研究と報告
Munchausen症候群の1例について
著者:
加藤佳彦1
佐藤哲哉1
飯田眞1
所属機関:
1新潟大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.759 - P.765
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抄録 多量の唾液に混じった少量の吐血を主症状とした,23歳男性のMunchausen症候群の1例を報告した。本症例には「明らかな無意味さ」というAsherの中心的特徴の他に,意図的身体症状の産出による3年余りの病院放浪,及び入院時の虚言が認められたため,これをMunchausen症候群と診断した。本症例にみられた「他者の意のままに振り回されることに自らの役割を見いだす」という特異な対人関係について述べ,これを仮に“傀儡的”対人関係と名づけた。その関係が破綻したことにより発症し,患者が症状を介して,再び医師・家族との間にその関係を作り出そうとしている点を指摘した。この関係により,本症例に関して以前から指摘されている精神力動が統一的に理解され,また本症候群の大きな特徴の1つである遍歴・放浪についても理解が深まる可能性がある。そして医療者側の問題点が,この関係からみると本症候群の発症や症状の誘因となりうることを指摘した。