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文献概要
シンポジウム 「うつ」と睡眠
うつ病における睡眠と覚醒
著者: 太田龍朗1
所属機関: 1名古屋大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.1351 - P.1358
文献購入ページに移動Ⅰ.うつ病と睡眠障害
精神神経系疾患の多くに睡眠障害が伴うことはよく知られている。しかしながら,睡眠障害それ自体が疾患であるものから,基礎疾患に二次的に伴っているに過ぎないものまで,病気の本態との結びつきの程度によってその病態は様々である。患者の訴える睡眠障害が実際にはどの程度のものであるかを調べることは,睡眠ポリグラム(polysomnogram)によって可能になり,その結果神経症性不眠などのように,生理学的には患者の訴えほどには障害されていないものがある10)一方で,患者がほとんどそれを訴えないのにかなりの睡眠障害を認める機能性精神障害があることなども明らかになっている。Jovanovicら17)は,200名の健常者と60名のうつ病者を対象に,それぞれ睡眠薬の偽薬を与えその前後での睡眠ポリグラム記録を比較したところ,健常者では不変であったのに対し,うつ病では若干の改善をみる例もあったが統計的には有意な改善はみられなかったと報告している。大熊ら29)は,うつ病者の不眠が夜間睡眠のみに認められるものかを確認するため,夜間睡眠に加え,午前,午後,夕刻の昼寝をとらせ,それぞれ健常者と比較したところ,うつ病者ではどの時間区分帯でも総睡眠時間(total sleep time)が短縮していたという。このような事実は,うつ病者の訴える不眠は,状態そのものを額面通り反映しており,しかもそれは終日にわたって存在し,睡眠障害がこの病気の本態と深く結びついていることを示唆している。
ところで,うつ病には不眠症(insomnia)を示すものだけではなく,逆に過眠(hypersomnia)を呈する一群が存在することも知られている。病相期になると終日倦怠感と眠気を訴え,好褥的な生活を送るうつ病者がいることは日常臨床でしばしば経験される。このようにうつ病は睡眠・覚醒機構からみて「早朝覚醒」に象徴される不眠症を伴うものと,「傾眠」を代表症状とする過眠症群に大別することができよう。
精神神経系疾患の多くに睡眠障害が伴うことはよく知られている。しかしながら,睡眠障害それ自体が疾患であるものから,基礎疾患に二次的に伴っているに過ぎないものまで,病気の本態との結びつきの程度によってその病態は様々である。患者の訴える睡眠障害が実際にはどの程度のものであるかを調べることは,睡眠ポリグラム(polysomnogram)によって可能になり,その結果神経症性不眠などのように,生理学的には患者の訴えほどには障害されていないものがある10)一方で,患者がほとんどそれを訴えないのにかなりの睡眠障害を認める機能性精神障害があることなども明らかになっている。Jovanovicら17)は,200名の健常者と60名のうつ病者を対象に,それぞれ睡眠薬の偽薬を与えその前後での睡眠ポリグラム記録を比較したところ,健常者では不変であったのに対し,うつ病では若干の改善をみる例もあったが統計的には有意な改善はみられなかったと報告している。大熊ら29)は,うつ病者の不眠が夜間睡眠のみに認められるものかを確認するため,夜間睡眠に加え,午前,午後,夕刻の昼寝をとらせ,それぞれ健常者と比較したところ,うつ病者ではどの時間区分帯でも総睡眠時間(total sleep time)が短縮していたという。このような事実は,うつ病者の訴える不眠は,状態そのものを額面通り反映しており,しかもそれは終日にわたって存在し,睡眠障害がこの病気の本態と深く結びついていることを示唆している。
ところで,うつ病には不眠症(insomnia)を示すものだけではなく,逆に過眠(hypersomnia)を呈する一群が存在することも知られている。病相期になると終日倦怠感と眠気を訴え,好褥的な生活を送るうつ病者がいることは日常臨床でしばしば経験される。このようにうつ病は睡眠・覚醒機構からみて「早朝覚醒」に象徴される不眠症を伴うものと,「傾眠」を代表症状とする過眠症群に大別することができよう。
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