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雑誌目次

雑誌文献

精神医学32巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

巻頭言

1990年代の夢MRS

著者: 高橋三郎

ページ範囲:P.342 - P.343

 精神疾患の本態の解明のためにはin vivoで脳内の物質代謝をはかることが必要である。これまで生きた患者の脳内で何が起こっているかは間接的に体液や死後脳の研究,または一定の仮説に基づいた負荷テストによるしかなかった。あるいは,動物の脳を用いた実験から,精神疾患の成因となる過程が推定されているに過ぎない。だからと言って,精神疾患の診療のためには診断基準だけ扱っていていいわけではない。
 最近,脳の画像診断について次々と新しい技術が導入され,神経学の診断と治療に革命をもたらしたことは周知の通りだが,精神医学の領域でもCTスキャンなしでは通れない時代になっている。脳におけるセロトニン代謝を知る目的で脳脊髄液中の5-HIAAを定量していたのはわずか十数年前のことであったが,腰椎穿刺による脳脊髄液中の5-HIAAは,ほとんどが脊髄腔から由来する末梢性のものであることがわかった。あるいは,頸部動静脈から得た血漿中MHPG濃度を比べた結果,末梢血から得た所見でも脳内ノルアドレナリン代謝を反映するよい指標だと主張され,MHPGが盛んに研究された年代もあった。しかし末梢血中のMHPGの大部分は末梢由来で筋肉運動負荷により著増する。こうした研究は,科学が発達するプロセス上の出来事として捉えれば,無駄と浪費を重ねたわけではない。

展望

いわゆるBinswanger病をめぐる諸問題

著者: 高畑直彦

ページ範囲:P.344 - P.356

I.はじめに
 中枢神経系の白質障害が様々な神経・精神症状をもたらすことは当然予想されることである。1894年に報告されたいわゆるBinswanger病は,このような病態を紹介したものとして近年改めて注目を浴びてきているが,原著における臨床病理的記載の曖昧さもあり,現在に至るまで疾患単位として広く公認されてきたとは言いがたい。しかしその診断と成因をめぐっての議論は,大脳白質の病態生理や痴呆の原因について大きな示唆を与えてきたといえる45)。本展望では,このようないわゆるBinswanger病をめぐる様々の所見と見解を取りあげ検討してみることとする。

研究と報告

ネオロギスムと分裂病の世界—言語の解体という視点から

著者: 羽根晃 ,   小出浩之

ページ範囲:P.357 - P.363

 抄録 分裂病的世界についてのこれまでの精神病理学的理解を一歩すすめることを目的に,ネオロギスムを核にして分裂病的世界が再構成された様子が極めて明白な一慢性分裂病者の経過を示し,この症例に即して,ソシュールのいう「言語の解体」を拠り所にして,分裂病の発症,分裂病的世界の再構成について考察した。なお我々平均人の世界との相違についても若干の考察を加えた。
 1)分裂病の発症とは,我々の間主観性の基盤である言語の解体と見なすことができる。そのとき,患者は相互にばらばらとなったシニフィアン,すなわちコードなき差異の場へと陥る。2)ここからの世界の再構成はネオロギスムを核として行われる。その結果分裂病的妄想世界や思考化声的な幻聴が成立する。3)しかしこの再構成から洩れるものがある。それが真の幻聴であり,それはシニフィアン相互の差異がコード化される直前の場で生じる。

痴呆症状評価尺度GBSスケールの日本語版作成とその信頼性の検討について

著者: 新井平伊 ,   野口岩秀 ,   岩本典彦 ,   小林一成 ,   文元秀雄 ,   小山隆 ,   小阪憲司 ,   飯塚禮二 ,   G. Bråne ,  

ページ範囲:P.365 - P.374

 抄録 痴呆の総合的な状態像の把握や推移の判定に有用な評価尺度として世界的に広く使われているGBSスケールを翻訳して日本語版を作成し,その評価尺度としての信頼性(Reliability)を検討した。検者二人がペアを組み,痴呆性疾患患者31名を対象として,日本語版により状態像を評価したデータを,統計学的に処理し,Spearmanの順位相関係数および一致率を算出した。その結果,ほとんどの項目において統計学的に有意で高い相関係数と高い一致率が得られた。有意な相関係数が得られなかった項目については,考案者らと協議の上書き改め改訂版を作成し,再度上記のような試行を行ったところ,改訂版に関しては信頼性が高いと判定できる結果が得られた。今回の2回にわたる試行から明らかになったGBSスケールの持つ問題点について若干の考察を加えるとともに,使用前における評価法の説明が重要であることを強調した。

うつ病における抗うつ剤に対する治療反応性の予測

著者: 永山治男 ,   長野浩志 ,   池崎明 ,   田代哲男

ページ範囲:P.375 - P.381

 抄録 うつ病の抗うつ剤治療においてその治療反応性を予測する目的をもって,40名の同病入院患者に4週間にわたってclomipramineによる一定した治療を行った。予測因子としてはHamiltonうつ病評価尺度(HRSD),Beckうつ病評価尺度(BDRS)およびデキサメサゾン抑制試験(DST)を用いた。これにより次の結果を得た。この4週間の間の症状改善度および4週間目の重症度の予測に最も有効なのは,治療開始後最初の1週間のHRSDにおける全般的改善度および1週間目の重症度であった。治療開始前の重症度は予測性を示さなかった。個々の症状には多少の予測性が認められたが上記指標には及ばなかった。BDRSは弱い予測性を示すにとどまった。DSTは予測性を全く示さなかった。以上により,治療反応予測において1週間のテスト治療の有用性が結論された。

論理—文法的操作の障害(Luria)の1例

著者: 藤井勉 ,   清水昭規 ,   倉知正佳 ,   青木さつき ,   武田茂憲

ページ範囲:P.383 - P.390

 抄録 脳動静脈奇形破裂に起因する脳出血によりLuriaのSemantic aphasiaを呈した1症例を報告した。
 症例は,論理-文法的構造を有する複雑な文の理解が困難で,格助詞によって解読することができず,内容語の語順に従って継時的に把握しようとした。本例は左利き素因を有し,X線CTとN-isopropyl-p-[123I]iodoamphetamineによるSingle photon emission CTでの病変部位は右角回を中心にほぼ限局していた。一方,比較的軽症のWernicke失語5例において論理-文法的構文の理解障害を検討した結果,病変部位が角回に及ばない4例では文理解が良好で,角回を含む広範な病巣の1例では本例と同様の障害を示した。

3歳児健診時に発達性の言葉の遅れを示した児の追跡調査—予後の予測における多動傾向の意義

著者: 小田昇 ,   阿部和彦

ページ範囲:P.391 - P.394

 抄録 3歳児健診時に単語は言うが文章を話せない児の中から,発達テストの得点が低い児を除外することにより,特異的な発達性の言葉の遅れを示した児を選択した。対照群は3歳児健診時に正常な言葉の発達を示した児である。これらの児が平均して8歳になった時,母親に対し質問紙を郵送することにより追跡調査を行った。3歳時に発達性の言葉の遅れを示した児では,8歳時の〈字の読み書きが下手〉の項目が有意に高頻度であった。また3歳時に発達性の言葉の遅れを示した児のなかで,8歳時に〈字の読み書きが下手〉と回答した児をそうでない児と比較したところ,前者では3歳時の〈ガサガサよく動きじっとしていない〉と,8歳時の〈落ちつきがない〉の項目が有意に高頻度であった。3歳時の発達性の言葉の遅れに多動傾向を合併することが,のちの読字困難の高度な危険因子であり,予測的価値を有していることを示唆した。

精神科病棟活動の拡大と萎縮

著者: 久場政博

ページ範囲:P.395 - P.401

 抄録 昭和57年1月から昭和63年12月までの,開放的処遇と社会復帰活動の実践について報告し,若干の考察を試みた。
 活動の経過の中で,措置解除の促進,治療チームの組織化,生活療法棟の活用,時間制病棟全開放の意義について述べた。これら7年間の活動は,以前のそれと比較して,病棟活動の拡大と萎縮という視点でまとめることができる。病棟活動の拡大とは,病院内・外を問わず,派生的に様々な活動が出現する状況である。これらはまた,患者を信頼し人間的配慮のできる時・空間の拡大といえる。それに対して萎縮とは,患者を画一的に管理し,自由性・活動性・責任性が著しく低下した状況である。ただし,萎縮から拡大へ向かうとき,それら3つのみを強調するのではなく,安心・信頼・余裕の治療的雰囲気を創り出す必要性のあることも,指摘した。

労災認定業務における精神医学的問題

著者: 黒木宣夫

ページ範囲:P.403 - P.409

 抄録 近年,職場のメンタル・ヘルスが重要視され,業務上外疾病の認定基準も大幅に改訂,その適用範囲も広く認められつつあるが,労災,業務上疾病における後遺症の障害認定業務における精神医学的問題を明らかにする目的で,他診療科から認定業務に際して精神科に依頼されてきた症例73例(男58,女15)について精神医学的に検討を加えた。ただし,労災認定業務における精神医学的問題をわかりやすくするため,認定業務を主として行う診療科の判断で後遺障害としての医学所見が,比較的軽度である群をⅠ群,医学所見が明白な群をⅡ群に分けて,特に認定までの期間,入院回数,転医回数,依頼内容,精神状態,監督署へ提出された意見書,などについて比較検討し,さらに必要に応じて心理テストを施行したのでその結果を報告するとともに,後遺障害の等級認定に際しての精神医学的問題に若干の考察を行った。

短報

日光暴露後に悪性症候群を呈した精神分裂病の1例

著者: 福嶋隆一 ,   吉田幸宏 ,   千葉茂 ,   宮岸勉

ページ範囲:P.411 - P.413

I.はじめに
 悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome以下,NMS)は,その発症要因として,薬剤側の要因のみならず個体側の要因も関与することが知られており,抗精神病薬が長期にわたり一定量投与されている時期においても,身体状況の何らかの変化を契機としてNMSが誘発されうることが指摘されている4,6〜8)
 我々は,短時間の日光暴露に引き続いて比較的軽症のNMSを呈した精神分裂病の1例を経験したので報告する。

悪性症候群の断薬時にPriapismを呈した1例

著者: 瀬尾崇 ,   野村吉宣 ,   黒田健治 ,   元村直靖 ,   豊田勝弘 ,   米田博 ,   千原精志郎

ページ範囲:P.414 - P.416

I.はじめに
 Priapismは,性的興奮を伴わない陰茎の持続性の勃起であり,種々の原因で発症するが17),まれに抗精神病薬の副作用としても起こってくることがある1,3〜11,13,14,16)。また抗精神病薬の投与中に悪性症候群が出現し,同時にpriapismを合併したという報告もある2)。今回我々は,抗精神病薬による悪性症候群のため断薬した症例で,悪性症候群の症状が軽快した時期にpriapism様の持続性陰茎勃起状態をきたした1例を経験したので報告する。

悪性症候群とTEN症候群を起こし血液灌流と血漿交換が効果をあげた1例

著者: 清水淑子 ,   寺野易代 ,   小島武 ,   佐貫恵吉 ,   坪中信幸 ,   木村健一 ,   片山正一 ,   金杉和夫 ,   近藤靖児

ページ範囲:P.417 - P.421

I.はじめに
 向精神薬の副作用の一つに,極めて重篤な症状を示す悪性症候群(syndrome malin)がある。その治療として数年前より,dantrolene1,10),bromocriptine18)が使用されるようになって一定の効果をあげてきた。また,中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis以下TENと略)4,6,7,9,14〜17)は,高熱,全身皮膚灼熱感と共にびまん性紅斑が生じ,後に広範囲の第2度熱傷に類似した大水疱を多発し,膜様に表皮が剥脱して湿潤したびらん面を形成してくる疾患である。本症はさらに乏尿,実質性またはうったい性肝炎,心炎,気管支肺炎などの重篤な臓器合併症を伴って,予後不良の場合が多い。
 今回,著者らははじめ悪性症候群にかかり,dantroleneを使用しながら血液灌流(direct haemoperfusion以下DHPと略),血液透析(hemodyalysis以上HDと略)を実施し著明な効果を上げたが,治癒1週間後にTEN症候群を起こし,これも血漿交換を利用した治療により著しい改善が認められた1例を経験したので報告する。

資料

市立総合病院におけるリエゾン精神医学の経験

著者: 小片寛 ,   塩原順子

ページ範囲:P.423 - P.428

I.はじめに
 筆者らは当総合病院でのアルコール依存症患者の治療に関する現状を1987年に報告12)し,問題点を指摘しながら精神科医の役割にも簡単に触れてきた。今回は各診療科との連携医療を前提にリエゾン精神医学の経験を報告し,若干の考察を試みたい。
 1965年の調査9)によれば,わが国の国公立総合病院に精神科神経科を併設していたのは,大学附属病院を除いて,全施設の3分の1であったという。当初は精神薬理学の台頭から,精神疾患の早期発見,早期治療を目的とし,その背景には地域精神医学が,今日の地域精神医療とは異なり臨床精神医学の窓口を広げる程度であったが,精神神経学会総会(1967年)のシンポジウムで取り上げられるようになった頃に相当する。しかしそれは病院内の単科としての役割であった。時代の流れと共に総合病院が精神科神経科を併設するようになったが,現時点でもそれを阻む要因は根強い。当初から,総合病院では各診療科相互の患者紹介や各科医ごとの医療検討や意見交換などが医局内でなされてきた。精神疾患や精神医療に関しても例外ではなかった(consultation psychiatry)。

動き

精神医学関連学会の最近の活動(No. 5)

著者: 島薗安雄

ページ範囲:P.429 - P.445

 日本学術会議は,わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達をはかり,行政・産業および国民生活に科学を反映浸透させることを目的として設立されているものであります。会員は210名から成り,3年ごとに改選されます。1988年7月から第14期の活動が始まっておりますが,わたくしは13期から引き続き会員をつとめております。
 学術会議の重要な活動の一つに研究連絡委員会(研連と略します)を通して科学に関する研究の連絡をはかり,その能率を向上させることがあげられます。この研連は医歯薬学(第7部)領域には37あり,その一つに精神医学研連があります。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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