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雑誌目次

論文

精神医学32巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

巻頭言

精神障害の予防をめぐる雑感

著者: 小椋力

ページ範囲:P.456 - P.457

 私どもの大学で次のようなことがあった。ある医学生から健康相談があり,面接したところ精神分裂病に罹患していた。彼の母親は既に分裂病であり,親の症状の重さ,経過の良くないことをつぶさに見ていたため,もし自分が分裂病になったら自殺したいと話していたことが後の面接でわかった。分裂病の親と同居し,自分自身の発症を恐れながら精神医学を学んでいたことを思うと,胸が痛むと同時に,教官として,精神科医として何もしてやれなかったことが悔しい。
 精神保健に関する講演を依頼された。ある企業の社員を対象としたもので,講演の内容は精神保健一般に関するものであったが,良い機会であったので以下のような多少とも挑戦的なアンケート調査を試みた。すなわち現在のところ,精神疾患の発症を予防する方法は確立されていないし,早期発見のための検診もほとんど行われていないが,将来これらの方法が確立されれば検診などを受けたいかどうか,仮の話として問うた。調査結果は次のようであった。148人(参加者の約85%,男111,女37,平均年齢40.2歳)から回答があり,以下の割合で「受けたい」との希望があった。すなわち検診については痴呆で60.8%,うつ病で59.5%,分裂病で44.6%,予防については痴呆78.4%,うつ病70.9%,分裂病65.5%であった。年齢が高いほど痴呆に対する関心が高く,また女性は,いずれの疾患に対しても,検診を受けることを希望する割合が低いにもかかわらず,予防に対する関心は高く,特に痴呆の場合91.7%が予防を希望していた。痴呆の予防を除くいずれの項目についても10%前後の「どちらでもない」との回答と約5%の無回答があったが,これらの中には,検診などが仮に実施されるようになった段階においては「受けたい」と希望する者が含まれていると思われる。いずれにしても発症予防,早期発見に対する関心は高いと言えよう。

展望

「心的外傷後ストレス障害」の現況

著者: 森山成彬

ページ範囲:P.458 - P.466

I.はじめに
 「心的外傷後ストレス障害」Post-traumadc Stress Disorder(PTSD)は,米国精神医学会が1980年,その診断マニュァルで提唱した疾患である1)。しかしその起源は古く,既に,紀元前5世紀のマラトンの戦いを記述したヘロドトスの著作のなかにも,PTSD類似の事例がみられるという3)。次頁表に,19世紀以降今日まで日本語で流布した関連病名を掲げた。この疾患が時代の思潮の波に翻弄された様子がみてとれ,各呼称の裏に時代の傾斜と精神医学者の姿勢が透見する。社会的には道徳や補償との関連で論じられ,心理学的には精神分析学に格好の討論材料を提供し,生物学的には器質病変の有無が問われ続けてきた。
 なるほど,米国でPTSD研究の気運が高まったのはベトナム戦争の影響である。しかしPTSDを惹起するのは戦闘ばかりでなく,人間の生命・存在を脅かすすべての事象が引金になる可能性をもっている。米国では一般人口の約1%がPTSDの既往を持つとされる28)。事故後の「精神的ショック」で裁判沙汰になっているケースの23%がPTSDであり5),通常の災害事故で一般病院に入院している患者は,半年後に1〜4%の割合で本症に苦しむという45)。また,難民の7割に本症がみられている30)。PTSDが決して稀な疾患ではない証左であろう。

研究と報告

分裂病一卵性双生児の一致症例—破瓜型と単純型

著者: 内海健 ,   林峻一郎 ,   菊池貞男

ページ範囲:P.467 - P.474

 抄録 症候論的に著明な差異を呈し,それぞれ破瓜型(A),単純型(B)と診断される分裂病一卵性双生児症例につき報告した。Aは10代より徐々に発病し,一時期幻覚妄想を呈し,現在は情意鈍麻を主とした慢性様態にある。Bは放浪生活を経て,20代後半より徐徐に適応不全を示し,明白な分裂病症状は認められないものの,人格の単純化が顕著な状態にある。この両者について比較検討し,症候論的差異と単純型分裂病の疾病構造に関して若干の考察を加えた。両者には出生時体重(A<B),養育者との関係,病前性格などに差異が見いだせるが,Aのより早期の発病には,彼の無防備な構えが大きな要因として関与していることが推察された。一方BはAを自分の潜在的可能性として捉え,状況と関わることを回避することによって明白な発病を免れたが,適応レベルの低下とともに人格の単純化が進行した。こうした定着しない生の様式と,一面的思考による人格の再組織化が,単純型分裂病の様態を規定する要因として考察された。

共通した原家族体験が認められた遅発性Anorexia nervosaの2症例の検討

著者: 川上香 ,   松本英夫 ,   深沢裕紀 ,   石川元 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.475 - P.482

 抄録 思春期以降発症した遅発性Anorexia nervosaの2症例を検討した。症例Aは30歳のとき,次女を出産したが,その後拒食に陥り,40kgあった体重が10年後には26k9に減少した。症例Bは33歳のとき,長女の反抗期と,医師の減量指示を契機に減食を始め,46kgあった体重が15年間に25kgに減少した。
 これらの2症例は発症が緩徐で経過が長く,また,両症例とも両親の不仲と父親の不在,見合い結婚後も母親への依存が続く,などの共通した家族背景を持っており,特異な家族力動が示唆され,家族療法にも反応がみられた。両症例は思春期を女性性獲得を達成しないまま過ごし,結婚した結果,母親としての対処をせまられたとき発症したと考えられた。このとき,やせは母親役割の放棄ととらえることができた。

てんかん専門治療施設における外来患者の診断について—1985年の国際分類案を用いて

著者: 小林一弘 ,   川口浩司 ,   大原健士郎 ,   鈴木節夫 ,   森川建基 ,   八木和一 ,   清野昌一

ページ範囲:P.483 - P.488

 抄録 昭和63年6月1日から11月30日の6カ月間に,国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)を受診した男性210名,女性144名,合計354名のうち,てんかんならびにてんかん症候群(疑いを含む)と診断されたものは男性193名,女性127名の合計320名であった。これらを対象として,1985年の新国際分類案で分類したところ,症候性局所関連性てんかんおよび症候群が164例(51.3%),症候性全般てんかんおよび症候群が46例(144%),特発性全般てんかんおよび症候群が37例(11.6%),特発性または症候性全般てんかんおよび症候群が23例(7.2%)であった。しかし,診断が確定しなかった症例が,118例(36.9%)あった。その要因は,局所関連性てんかんおよび症候群では脳波所見と臨床症状が共に明確でない症例が26例(556%)と多く,特発性もしくは症候性の全般てんかんおよびてんかん症候群では脳波所見が明確でない症例が10例(100%)と多かった。てんかん疑いとしか分類できない症例は,20例(6.3%)ときわめて少なかった。1985年の新国際分類案はてんかんの治療予後を考える上で有用であると考えられた。

幻覚妄想状態を呈した脊髄小脳変性症の3症例

著者: 福谷祐賢 ,   勝川知彦

ページ範囲:P.489 - P.495

 抄録 幻覚妄想状態を呈した脊髄小脳変性症(SCD)の3症例について報告した。臨床病型は症例1は孤発性オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA),症例2はJoseph病,症例3はFriedreich病と考えられた。3症例に共通して意識障害はなかったが,幻視および幻聴の幻覚と関係,被害妄想が経過中にみられた。妄想は体系化せず,その多くは特定の限られた対象に向けられたもので具体的,現実的事実から曲解的に発展してくる内容であった。症例2は体感幻覚がみられ,症例1,3ではうつ状態の出没のほか皮質下痴呆の症状も呈していた。3症例の幻覚妄想状態は,その特徴,その他の症状との関連より器質性精神障害による精神症状と考えられた。SCDに幻覚,妄想が出現することはまれであるが,小脳と精神症状との関連も指摘されており,SCDにおいては神経症状だけでなく,精神症状についても詳細な観察が必要であることを強調した。

長期にわたり精神分裂病様症状を呈した特発性副甲状腺機能低下症の治療経過

著者: 八田耕太郎 ,   益子茂 ,   安藤貴紀 ,   村島温子

ページ範囲:P.497 - P.502

 抄録 長期にわたり精神分裂病様症状を呈した特発性副甲状腺機能低下症の1例を,治療経過を含めて報告した。
 精神分裂病との鑑別診断において,症状論的に重要なことは,次の3つであった。(1)接触性が比較的良好であり対人関係における両価性(E.Bleuler)を認めなかったこと。(2)病初期に願望充足的な幻覚妄想状態を呈していたこと。(3)不機嫌を呈する時もその背後に病的体験の存在が想定されなかったこと。

アルコール性ペラグラ脳症の3剖検例

著者: 水上勝義 ,   牧野裕 ,   入谷修司 ,   小林一成 ,   池田研二

ページ範囲:P.503 - P.509

 抄録 アルコール性ペラグラの3剖検例を報告した。3症例とも消長を繰り返し持続した意識障害を呈し,加えて症例1では眼症状,失調症状,末梢神経障害,錐体路症状を,症例2では失調症状,末梢神経障害を,症例3では上肢の振戦と歩行障害を呈した。皮膚症状を呈したものは1例もなく,消化器症状は症例3で下痢を認めたのみであり,アルコール性ペラグラは精神神経症状のみの症例が多いとする従来の報告とよく合致していた。また,アルコール性ペラグラの意識障害の病理学的背景として従来から言われている大脳皮質の神経細胞のcentral chromatolysisよりはむしろ,脳幹網様体におけるcentralchromatolysisが重要である可能性が示唆された。

Haloperidolが原因と考えられる赤芽球癆

著者: 西松央一 ,   溝渕睦彦 ,   藤本直

ページ範囲:P.511 - P.514

 抄録 薬剤性赤芽球癆の起因薬剤として抗精神病薬の報告はない。我々は抗精神病薬使用中に生じた赤芽球癆を経験したので,報告する。
 25歳男性で精神分裂病の治療中,顆粒球,血小板は正常に推移していたにもかかわらず,正球性正色素性の貧血が生じた。しかも,末梢血の網状赤血球は0‰で,貧血に対して骨髄での反応がないことが推察された。骨髄穿刺は行わなかったが,その臨床像から赤芽球癆と診断された。投与薬物との関連を検討したところ,haloperidol,chlorpromazine,levomepromazineの併用中に貧血は生じたが,chlorpromazine,levomepromazineの中止によっても貧血は改善せず,haloperidolの中止によってようやく網状赤血球が著明な増加を示し,赤芽球系の造血が亢進し貧血が改善した。haloperidolの再投与は行わなかったが,経過から本症例の赤芽球癆の原因薬剤はhaloperidolと考えた。

長野県における痴呆性老人疫学調査における長谷川式簡易知的機能評価スケールの適用上の問題

著者: 武藤隆

ページ範囲:P.515 - P.519

 抄録 長谷川式簡易知的機能評価スケールを長野県における痴呆性老人の疫学調査に適用した。
 (1)平均得点は,全体で21.8,男225,女21.2。年齢階級別では65〜69歳27.1,70〜74歳24.9,75〜79歳21.8,80〜84歳19.0,85歳以上17.7。また非痴呆群27.6,痴呆群14.9。痴呆の種類別では,老年痴呆13.9,脳血管性痴呆15.6,鑑別困難な痴呆14.9,その他の痴呆148。程度別では軽度20.8,中等度12.2,高度5.6,極高度0.8であった。

老年期の睡眠障害に関する疫学的調査

著者: 稲見康司 ,   堀口淳 ,   印南敏彦 ,   助川鶴平 ,   西松央一 ,   山本芳成 ,   佐々木朗 ,   柿本泰男

ページ範囲:P.521 - P.526

 抄録 愛媛県温泉郡重信町の全在宅老人を対象として,睡眠・覚醒障害についてアンケート調査を実施し,全対象者の64%にあたる1,564人から回答が得られた。
 一般的な事項としては,一夜の睡眠時間は7〜8時間のものが多いものの(50%),入眠困難(39%)や,主に排尿のために1〜2回の中途覚醒(65%)があり,また早朝覚醒も比較的多かった(28%)。日頃から,自分の睡眠状態が気になっている老人が23%にのぼり,12%の老人は,毎日あるいは時々睡眠薬を服用していた。

ドイツにおける分裂感情病の最近の研究(1)—非症候学的特徴

著者: ,   ,   ,   坂元薫

ページ範囲:P.527 - P.534

 抄録 72例の分裂感情病患者の長期経過について検討した。分裂病性症状と感情病性症状が同時に存在するか,あるいは交代して出現するものを分裂感情病と定義した。本論文では主にこれらの患者の病前の諸特徴について報告する。男女比は1:1.8であり,25歳から35歳の間に発病することが最も多かった。全症例の61%は発病時に既婚であった。また比較的高度の学歴と職業レベルを有するものが多かった。分裂感情病に特徴的な病前性格類型はみられなかったが,双極性のものに強力性人格が,そして単極性のものにはメランコリー親和型が多い傾向があった。病前の対人的接触性は大部分の患者(81%)で良好であった。誘発因子が頻繁(76%)に認められた。分裂感情病患者の68%は精神疾患の遺伝負因を有しており,特に家系内に感情病がみられることが多かった。以上検討した分裂感情病の非症候学的特徴はいずれも精神分裂病よりも感情病に類似したものであることが示された。

短報

眼瞼けいれんを呈した遅発性ジストニアの1例

著者: 福迫博 ,   竹内康三 ,   笹原徹郎 ,   松本啓

ページ範囲:P.535 - P.537

I.はじめに
 抗精神病薬によって惹起される開眼困難に関しては,本邦においては少数の報告7,8)がみられるだけである。宮永ら7)は,開眼困難は眼瞼けいれん(blepharospasm)の結果であると報告している。また,Tolosaら9)やBurkeら3)は,開眼困難は眼瞼けいれんの結果であり,これを遅発性ジストニアの1症状であると考えている。
 著者らは,抗精神病薬による治療中に,開眼困難の出現した1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

抗精神病薬に起因すると思われる汎血球減少症を来した1例

著者: 古田由紀子 ,   平安常良 ,   国元憲文 ,   荒木弘一

ページ範囲:P.539 - P.541

I.はじめに
 抗精神病薬,ことにphenothiazine系薬物の有害反応の一つとして,血液障害が知られている。この場合,多くは顆粒球減少症であり,造血機能の3系統が同時に障害される汎血球減少症は,わずかな報告2,3,5,9)がある程度で,比較的稀なものである。著者らは,抗精神病薬に起因すると考えられる,汎血球減少症を来した1例を経験したので,ここに報告する。

Triazolam投与期間に一致して約3カ月間の躁状態を呈した1老人例

著者: 宮岡等 ,   矢吹篤 ,   荻野孝徳 ,   渥美義仁 ,   浅井昌弘

ページ範囲:P.543 - P.545

I.はじめに
 Benzodiazepine系睡眠導入剤であるtriazolamは,血中濃度半減期が短く翌朝への影響が少ないため,精神科領域のみならず,一般診療科においても広く用いられている。Benzodiazepine系薬剤投与中には,種々の精神症状を呈しうることが知られているが,triazolamにおいても前向性健忘を主とする記憶障害,錯乱,神経過敏,気分高揚,抑うつなどが報告されている。
 今回我々は,triazolam 0.25mgを投与開始して5日目頃より躁状態となり,約3カ月間の投与期間中,持続して躁状態を呈した老人例を経験したので報告する。Triazolam投与翌朝に一過性の気分高揚感を認める症例は少なくないが,我々が知る限り,長期間躁状態が持続したとする報告はない。本例はtriazolamの適応,投与方法,特に身体合併症の多い老人への投与を検討するための一助になると思われる。

精神症状を呈した遺伝性球状赤血球症の1例

著者: 堀口淳 ,   中川学

ページ範囲:P.547 - P.548

I.はじめに
 遺伝性球状赤血球症Hereditary Spherocytosisは赤血球膜異常症の代表疾患で,学童期から思春期にかけて黄疸,貧血,脾腫を主症状に発症する。本症の患者に精神症状が合併してみられたとする報告は極めて少なく,2症例の報告1,2)があるにすぎない。今回著者らは本症が原因で比較的多彩な精神症状を呈した症例を経験したので報告する。

脳器質疾患を基礎に持つ登校拒否

著者: 菊池章 ,   斎藤環 ,   稲村博 ,   大内田昭二

ページ範囲:P.549 - P.551

I.はじめに
 登校拒否発現の背景要因を考える場合,分裂病の存在はもとより,慢性身体疾患や脳器質性疾患の潜在を見逃すことはできない。今回我々は,Moya-moya病,透明中隔腔およびヴェルガ腔を背景に持ち,登校拒否を呈した2症例を経験したので報告する。また,これらの登校拒否に伴って二次的にみられた症状および問題行動が一般の登校拒否のそれと類似し,原疾患そのものより,むしろ登校拒否独特の心理機制によってより強い影響を受けたことを示した。

紹介

タンペレ市(フィンランド)における精神分裂病患者のリハビリテーションの統合的モデル

著者: ,   若生年久

ページ範囲:P.553 - P.559

 本報告の舞台であるタンペレ市は,フィンランドの首都ヘルシンキの北180kmにある人口17万人の工業を主とするフィンランド第二の都市である。タンペレ市を含む人口345,000人のNorth-Hame地区が一つの精神保健行政区を形成し,ここでは目下,本論文に紹介されているごとく,行政と民間の団体とが密接な関連のもとに地域精神医療が発展しつつある。
 訳者は昨年(平成元年)の5月にタンペレ市を訪問し,Antinnen教授のご案内の下,本報告に述べられている多くのリハビリテーション施設を見学することができ,その組織,活動内容,治療理念に深い感銘を受けた。当地の精神医療は,わが国の精神医療にとっても今後大いに参考になると思われたので,Antinnen教授の了解をいただき,その実態を詳細に報告しておられる先生の論文を訳出することとした。当地の地域精神医療が急速な発展をみたのは,1970年にLeena Salmijarviという一看護婦が,普通の住居に6人の患者と住み始めたのが契機となり,それが母体となって大学や行政の協力のもとに,今日のSopimusvuori協会という地域の強力なサポート・システムを発展させたことによると考えられる。

動き

「持効性抗精神病注射薬剤治療指導管理料(デポ外来治療料)」の新設によせて

著者: 功刀弘

ページ範囲:P.560 - P.561

 この春の医療費改訂で精神科医療費の大幅な見直しがなされ,その一環として持効性抗精神病薬の外来使用の技術料が算定(外来のみ,月1回に限り100点)されることになりました。本邦においては欧米諸外国に比べてこの種の治療法が公に認められることが少なく,その開発も大幅に遅れています。その理由はいろいろあるでしょうが,我々治療者側の訴えが少なかったことも事実です。6年前からこのことを訴えて来た者の一人としてその技術料が,額においては十分とはいえませんが,新しい治療項目として認知されて大変うれしく思っています。この機会にこのことについての所感を述べさせていただきます。
 精神科の医療技術の評価が他科に比べて全般的にかなり低いことについて大森文太郎(岡山市・慈圭病院)は昭和63年の日本精神神経学会の大阪大会のシンポジウムにおいて次のように述べています。

Letter to the Editor

Letter—向精神薬による悪性症候群の発熱について

著者: 岩淵潔

ページ範囲:P.563 - P.563

 向精神薬による悪性症候群(NMS)の重要な症状の一つとして発熱がありますが,発病当初にみられる発熱様式に関して意外に議論が少なく思い,私見を指摘させていただきます。
 NMSでは単に感染症状を伴わない発熱というだけではなく,その分布にも特徴があります1)。それは体幹以上で発熱をみても,四肢(とくに下肢遠位)では冷たく,血圧や脈の不安定も認めます。増悪して腹部以上に高熱や玉のような発汗をみても,四肢では発汗を欠いています。しかし,二次感染が加わると四肢にも発熱を認めます。NMSの中核的な障害は向精神薬による自律神経系異常にあると私は考えており,上記の現象は,NMSによる自律神経系の中枢性障害に基づく末梢血管運動調節の異常による代償性発熱・発汗現象も加わったものと考えています。同様な代償性の発熱・発汗現象は,Shy-Drager症候群など自律神経障害が重要症状となる多系統萎縮症(Oppenheimer)や頸髄損傷患者で経験されます。前者では比較的早期より四肢が冷たく,重症化した時期にふとんをかけたまま臥床していると,体幹や顔面に発汗があっても,四肢は冷たく汗をかいていないことがあります。頸髄損傷者は体位の変換が不能なため,とくに夏場の睡眠時に放熱ができず,頭部に代償性の多量の発汗や発熱がみられます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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