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文献詳細

雑誌文献

精神医学32巻5号

1990年05月発行

文献概要

展望

「心的外傷後ストレス障害」の現況

著者: 森山成彬1

所属機関: 1八幡厚生病院

ページ範囲:P.458 - P.466

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I.はじめに
 「心的外傷後ストレス障害」Post-traumadc Stress Disorder(PTSD)は,米国精神医学会が1980年,その診断マニュァルで提唱した疾患である1)。しかしその起源は古く,既に,紀元前5世紀のマラトンの戦いを記述したヘロドトスの著作のなかにも,PTSD類似の事例がみられるという3)。次頁表に,19世紀以降今日まで日本語で流布した関連病名を掲げた。この疾患が時代の思潮の波に翻弄された様子がみてとれ,各呼称の裏に時代の傾斜と精神医学者の姿勢が透見する。社会的には道徳や補償との関連で論じられ,心理学的には精神分析学に格好の討論材料を提供し,生物学的には器質病変の有無が問われ続けてきた。
 なるほど,米国でPTSD研究の気運が高まったのはベトナム戦争の影響である。しかしPTSDを惹起するのは戦闘ばかりでなく,人間の生命・存在を脅かすすべての事象が引金になる可能性をもっている。米国では一般人口の約1%がPTSDの既往を持つとされる28)。事故後の「精神的ショック」で裁判沙汰になっているケースの23%がPTSDであり5),通常の災害事故で一般病院に入院している患者は,半年後に1〜4%の割合で本症に苦しむという45)。また,難民の7割に本症がみられている30)。PTSDが決して稀な疾患ではない証左であろう。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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