郎 ,   長友秀樹 ,   松下正明

ページ範囲:P.81 - P.89

 抄録 向精神薬による悪性症候群(NMS)により,不可逆的な神経障害として小脳失調症を残遺した4例について検討した。うち重症2例はさらに粗大なchoreoathetosis様不随意運動と全身性の筋原性筋萎縮および表出能力の高度な障害を認めた。神経病理では小脳プルキンエ細胞-小脳遠心路系の急性崩壊像をみた。NMSの原因薬剤はhaloperidol 3例,fluphenazine-enanthate 1例で,3例は少量投与で発症し,軽症2例はnon-rigidity型NMSであった。小脳症状はNMSが回復した時点で明らかとなり,その後改善傾向を示したが,ある段階で固定性であった。発症当初のCT scanでは小脳萎縮はなく,経過を経てそれを認めた。これらをリチウム中毒と比較検討し,NMSを含め,その後遺症はすべて小脳障害であることを明らかにし,純粋リチウム中毒とリチウム中毒を伴うNMSおよびNMSに区別して論じる必要性を報告した。とくに経過中出現する脳幹障害に注意すべきことを強調した。

短報

MRI中脳被蓋所見を伴う精神分裂病の1例

著者: 三辺義雄 ,   葛野洋一 ,   倉知正佳

ページ範囲:P.91 - P.92

I.はじめに
 精神分裂病のdopamineの仮説は現在臨床,および基礎研究によって幅広い支持を集めている。しかしドーパミン経路,特にドーパミン起始細胞が存在する中脳腹側被蓋に解剖学的異常を伴う症例はほとんど報告をみない。中脳腹側被蓋に存在するドーパミン起始細胞はA10領域といわれ,最近動物を用いた電気生理学的研究により分裂病の治療,発現との関係がこれまで以上に注目されている7)
 我々は今回患者存命中にMRIによって左側中脳腹側被蓋に所見がみられた1例を経験したので報告する。

インターフェロン脳症の1症例

著者: 高橋正 ,   一宮洋介 ,   飯塚禮二

ページ範囲:P.93 - P.95

I.はじめに
 インターフェロン(IFN)は,1950年代にウイルス増殖抑制物質として発見されたが,抗ウイルス作用以外にも種々の生物学的活性を持つことが知られている2,6,14)。なかでも一部の悪性腫瘍で腫瘍細胞増殖を抑制することが報告されている2,5〜7,11,14)。一方,副作用として発熱,全身倦怠感,食思不振の出現が知られており1〜6,8〜14),意識障害,けいれんなどの中枢神経症状の発現も少数ながら報告されている1,3,4,8〜14)
 今回我々は,腎細胞癌手術後,IFN-αを使用中に意識障害を呈した症例を経験したので報告する。

抗精神病薬による薬物治療中,横紋筋融解症を生じた1臨床例

著者: 高野宗大 ,   鈴木利人 ,   小泉準三 ,   高野敬太郎

ページ範囲:P.97 - P.100

I.はじめに
 Rhabdomyolysisは種々の原因により,骨格筋細胞の融解をきたす病態であり,精神科領域ではアルコール中毒やヘロイン中毒,けいれん重積などのほか,抗精神病薬の投与により生ずることが報告7)されている。このうち抗精神病薬によるものでは悪性症候群に伴い出現する例が多いが,抗精神病薬が筋細胞に与える影響については現在もなお不明な点が多い。
 今回,著者らは抗精神病薬を増量したところ数日後からrhabdomyolysisとそれに続く急性腎不全を生じ,血液透析により軽快した精神分裂病の1男性例を経験した。本例は抗精神病薬により生じるrhabdomyolysisの発症に関し,従来の報告例と異なり悪性症候群に続発していない点で興味ある1例と思われたので若干の考察を加え報告する。

紹介

Amentia追悼—古き肖像写真に寄せて

著者: 伊東昇太 ,   白井麻理

ページ範囲:P.101 - P.106

 「『Amentia』という言葉はギリシヤ・ローマの古代そして文芸復興期の文献で精神障害の表示に出ていて,その後においても広く使われた。古いラテン語に由来し,理性の欠落,無分別あるいは狂気をさす。その類縁語がDementiaであることは周知で…」とPauleikhoffら7)はいっている。この通りであるが,今日のDementiaの羽振りのよさに比べてAmentiaはまさに「かやの外」と形容できる。
 すなわち教科書で片隅に追われ,思考散乱Inkohärenz,当惑Ratlosigkeitと常同的説明でやっとこの術語は呼吸が許されているといえる。そして英米圏で精神遅滞の呼称に使われている,と判で捺された記述がもっぱらである。

動き

「日本精神病理学会第12回大会」印象記

著者: 高柳功

ページ範囲:P.108 - P.109

 日本精神病理学会第12回大会は,清水將之会長(名古屋市大)のもとで昨年9月28日(木),29日(金)の両日,名古屋市,愛知県中小企業センターで開催された。従来の精神病理懇話会が,日本精神病理学会としてスタートしたわけである。
 ここ11年間,任意の懇話会というスタイルで年に一度の学術集会をもってきた精神病理懇話会も,次第に参加者もふえ,数多くの優れた研究が発表されてきたという実績を考えると,何らかの形を整えるべき時期がきたようである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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