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雑誌目次

論文

精神医学32巻12号

1990年12月発行

雑誌目次

巻頭言

行動と認知と情動—病態の探索をめぐって

著者: 諏訪望

ページ範囲:P.1266 - P.1267

 Ⅰ.
 精神医学は精神疾患の病態を正確にとらえることを出発点としている。ところで,病態という概念は多少曖昧である。ここでは単なる記述的な状態像という意味ではなく,その発現の機序をも反映する力動的構造としての状態像と解しておきたいと思う。そのわけは,病者と相対するときに,それが病態を解明するための診断的行為であるならば,我々は決して単純な記述的態度をとるだけではなく,同時に上述のような力動的構造の探索をも進めているのが実情であるからである。
 精神医学はこの半世紀の間に著しい多様化の道を辿り続けてきた。それを学問の進歩と呼んでよいか否かは別として,このような変容をもたらしたいくつかの要因が指摘される。その主なものとして,向精神薬の開発はいうまでもなく,各精神疾患の成因を究明するための方法論,とくに生物学的方法論が,その基盤となっているそれぞれの科学の分野の細分化と精密化によって著しく多彩になったことが挙げられる。一方,変容の原因の一部を,特定の精神疾患の発現頻度あるいは病態の時代的変遷の中に求めようとする見方もある。しかしたとえば梅毒,覚醒剤あるいはAIDSなどのような,明らかに時代的社会的に変遷する諸条件に起因しているいくつかの精神疾患を除いて,とくにいわゆる内因性あるいは心因性疾患の場合は,病態に接近する仕方の多角化が大きく関与していることを看過するわけにはいかないであろう。

研究と報告

初老期に進行性失語を主要な初発症状とした「痴呆」を伴わない2症例について

著者: 加藤正 ,   濱中淑彦 ,   中西雅夫

ページ範囲:P.1268 - P.1275

 抄録 初老期に主に失語が前景に現れ,一定の期間全般的痴呆を認めない2症例を報告する。症例1は56歳右利き女性。発症1年半後超皮質性感覚失語を呈し,同時失認傾向を認めるが,視覚性記憶,WAIS(PIQ=102,112)はおおむね正常範囲で,CT・MRIで左シルビウス溝の軽微拡大,SPECTで左側頭葉前下部の局所血流量低下を示した。症例2は54歳右利き女性。発症4年後超皮質性感覚失語・語義失語を呈し,視覚性記憶は初診時障害がみられたが正常範囲まで回復,WAIS(PIQ=78),長谷川式痴呆スケール28,CT・MRIで両側(左>右)側頭葉萎縮と両側基底核領域の散在性小梗塞,SPECTで両側(左>右)側頭葉血流量低下を認めた。2例とも言語面を除けば社会的,日常生活能力は全く支障なく,DSM-Ⅲ-Rの診断基準から判定しても全般的痴呆とは言えず,臨床像からAlzheimer病,人格変化を来たしていない点で定型的なPick病を除外し,今回の症例の疾病学的な位置づけを文献報告例から検討した。

糖尿病患者にみられた皮膚寄生虫妄想の1例—身体的要因および心理的社会的孤立の役割について

著者: 冨山學人 ,   林竜介 ,   根本豊實 ,   長谷川雅彦 ,   松森基子 ,   竹内龍雄

ページ範囲:P.1277 - P.1283

 抄録 糖尿病治療開始後8年目に典型的な皮膚寄生虫妄想を発症した58歳男性の1例を報告した。本症の発症と糖尿病との関連について,Busch Gの症例と比較し検討した。
 身体的要因としては,糖尿病が直接関係するのではなく,晩期合併症である血管性障害による微細で広範な脳の器質的変化が重要な要因の1つと考えられた。また,糖尿病による痒みを中心とした皮膚感覚異常が発症の契機としての役割を果たしたと思われた。

精神分裂病患者における睡眠薬の使われ方

著者: 山寺博史 ,   加藤昌明 ,   塚原靖二 ,   上埜高志 ,   豊田純三 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.1285 - P.1291

 抄録 精神病院入院の精神分裂病患者282名において,臨床症状とベンゾジアゼピン系睡眠薬および抗不安薬,バルビツール酸系睡眠薬,抗精神病薬(就眠前,1日の総量)の量との間の関係について検討した。全体の36%でベンゾジアゼピン系睡眠薬あるいは抗不安薬,26%でバルビツール酸系睡眠薬が使用されていた。眠りやすさが不良なほど抗精神病薬(1日の総量)やバルビツール酸系睡眠薬の服用量が増加しており,起きやすさが不良なほど抗精神病薬(1日の総量)の服用量が増加していた。また日常行動能力が悪いほどバルビツール酸系睡眠薬の服用量が増加していた。これらのことより,臨床症状が悪いほどベンゾジアゼピン系睡眠薬あるいは抗不安薬服用中心から,バルビツール酸系睡眠薬や抗精神病薬の服用量が増加していることが明らかになった。

精神分裂病の治療動態調査(第1報)—8年間(1982年〜1989年)の患者動態と転帰

著者: 津村哲彦 ,   西野英男 ,   藤田憲一 ,   堤知子 ,   千葉浩彦

ページ範囲:P.1293 - P.1300

 抄録 わが国の精神医療は,通院治療への移行に重点が置かれつつあると言える。さらに,最近では着実に受療率が増加し,通院患者の増加は入院患者の増加を上まわっている。その中で長期的治療を受けざるを得ない精神分裂病でさえ,常に固定されているわけではなく,受療の実態を捉えることは容易ではない。
 筆者らは,8年の間に我々の病院で治療を受けた精神分裂病患者の受療動態の調査から正確な経過を把握できた患者が35.7%と非常に少なく,この実態を捉えることの困難さに直面した。筆者らは,この事実を踏まえた上で受療状況を調査した。

精神分裂病者の学校適応状況(第1報)—状態像との関係について

著者: 弟子丸元紀 ,   赤城藤孝 ,   宮本憲司朗 ,   山下建昭 ,   上妻明彦 ,   荒木邦生 ,   橋村哲男 ,   木村武実 ,   中村能文 ,   宮川太平

ページ範囲:P.1301 - P.1310

 抄録 精神分裂病者(54名)の学校適応状況について検討した。外来受診時は各学年ともに6〜7割が不登校であった。発病状況では急性・亜急性型より潜伏期型が学校適応が悪かった。退院後の学校適応について状態像との関係をみると,緊張病症状群が前景群は69%,活発な幻覚・妄想状態が前景群は64%,情意減弱状態,関係・被害妄想が前景の群は65%,心気症状,関係・被害妄想が前景の群は40%,神経症症状を示す例は全例が不適応であった。入院中の症状との関係は,「気分・行動変調」および「異常体験」より,「情意減弱状態」が学校適応の障害となっている。また病棟内の生活態度との関係は適応が良い例は,入院治療に際し,治療者の指示に従い,学校のことよりも治療優先的態度を示し,かつ仲間関係が保て,運動・レクレーションヘの参加意欲を示す例であり,一方,自分の判断・考えで行動し,自我理想が高く,対人関係で葛藤状況を来しやすい例は学校適応が困難であった。

精神分裂病患者の病前行動特徴(第4報)—通知表による分裂病患者とその同胞および感情病患者と神経症患者の行動評価の比較

著者: 高橋象二郎 ,   岡崎祐士 ,   増井寛治 ,   原田誠一 ,   高桑光俊 ,   佐々木司 ,   飯田茂

ページ範囲:P.1311 - P.1317

 抄録 我々はこれまでに,小・中学校時代の通知表を用いて,分裂病,その同胞,感情病を対象に病前行動特徴について比較し検討を行ってきた。その結果,学童期から,分裂病は,いわゆる「分裂気質」や「陰性症状」と類似した行動特徴が,一方,感情病は,執着気質と類似した行動特徴が認められた。さらに,学童期の行動特徴から,3者をかなりの程度弁別することができることを示した。
 今回は,分裂病の病前行動特徴の疾患特異性をさらに調べる目的で,分裂病(21名),分裂病の同胞(21名),感情病(11名)と共に神経症(14名)の病前行動も含めた4群間の比較を行った。その結果,分裂病は,病前行動特徴として報告してきた行動項目の多くが神経症との間でも有意差が認められ,これらの行動特徴が疾患特異的である可能性がさらに増した。神経症は今回の結果では,分裂病同胞と同じく,他の3群との比較において共通して抽出される病前の行動特徴を認めなかった。

老人ホーム入所者の生活実態と抑うつに関する検討

著者: 堀口淳 ,   稲見康司 ,   柿本泰男

ページ範囲:P.1319 - P.1324

 抄録 老人ホーム32施設に入所中の920名の生活実態を調査し,さらにこの結果を養護および特別養護老人ホーム入所者に分けて比較検討した。また同時にZungの自己評価式抑うつ尺度を実施し,在宅老人1,155名の結果と比較検討した。その結果,①ホーム全体では,半数以上の入所者が自宅からの入所で,また3年以上の長期入所者であり,兄弟や子供があり,面会や外出,クラブ活動への参加や友人関係を有し,自立した生活を行っており,これらの傾向は兄弟や子供の有無と面会を除いて,養護老人ホーム入所者で高率であった。②Zungの自己評価式抑うつ尺度の結果では,ホーム入所者全体の60.4%が抑うつありと判定され,特別養護老人ホーム入所者では70.8%とさらに高率であり,これらの値は在宅老人の39.1%と比較し統計学的に有意に高率であった。

アルコール依存症者と健常者との中年期の危機状態の比較

著者: 長尾博

ページ範囲:P.1325 - P.1331

 抄録 中年期の危機状態を定義し,この定義に基づいて男女別の中年期の危機状態尺度を作成した。この尺度は,40歳代から50歳代までの健常者132名(男性76名,女性56名)を対象に調査を行い,因子分析法を用いて作成された。その結果,男性用尺度は,7因子が,女性用尺度は,5因子が抽出され,尺度の安定性や妥当性も検定された。また,この尺度を用いて中年期のアルコール依存症患者(男性30名,女性16名)と上記の健常者との比較を行った結果,男性アルコール依存症患者は,(1)過去を回顧しない傾向,(2)死の不安,(3)将来の絶望,(4)時間的展望の欠如,(5)疲労感,(6)若い世代に対する劣等感,(7)生殖性の欠如,一方,女性アルコール依存症患者は,(1)死の不安,(2)今までの生き方の後悔,(3)自立することの不安,(4)時間不信という特徴が強いことが明らかになった。

短報

15年間の間欠期を経て再発した周期性傾眠症の女性例

著者: 田宮聡 ,   酒本謡子 ,   天野雅夫 ,   岡村仁 ,   杉原順二 ,   高畑紳一 ,   菊本修 ,   横田則夫 ,   河相和昭 ,   山崎正数 ,   中原俊夫 ,   更井啓介

ページ範囲:P.1333 - P.1335

I.はじめに
 睡眠障害の中で不眠は最も頻繁に経験される症状であるのに対して,過眠は不眠ほどには多くなく,その中でも過眠を主症状とする周期性傾眠症は極めてまれな疾患である。
 我々は,若年期に傾眠と不眠のエピソードで発症し,その後寛解状態にあったが,約15年を経て更年期に再び傾眠を呈した女性例を経験した。本症例の診断としては,周期性傾眠症が最も妥当と考えられたが,間欠期が極めて長期にわたっていた点,比較的高年齢で再発をみた点がこれまでの報告例と異なっていた。

躁病の炭酸リチウム治療経過中にMeige症候群を呈した1例

著者: 黒河内彰 ,   内田正名

ページ範囲:P.1336 - P.1338

I.はじめに
 Meige症候群(以下M症候群)は,顔面に対称性に発現する非律動性のジストニア様不随意運動を主徴とし,しかめ顔,開口などの特有な顔貌を呈する5)。近年,本症候群が種々の抗精神病薬やLevodopaなどにより発現するとの報告がある1,7,8)。しかし,炭酸リチウムにより本症候群を呈することは未だ知られていない。今回,我々は躁病の炭酸リチウム治療経過中にM症候群を呈した1例を経験したので報告する。

家族性特発性大脳基底核石灰化症の1例

著者: 湖海正尋 ,   青木建亮 ,   鳩谷龍 ,   小野稔

ページ範囲:P.1339 - P.1341

I.はじめに
 家族性特発性大脳基底核石灰化症(FIBGC:familial idiopathic basal ganglia calcification)は比較的稀な疾患であり,臨床症状,遺伝形式ともある程度一定の傾向を示すものの疾患単位として十分に確立されているとは言い難い。我々は発端者に,てんかんをみたFIBGCの1例を経験した。CTの導入に伴いこのような症例に遭遇する場合も増加している。国内では,これまでのところ精神科領域で厳密な意味でのFIBGCの報告をみないが,今後注目されていくと思われるのでここに報告する。

「精神医学」への手紙

●Letter—「アルファ昏睡を呈した急性薬物中毒の1例」について

著者: 坂元薫

ページ範囲:P.1377 - P.1377

 筆者も過去に同様の症例を経験したことがあり2),上記短報を興味深く拝見しました。これまで急性薬物中毒によるα昏睡の報告は少なく,本邦では数例に過ぎないようですので,ここで自験例につき簡単に報告しておきたいと思います。
 症例は昭和29年生まれのうつ病の女性です。昭和57年11月8日午後8時頃,自殺の目的でアモバルビタール約7000mgを服用し,翌9日午前9時に当科に救急入院となりました。入院時自発呼吸は保たれていましたが,昏睡状態にあり,ICUにて呼吸・循環管理等を行いました。脳波では,両側前頭-頭頂優位に,10〜14Hz,50〜100μVの痛覚・光・音刺激に反応しない,主としてα帯域波が優位にみられました。その後意識レベルの回復につれてむしろ2〜5Hz,100〜150μV前後の全般性の徐波が目立つようになりましたが,服薬9日目の完全に回復し意識清明な状態では,後頭優位に10〜11Hz,50〜100μVの規則的なα律動が認められました。なお全経過を通じて心肺機能は比較的良好に保たれていました。

シンポジウム 「うつ」と睡眠

小児の睡眠障害

著者: 加藤醇子

ページ範囲:P.1343 - P.1349

I.はじめに
 睡眠機構の発達は,学童期にはほぼ完了しており,前思春期(6〜10歳)頃から生じてくる小児のうつ病Major depressive disorderにみられる睡眠障害については,成人と同様な機序による発現が想定しうる。ここでは小児における睡眠機構の発達を概観し,その発達過程で睡眠障害が生じた自験例を中心に,睡眠覚醒リズム障害と,それに関与したと考えられる環境要因,内因としての中枢神経系の障害および障害発現の臨界齢を検討し,これらがいかなる行動異常の発現に関連するのかを考察し,最後に,前思春期うつ病につき文献的考察を試みた。

うつ病における睡眠と覚醒

著者: 太田龍朗

ページ範囲:P.1351 - P.1358

Ⅰ.うつ病と睡眠障害
 精神神経系疾患の多くに睡眠障害が伴うことはよく知られている。しかしながら,睡眠障害それ自体が疾患であるものから,基礎疾患に二次的に伴っているに過ぎないものまで,病気の本態との結びつきの程度によってその病態は様々である。患者の訴える睡眠障害が実際にはどの程度のものであるかを調べることは,睡眠ポリグラム(polysomnogram)によって可能になり,その結果神経症性不眠などのように,生理学的には患者の訴えほどには障害されていないものがある10)一方で,患者がほとんどそれを訴えないのにかなりの睡眠障害を認める機能性精神障害があることなども明らかになっている。Jovanovicら17)は,200名の健常者と60名のうつ病者を対象に,それぞれ睡眠薬の偽薬を与えその前後での睡眠ポリグラム記録を比較したところ,健常者では不変であったのに対し,うつ病では若干の改善をみる例もあったが統計的には有意な改善はみられなかったと報告している。大熊ら29)は,うつ病者の不眠が夜間睡眠のみに認められるものかを確認するため,夜間睡眠に加え,午前,午後,夕刻の昼寝をとらせ,それぞれ健常者と比較したところ,うつ病者ではどの時間区分帯でも総睡眠時間(total sleep time)が短縮していたという。このような事実は,うつ病者の訴える不眠は,状態そのものを額面通り反映しており,しかもそれは終日にわたって存在し,睡眠障害がこの病気の本態と深く結びついていることを示唆している。
 ところで,うつ病には不眠症(insomnia)を示すものだけではなく,逆に過眠(hypersomnia)を呈する一群が存在することも知られている。病相期になると終日倦怠感と眠気を訴え,好褥的な生活を送るうつ病者がいることは日常臨床でしばしば経験される。このようにうつ病は睡眠・覚醒機構からみて「早朝覚醒」に象徴される不眠症を伴うものと,「傾眠」を代表症状とする過眠症群に大別することができよう。

“うつ”と“痴呆”を呈する老年者の睡眠

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.1359 - P.1366

I.はじめに
 老年者にみられるうつ状態には様々な症状がみられる。とりわけ,不安・焦燥,抑うつ感情,精神運動制止などの中核症状に睡眠障害を伴っていることがきわめて多い。また老年者にみられるうつ状態には痴呆を合併していることも多く,老年者の“うつ”と“痴呆”の鑑別が困難である場合が少なくない。このような老年者にみられる“うつ”と“痴呆”のいずれも加齢に伴う脳器質的障害を背景として生じる病態であり,それらは相互に近縁の病態であると考えられている4,15)
 また老年性痴呆の患者は,様々な認知機能の障害に加えて,夜間せん妄などのために夜間に徘徊するなどの異常行動を示すことが多く,その時には睡眠・覚醒リズムの障害を伴っていることがきわめて多い。

生体リズムからみた「うつ」—数学モデルからのアプローチ

著者: 小林敏孝

ページ範囲:P.1367 - P.1374

I.はじめに
 うつ病はその成因によって心因性うつ病,神経症性うつ病,内因性うつ病に分けることができる。ここでは内容を簡潔にするために内因性うつ病に限って話を進める。うつ病の睡眠に関する研究はDiaz-Guerreroらが1946年にうつ病患者の睡眠脳波を記録したものが最初である5)。彼らの研究によると,うつ病患者の睡眠は①睡眠中に出現する睡眠徐波の振幅が正常者と比較して低いこと,②中途覚醒が多いこと,③入眠が困難なこと,④早朝覚醒が目立つことが主なる特徴であると報告している。その後,睡眠ポリグラフィー技法の確立により1960年代から1970年代にかけて多くの研究が行われたが,Diaz-Guerrero(1946)の研究を越えるものは出なかった3,7,18)。1970年代から1980年代にかけてうつ病患者のREM睡眠と徐波睡眠に関する興味ある所見が多く報告された1,6,8,14,15,19,22)。この中でもREM睡眠潜時の短縮は何人かの研究者によって追認されている1,6,15,22)。1980年代に入るとうつ病の時間生物学的研究が盛んになり,睡眠—覚醒リズムに伴う体温やメラトニン,コルチゾールに代表される多くの生化学物質の日内変動をうつ病患者で検討する研究が精力的に行われるようになった16,20,24,25)。その結果,睡眠—覚醒リズムに対して体温等の日内リズムの位相が健常者に比べて前進していることが見いだされ,うつ病の位相前進仮説がWehrとGoodwin(1981)によって提唱されるようになった25)
 このように,うつ病の生物学的な研究は睡眠と生体リズム論的なアプローチで飛躍的に進歩し,特に最近では高照度光パルス療法なる治療法まで開発されるに至った17)。しかし,うつ病にみられる睡眠異常や生体リズム異常の成因に関する理解はまだ十分とはいえない。そこで,うつ病の病態像を生物学的側面から理解するために,本稿では疑似うつ状態実験と数学モデルという二つの新しい方法論を駆使してうつ状態あるいはうつ病にみられる睡眠異常と生体リズム異常の成因の推定を試みた。

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精神医学 第32巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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