文献詳細
文献概要
巻頭言
臨床的事実の世界
著者: 新福尚武1
所属機関: 1成増厚生病院
ページ範囲:P.684 - P.685
文献購入ページに移動 臨床医に直接に与えられるのは臨床的事実で,それはただの現象でも,ただの個人的体験でもなく,臨床という特殊な場に生じた或るものである。しかしどうしてそこに,そのように生じたかは誰れにも分からない。患者の心の中に生じたものといえるかもしれないが,それだけではない。患者と治療者の間に生じたものといえるかもしれないが,またそれだけでもない。治療者の頭に生じたというものでは,まったくない。
精神医学では,とりわけ精神病理学では,現象の忠実な認識把握,記述が強調されて,それはそれなりに大きな寄与をしてきた。しかしここに問題にする臨床的事実とは与えられた現象というより,われわれがそれに関与することによって生じた出来事(event)である。そしてその出来事に素直にあるがままにかかわっていくことがわれわれ臨床医の基本的あり方であると信ずるのであるが,それはもともと限定できない,理解しつくすことなどできないものであることに問題がある。
精神医学では,とりわけ精神病理学では,現象の忠実な認識把握,記述が強調されて,それはそれなりに大きな寄与をしてきた。しかしここに問題にする臨床的事実とは与えられた現象というより,われわれがそれに関与することによって生じた出来事(event)である。そしてその出来事に素直にあるがままにかかわっていくことがわれわれ臨床医の基本的あり方であると信ずるのであるが,それはもともと限定できない,理解しつくすことなどできないものであることに問題がある。
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